はじめに
前の記事では、「線形結合」について考えました。線形結合とは、ベクトルをそれぞれ何倍かして足し合わせることで、さまざまなベクトルを作る操作です。
たとえば、2つのベクトル \(\boldsymbol{a},\ \boldsymbol{b}\) があるとき、
$$
s\boldsymbol{a}+t\boldsymbol{b}
$$
という形で、新しいベクトルを作ることができます。2本が同一直線上になければ、係数 \(s,\ t\) を自由に変えることで平面全体を作ることができます。
しかし、ベクトルが2本あれば、必ず平面を作れるわけではありません。たとえば、\(\boldsymbol{b}=2\boldsymbol{a}\) なら、\(\boldsymbol{b}\) は \(\boldsymbol{a}\) を2倍しただけなので、新しい方向は増えていません。
つまり重要なのは、ベクトルの本数ではなく、それぞれのベクトルが「新しい方向」を持っているかどうかです。この違いを数学的に表すのが、線形独立と線形従属という考え方です。
この記事では、線形結合を使って線形独立・線形従属の意味を理解し、図形的な見方や行列式との関係まで考えていきます。
この記事でわかること
この記事では、次の内容の理解を目指します。
- 線形独立・線形従属とは、ベクトルのどのような関係を表すのか
- なぜ線形結合がゼロベクトルになる条件を調べるのか
- 2本・3本のベクトルが線形独立かどうかを、図形的にどう判断するのか
- 行列式が \(0\) になることと、線形従属がどのようにつながるのか
- 線形独立・線形従属が、次に学ぶ「基底」とどう関係するのか
1.2本のベクトルがあっても、方向が2つとは限らない
まず、次の2本のベクトルを考えてみましょう。
$$
\boldsymbol{a}=
\begin{pmatrix}
1\\
2
\end{pmatrix},
\quad
\boldsymbol{b}=
\begin{pmatrix}
2\\
4
\end{pmatrix}
$$
この2本には、\(\boldsymbol{b}=2\boldsymbol{a}\) という関係があります。つまり、\(\boldsymbol{b}\) は \(\boldsymbol{a}\) を2倍しただけで、どちらも同じ直線上にあります。
では、この2本を線形結合すると、どのようなベクトルを作れるのでしょうか。\(\boldsymbol{b}=2\boldsymbol{a}\) を代入すると、
$$
\begin{aligned}
s\boldsymbol{a}+t\boldsymbol{b}
&=s\boldsymbol{a}+2t\boldsymbol{a}\\
&=(s+2t)\boldsymbol{a}
\end{aligned}
$$
となります。
\(s,\ t\) をどのように変えても、結局は \(\boldsymbol{a}\) の何倍かにしかなりません。つまり、2本のベクトルを使っているにもかかわらず、作れる範囲は1本の直線のままです。これは、\(\boldsymbol{b}\) が \(\boldsymbol{a}\) だけでは作れない新しい方向を、何も増やしていないためです。
2.一方のベクトルが、もう一方から作れない場合
では、次の2本ならどうでしょうか。
$$
\boldsymbol{a}=
\begin{pmatrix}
2\\
1
\end{pmatrix},
\quad
\boldsymbol{b}=
\begin{pmatrix}
-1\\
2
\end{pmatrix}
$$
今度は、\(\boldsymbol{b}\) を \(\boldsymbol{a}\) の何倍かにして作ることはできません。実際、\(\boldsymbol{b}=k\boldsymbol{a}\) とすると、第1成分は \(k=-\frac12\)、第2成分は \(k=2\) となり、矛盾します。したがって、この2本は同一直線上になく、異なる方向を持っています。
このとき、線形結合 \(s\boldsymbol{a}+t\boldsymbol{b}\) の係数 \(s,\ t\) を自由に変えると、平面全体のベクトルを作ることができます。\(\boldsymbol{b}\) を加えたことで、\(\boldsymbol{a}\) だけでは進めなかった方向にも進めるようになったわけです。
このように、一方のベクトルが、もう一方から作れない新しい方向を持っていることが、2本のベクトルが線形独立であるという直感的な意味です。
3.線形独立とは何か?
では、「新しい方向を持っている」ということを、数学的にはどのように表すのでしょうか。
2本のベクトル \(\boldsymbol{a},\ \boldsymbol{b}\) に対して、次の式を考えます。
$$
s\boldsymbol{a}+t\boldsymbol{b}=\boldsymbol{0}
$$
この式は、2本のベクトルをそれぞれ定数倍して足した結果が、ゼロベクトルになることを表しています。
\(s=t=0\) とすれば、どんなベクトルでも必ずこの式が成り立ちます。重要なのは、それ以外の係数の組み合わせでも、ゼロベクトルを作れるかどうかです。
線形結合 \(s\boldsymbol{a}+t\boldsymbol{b}=\boldsymbol{0}\) を満たす係数が、\(s=t=0\) しかないとき、2本のベクトルは線形独立であるといいます。
最初は少し不思議な定義に見えるかもしれません。なぜ「新しい方向を持っているか」を調べるために、わざわざゼロベクトルになる組み合わせを考えるのでしょうか。
4.なぜ「ゼロベクトルになる組み合わせ」を調べるのか?
たとえば、\(\boldsymbol{b}=2\boldsymbol{a}\) だったとします。この式を移項すると、
$$
2\boldsymbol{a}-\boldsymbol{b}=\boldsymbol{0}
$$
となります。
つまり、\(s=2,\ t=-1\) という、\(s=t=0\) ではない係数の組み合わせで、ゼロベクトルを作ることができます。
この式を逆に変形すれば、\(\boldsymbol{b}=2\boldsymbol{a}\) です。つまり、\(\boldsymbol{b}\) は \(\boldsymbol{a}\) から作れるため、新しい方向を増やしていないことが分かります。
一方、\(s\boldsymbol{a}+t\boldsymbol{b}=\boldsymbol{0}\) を満たす方法が \(s=t=0\) しかなければ、どちらか一方をもう一方の定数倍で表すことはできません。このとき、2本は線形独立です。
ゼロベクトルを作る「少なくとも1つが \(0\) ではない係数の組み合わせ」が存在するかどうかを調べることで、ベクトル同士に線形結合による関係があるかを判定できます。
5.線形従属とは何か?
線形独立とは反対に、\(s\boldsymbol{a}+t\boldsymbol{b}=\boldsymbol{0}\) を満たす係数として、\(s=t=0\) 以外の組み合わせが存在する場合を考えます。
線形結合 \(s\boldsymbol{a}+t\boldsymbol{b}=\boldsymbol{0}\) に対して、少なくとも一方が \(0\) ではない係数 \(s,\ t\) が存在するとき、2本のベクトルは線形従属であるといいます。
先ほどの \(\boldsymbol{b}=2\boldsymbol{a}\) なら、\(2\boldsymbol{a}-\boldsymbol{b}=\boldsymbol{0}\) が成り立つので、線形従属です。
「従属」という言葉のとおり、一方のベクトルがもう一方のベクトルから作れてしまいます。2本あるように見えても、そのうち1本は新しい方向を増やしていないわけです。
なお、ゼロベクトル \(\boldsymbol{0}\) を含むベクトルの組も線形従属になります。ゼロベクトルには \(0\) ではない係数を掛けても結果がゼロになるため、線形独立の条件を満たさないからです。
6.線形独立と線形従属を図形的に見る
2次元では、線形独立・線形従属を図形的に見ると分かりやすくなります。2本のベクトルが「新しい方向」を持っている場合と、持っていない場合を比べてみましょう。

左の図では、\(\boldsymbol{a}\) と \(\boldsymbol{b}\) は同一直線上にありません。\(\boldsymbol{b}\) は \(\boldsymbol{a}\) を何倍しても作れないため、新しい方向を持っています。したがって、この2本は線形独立です。
一方、右の図では、\(\boldsymbol{b}=2\boldsymbol{a}\) となっています。\(\boldsymbol{b}\) は \(\boldsymbol{a}\) を2倍しただけなので、新しい方向は増えていません。したがって、この2本は線形従属です。
この違いを整理すると、次のようになります。
- 同一直線上にある2本のベクトル → 線形従属
- 同一直線上にない2本のベクトル → 線形独立
ただし、ここではベクトルの始点を原点にそろえて考えています。ゼロベクトルを含む場合も、線形従属になります。
また、線形結合で作れる範囲も変わります。
- 線形従属な2本のベクトル → 直線上にとどまる(両方がゼロベクトルなら原点のみ)
- 線形独立な2本のベクトル → 平面全体を作れる
つまり、線形独立なベクトルを加えることは、それまでになかった新しい方向を加えることだと考えられます。
7.3本のベクトルではどうなる?
では、3次元空間で3本のベクトル \(\boldsymbol{a},\ \boldsymbol{b},\ \boldsymbol{c}\) を考えてみましょう。
この3本が線形独立であるための条件は、
$$
r\boldsymbol{a}+s\boldsymbol{b}+t\boldsymbol{c}
=\boldsymbol{0}
$$
を満たす係数が、\(r=s=t=0\) しかないことです。
たとえば、3本目のベクトルが
$$
\boldsymbol{c}=2\boldsymbol{a}-\boldsymbol{b}
$$
だったらどうでしょうか。移項すると、
$$
2\boldsymbol{a}-\boldsymbol{b}-\boldsymbol{c}
=\boldsymbol{0}
$$
となります。
この式では、\(r=2,\ s=-1,\ t=-1\) という、少なくとも1つが \(0\) ではない係数の組み合わせでゼロベクトルを作れます。したがって、この3本は線形従属です。
これは、\(\boldsymbol{c}\) がすでにある \(\boldsymbol{a},\ \boldsymbol{b}\) の線形結合で作れるため、新しい方向を増やしていないことを意味します。
8.3次元では「同じ平面上にあるか」がポイントになる
3次元では、線形独立・線形従属を図形的に考えることもできます。
まず、線形独立な2本のベクトル \(\boldsymbol{a},\ \boldsymbol{b}\) があるとします。この2本の線形結合 \(s\boldsymbol{a}+t\boldsymbol{b}\) によって、原点を通る1枚の平面を作ることができます。
ここに3本目のベクトル \(\boldsymbol{c}\) を加えます。\(\boldsymbol{c}\) がこの平面の中にある場合と、平面の外に出る場合を図で比べてみましょう。

左の図では、\(\boldsymbol{c}\) は \(\boldsymbol{a},\ \boldsymbol{b}\) が作る平面の中にあります。そのため、\(\boldsymbol{c}=s\boldsymbol{a}+t\boldsymbol{b}\) と表すことができ、3本目を加えても新しい方向は増えません。したがって、この3本は線形従属です。
一方、右の図では、\(\boldsymbol{c}\) が \(\boldsymbol{a},\ \boldsymbol{b}\) の作る平面の外にあります。このベクトルは、最初の2本の線形結合だけでは作ることができません。つまり、3本目によって新しい方向が増えているため、この3本は線形独立です。
このように、最初の2本が線形独立であれば、3本目がその2本の作る平面の外にあるかどうかで、3本全体の線形独立・線形従属を判断できます。
9.行列式との関係
線形独立・線形従属は、「行列式」とも深く関係しています。
2次元で、次の2本のベクトルを考えましょう。
$$
\boldsymbol{a}=
\begin{pmatrix}
a_1\\
a_2
\end{pmatrix},
\quad
\boldsymbol{b}=
\begin{pmatrix}
b_1\\
b_2
\end{pmatrix}
$$
この2本を列に並べて、次の行列を作ります。
$$
A=
\begin{pmatrix}
a_1 & b_1\\
a_2 & b_2
\end{pmatrix}
$$
この行列の行列式は、\(\det A=a_1b_2-a_2b_1\) です。この値によって、線形独立・線形従属を判定できます。
- \(\det A\neq0\) なら、2本のベクトルは線形独立
- \(\det A=0\) なら、2本のベクトルは線形従属
なぜ、行列式で線形独立・線形従属を判断できるのでしょうか。それは、行列式がベクトルの作る平行四辺形の面積と関係しているからです。
次の図で確認してみましょう。

左の図では、\(\boldsymbol{a}\) と \(\boldsymbol{b}\) が異なる方向を持っているため、平行四辺形には面積があります。したがって、\(\det A\neq0\) となり、2本は線形独立です。
一方、右の図では、\(\boldsymbol{a}\) と \(\boldsymbol{b}\) が同一直線上にあります。平行四辺形はつぶれて面積が \(0\) になるため、\(\det A=0\) となり、2本は線形従属です。
つまり、行列式の絶対値は平行四辺形の面積を表し、その面積が \(0\) かどうかによって、2本が独立した方向を持っているかを判断できるのです。
同じことは3次元でも成り立ちます。3本のベクトルを列に並べた3次正方行列の行列式が \(0\) でなければ線形独立、\(0\) なら線形従属です。
3次元では、行列式の絶対値は3本のベクトルが作る平行六面体の体積に対応します。3本が同じ平面上にあると立体がつぶれ、体積が \(0\) になります。
2次元・3次元では、ベクトルを列に並べた正方行列の行列式が \(0\) かどうかによって、線形独立・線形従属を判定できます。行列式が \(0\) になることは、独立した方向が足りず、面積や体積が \(0\) になることと対応しています。

10.線形独立・線形従属を一般的に書くと
最後に、線形独立・線形従属を一般的な形で定義しておきましょう。
ベクトル \(\boldsymbol{a}_1,\ \boldsymbol{a}_2,\ \ldots,\ \boldsymbol{a}_n\) に対して、次の線形結合を考えます。
$$
c_1\boldsymbol{a}_1+c_2\boldsymbol{a}_2+\cdots+c_n\boldsymbol{a}_n
=\boldsymbol{0}
$$
この式を満たす係数が \(c_1=c_2=\cdots=c_n=0\) しかないとき、これらのベクトルは線形独立です。
一方、少なくとも1つが \(0\) ではない係数の組み合わせでも、この式が成り立つとき、これらのベクトルは線形従属です。
線形従属であれば、少なくとも1つが \(0\) ではない係数の組み合わせが存在します。たとえば \(c_k\neq0\) なら、その項を移項して両辺を \(c_k\) で割ることで、\(\boldsymbol{a}_k\) をほかのベクトルの線形結合で表せます。
つまり、線形従属なベクトルの集まりには、ほかのベクトルから作れてしまうものが含まれているということです。そのため、このベクトルを取り除いても、線形結合によって作れる範囲は変わりません。
11.「必要な方向だけを残す」とどうなる?
ここまでで、線形独立・線形従属の意味が見えてきました。
線形独立なベクトルの集まりには、ほかのベクトルから作れてしまう余分なベクトルがありません。一方、線形従属なベクトルの集まりには、ほかのベクトルの線形結合で作れるものが含まれています。
では、ある空間を作るために、必要な方向だけを残したらどうなるのでしょうか。
たとえば、2次元平面なら線形独立な2本のベクトルがあれば、平面全体を作ることができます。3次元空間なら線形独立な3本のベクトルがあれば、3次元空間全体を作ることができます。
つまり、次の2つの条件を満たすベクトルの集まりを考えることができます。
- 線形結合によって、考えている空間全体を作ることができる
- どのベクトルも、ほかのベクトルの線形結合では作れない
この2つを満たすベクトルの集まりが、次の記事で扱う基底です。
まとめ
今回、線形独立・線形従属の意味と、図形的な見方、行列式との関係について見てきました。重要なポイントを整理します。
- 線形独立とは、ベクトルの線形結合がゼロベクトルになるのは、すべての係数が \(0\) の場合だけであること。
- 線形従属とは、少なくとも1つが \(0\) ではない係数を使っても、線形結合をゼロベクトルにできること。
- 2次元では、原点を始点とする2本が同一直線上にあれば線形従属、そうでなければ線形独立になる。
- 3次元では、最初の2本が線形独立なら、3本目がその2本の作る平面の外にあるとき、3本は線形独立になる。
- 2本・3本のベクトルを列に並べた正方行列では、行列式が \(0\) かどうかで線形独立・線形従属を判定できる。
- 線形従属なベクトルの集まりには、ほかのベクトルの線形結合で作れるものが含まれている。
線形独立・線形従属の定義は、次の式にまとめられます。
$$
c_1\boldsymbol{a}_1+\cdots+c_n\boldsymbol{a}_n
=\boldsymbol{0}
$$
この式を満たす係数がすべて \(0\) の場合に限られるなら線形独立、少なくとも1つが \(0\) ではない係数でも成り立つなら線形従属です。
線形独立・線形従属の本質は、ベクトルの本数ではなく、それぞれが「新しい方向」を増やしているかどうかを見極めることです。その判断を、線形結合がゼロベクトルになる条件によって数学的に表しています。
では、空間を作るために必要な「新しい方向」だけを集めると、どのようなベクトルの集まりになるのでしょうか。次の記事では、線形独立と線形結合を組み合わせた基底という考え方を学びます。
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