はじめに
前の記事では、2本の方向ベクトルを使って平面を表す方法について考えました。平面上の1点を \(\boldsymbol{p}\)、平面内の2本の方向ベクトルを \(\boldsymbol{a},\ \boldsymbol{b}\) とすると、
$$
\boldsymbol{x}=\boldsymbol{p}+s\boldsymbol{a}+t\boldsymbol{b}
$$
と表すことができました。
これは、「点 \(P\) まで移動して、そこから平面に沿った2つの方向へ自由に動く」という考え方でした。
では逆に、平面に沿った方向ではなく、平面に垂直な方向が分かっている場合はどうでしょうか。
実は、平面に垂直な1本のベクトルが分かれば、それだけで平面の向きを決めることができます。
直線や平面に垂直なベクトルを「法線ベクトル」といいます。法線ベクトルを使うと、内積によって直線や平面を表すことができます。
この記事では、法線ベクトルとは何かを図形的に理解し、内積が \(0\) になることを利用して、直線や平面の方程式がどのように作られるのかを見ていきます。

1.法線ベクトルとは何か?
まず、「法線ベクトル」という言葉から考えてみましょう。
ある直線や平面に対して、垂直な方向を向いているベクトルを法線ベクトルといいます。
たとえば、2次元平面に1本の直線があるとします。この直線に対して垂直なベクトル \(\boldsymbol{n}\) を考えると、\(\boldsymbol{n}\) がこの直線の法線ベクトルです。
3次元空間では、平面に対して垂直なベクトル \(\boldsymbol{n}\) が、その平面の法線ベクトルになります。
つまり、
- 2次元:直線に垂直なベクトル
- 3次元:平面に垂直なベクトル
を法線ベクトルと考えることができます。
ここで大切なのは、法線ベクトルは直線や平面の「向き」を決めているということです。
平面そのものに沿った方向を見るのではなく、平面から垂直に飛び出す方向を見るわけです。
2.なぜ法線ベクトルで直線を表せるのか?
まずは2次元の直線から考えてみましょう。
直線上に1点 \(P\) があり、その位置ベクトルを \(\boldsymbol{p}\) とします。また、直線上を動く点 \(X\) の位置ベクトルを \(\boldsymbol{x}\) とします。
すると、\(P\) から \(X\) へ向かうベクトルは、
$$
\boldsymbol{x}-\boldsymbol{p}
$$
です。
\(P\) も \(X\) も同じ直線上にあるので、\(\boldsymbol{x}-\boldsymbol{p}\) は直線に沿った方向を向いています。一方、法線ベクトル \(\boldsymbol{n}\) は、その直線に垂直です。
この関係を図で見てみましょう。

点 \(P\) から直線上の点 \(X\) へ向かう \(\boldsymbol{x}-\boldsymbol{p}\) は直線に沿っています。それに対して、法線ベクトル \(\boldsymbol{n}\) は直線に垂直なので、この2つのベクトルが作る角度は \(90^\circ\) です。
したがって、
$$
\boldsymbol{n}\perp(\boldsymbol{x}-\boldsymbol{p})
$$
となります。
ここで、以前の記事で考えた内積を思い出してみましょう。2つのベクトルが垂直なら、その内積は \(0\) でした。
したがって、
$$
\boldsymbol{n}\cdot(\boldsymbol{x}-\boldsymbol{p})=0
$$
となります。
法線ベクトルと、直線上の2点を結ぶベクトルは垂直なので、内積は \(0\) になります。
この「内積が \(0\)」という条件を使えば、直線上にあるすべての点 \(X\) を表すことができます。

3.直線の方程式を作ってみる
具体的に成分で考えてみましょう。
直線上の1点を \(P(p_1,\ p_2)\)、法線ベクトルを
$$
\boldsymbol{n}
=
\begin{pmatrix}
a\\
b
\end{pmatrix}
$$
とします。
直線上を動く点を \(X(x,\ y)\) とすると、
$$
\boldsymbol{x}-\boldsymbol{p}
=
\begin{pmatrix}
x-p_1\\
y-p_2
\end{pmatrix}
$$
です。
法線ベクトルとの内積が \(0\) になるので、
$$
\begin{pmatrix}
a\\
b
\end{pmatrix}
\cdot
\begin{pmatrix}
x-p_1\\
y-p_2
\end{pmatrix}
=0
$$
となります。内積を計算すると、
$$
a(x-p_1)+b(y-p_2)=0
$$
です。
これが、点 \(P(p_1,\ p_2)\) を通り、法線ベクトル \((a,\ b)^T\) を持つ直線の方程式です。
展開すると、
$$
ax+by=ap_1+bp_2
$$
となります。右辺を \(c\) とおけば、
$$
ax+by=c
$$
という見慣れた直線の方程式になります。
つまり、直線の方程式に現れる \(a,\ b\) は、単なる係数ではありません。
直線 \(ax+by=c\) の係数 \(a,\ b\) は、法線ベクトルの成分になっています。
4.具体例で直線の方程式を作ってみる
具体例を考えてみましょう。
点 \(P(1,\ 2)\) を通り、法線ベクトルが
$$
\boldsymbol{n}
=
\begin{pmatrix}
2\\
1
\end{pmatrix}
$$
である直線を考えます。
直線上の点を \(X(x,\ y)\) とすると、
$$
\boldsymbol{x}-\boldsymbol{p}
=
\begin{pmatrix}
x-1\\
y-2
\end{pmatrix}
$$
です。
これと法線ベクトルの内積が \(0\) になるので、
$$
\begin{pmatrix}
2\\
1
\end{pmatrix}
\cdot
\begin{pmatrix}
x-1\\
y-2
\end{pmatrix}
=0
$$
となります。
したがって、
$$
2(x-1)+(y-2)=0
$$
です。整理すると、
$$
2x+y=4
$$
となります。
ここでも、\(x\) と \(y\) の係数である \(2,\ 1\) が、そのまま法線ベクトルの成分になっています。
5.方向ベクトルと法線ベクトルの関係
前の記事では、直線を方向ベクトルで表しました。
直線上の1点を \(\boldsymbol{p}\)、方向ベクトルを \(\boldsymbol{a}\) とすると、
$$
\boldsymbol{x}=\boldsymbol{p}+t\boldsymbol{a}
$$
でした。
一方、今回は法線ベクトル \(\boldsymbol{n}\) を使って、
$$
\boldsymbol{n}\cdot(\boldsymbol{x}-\boldsymbol{p})=0
$$
と表しています。
方向ベクトル \(\boldsymbol{a}\) は直線に沿った方向を向き、法線ベクトル \(\boldsymbol{n}\) は直線に垂直な方向を向いています。そのため、
$$
\boldsymbol{n}\cdot\boldsymbol{a}=0
$$
という関係があります。
つまり、同じ直線を、
- 直線に沿った方向から見る
- 直線に垂直な方向から見る
という2つの方法で表しているわけです。
方向ベクトルは「どちらへ進めるか」を表し、法線ベクトルは「どちらが垂直か」を表します。
6.3次元では平面の法線ベクトルになる
ここまでの考え方は、そのまま3次元にも広げることができます。
3次元空間に平面があり、その平面上の1点 \(P\) の位置ベクトルを \(\boldsymbol{p}\) とします。また、平面に垂直な法線ベクトルを
$$
\boldsymbol{n}
=
\begin{pmatrix}
a\\
b\\
c
\end{pmatrix}
$$
とします。
平面上を動く点 \(X\) の位置ベクトルを \(\boldsymbol{x}\) とすると、\(\boldsymbol{x}-\boldsymbol{p}\) は平面に沿ったベクトルになります。この関係を図で見ると、次のようになります。

\(\boldsymbol{x}-\boldsymbol{p}\) は平面の中にありますが、法線ベクトル \(\boldsymbol{n}\) は平面から垂直に伸びています。したがって、この2つのベクトルも垂直です。
$$
\boldsymbol{n}\perp(\boldsymbol{x}-\boldsymbol{p})
$$
そのため、内積を使えば、
$$
\boldsymbol{n}\cdot(\boldsymbol{x}-\boldsymbol{p})=0
$$
となります。
ここでも、2次元の直線の場合とまったく同じ形になります。
7.平面の方程式を作ってみる
平面上の1点を \(P(p_1,\ p_2,\ p_3)\)、平面上を動く点を \(X(x,\ y,\ z)\) とします。
すると、
$$
\boldsymbol{x}-\boldsymbol{p}
=
\begin{pmatrix}
x-p_1\\
y-p_2\\
z-p_3
\end{pmatrix}
$$
です。
法線ベクトル
$$
\boldsymbol{n}
=
\begin{pmatrix}
a\\
b\\
c
\end{pmatrix}
$$
との内積が \(0\) になるので、
$$
a(x-p_1)+b(y-p_2)+c(z-p_3)=0
$$
となります。
展開すると、
$$
ax+by+cz=ap_1+bp_2+cp_3
$$
です。右辺を \(d\) とおけば、
$$
ax+by+cz=d
$$
となります。
これが、3次元空間における平面の方程式です。
平面 \(ax+by+cz=d\) の係数 \(a,\ b,\ c\) は、その平面の法線ベクトルの成分です。
このように見ると、\(ax+by+cz=d\) という式も、ただ暗記する必要はありません。
「平面に沿ったベクトルと法線ベクトルの内積が \(0\) になる」ということから自然に出てくる式なのです。
8.前の記事の平面とつなげてみる
前の記事では、点 \(P(1,\ 2,\ 3)\) を通り、
$$
\boldsymbol{a}
=
\begin{pmatrix}
1\\
0\\
1
\end{pmatrix},
\quad
\boldsymbol{b}
=
\begin{pmatrix}
0\\
1\\
1
\end{pmatrix}
$$
という2本の方向ベクトルを持つ平面を考えました。
その平面のベクトル方程式は、
$$
\boldsymbol{x}
=
\begin{pmatrix}
1\\
2\\
3
\end{pmatrix}
+
s
\begin{pmatrix}
1\\
0\\
1
\end{pmatrix}
+
t
\begin{pmatrix}
0\\
1\\
1
\end{pmatrix}
$$
でした。
また、媒介変数を消去すると、
$$
x+y-z=0
$$
となりました。
では、この式を法線ベクトルの視点から見てみましょう。
平面の方程式
$$
x+y-z=0
$$
の \(x,\ y,\ z\) の係数を見ると、\(1,\ 1,\ -1\) です。
したがって、
$$
\boldsymbol{n}
=
\begin{pmatrix}
1\\
1\\
-1
\end{pmatrix}
$$
が法線ベクトルになります。
実際に、前の記事で使った2本の方向ベクトルとの内積を計算すると、
$$
\boldsymbol{n}\cdot\boldsymbol{a}
=1\cdot1+1\cdot0+(-1)\cdot1
=0
$$
となり、
$$
\boldsymbol{n}\cdot\boldsymbol{b}
=1\cdot0+1\cdot1+(-1)\cdot1
=0
$$
となります。
つまり、\(\boldsymbol{n}\) は \(\boldsymbol{a}\) にも \(\boldsymbol{b}\) にも垂直です。
2本の方向ベクトルが作る平面に対して、その両方に垂直な方向が法線ベクトルになっているわけです。
9.方向ベクトルで表す方法と何が違う?
ここまでで、平面には2つの表し方が出てきました。
方向ベクトルを使えば、
$$
\boldsymbol{x}=\boldsymbol{p}+s\boldsymbol{a}+t\boldsymbol{b}
$$
と表せます。一方、法線ベクトルを使えば、
$$
\boldsymbol{n}\cdot(\boldsymbol{x}-\boldsymbol{p})=0
$$
と表せます。
この2つは別の平面を表しているわけではありません。同じ平面を、異なる方向から見ています。

左は、平面の中にある2本の方向ベクトル \(\boldsymbol{a},\ \boldsymbol{b}\) を使って、「平面の中をどう動けるか」を表しています。
一方、右は法線ベクトル \(\boldsymbol{n}\) を使って、「平面に対してどちらが垂直か」を表しています。
つまり、方向ベクトルによる表現と法線ベクトルによる表現は、同じ平面を「沿った方向」と「垂直な方向」という2つの視点から見たものです。
直線や平面は、「沿った方向」からも「垂直な方向」からも表すことができます。
10.法線ベクトルは1つに決まらない
ここで、法線ベクトルについてもう1つ重要なことがあります。
たとえば、
$$
\boldsymbol{n}
=
\begin{pmatrix}
1\\
2
\end{pmatrix}
$$
がある直線の法線ベクトルなら、\(2\boldsymbol{n}=(2,\ 4)^T\) も同じ直線に垂直です。
つまり、法線ベクトルそのものは1つに決まりません。
ゼロではない定数倍なら、同じ直線や平面の法線ベクトルとして使うことができます。
これは、方向ベクトルが1つに決まらなかったことと同じです。
たとえば、平面
$$
x+y-z=0
$$
は、両辺を2倍した
$$
2x+2y-2z=0
$$
と同じ平面です。
法線ベクトルも \((1,\ 1,\ -1)^T\) から \((2,\ 2,\ -2)^T\) に変わりますが、向いている方向は同じです。
11.内積を見ると方程式の意味が変わって見える
ここまで見ると、普段使っている直線や平面の方程式が、少し違って見えてきます。
2次元の直線
$$
ax+by=c
$$
では、\((a,\ b)^T\) が直線に垂直な法線ベクトルです。
3次元の平面
$$
ax+by+cz=d
$$
では、\((a,\ b,\ c)^T\) が平面に垂直な法線ベクトルです。
つまり、方程式の係数は単なる計算上の数字ではなく、図形の向きを表すベクトルになっています。
そして、その背後にあるのが、
$$
\boldsymbol{n}\cdot(\boldsymbol{x}-\boldsymbol{p})=0
$$
という内積の式です。
「垂直なら内積が \(0\) になる」という性質が、直線や平面の方程式につながっているわけです。
12.次は「距離」にもつながる
ここまで、法線ベクトルを使うことで、直線や平面を内積から表せることを見てきました。
では、点が直線や平面からどれくらい離れているかを求めたい場合はどうすればよいのでしょうか。
実は、ここでも法線ベクトルが重要な役割を果たします。
直線や平面までの最短距離は、直線や平面に垂直な方向へ測った距離です。つまり、法線ベクトルの方向へどれだけ離れているかを考えればよいわけです。
この考え方は、点と直線の距離、点と平面の距離へとつながっていきます。

まとめ
法線ベクトルとは、直線や平面に垂直な方向を向くベクトルです。
直線や平面上の1点を \(\boldsymbol{p}\)、その上を動く点を \(\boldsymbol{x}\)、法線ベクトルを \(\boldsymbol{n}\) とすると、
$$
\boldsymbol{n}\cdot(\boldsymbol{x}-\boldsymbol{p})=0
$$
と表すことができます。
これは、\(\boldsymbol{x}-\boldsymbol{p}\) が直線や平面に沿った方向を向き、法線ベクトル \(\boldsymbol{n}\) と垂直になるからです。
2次元では、この式から
$$
ax+by=c
$$
という直線の方程式が得られます。
3次元では、
$$
ax+by+cz=d
$$
という平面の方程式が得られます。
そして、\(a,\ b\) や \(a,\ b,\ c\) は単なる係数ではありません。これらを並べたベクトルが、直線や平面の法線ベクトルになっています。
法線ベクトルを使うと、「垂直なら内積が \(0\)」という1つの考え方から、2次元の直線も3次元の平面も同じ形で理解できます。
方向ベクトルが「図形に沿ってどちらへ動けるか」を表すのに対して、法線ベクトルは「図形に対してどちらが垂直か」を表します。
この2つの見方を行き来できるようになると、ベクトル方程式・内積・直線の方程式・平面の方程式が、別々の公式ではなく1つの考え方としてつながって見えてきます。
そう感じた人には、ベクトル方程式や法線ベクトルを基礎から解説してくれる本もおすすめです。



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