はじめに
前回の記事では、導関数が接線の傾きを表し、その符号から関数の増加・減少を読み取れることを学びました。たとえば、\(f(x)=x^2\) の導関数は \(f'(x)=2x\) となり、グラフの変化を調べることができます。
しかし、実際の関数は、複数の項を足したり、関数同士を掛けたり、割ったりした形で表されることもあります。そのような関数を微分するとき、毎回、極限の定義から計算する必要があるのでしょうか?
実は、微分には定数倍・和・積・商に関する公式があり、それらを使うことで複雑な関数も効率よく微分できます。ただし、これらの公式は単なる計算の決まりではなく、微分の定義から導くことができます。
この記事では、微分の定義から定数倍・和・積・商の公式を導き、それぞれがなぜ成り立つのかを理解します。また、べき関数の微分公式についても、二項定理を使って確認します。
この記事でわかること
- 微分の公式は、どのようにして定義から導かれるのか?
- べき関数の微分で、指数が前に出るのはなぜか?
- 定数倍や和・差を項ごとに微分できるのはなぜか?
- 積の微分では、なぜ2つの項が現れるのか?
- 商の微分の公式は、どのような計算から生まれるのか?
- 微分公式はAIの活性化関数とどうつながるのか?
1.微分の公式は、微分の定義から生まれる
まず、第1回で学んだ微分の定義を確認しましょう。関数 \(f(x)\) の導関数は、次の極限で定義されます。
$$
f'(x)=\lim_{h\to0}\frac{f(x+h)-f(x)}{h}
$$
これは、\(x\) を \(h\) だけ変化させたときの平均変化率を考え、\(h\) を \(0\) に近づけることで瞬間の変化率を求める式です。
たとえば、\(f(x)=x^2\) なら、次のように計算できます。
$$
\begin{aligned}
f'(x)
&=\lim_{h\to0}\frac{(x+h)^2-x^2}{h}\\
&=\lim_{h\to0}\frac{2xh+h^2}{h}\\
&=\lim_{h\to0}(2x+h)\\
&=2x
\end{aligned}
$$
このように、微分の定義を使えば導関数を求められます。しかし、複雑な関数を毎回この方法で計算するのは大変です。そこで、よく使う計算を一般化したものが、微分の公式です。
1.1.定数関数と基本的なべき関数
最も簡単なのは、定数関数の微分です。\(f(x)=c\) とすると、\(x\) が変化しても関数の値は変わりません。
$$
\begin{aligned}
f'(x)
&=\lim_{h\to0}\frac{c-c}{h}\\
&=0
\end{aligned}
$$
したがって、定数の微分は \(0\) です。
また、\(f(x)=x\) の場合は、
$$
\begin{aligned}
f'(x)
&=\lim_{h\to0}\frac{(x+h)-x}{h}\\
&=1
\end{aligned}
$$
となります。
さらに、\(f(x)=x^3\) を微分すると、
$$
\begin{aligned}
f'(x)
&=\lim_{h\to0}\frac{(x+h)^3-x^3}{h}\\
&=\lim_{h\to0}(3x^2+3xh+h^2)\\
&=3x^2
\end{aligned}
$$
です。
これらの結果を見ると、べき関数を微分すると、指数が前に出て次数が1つ下がることがわかります。
1.2.二項定理を使って一般公式を導く
この関係が一般にも成り立つことを確認しましょう。正の整数 \(n\) に対して、次の関数を考えます。
$$
f(x)=x^n
$$
微分の定義から、
$$
f'(x)=\lim_{h\to0}\frac{(x+h)^n-x^n}{h}
$$
です。
ここで二項定理を使うと、
$$
\begin{aligned}
(x+h)^n
={}&x^n+nx^{n-1}h+\binom{n}{2}x^{n-2}h^2+\cdots+h^n
\end{aligned}
$$
と展開できます。なお、\(\binom{n}{2}\) は、\(n\) 個の中から2個を選ぶ組合せの数を表しています。
この式から \(x^n\) を引き、\(h\) で割ると、
$$
\begin{aligned}
\frac{(x+h)^n-x^n}{h}
={}&nx^{n-1}+\binom{n}{2}x^{n-2}h+\cdots+h^{n-1}
\end{aligned}
$$
となります。
ここで \(h\) を \(0\) に近づけると、\(h\) を含む項はすべて \(0\) に近づきます。したがって、
$$
\frac{d}{dx}x^n=nx^{n-1}
$$
が得られます。
つまり、べき関数の微分で指数が前に出るのは、二項展開に現れる \(nx^{n-1}h\) という項が、極限をとった後に残るためです。
なお、ここでは正の整数 \(n\) について導きました。負の整数や分数の指数への拡張は、商の微分や合成関数の微分などを学んだ後に考えることができます。
2.定数倍と和・差の微分はなぜ項ごとに計算できるのか?
次に、複数の関数を組み合わせた場合を考えます。ここでは、\(f(x)\) と \(g(x)\) が微分可能であるとします。
2.1.定数倍の微分
関数 \(f(x)\) を定数 \(c\) 倍した関数を考えます。
$$
F(x)=cf(x)
$$
微分の定義を使うと、
$$
\begin{aligned}
F'(x)
&=\lim_{h\to0}\frac{cf(x+h)-cf(x)}{h}\\
&=\lim_{h\to0}c\frac{f(x+h)-f(x)}{h}\\
&=cf'(x)
\end{aligned}
$$
となります。定数 \(c\) は極限の外に出せるため、次の公式が得られます。
$$
(cf)’=cf’
$$
つまり、関数を定数倍すると、その変化率も同じ定数倍になります。
たとえば、
$$
\frac{d}{dx}(3x^2)=3\cdot2x=6x
$$
です。
2.2.和・差の微分
続いて、2つの関数の和を考えます。
$$
F(x)=f(x)+g(x)
$$
微分の定義に代入すると、
$$
\begin{aligned}
F'(x)
&=\lim_{h\to0}
\frac{f(x+h)+g(x+h)-f(x)-g(x)}{h}\\
&=\lim_{h\to0}
\left(
\frac{f(x+h)-f(x)}{h}
+\frac{g(x+h)-g(x)}{h}
\right)\\
&=f'(x)+g'(x)
\end{aligned}
$$
となります。
2つの関数の和の変化量は、それぞれの関数の変化量の和になっています。そのため、変化率も分けて計算できるのです。
同じ考え方で、差についても次の公式が成り立ちます。
$$
(f\pm g)’=f’\pm g’
$$
たとえば、
$$
\frac{d}{dx}(x^3+2x^2-5x+4)
=3x^2+4x-5
$$
です。
定数倍と和・差の微分では、各関数の変化率を定数倍したり、足し引きしたりできます。この性質を微分の線形性といいます。
3.積の微分では、なぜ2つの項が現れるのか?
ここからが今回の記事の重要な部分です。
2つの関数を掛け合わせた場合も、それぞれを微分して掛ければよいのでしょうか?
$$
(fg)’=f’g’
$$
実は、この式は一般には成り立ちません。積の微分では、2つの関数が同時に変化することを考える必要があります。
3.1.長方形の面積で考える
積の微分を理解するために、横の長さが \(f(x)\)、縦の長さが \(g(x)\) の長方形を考えます。ここでは、どちらの長さも正で、\(x\) の変化に伴って増加する場合を想定します。
この長方形の面積は、
$$
A(x)=f(x)g(x)
$$
です。
ここで \(x\) を \(h\) だけ変化させると、横の長さと縦の長さがそれぞれ変化します。横の長さの変化量を \(\Delta f\)、縦の長さの変化量を \(\Delta g\) とすると、
$$
\begin{aligned}
\Delta f&=f(x+h)-f(x)\\
\Delta g&=g(x+h)-g(x)
\end{aligned}
$$
です。
新しい長方形の横幅は \(f+\Delta f\)、高さは \(g+\Delta g\) になるため、面積は次のようになります。
$$
A(x+h)=(f+\Delta f)(g+\Delta g)
$$
ここで、元の長方形と新しい長方形を重ねて考えてみましょう。

図では、元の長方形を青色、その右側に増える帯状の部分を緑色、上側に増える帯状の部分を赤色、右上の小さな長方形を黄色で示します。
それぞれの面積は、次のようになります。
| 領域 | 面積 | 意味 |
|---|---|---|
| 青色 | \(fg\) | 元の面積 |
| 緑色 | \(g\Delta f\) | 横幅の変化による増加 |
| 赤色 | \(f\Delta g\) | 高さの変化による増加 |
| 黄色 | \(\Delta f\Delta g\) | 両方の変化による増加 |
したがって、新しい面積は、
$$
A(x+h)=fg+g\Delta f+f\Delta g+\Delta f\Delta g
$$
となります。
元の面積 \(fg\) を引くと、面積の変化量は、
$$
\Delta A=g\Delta f+f\Delta g+\Delta f\Delta g
$$
です。
ここで重要なのは、面積の変化には、横幅の変化と高さの変化の両方が影響しているということです。
3.2.微分の定義から積の公式を導く
先ほど求めた面積の変化量を、\(x\) の変化量 \(h\) で割ると、
$$
\frac{\Delta A}{h}
=g\frac{\Delta f}{h}
+f\frac{\Delta g}{h}
+\frac{\Delta f\Delta g}{h}
$$
となります。
ここで \(h\) を \(0\) に近づけます。
\(f\) と \(g\) が微分可能なら連続でもあるため、\(\Delta f\) と \(\Delta g\) はどちらも \(0\) に近づきます。
最初の2つの項は、それぞれ次の値に近づきます。
$$
\begin{aligned}
g\frac{\Delta f}{h}&\longrightarrow gf’\\
f\frac{\Delta g}{h}&\longrightarrow fg’
\end{aligned}
$$
一方、最後の項は、
$$
\begin{aligned}
\frac{\Delta f\Delta g}{h}=\frac{\Delta f}{h}\Delta g \longrightarrow f’\cdot0 =0
\end{aligned}
$$
となります。
つまり、図に現れた3つの増加部分のうち、微分した後に残るのは、横幅の変化と高さの変化に対応する2つの項です。
したがって、
$$
(fg)’=f’g+fg’
$$
が得られます。
積の微分で2つの項が現れるのは、片方の関数の変化だけでなく、もう片方の関数の変化も考える必要があるためです。
なお、長方形の図は正の長さが増加する場合のイメージですが、積の微分公式そのものは、関数の値や変化量が負になる場合にも成り立ちます。
3.3.具体例で確認する
次の関数を考えます。
$$
F(x)=x^2(x+1)
$$
積の微分公式を使うと、
$$
\begin{aligned}
F'(x)
&=(x^2)'(x+1)+x^2(x+1)’\\
&=2x(x+1)+x^2\\
&=3x^2+2x
\end{aligned}
$$
となります。
一方、元の式を先に展開すると、
$$
F(x)=x^3+x^2
$$
なので、
$$
F'(x)=3x^2+2x
$$
です。どちらの方法でも同じ結果になることが確認できました。
4.商の微分公式はなぜこの形になるのか?
次に、2つの関数を割った場合を考えます。
$$
F(x)=\frac{f(x)}{g(x)}
$$
商の微分では、分子だけでなく分母も変化します。そのため、分子と分母をそれぞれ微分して割るだけでは、正しい結果になりません。
4.1.微分の定義から導く
ここでは \(g(x)\ne0\) とし、考えている点の近くでも分母が \(0\) にならないとします。
微分の定義を使うと、
$$
F'(x)=\lim_{h\to0}
\frac{
\frac{f(x+h)}{g(x+h)}-\frac{f(x)}{g(x)}
}{h}
$$
です。
分子を通分すると、
$$
F'(x)=\lim_{h\to0}
\frac{
f(x+h)g(x)-f(x)g(x+h)
}{
h\,g(x+h)g(x)
}
$$
となります。
ここで、分子を微分しやすい形に変形します。
$$
\begin{aligned}
&f(x+h)g(x)-f(x)g(x+h)=\bigl(f(x+h)-f(x)\bigr)g(x)-f(x)\bigl(g(x+h)-g(x)\bigr)
\end{aligned}
$$
この式を代入すると、
$$
\begin{aligned}
F'(x)
=\lim_{h\to0}\frac{1}{g(x+h)g(x)}
\Biggl(
&\frac{f(x+h)-f(x)}{h}g(x)-f(x)\frac{g(x+h)-g(x)}{h}
\Biggr)
\end{aligned}
$$
となります。
\(h\) を \(0\) に近づけると、微分可能な \(g\) は連続なので \(g(x+h)\to g(x)\) です。また、2つの差分商はそれぞれ \(f'(x)\)、\(g'(x)\) に近づきます。
したがって、
$$
\left(\frac{f}{g}\right)’
=\frac{f’g-fg’}{g^2}
$$
が得られます。
積の微分と異なり、分子に引き算が現れ、分母は2乗になります。
4.2.具体例で確認する
次の関数を考えます。
$$
F(x)=\frac{x}{x+1}
$$
商の微分公式を使うと、
$$
\begin{aligned}
F'(x)
&=\frac{(x+1)\cdot1-x\cdot1}{(x+1)^2}\\
&=\frac{1}{(x+1)^2}
\end{aligned}
$$
となります。ただし、元の関数の分母が \(0\) になる \(x=-1\) では定義されません。
ここで、分母を微分した結果を単純に分母へ置くのではなく、分子と分母の両方の変化を考えていることに注目してください。
5.微分公式を組み合わせて計算してみよう
ここまで、定数倍・和・積・商の微分公式を導きました。実際の計算では、これらを組み合わせて使います。
たとえば、次の関数を考えます。
$$
F(x)=\frac{x^2(x+2)}{x+1}
$$
まず、分子を \(u(x)=x^2(x+2)\)、分母を \(v(x)=x+1\) とおきます。
積の微分公式から、
$$
\begin{aligned}
u'(x)
&=2x(x+2)+x^2\\
&=3x^2+4x
\end{aligned}
$$
となり、分母の導関数は、
$$
v'(x)=1
$$
です。
これらを商の微分公式に代入すると、
$$
\begin{aligned}
F'(x)
&=\frac{u’v-uv’}{v^2}\\
&=\frac{(3x^2+4x)(x+1)-x^2(x+2)}{(x+1)^2}\\
&=\frac{2x^3+5x^2+4x}{(x+1)^2}
\end{aligned}
$$
となります。
このように、複雑に見える関数でも、どの部分が積で、どの部分が商なのかを見分ければ、基本公式を組み合わせて計算できます。
ここまでに学んだ公式をまとめると、次のようになります。
| 種類 | 微分公式 |
|---|---|
| 定数 | \((c)’=0\) |
| 定数倍 | \((cf)’=cf’\) |
| 和・差 | \((f\pm g)’=f’\pm g’\) |
| 積 | \((fg)’=f’g+fg’\) |
| 商 | \(\left(\frac{f}{g}\right)’=\frac{f’g-fg’}{g^2}\) |
| べき関数 | \((x^n)’=nx^{n-1}\)(正の整数 \(n\)) |
微分公式は、それぞれ独立した暗記項目ではありません。すべて微分の定義に基づいており、関数をどのように組み合わせたかに応じて使い分けるものです。
6.微分公式はAIの活性化関数にも使われる
微分公式は、AIのニューラルネットワークでも重要な役割を持っています。
ニューラルネットワークでは、入力を活性化関数に通して出力を計算します。そして学習するときには、活性化関数の導関数が必要になります。
たとえば、ReLU(Rectified Linear Unit)は、次のように定義されます。
$$
f(x)=\max(0,x)
$$
これは、\(x\) が負なら \(0\)、正なら \(x\) を返す関数です。したがって、\(x \lt 0\) の範囲では定数関数の微分を、\(x \gt 0\) の範囲では \(x\) の微分を使えます。
$$
f'(x)=
\begin{cases}
0 & (x<0)\\
1 & (x>0)
\end{cases}
$$
なお、\(x=0\) では左右の傾きが異なるため、通常の意味では微分できません。実際のAIの実装では、この点の勾配に便宜的な値を採用することがあります。

一方、シグモイド関数のように指数関数を含む活性化関数を微分するには、今回の公式に加えて、合成関数や指数関数の微分が必要になります。
これらは、第4回「合成関数の微分とは何か?」と第5回「指数関数と対数関数はなぜ微分しやすいのか?」で説明します。
まとめ
今回は、べき関数、定数倍・和・積・商の微分公式を、微分の定義から導きました。
- 微分公式は、平均変化率の極限という微分の定義から導かれる。
- べき関数の微分公式は、二項定理を使って導くことができる。
- 定数倍と和・差の微分では、それぞれの変化率を分けて計算できる。
- 積の微分では、2つの関数が同時に変化するため、2つの項が現れる。
- 商の微分では、分子と分母の変化を考えることで、分母の2乗を含む公式が得られる。
- 基本公式を組み合わせれば、複雑な関数も効率よく微分できる。
- 微分公式は、AIの活性化関数の導関数を求める際にも役立つ。
微分公式を理解するうえで重要なのは、公式の形を覚えることだけではなく、「どの量が変化しているのか」を考えることです。
次回は、合成関数の微分を扱います。関数の中に別の関数が入っているとき、変化率をどのようにつなげて計算するのかを、連鎖律の仕組みから理解していきましょう。
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