はじめに
前回の記事では、余弦定理が、
$$
a^2=b^2+c^2-2bc\cos\theta
$$
という式で表される理由を、角度や方向の関係から考えました。
しかし、ここで新しい疑問が出てきます。「この式は、いったいどうやって導かれるの?」
特に気になるのが、\(-2bc\cos\theta\) という部分です。なぜ、三平方の定理にはなかった \(\cos\theta\) が登場するのでしょうか。
今回は、三角形に高さを作り、そこに三平方の定理を使ってみます。すると、途中で自然に \(b\cos\theta\) という長さが現れます。
余弦定理を導くポイントは、三角形に高さを作って「直角三角形」に分けることです。すると、三平方の定理と三角比を使って、余弦定理までつなげることができます。

この記事でわかること
この記事では、次の内容の理解を目指します。
- 余弦定理をどのように導くのか
- なぜ三角形に垂線を下ろして高さを作るのか
- なぜ途中で \(b\cos\theta\) が現れるのか
- 三平方の定理をどのように使うのか
- \(-2bc\cos\theta\) がどこから現れるのか
- 余弦定理の導出と内積がどのようにつながっているのか
今回は、図を使いながら「高さを作ると、なぜ余弦定理が自然に現れるのか」を順番に見ていきます。
なお、今回の図では垂線の足 \(D\) が辺 \(AB\) の上にくるよう、角 \(\theta\) が鋭角の場合を考えます。余弦定理そのものは、鈍角の場合にも成り立ちます。
1.まずは三角形を用意する
辺の長さが \(a\)、\(b\)、\(c\) の三角形 \(ABC\) を考えます。角 \(\theta\) は、辺 \(b\) と辺 \(c\) の間にある角です。
つまり、
- \(AC=b\)
- \(AB=c\)
- \(BC=a\)
となっています。

このままでは、三平方の定理を直接使うことができません。なぜなら、三平方の定理は直角三角形に対して使う公式だからです。
そこで、三角形の中に直角三角形を作ることを考えます。これが、余弦定理を導くための最初の一歩です。
2.頂点 \(C\) から垂線を下ろす
辺 \(AB\) を底辺と考え、頂点 \(C\) から垂線を下ろします。その垂線の足を \(D\) とします。

すると、もとの三角形が、2つの直角三角形に分かれます。
- 左側の直角三角形 \(ACD\)
- 右側の直角三角形 \(BCD\)
ここで、高さを \(CD=h\)、底辺の左側を \(AD=x\) とします。すると、底辺の右側 \(DB\) は、
$$
DB=c-x
$$
と表すことができます。
垂線を1本引いたことで、もとの三角形が2つの直角三角形に分かれました。これで、三角比と三平方の定理を使う準備が整いました。
3.左側の直角三角形から、\(b\cos\theta\) が現れる
まず、左側の直角三角形 \(ACD\) に注目します。この三角形では、斜辺が \(b\)、角 \(A\) が \(\theta\)、底辺が \(x\) です。
したがって、余弦の定義から、
$$
\cos\theta=\frac{x}{b}
$$
となります。両辺に \(b\) を掛けると、
$$
x=b\cos\theta
$$
です。

ここで、余弦定理に登場する \(\cos\theta\) が現れました。
\(\cos\theta\) は突然出てきたわけではありません。斜めの辺 \(b\) から、底辺方向の長さ \(x\) を取り出すときに、\(x=b\cos\theta\) という形で自然に現れたのです。
4.左側の直角三角形に三平方の定理を使う
次に、同じ直角三角形 \(ACD\) に三平方の定理を使います。斜辺は \(b\)、他の2辺は \(h\) と \(x\) なので、
$$
b^2=h^2+x^2
$$
となります。これを \(h^2\) について整理すると、
$$
h^2=b^2-x^2
$$
です。
ここで、先ほど求めた \(x=b\cos\theta\) を代入すると、
$$
h^2=b^2-(b\cos\theta)^2
$$
となります。これで、高さ \(h\) の平方を、辺 \(b\) と角度 \(\theta\) を使って表すことができました。
5.右側の直角三角形に三平方の定理を使う
続いて、右側の直角三角形 \(BCD\) を見てみます。この三角形では、斜辺が \(a\)、高さが \(h\)、底辺が \(c-x\) です。
したがって、三平方の定理より、
$$
a^2=h^2+(c-x)^2
$$
となります。
ここに、先ほど求めた \(h^2=b^2-x^2\) を代入すると、
$$
a^2=b^2-x^2+(c-x)^2
$$
です。
ここでは、左側の直角三角形から求めた \(h^2\) を、右側の直角三角形の式に代入しています。2つの直角三角形の関係が、ここで1つの式につながります。
6.式を展開すると、\(x^2\) が打ち消し合う
さらに、右辺を展開します。
$$
a^2
=
b^2-x^2+c^2-2cx+x^2
$$
ここで、\(-x^2\) と \(+x^2\) が打ち消し合うので、
$$
a^2=b^2+c^2-2cx
$$
となります。
ここまでで、余弦定理の形がかなり見えてきました。残っているのは、\(x\) を角度 \(\theta\) を使った式に戻すことです。
式を展開すると \(x^2\) が消え、\(-2cx\) だけが「角度による違い」を含む部分として残ります。あとは \(x=b\cos\theta\) を戻せば、余弦定理に到達します。
7.\(x=b\cos\theta\) を代入する
先ほど、左側の直角三角形から \(x=b\cos\theta\) と求めました。これを、
$$
a^2=b^2+c^2-2cx
$$
に代入します。すると、
$$
a^2=b^2+c^2-2c(b\cos\theta)
$$
となります。整理すると、
$$
a^2=b^2+c^2-2bc\cos\theta
$$
です。
こうして、\(a^2=b^2+c^2-2bc\cos\theta\) という余弦定理が導かれました。
8.\(-2bc\cos\theta\) はどこから来たのか?
ここまでの流れを振り返ってみましょう。最初から、\(-2bc\cos\theta\) という項が用意されていたわけではありません。
実際には、次のような順番で現れました。
- 三角形に垂線を下ろして、直角三角形を作る
- 左側の直角三角形から、\(x=b\cos\theta\) を求める
- 2つの直角三角形に三平方の定理を使う
- \(-x^2\) と \(+x^2\) が打ち消し合う
- 最後に \(x=b\cos\theta\) を代入する
つまり、\(-2bc\cos\theta\) は、突然現れた特別な項ではありません。まず、三平方の定理を使って式を整理することで \(-2cx\) が現れます。
そこに \(x=b\cos\theta\) を代入することで、
$$
-2cx
=
-2c(b\cos\theta)
=
-2bc\cos\theta
$$
となったのです。
\(-2bc\cos\theta\) の正体は、\(-2cx\) の \(x\) を \(b\cos\theta\) に置き換えたものです。余弦定理は、垂線を引いて直角三角形を作り、三平方の定理と三角比を組み合わせることで自然に導かれます。
9.なぜ高さを作るとうまくいくのか?
もとの三角形は、直角三角形ではありませんでした。そのため、三平方の定理をそのまま使うことはできません。
しかし、頂点 \(C\) から垂線を下ろすと、三角形を2つの直角三角形に分けることができます。すると、
- 左側では、\(b\cos\theta\) という底辺方向の長さが求まる
- 左右の直角三角形で、三平方の定理が使える
- 2つの式を組み合わせることで、余弦定理が現れる
という流れが生まれます。
つまり、高さを作ることは、単に図を見やすくするためではありません。直角三角形を作り、三平方の定理と三角比を使えるようにするための工夫なのです。
10.内積ともつながっている
今回の導出では、\(x=b\cos\theta\) という式が重要な役割を果たしました。これは、辺 \(b\) のうち、底辺 \(c\) の方向に沿った成分を表しています。
一方、内積では、
$$
\vec{a}\cdot\vec{b}
=
|\vec{a}||\vec{b}|\cos\theta
$$
という式が登場します。ここでも、\(\cos\theta\) は2つのベクトルの方向の関係を表しています。
余弦定理の導出と内積は、どちらも「斜めの長さを、ある方向の成分として見る」という考え方でつながっています。
この「方向の成分」という見方が分かると、余弦定理だけでなく、内積の「影」や射影という考え方にもつながっていきます。
まとめ
余弦定理は、次のような流れで導くことができます。
- 三角形に垂線を下ろす
- 2つの直角三角形を作る
- 三角比から \(x=b\cos\theta\) を求める
- 三平方の定理を使って式を立てる
- 式を展開し、\(x^2\) を打ち消す
- \(x=b\cos\theta\) を代入する
その結果、
$$
a^2=b^2+c^2-2bc\cos\theta
$$
という余弦定理が得られます。
一見すると複雑な \(-2bc\cos\theta\) という項も、実際には \(x=b\cos\theta\) という底辺方向の長さを使って整理した結果でした。
余弦定理は、三角形に高さを作り、三平方の定理と三角比を組み合わせることで導くことができます。完成した公式だけを見るのではなく、そこに至る流れを見ると、なぜ \(\cos\theta\) が登場するのかも自然に理解できます。
余弦定理の意味と導出が分かると、次は「なぜ内積にも \(\cos\theta\) が登場するのか」というつながりも見えやすくなります。余弦定理・内積・ベクトルは、別々の話ではなく、「長さ」と「角度」と「方向」という共通した考え方でつながっています。
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