はじめに
前回の記事では、行列式がどのように作られているのかを見てきました。
2次の行列式では、
$$
\begin{vmatrix}
a_{11}&a_{12}\\
a_{21}&a_{22}
\end{vmatrix}
=
a_{11}a_{22}-a_{12}a_{21}
$$
という形になり、3次になると6つの積が現れました。そして、\(n\) 次の行列式では、「各行から1つずつ成分を選び、各列も1回ずつ使って積を作る」という共通したルールで表すことができます。
しかし、ここで一つ疑問が残ります。なぜ、このような計算をすると「面積」や「体積」が求まるのでしょうか?
実は、行列式には重要な幾何学的な意味があります。2次の行列式は、2本のベクトルが作る平行四辺形の面積と関係し、3次の行列式は、3本のベクトルが作る平行六面体の体積と関係しています。
行列式は、単なる「成分を掛けて引く計算」ではありません。2次では面積、3次では体積という、ベクトルが作る図形の「大きさ」とつながっています。正確には、行列式の絶対値が面積や体積を表します。
この記事でわかること
この記事では、次の内容の理解を目指します。
- 2次の行列式が、なぜ平行四辺形の面積と関係するのか
- \(a_{11}a_{22}-a_{12}a_{21}\) という計算が面積とどうつながるのか
- 行列式が正や負になるのはなぜか
- 3次の行列式が平行六面体の体積と関係する理由
- 行列式が面積や体積の拡大率を表す理由
- 行列式が \(0\) になると、図形に何が起こるのか
今回は、まず2次の行列式から、その意味を見ていきます。その後、3次の行列式へと考え方を広げ、行列式が表している幾何学的な意味を整理します。
行列式を単なる計算公式として覚えるのではなく、「ベクトルが作る図形の大きさと向き」を表す量として理解することが、この記事の目標です。
1.2次の行列式は「面積」と関係している
2次の行列
$$
A=
\begin{pmatrix}
a_{11}&a_{12}\\
a_{21}&a_{22}
\end{pmatrix}
$$
を考えます。この行列を、2本の列ベクトルとして見ると、
$$
\vec{u}
=
\begin{pmatrix}
a_{11}\\
a_{21}
\end{pmatrix},
\quad
\vec{v}
=
\begin{pmatrix}
a_{12}\\
a_{22}
\end{pmatrix}
$$
と書けます。
この2本のベクトルを同じ始点から描くと、平行四辺形ができます。

この平行四辺形の面積を考えてみましょう。
平行四辺形の面積は「底辺 \(\times\) 高さ」で求められます。また、2本のベクトルの長さをそれぞれ \(|\vec{u}|\)、\(|\vec{v}|\)、その間の角度を \(\theta\) とすると、面積 \(S\) は、
$$
S
=
|\vec{u}|\,|\vec{v}|\sin\theta
$$
と表すこともできます。
つまり、2本のベクトルが作る平行四辺形の面積は、一方のベクトルを底辺としたとき、もう一方のベクトルの高さにあたる部分を掛けたものと考えることができます。
2次の行列式を図形として考えるときの主役は、行列の2本の列ベクトルが作る平行四辺形です。その面積は、行列式の絶対値 \(|\det A|\) と一致します。
では、この面積と行列式の \(a_{11}a_{22}-a_{12}a_{21}\) が、どうつながるのでしょうか?
2.行列式を計算すると、平行四辺形の面積になる
ここでは、具体的な数値を使って考えてみます。
たとえば、
$$
A=
\begin{pmatrix}
3&1\\
0&2
\end{pmatrix}
$$
とします。列ベクトルは、
$$
\vec{u}
=
\begin{pmatrix}
3\\
0
\end{pmatrix},
\quad
\vec{v}
=
\begin{pmatrix}
1\\
2
\end{pmatrix}
$$
です。
この2本のベクトルが作る平行四辺形の面積を考えてみましょう。\(|\vec{u}|\) を底辺とすると、底辺の長さは \(3\)、高さは \(2\) なので、面積は \(3\times2=6\) です。
一方、行列式を計算すると、\(\det A=3\times2-1\times0=6\) となります。
つまり、この例では、
$$
|\det A|=6
$$
となり、平行四辺形の面積と一致します。
この例では、行列式の絶対値 \(|\det A|\) と、2本の列ベクトルが作る平行四辺形の面積が一致しています。
では、なぜ \(a_{11}a_{22}-a_{12}a_{21}\) という計算が、面積を表すのでしょうか?
その理由を理解するには、「2つの積の差」がどのように面積とつながっているのかを見ることがポイントです。
3.「掛け算して引く」と面積が現れる
ここでは、成分がすべて正で、さらに \(a_{11}a_{22}\gt a_{12}a_{21}\) となる場合を考えます。この条件のもとで、「2つの積の差」がどこから現れるのかを見てみましょう。
2本のベクトル
$$
\vec{u}
=
\begin{pmatrix}
a_{11}\\
a_{21}
\end{pmatrix},
\quad
\vec{v}
=
\begin{pmatrix}
a_{12}\\
a_{22}
\end{pmatrix}
$$
を考えます。
この2本のベクトルを使ってできる平行四辺形を、大きな長方形の中に入れて考えてみます。

大きな長方形の横の長さは \(a_{11}+a_{12}\)、縦の長さは \(a_{21}+a_{22}\) なので、その面積は \((a_{11}+a_{12})(a_{21}+a_{22})\) です。
一方、平行四辺形の外側には4つの三角形ができます。
下と上にある2つの三角形を合わせた面積は \((a_{11}+a_{12})a_{21}\) です。また、左と右にある2つの三角形を合わせた面積は \((a_{21}+a_{22})a_{12}\) です。
したがって、平行四辺形の面積 \(S\) は、
$$
\begin{aligned}
S
={}&
(a_{11}+a_{12})(a_{21}+a_{22})\\
&-(a_{11}+a_{12})a_{21}\\
&-(a_{21}+a_{22})a_{12}
\end{aligned}
$$
となります。
ここで展開して整理すると、
$$
\begin{aligned}
S
={}&
a_{11}a_{21}
+a_{11}a_{22}
+a_{12}a_{21}
+a_{12}a_{22}\\
&-a_{11}a_{21}
-a_{12}a_{21}\\
&-a_{12}a_{21}
-a_{12}a_{22}\\
={}&
a_{11}a_{22}-a_{12}a_{21}
\end{aligned}
$$
となります。
大きな長方形から周囲の三角形を取り除いて面積を計算すると、\(S=a_{11}a_{22}-a_{12}a_{21}\) という、行列式と同じ形が自然に現れます。
これが、2次の行列式が \(\det A=a_{11}a_{22}-a_{12}a_{21}\) となっていることとつながっています。
ただし、ここでは図の配置と計算が対応する場合を考えました。一般の場合には、ベクトルの向きによって \(a_{11}a_{22}-a_{12}a_{21}\) が負になることもあります。
その場合でも、面積は負になりません。そこで、次に「符号付き面積」という考え方を見てみましょう。
4.行列式はなぜ「符号付き面積」なのか?
面積そのものは、普通は \(0\) 以上の値です。しかし、行列式は正になることもあれば、負になることもあります。
たとえば、
$$
\vec{u}
=
\begin{pmatrix}
3\\
0
\end{pmatrix},
\quad
\vec{v}
=
\begin{pmatrix}
1\\
2
\end{pmatrix}
$$
なら、\(\det A=6\) です。
一方、2本のベクトルの順番を入れ替えて、
$$
\vec{u}
=
\begin{pmatrix}
1\\
2
\end{pmatrix},
\quad
\vec{v}
=
\begin{pmatrix}
3\\
0
\end{pmatrix}
$$
とすると、
$$
\begin{aligned}
\det
\begin{pmatrix}
1&3\\
2&0
\end{pmatrix}
&=
1\times0-3\times2\\
&=-6
\end{aligned}
$$
となります。
平行四辺形そのものの面積は、もちろん \(6\) です。では、なぜ行列式は \(-6\) になるのでしょうか?
これは、行列式が面積だけでなく、2本のベクトルを並べる順番による向きも考慮しているからです。
2本のベクトルを \(\vec{u},\vec{v}\) の順番で並べたときと、\(\vec{v},\vec{u}\) の順番で並べたときでは、行列式の符号が反対になります。
平面では、最初のベクトルから次のベクトルへ回る向きが反時計回りなら正、時計回りなら負と考えることができます。ただし、2本のベクトルが同一直線上にある場合は、行列式は \(0\) です。
2次の行列式は「符号付き面積」を表します。行列式の絶対値 \(|\det A|\) は平行四辺形の面積を表し、行列式の正負は2本のベクトルが作る向きを表します。
したがって、図形としての面積だけを知りたい場合は、絶対値を取って \(|\det A|\) と考えます。
5.3次の行列式では「体積」になる
ここまでで、2次の行列式が面積と関係していることが分かりました。では、3次ではどうなるのでしょうか?
3次の行列
$$
A=
\begin{pmatrix}
a_{11}&a_{12}&a_{13}\\
a_{21}&a_{22}&a_{23}\\
a_{31}&a_{32}&a_{33}
\end{pmatrix}
$$
を考えます。この行列を3本の列ベクトルとして見ると、
$$
\vec{u}
=
\begin{pmatrix}
a_{11}\\
a_{21}\\
a_{31}
\end{pmatrix},
\quad
\vec{v}
=
\begin{pmatrix}
a_{12}\\
a_{22}\\
a_{32}
\end{pmatrix},
\quad
\vec{w}
=
\begin{pmatrix}
a_{13}\\
a_{23}\\
a_{33}
\end{pmatrix}
$$
となります。
3本のベクトルを同じ始点から伸ばすと、立体的な図形ができます。この図形を平行六面体と呼びます。

平行六面体の体積は「底面積 \(\times\) 高さ」で求められます。ここが、2次の場合との大きな共通点です。
2次では「平行四辺形の面積 \(=\) 底辺 \(\times\) 高さ」、3次では「平行六面体の体積 \(=\) 底面積 \(\times\) 高さ」となります。
2次では2本のベクトルが作る平行四辺形の面積、3次では3本のベクトルが作る平行六面体の体積へと考え方が広がります。
6.3次では「底面の面積」と「高さ」を掛ける
3本のベクトルのうち、まず \(\vec{u}\) と \(\vec{v}\) に注目します。
この2本のベクトルが作る平行四辺形が、平行六面体の底面になります。その面積は、2次の場合と同じように、平行四辺形の「底辺 \(\times\) 高さ」で考えることができます。
そして、3本目のベクトル \(\vec{w}\) について、その底面に垂直な方向の成分の大きさを考えます。これが平行六面体の高さになります。
したがって、体積は「底面積 \(\times\) 高さ」です。3次の行列式の絶対値も、この体積と一致します。
ただし、3本のベクトルが同じ平面上にある場合には、立体的な広がりを持たず、体積は \(0\) になります。
3次の行列式は「符号付き体積」を表します。行列式の絶対値 \(|\det A|\) は平行六面体の体積を表し、行列式の正負は3本のベクトルの並び方による空間の向きを表します。
7.2次と3次に共通していること
ここまでの話を整理してみましょう。
2次では、2本のベクトルが平行四辺形を作り、\(|\det A|\) がその面積を表します。
3次では、3本のベクトルが平行六面体を作り、\(|\det A|\) がその体積を表します。
一見すると「面積」と「体積」で別の話に見えます。しかし、考え方は同じです。
行列式の絶対値は、ベクトルを並べたときにできる図形の「大きさ」を表します。2次では面積、3次では体積、さらに \(n\) 次では \(n\) 次元の体積に対応します。
つまり、\(n\) 次の行列式は、\(n\) 本のベクトルが作る \(n\) 次元の図形の大きさと関係していると考えることができます。
もちろん、4次元以上の図形をそのまま目で見ることは難しくなります。しかし、2次の面積や3次の体積を一般化したものとして、同じ考え方で捉えることができます。
8.行列式は「空間の大きさがどれだけ変わるか」も表している
ここまで、行列の列ベクトルが作る図形の面積や体積を考えてきました。しかし、行列式の意味はそれだけではありません。
行列は、平面や空間の図形を別の形へ変形する計算としても見ることができます。たとえば、正方形に行列を作用させると、長方形や平行四辺形に変わることがあります。
このとき、行列式の絶対値は、「面積が何倍になったか」を表します。3次元なら、「体積が何倍になったか」を表します。
たとえば、\(\det A=2\) なら、面積や体積は2倍になります。一方、\(\det A=-2\) なら、大きさは2倍になりますが、向きも反転しています。
また、\(\det A=0\) なら、面積や体積は \(0\) 倍になります。つまり、図形が押しつぶされ、もとの次元の広がりを失います。
\(|\det A|\) は、行列による変換で面積や体積が「何倍になったか」を表します。また、行列式の正負には、向きが保たれたか反転したかという情報も含まれています。
この見方をすると、行列式は「ベクトルが作る図形の大きさ」だけでなく、行列が空間の大きさをどれだけ変化させるのかを表す量としても理解できます。
9.行列式が \(0\) になるとき、図形はつぶれる
ここで、行列式が \(0\) になる場合を考えてみましょう。
2次の場合、\(\det A=0\) なら \(|\det A|=0\) です。つまり、2本のベクトルが作る平行四辺形の面積が \(0\) になります。
これは、2本のベクトルが同一直線上にある場合や、少なくとも一方がゼロベクトルの場合に起こります。どちらも、平行四辺形としての広がりを持たない状態です。
3次でも同じです。\(\det A=0\) なら、平行六面体の体積が \(0\) になります。
3本のベクトルが同じ平面の中に収まってしまい、立体的な広がりを持たなくなっていると考えることができます。ここには、ゼロベクトルが含まれる場合も含まれます。
行列式が \(0\) になるということは、ベクトルが作る図形の面積や体積が \(0\) になるということです。つまり、図形がもとの次元の広がりを失い、つぶれている状態を表します。
これは、単に計算結果が \(0\) になったというだけではありません。ベクトルが作る図形が、必要な次元の広がりを失っていることを意味します。
この考え方は、行列式の性質を理解するときにも重要です。たとえば、同じ行が2つあると行列式が \(0\) になることも、図形の広がりが失われることと結びつけて考えられます。
まとめ
今回の記事では、行列式が何を表しているのかを、図形から考えてきました。
2次では、\(|\det A|\) は平行四辺形の面積でした。3次では、\(|\det A|\) は平行六面体の体積でした。
そして、行列式そのものは「符号付き」の面積・体積として考えることができます。さらに、行列を図形の変形として見ると、\(|\det A|\) は面積や体積が何倍になったかを表します。
行列式には、図形の「大きさ」と「向き」を表すという幾何学的な意味があります。2次では符号付き面積、3次では符号付き体積、\(n\) 次では \(n\) 次元の符号付き体積に対応します。また、\(|\det A|\) は行列による変換で大きさが何倍になるかも表します。
つまり、行列式は単なる「成分を掛けたり引いたりする計算」ではありません。その計算の裏側には、ベクトルが作る図形の大きさと向きという意味があります。
前回の記事では、行列式の計算が「各行から1つずつ成分を選び、各列も1回ずつ使う」というルールから作られていることを見ました。今回は、その計算が図形の大きさとつながっていることを見ました。
では、行列式にはなぜ、
- 行を入れ替えると符号が変わる
- 同じ行があると \(0\) になる
- ある行を定数倍すると行列式もその定数倍になる
- ある行に別の行の定数倍を加えても行列式は変わらない
といった性質があるのでしょうか?
これらも、面積や体積という視点から見ると、直感的に理解できる部分があります。
次の記事では、こうした行列式の性質を、3次の行列式を中心に、式の計算と図形の両方から見ていきます。
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