はじめに
前回の記事では、線形写像のランクについて学びました。ランクは、線形写像によって作り出せる空間、つまり像の次元を表しています。
一方、その前の記事では、零ベクトルに移る入力全体の集合である「核」についても学びました。では、線形写像の像の次元と核の次元には、どのような関係があるのでしょうか。
実は、有限次元ベクトル空間からの線形写像では、像の次元と核の次元を足すと、定義域の次元になります。この関係を次元定理と呼びます。
この記事では、具体例から次元定理の意味を理解し、基底と線形独立性を使って、なぜこの関係が成り立つのかを考えましょう。
この記事でわかること
- 次元定理が何を表しているのか
- 像の次元と核の次元を足すと、なぜ定義域の次元になるのか
- 核の基底を使って次元定理を証明する方法
- 次元定理とランクの関係
- 次元定理から単射・全射を判定する方法
1.次元定理は何を表しているのか?
まず、3次元空間から2次元空間への線形写像を例に考えましょう。
1.1.3次元空間を平面に写す場合
次の行列を考えます。
$$
A=
\begin{pmatrix}
1&0&0\\
0&1&0
\end{pmatrix}
$$
この行列による線形写像は、
$$
T:\mathbb{R}^3\to\mathbb{R}^2
$$
$$
T
\left(
\begin{pmatrix}
x\\y\\z
\end{pmatrix}
\right)
=
\begin{pmatrix}
x\\y
\end{pmatrix}
$$
です。
この写像では、入力の \(x\) 成分と \(y\) 成分はそのまま出力されますが、\(z\) 成分は出力に影響しません。
出力として任意の2次元ベクトルを作れるため、像は、
$$
\mathrm{Im}(T)=\mathbb{R}^2
$$
となります。したがって、
$$
\dim\mathrm{Im}(T)=2
$$
です。
1.2.零ベクトルに移る方向を考える
次に、この線形写像の核を考えます。
核は、次の条件を満たすベクトル全体の集合でした。
$$
T(\boldsymbol{x})=\boldsymbol{0}
$$
今回の写像では、
$$
\begin{pmatrix}
x\\y
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
0\\0
\end{pmatrix}
$$
なので、
$$
x=0,\quad y=0
$$
となります。
一方、\(z\) には制約がありません。したがって、核は、
$$
\begin{aligned}{}
\mathrm{Ker}(T)
&=
\left\{
\begin{pmatrix}
0\\0\\z
\end{pmatrix}
\;\middle|\;
z\in\mathbb{R}
\right\}\\
&=
\mathrm{span}
\left\{
\begin{pmatrix}
0\\0\\1
\end{pmatrix}
\right\}
\end{aligned}
$$
です。
つまり、核は \(z\) 軸に沿った1次元の空間なので、
$$
\dim\mathrm{Ker}(T)=1
$$
となります。
この関係を図で確認してみましょう。\(z\) 方向の違いは出力に影響せず、3次元の入力空間から2次元の出力空間へ写されることがわかります。

この線形写像では、定義域が3次元であり、像の次元が \(2\)、核の次元が \(1\) です。
したがって、
$$
\dim\mathrm{Im}(T)
+
\dim\mathrm{Ker}(T)
=
2+1=3
$$
となります。
つまり、像の次元と核の次元を足すと、定義域の次元に一致します。
2.次元定理とは何か?
第1章の例で確認した関係は、特定の行列だけで成り立つものではありません。
2.1.次元定理が表す関係
有限次元ベクトル空間 \(V\) と、ベクトル空間 \(W\) の間の線形写像、
$$
T:V\to W
$$
を考えます。
このとき、次の関係が成り立ちます。
$$
\dim V
=
\dim\mathrm{Ker}(T)
+
\dim\mathrm{Im}(T)
$$
これを次元定理と呼びます。
左辺は定義域の次元、右辺の第1項は核の次元、第2項は像の次元です。
次元定理は、定義域の次元が「核の次元」と「像の次元」の和に等しいことを表します。
2.2.次元定理の直感的な意味
核に含まれるベクトルは、すべて零ベクトルに移ります。そのため、核に沿った方向の違いは、出力からは区別できません。
一方、核に含まれない方向のうち、適切に選んだ独立な方向は、像の中で独立な方向を作り出します。次元定理は、この2種類の方向の数を足すと、定義域の次元になることを示しています。
ただし、定義域が単純に「核」と「像」に分かれるわけではありません。核は定義域の部分空間ですが、像は終域の部分空間だからです。
この点に注意しながら、次の章で定理を証明しましょう。

3.次元定理はなぜ成り立つのか?
次元定理を証明するために、核の基底から出発します。証明のポイントは、核の基底を定義域全体の基底に拡張し、追加した基底ベクトルの像を調べることです。
3.1.核の基底を定義域の基底に拡張する
線形写像、
$$
T:V\to W
$$
を考え、定義域の次元を、
$$
\dim V=n
$$
とします。
また、核の次元を \(k\) とし、その基底を、
$$
\boldsymbol{v}_1,
\boldsymbol{v}_2,
\ldots,
\boldsymbol{v}_k
$$
とします。
これらのベクトルは線形独立なので、基底の拡張によって、さらに \(n-k\) 本のベクトルを追加し、
$$
\boldsymbol{v}_1,\ldots,\boldsymbol{v}_k,
\boldsymbol{v}_{k+1},\ldots,\boldsymbol{v}_n
$$
を \(V\) の基底にできます。
ここで、最初の \(k\) 本は核の基底です。したがって、
$$
T(\boldsymbol{v}_i)=\boldsymbol{0}
\quad (1\le i\le k)
$$
が成り立ちます。
残りの \(n-k\) 本が、像の次元を考えるうえで重要になります。

3.2.追加したベクトルの像が、像全体を張ることを示す
次の \(n-k\) 本のベクトルを考えます。まず、これらが像全体を張ることを示しましょう。
$$
T(\boldsymbol{v}_{k+1}),
\ldots,
T(\boldsymbol{v}_n)
$$
任意の \(\boldsymbol{y}\in\mathrm{Im}(T)\) を取ると、ある \(\boldsymbol{x}\in V\) が存在して、次のように表せます。
$$
\boldsymbol{y}=T(\boldsymbol{x})
$$
\(\boldsymbol{v}_1,\ldots,\boldsymbol{v}_n\) は \(V\) の基底なので、\(\boldsymbol{x}\) は、
$$
\boldsymbol{x}
=
a_1\boldsymbol{v}_1+
\cdots+
a_n\boldsymbol{v}_n
$$
と表せます。
両辺に \(T\) を適用すると、線形性より、
$$
\begin{aligned}{}
T(\boldsymbol{x})
&=
a_1T(\boldsymbol{v}_1)+
\cdots+
a_nT(\boldsymbol{v}_n)
\end{aligned}
$$
となります。
ここで、最初の \(k\) 本は核に含まれるため、零ベクトルに移ります。したがって、
$$
\begin{aligned}{}
\boldsymbol{y}
&=
a_{k+1}T(\boldsymbol{v}_{k+1})+\cdots+
a_nT(\boldsymbol{v}_n)
\end{aligned}
$$
です。
つまり、像の任意のベクトルは、
$$
T(\boldsymbol{v}_{k+1}),
\ldots,
T(\boldsymbol{v}_n)
$$
の線形結合で表せます。
したがって、これらのベクトルは像全体を張ります。
3.3.追加したベクトルの像が線形独立であることを示す
次に、同じ \(n-k\) 本のベクトルが線形独立であることを示します。
次の等式が成り立つと仮定しましょう。
$$
a_{k+1}T(\boldsymbol{v}_{k+1})
+\cdots+
a_nT(\boldsymbol{v}_n)
=
\boldsymbol{0}
$$
線形性より、
$$
T\left(
a_{k+1}\boldsymbol{v}_{k+1}
+\cdots+
a_n\boldsymbol{v}_n
\right)
=
\boldsymbol{0}
$$
となります。
したがって、
$$
\boldsymbol{u}
=
a_{k+1}\boldsymbol{v}_{k+1}
+\cdots+
a_n\boldsymbol{v}_n
$$
とおくと、\(\boldsymbol{u}\) は核に含まれます。
核の基底は \(\boldsymbol{v}_1,\ldots,\boldsymbol{v}_k\) なので、ある係数 \(b_1,\ldots,b_k\) を使って、
$$
\boldsymbol{u}
=
b_1\boldsymbol{v}_1+
\cdots+
b_k\boldsymbol{v}_k
$$
とも表せます。
この2つの式をまとめると、
$$
\begin{aligned}{}
&b_1\boldsymbol{v}_1+\cdots+
b_k\boldsymbol{v}_k-
a_{k+1}\boldsymbol{v}_{k+1}
-\cdots-
a_n\boldsymbol{v}_n
=
\boldsymbol{0}
\end{aligned}
$$
となります。
しかし、\(\boldsymbol{v}_1,\ldots,\boldsymbol{v}_n\) は \(V\) の基底なので、線形独立です。
したがって、すべての係数が零でなければなりません。特に、
$$
a_{k+1}=\cdots=a_n=0
$$
です。
よって、
$$
T(\boldsymbol{v}_{k+1}),
\ldots,
T(\boldsymbol{v}_n)
$$
は線形独立であることが示されました。
3.4.像の次元を求める
ここまでで、次の2つを示しました。
- 追加した \(n-k\) 本のベクトルの像は、像全体を張る。
- それらの像は、線形独立である。
したがって、
$$
T(\boldsymbol{v}_{k+1}),
\ldots,
T(\boldsymbol{v}_n)
$$
は \(\mathrm{Im}(T)\) の基底です。
その本数は \(n-k\) 本なので、
$$
\dim\mathrm{Im}(T)=n-k
$$
となります。
ここで、\(\dim V=n\)、\(\dim\mathrm{Ker}(T)=k\) だったため、
$$
\dim V
=
\dim\mathrm{Ker}(T)
+
\dim\mathrm{Im}(T)
$$
が成り立ちます。これで次元定理が証明できました。
この証明で使った基底の対応を、3次元の場合を例に図で整理しましょう。

図のように、核の基底は零ベクトルに移り、追加した基底ベクトルの像が、像の基底になります。
一般に、定義域の次元が \(n\)、核の次元が \(k\) であれば、像の基底は \(n-k\) 本になります。これが、次元定理が成り立つ理由です。
4.次元定理とランクはどうつながるのか?
次元定理は、行列のランクを使って表すこともできます。
4.1.ランクと核の次元の関係
\(m\times n\) 行列 \(A\) による線形写像、
$$
T:\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^m
$$
$$
T(\boldsymbol{x})=A\boldsymbol{x}
$$
を考えます。
前回の記事で学んだように、ランクは像の次元なので、
$$
\mathrm{rank}(A)=\dim\mathrm{Im}(T)
$$
です。
また、定義域は \(\mathbb{R}^n\) なので、その次元は \(n\) です。
したがって、次元定理は、
$$
\mathrm{rank}(A)
+
\dim\mathrm{Ker}(T)
=
n
$$
と表せます。
つまり、行列の列数は、ランクと核の次元の和に等しくなります。
4.2.具体例で確認する
次の行列を考えます。
$$
A=
\begin{pmatrix}
1&1&0\\
0&0&1
\end{pmatrix}
$$
この行列による線形写像は、
$$
T
\left(
\begin{pmatrix}
x\\y\\z
\end{pmatrix}
\right)
=
\begin{pmatrix}
x+y\\z
\end{pmatrix}
$$
です。
出力として任意の2次元ベクトルを作れるため、
$$
\mathrm{rank}(A)=2
$$
となります。
一方、核を求めるには、
$$
\begin{cases}
x+y=0\\
z=0
\end{cases}
$$
を解きます。
\(x=t\) とおくと、\(y=-t\)、\(z=0\) なので、
$$
\begin{pmatrix}
x\\y\\z
\end{pmatrix}
=
t
\begin{pmatrix}
1\\-1\\0
\end{pmatrix}
$$
です。
したがって、
$$
\dim\mathrm{Ker}(T)=1
$$
となります。
今回の行列は3列なので、次元定理より、
$$
\mathrm{rank}(A)
+
\dim\mathrm{Ker}(T)
=
2+1=3
$$
が成り立ちます。
このように、具体的な行列でも次元定理を確認できます。
5.次元定理から線形写像の何がわかるのか?
最後に、次元定理を使って、単射と全射の条件を考えましょう。
5.1.単射と核の次元
線形写像が単射であるとは、異なる入力が異なる出力に移ることです。
線形写像では、単射であることと、核が零ベクトルだけからなることは同値です。
$$
T\text{ が単射}
\iff
\mathrm{Ker}(T)=\{\boldsymbol{0}\}
$$
これは、核の次元が \(0\) であることと同じです。
したがって、次元定理より、
$$
\mathrm{rank}(A)=n
$$
となります。
つまり、\(m\times n\) 行列による線形写像が単射であるための必要十分条件は、ランクが列数 \(n\) に等しいことです。
5.2.全射とランク
一方、線形写像が全射であるとは、終域のすべてのベクトルに到達できることです。
$$
T\text{ が全射}
\iff
\mathrm{Im}(T)=\mathbb{R}^m
$$
したがって、
$$
\mathrm{rank}(A)=m
$$
が全射の必要十分条件になります。
単射と全射の条件をまとめると、次のようになります。
| 性質 | 条件 |
|---|---|
| 単射 | \(\mathrm{rank}(A)=n\) |
| 全射 | \(\mathrm{rank}(A)=m\) |
| 単射かつ全射 | \(m=n=\mathrm{rank}(A)\) |
ここで、\(A\) は \(m\times n\) 行列です。
5.3.正方行列の場合
特に、\(n\times n\) 正方行列では、定義域と終域の次元が等しくなります。
そのため、
$$
\mathrm{rank}(A)=n
$$
であれば、単射と全射の両方が成り立ちます。
逆に、単射または全射のどちらかが成り立てば、ランクは \(n\) になり、もう一方も成り立ちます。
つまり、有限次元の同じ次元の空間の間では、線形写像の単射と全射は同値になります。
正方行列による線形写像では、単射であることと全射であることは同値です。この関係は、次元定理から導けます。
まとめ
今回は、次元定理について、その意味と成り立つ理由を考えました。
重要なポイントを整理します。
- 次元定理は、定義域の次元が核の次元と像の次元の和に等しいことを表す。
- 核の基底を定義域の基底に拡張すると、追加した基底ベクトルの像が、像の基底になる。
- そのため、像の次元は定義域の次元から核の次元を引いた値になる。
- 行列では、ランクと核の次元の和が列数に等しくなる。
- ランクが列数に等しければ単射、行数に等しければ全射になる。
- 正方行列では、単射と全射は同値になる。
特に重要なのは、次の関係です。
$$
\dim V
=
\dim\mathrm{Ker}(T)
+
\dim\mathrm{Im}(T)
$$
次元定理は、線形写像の核と像を、定義域の次元によって結びつける定理です。基底の拡張を使うことで、この関係が成り立つ理由を理解できます。
これまでのPart 3では、行列を線形写像として捉え、線形変換、表現行列、行列の演算、像と核、ランクについて学んできました。
今回の次元定理によって、これらの知識が一つにつながりました。行列は単なる数の表ではなく、ベクトル空間の構造を保ちながら、空間を別の空間へ写す仕組みとして理解できます。
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Part 3.線形写像と行列をまとめて理解する
ここまでで、Part 3の11本の個別記事をすべて学びました。線形写像の基本から、行列の演算、像・核・ランク・次元定理までのつながりを整理したい人は、次のまとめ記事をご覧ください。

次のPartへ進む
Part 4では、行列式・逆行列・連立方程式を学びます。行列式が表す意味を理解し、逆行列や掃き出し法を使って連立方程式を解く仕組みへと進みます。

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