はじめに
中学数学で学ぶ有名な公式のひとつが、「三平方の定理」です。
$$
a^2=b^2+c^2
$$
直角三角形なら、2辺の長さがわかれば、残りの辺の長さを求めることができます。しかし、三角形が直角でなかったらどうでしょうか。
たとえば、こんな三角形です。

この三角形では、\(b\) と \(c\) の間にある角度が \(90^\circ\) ではありません。すると、三平方の定理の \(a^2=b^2+c^2\) をそのまま使うことはできません。
では、直角ではない三角形では、3辺の長さをどのように結びつければいいのでしょうか。
そこで登場するのが、余弦定理です。
1.余弦定理とは何を計算しているのか?
余弦定理は、
$$
a^2=b^2+c^2-2bc\cos\theta
$$
という式で表されます。
この式を見ると、少し複雑に感じるかもしれません。
\(b^2+c^2\) だけなら、三平方の定理と同じです。そこに、\(-2bc\cos\theta\) という項が追加されています。
では、この項は何なのでしょうか。
ポイントは、2辺 \(b\) と \(c\) の間にある角度 \(\theta\) です。三角形では、\(b\) と \(c\) がどのような角度で開いているかによって、残りの辺 \(a\) の長さが変わります。
つまり余弦定理は、「2辺の長さと、その間の角度から、残りの辺の長さを計算する公式」と考えることができます。
2.なぜ \(\cos\theta\) が出てくるのか?
ここで気になるのが、\(\cos\theta\) です。
なぜ、三角形の辺の長さを計算するのに、突然 \(\cos\theta\) が出てくるのでしょうか。
その理由を考えるには、\(b\) の「向き」に注目すると分かりやすくなります。たとえば、\(c\) を横向きに置いて、\(b\) を角度 \(\theta\) だけ傾けてみます。

このとき、\(b\) のうち、\(c\) と同じ横方向を向いている部分は、\(b\cos\theta\) になります。
つまり、\(\cos\theta\) は、\(b\) のうち \(c\) と同じ方向に向いている部分を取り出していると考えることができます。
ここが、余弦定理を理解するうえで重要なポイントです。
\(\cos\theta\) は、2辺の「向きの関係」を数値にしている。
だから、余弦定理には \(\cos\theta\) が登場します。
3.直角なら、三平方の定理に戻る
では、2辺の間の角度が \(\theta=90^\circ\) だったらどうでしょうか。
このとき、\(\cos90^\circ=0\) です。
余弦定理 \(a^2=b^2+c^2-2bc\cos\theta\) に代入すると、\(b^2+c^2-2bc\times0\) となります。
つまり、
$$
a^2=b^2+c^2
$$
です。
これは、三平方の定理そのものです。
三平方の定理は、余弦定理の「角度が \(90^\circ\) の場合」だった。
こう考えると、2つの公式が別々のものには見えなくなります。
4.角度が変わると、辺 \(a\) はどう変わる?
余弦定理の面白いところは、角度 \(\theta\) を変えると、辺 \(a\) の長さが変化することです。
同じ \(b\) と \(c\) を使って、角度だけを変えてみます。

\(0^\circ\lt\theta\lt90^\circ\) の場合
鋭角では、\(\cos\theta \gt 0\) です。そのため、\(-2bc\cos\theta\lt0\) となります。
余弦定理は、\(a^2=b^2+c^2-2bc\cos\theta\) なので、\(a^2 \lt b^2+c^2\) となります。
つまり、同じ \(b\) と \(c\) なら、直角の場合よりも \(a\) は短くなります。
\(\theta=90^\circ\) の場合
このとき、\(\cos90^\circ=0\) なので、\(a^2=b^2+c^2\) です。
三平方の定理になります。
\(90^\circ \lt \theta \lt 180^\circ\) の場合
鈍角では、\(\cos\theta \lt 0\) になります。
すると、\(-2bc\cos\theta\gt0\) となり、\(a^2 \gt b^2+c^2\) となります。
つまり、同じ \(b\) と \(c\) なら、直角の場合よりも \(a\) は長くなります。
このように、角度が変わると、\(\cos\theta\) の符号も変わり、それに応じて辺 \(a\) の長さも変化します。
5.\(-2bc\cos\theta\) は「角度による変化」
ここまでを見ると、
$$
a^2=b^2+c^2-2bc\cos\theta
$$
という式の意味が少し見えてきます。
まず、\(b^2+c^2\) があります。これは、もし2辺が直角だったら出てくる値です。
そこから、\(2bc\cos\theta\) を引いています。
つまり、「直角だった場合の \(b^2+c^2\) から、角度による変化を加えたもの」と見ることができます。
鋭角なら \(\cos\theta \gt 0\) なので、\(2bc\cos\theta\) を引くことになります。
直角なら \(\cos\theta=0\) なので、変化はありません。
鈍角なら \(\cos\theta \lt 0\) なので、結果として \(2bc|\cos\theta|\) が加わる形になります。
だから、余弦定理は単なる複雑な計算公式ではありません。
2辺の長さだけでなく、「その2辺がどのような角度をなしているか」まで含めて、3辺の関係を表している公式です。
6.余弦定理と内積は、なぜ同じ \(\cos\theta\) が出てくるのか?
ここで、以前の記事で扱った「内積」を思い出してみます。
内積は、\(\vec{a}\cdot\vec{b}=|\vec{a}||\vec{b}|\cos\theta\) と表すことができました。
一方、余弦定理には、\(-2bc\cos\theta\) が登場します。
どちらにも、\(\cos\theta\) があるのは偶然ではありません。内積も余弦定理も、2つの方向がどのくらい同じ向きを向いているのかという関係を扱っているからです。
内積では、\(|\vec{a}||\vec{b}|\cos\theta\) という形で、2つのベクトルの向きの関係を表しました。
余弦定理では、\(2bc\cos\theta\) という形で、2辺の向きの関係が、3辺目の長さにどのような影響を与えるかを表しています。
つまり、
- 三平方の定理
- 余弦定理
- 内積
は、別々の公式として暗記するだけのものではありません。
「長さ」と「角度」と「方向」の関係を、別の形で表している。
そう考えると、それぞれの公式が少しつながって見えてきます。

7.余弦定理は、三平方の定理の先にある
三平方の定理では、\(a^2=b^2+c^2\) という関係を扱いました。
ただし、これは「2辺の間の角度が \(90^\circ\)」という特別な場合です。余弦定理では、そこから角度を自由に変えることができます。
$$
a^2=b^2+c^2-2bc\cos\theta
$$
そして、\(\theta=90^\circ\) なら、\(\cos90^\circ=0\) なので、三平方の定理に戻ります。逆に、鋭角や鈍角では、\(\cos\theta\) によって \(a\) の長さが変化します。
つまり余弦定理は、三平方の定理を「直角ではない三角形」にまで広げた公式と見ることができます。
まとめ
余弦定理は、\(a^2=b^2+c^2-2bc\cos\theta\) という式で表されます。
一見すると、三平方の定理より複雑です。でも、その意味を考えると、やっていることはそれほど難しくありません。
まず、\(b^2+c^2\) があり、そこに \(-2bc\cos\theta\) という「角度による変化」が加わっています。
\(\theta=90^\circ\) なら、\(\cos90^\circ=0\) なので、三平方の定理になります。
鋭角なら \(a\) は直角の場合より短くなり、鈍角なら長くなります。
そして、余弦定理に登場する \(\cos\theta\) は、内積にも登場します。
だから、三平方の定理、余弦定理、内積は、「長さと角度と方向」という共通した考え方でつながっています。
公式を丸暗記するのではなく、「この式は何を表しているのか」と考えてみると、数学の公式同士のつながりが少し見えてきます。
今回の記事では、余弦定理が「何を表しているのか」を中心に考えました。
「では、\(a^2=b^2+c^2-2bc\cos\theta\) という式は、実際にどうやって導けばいいの?」
という疑問が残った人には、次の記事がおすすめです。

そう感じた人には、余弦定理の証明を丁寧に解説してくれる本もおすすめです。




コメント