はじめに
前の記事では、「基底」について考えました。その中で、1本のベクトルを何倍かすると、そのベクトルと同じ方向へ自由に進めることを見てきました。
では、この考え方を使って、直線そのものをベクトルで表すことはできるのでしょうか。実は、直線をベクトルで表すために必要なことは、それほど多くありません。
直線は、「どこから出発するか」と「どの方向へ進むか」の2つが決まれば表すことができます。
「どこから出発するか」を表すのが直線上の1点、「どの方向へ進むか」を表すのが方向ベクトルです。この記事では、この2つから直線のベクトル方程式を作り、そこから媒介変数表示、さらに通常の直線の方程式との関係まで見ていきます。

1.まずは原点を通る直線を考える
最初に、原点を通る直線から考えてみましょう。ゼロベクトルではないベクトル
$$
\boldsymbol{a}
=
\begin{pmatrix}
a_1\\
a_2
\end{pmatrix}
$$
があるとします。このベクトルを実数 \(t\) 倍すると \(t\boldsymbol{a}\) となります。\(t=1\) なら \(\boldsymbol{a}\)、\(t=2\) なら \(2\boldsymbol{a}\)、\(t=-1\) なら \(-\boldsymbol{a}\) です。
つまり、\(t\) を自由に変えることで、\(\boldsymbol{a}\) と同じ方向にも反対方向にも自由に進むことができます。その結果、
$$
\boldsymbol{x}=t\boldsymbol{a}
$$
と表される点 \(\boldsymbol{x}\) は、原点を通る1本の直線上を動きます。
ここで \(t\) は、直線上の位置を動かすための数字です。このように、別の変数を使って点の位置を表すとき、その変数を媒介変数(パラメータ)といいます。
2.原点を通らない直線はどうすればいい?
では、原点を通らない直線はどうすればよいのでしょうか。たとえば、直線上にある1点の位置ベクトルを
$$
\boldsymbol{p}
=
\begin{pmatrix}
p_1\\
p_2
\end{pmatrix}
$$
とします。そして、直線が伸びる方向を表すベクトルを
$$
\boldsymbol{a}
=
\begin{pmatrix}
a_1\\
a_2
\end{pmatrix}
$$
とします。
まず \(\boldsymbol{p}\) の位置まで移動し、そこから \(\boldsymbol{a}\) の方向へ \(t\) 倍だけ進むと考えれば、
$$
\boldsymbol{x}=\boldsymbol{p}+t\boldsymbol{a}
$$
となります。この式が何を表しているのか、図で見てみましょう。

原点 \(O\) から点 \(P\) までのベクトルが \(\boldsymbol{p}\) です。そこから方向ベクトル \(\boldsymbol{a}\) と同じ方向へ \(t\boldsymbol{a}\) だけ進むと、直線上の点 \(X\) に到達します。
つまり、
$$
\boldsymbol{x}=\boldsymbol{p}+t\boldsymbol{a}
$$
は、「出発点 \(P\) まで移動して、そこから直線の方向へ進む」ことを表しています。
\(t\) を変えれば、\(P\) を出発点として、\(\boldsymbol{a}\) の方向にも反対方向にも進むことができます。したがって、この式によって直線上のすべての点を表すことができます。
3.これが直線のベクトル方程式
改めて式を見てみましょう。
$$
\boldsymbol{x}=\boldsymbol{p}+t\boldsymbol{a}
$$
ここで、
- \(\boldsymbol{x}\):直線上を動く点の位置ベクトル
- \(\boldsymbol{p}\):直線上にある1点の位置ベクトル
- \(\boldsymbol{a}\):直線が伸びる方向を表す方向ベクトル
- \(t\):実数の媒介変数
です。この式を、直線のベクトル方程式といいます。
直線のベクトル方程式は、「出発点+方向ベクトル×どれだけ進むか」と考えると理解しやすくなります。
つまり、
$$
\boldsymbol{x}
=
\underbrace{\boldsymbol{p}}_{\text{出発点}}
+
\underbrace{t}_{\text{どれだけ進むか}}
\underbrace{\boldsymbol{a}}_{\text{方向}}
$$
ということです。
4.具体的な直線をベクトル方程式で表してみる
具体例で考えてみましょう。点 \(P(1,\ 2)\) を通り、方向ベクトルが
$$
\boldsymbol{a}
=
\begin{pmatrix}
2\\
1
\end{pmatrix}
$$
である直線を考えます。点 \(P\) の位置ベクトルは、
$$
\boldsymbol{p}
=
\begin{pmatrix}
1\\
2
\end{pmatrix}
$$
です。したがって、直線のベクトル方程式は、
$$
\boldsymbol{x}
=
\begin{pmatrix}
1\\
2
\end{pmatrix}
+
t
\begin{pmatrix}
2\\
1
\end{pmatrix}
$$
となります。
たとえば \(t=0\) なら \(\boldsymbol{x}=(1,\ 2)^T\) なので、点 \(P\) そのものです。\(t=1\) なら \(\boldsymbol{x}=(3,\ 3)^T\)、\(t=2\) なら \(\boldsymbol{x}=(5,\ 4)^T\) となります。
一方、\(t=-1\) なら \(\boldsymbol{x}=(-1,\ 1)^T\) です。
これらの点を図にすると、\(t\) の役割がよく分かります。

\(t=0\) が出発点 \(P\) で、\(t\) を大きくすると方向ベクトル \(\boldsymbol{a}\) の向きへ進みます。反対に \(t\) を負にすると、\(\boldsymbol{a}\) とは反対の向きへ進みます。
このように、媒介変数 \(t\) は、直線上のどの位置にいるのかを指定する数字だと考えることができます。\(t\) はすべての実数をとることができるので、\(t\) を変化させることで1本の直線全体を表すことができます。
5.成分ごとに書くと「媒介変数表示」になる
では、
$$
\boldsymbol{x}=\boldsymbol{p}+t\boldsymbol{a}
$$
を成分ごとに見てみましょう。直線上の点を
$$
\boldsymbol{x}
=
\begin{pmatrix}
x\\
y
\end{pmatrix}
$$
とし、
$$
\boldsymbol{p}
=
\begin{pmatrix}
p_1\\
p_2
\end{pmatrix},
\quad
\boldsymbol{a}
=
\begin{pmatrix}
a_1\\
a_2
\end{pmatrix}
$$
とすると、
$$
\begin{pmatrix}
x\\
y
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
p_1\\
p_2
\end{pmatrix}
+
t
\begin{pmatrix}
a_1\\
a_2
\end{pmatrix}
$$
です。成分ごとに比べれば、
$$
\begin{cases}
x=p_1+a_1t\\
y=p_2+a_2t
\end{cases}
$$
となります。これが直線の媒介変数表示です。
ベクトル方程式と媒介変数表示は別の直線を表しているわけではありません。同じ直線を、ベクトルでまとめて書くか、成分ごとに書くかの違いです。
6.具体例を媒介変数表示にしてみる
先ほどの、
$$
\boldsymbol{x}
=
\begin{pmatrix}
1\\
2
\end{pmatrix}
+
t
\begin{pmatrix}
2\\
1
\end{pmatrix}
$$
を成分ごとに書いてみましょう。すると、
$$
\begin{cases}
x=1+2t\\
y=2+t
\end{cases}
$$
となります。これが、この直線の媒介変数表示です。
たとえば \(t=0\) なら \((x,\ y)=(1,\ 2)\)、\(t=1\) なら \((x,\ y)=(3,\ 3)\) となります。ベクトル方程式で見たときと同じ点が出てきます。
つまり、ベクトル方程式
$$
\boldsymbol{x}
=
\begin{pmatrix}
1\\
2
\end{pmatrix}
+
t
\begin{pmatrix}
2\\
1
\end{pmatrix}
$$
と、媒介変数表示
$$
\begin{cases}
x=1+2t\\
y=2+t
\end{cases}
$$
は、まったく同じ直線を表しています。
7.いつもの直線の方程式にも変換できる
高校数学では、直線を \(y=mx+b\) のような形で表すことが多いと思います。媒介変数表示から、この形に変換することもできます。
先ほどの、
$$
\begin{cases}
x=1+2t\\
y=2+t
\end{cases}
$$
を使ってみましょう。1つ目の式から \(t=\frac{x-1}{2}\) です。これを \(y=2+t\) に代入すると、
$$
y
=
2+\frac{x-1}{2}
=
\frac12x+\frac32
$$
となります。
つまり、
$$
\boldsymbol{x}
=
\begin{pmatrix}
1\\
2
\end{pmatrix}
+
t
\begin{pmatrix}
2\\
1
\end{pmatrix}
$$
というベクトル方程式は、
$$
y=\frac12x+\frac32
$$
という直線と同じものを表しています。
ここで、方向ベクトル \((2,\ 1)^T\) を見ると、\(x\) 方向へ2進む間に \(y\) 方向へ1進んでいます。したがって、傾きは \(\frac12\) です。
ベクトル方程式では、直線の傾きにあたる情報が「方向ベクトル」として表されているわけです。
8.なぜベクトルで直線を表すのか?
ここまでなら、「普通に \(y=mx+b\) と書けばよいのでは?」と思うかもしれません。しかし、ベクトル方程式には大きな利点があります。
たとえば、\(y=mx+b\) という形では、\(y\) 軸に平行な直線をそのまま表すことができません。一方、ベクトル方程式なら、
$$
\boldsymbol{x}
=
\begin{pmatrix}
2\\
1
\end{pmatrix}
+
t
\begin{pmatrix}
0\\
1
\end{pmatrix}
$$
と書くだけで、\(x=2\) という縦の直線も自然に表すことができます。
さらに、同じ考え方は3次元でも使えます。たとえば、
$$
\boldsymbol{x}
=
\begin{pmatrix}
1\\
2\\
3
\end{pmatrix}
+
t
\begin{pmatrix}
2\\
-1\\
1
\end{pmatrix}
$$
とすれば、3次元空間の直線を表すことができます。2次元と3次元を並べて比べてみましょう。

2次元では平面上に直線があり、3次元では空間の中に直線があります。見た目は違いますが、どちらも「1つの点から、1つの方向へ動く」という仕組みは同じです。
そのため、どちらも
$$
\boldsymbol{x}=\boldsymbol{p}+t\boldsymbol{a}
$$
という同じ形で表すことができます。
ベクトル方程式の強みは、「出発点+方向」という同じ考え方で、2次元でも3次元でも直線を表せることです。
9.方向ベクトルは1つに決まらない
ここで、方向ベクトルについてもう1つ重要なことがあります。たとえば、
$$
\boldsymbol{a}
=
\begin{pmatrix}
2\\
1
\end{pmatrix},
\quad
2\boldsymbol{a}
=
\begin{pmatrix}
4\\
2
\end{pmatrix}
$$
は、同じ方向を向いています。そのため、
$$
\boldsymbol{x}
=
\boldsymbol{p}
+t
\begin{pmatrix}
2\\
1
\end{pmatrix}
$$
と、
$$
\boldsymbol{x}
=
\boldsymbol{p}
+s
\begin{pmatrix}
4\\
2
\end{pmatrix}
$$
は、媒介変数の値は異なりますが、同じ直線を表します。
つまり、方向ベクトルそのものは1つに決まるわけではありません。ゼロベクトルではない定数倍なら、同じ直線の方向ベクトルとして使うことができます。
10.2点が分かっている場合はどうする?
実際の問題では、「点 \(P\) を通り、方向ベクトルが……」ではなく、直線上の2点が与えられることもあります。点 \(P(p_1,\ p_2)\)、\(Q(q_1,\ q_2)\) が与えられたとしましょう。
このとき、\(P\) から \(Q\) へ向かうベクトルは、
$$
\overrightarrow{PQ}
=
\begin{pmatrix}
q_1-p_1\\
q_2-p_2
\end{pmatrix}
$$
です。これは直線の方向を向いているので、そのまま方向ベクトルとして使うことができます。
したがって、2点 \(P,\ Q\) を通る直線は、
$$
\boldsymbol{x}=\boldsymbol{p}+t(\boldsymbol{q}-\boldsymbol{p})
$$
と表せます。
つまり、2点が分かっていれば、1点を出発点にして、もう1点との差を方向ベクトルにすると考えればよいわけです。
ここまで、1つの点から1本の方向ベクトルに沿って動くことで、直線を表してきました。
では、1本ではなく2本の方向ベクトルに沿って自由に動けるようにすると、何ができるのでしょうか。
実は、2本の独立した方向へ動くことで、今度は直線ではなく平面を作ることができます。次の記事では、この考え方を使って、平面をベクトルで表す方法を見ていきます。

まとめ
直線をベクトルで表すときに必要なのは、直線上の1点と方向ベクトルです。直線上の1点の位置ベクトルを \(\boldsymbol{p}\)、方向ベクトルを \(\boldsymbol{a}\) とすると、
$$
\boldsymbol{x}=\boldsymbol{p}+t\boldsymbol{a}
$$
と表すことができます。これは、「出発点 \(\boldsymbol{p}\) から、方向 \(\boldsymbol{a}\) へ \(t\) 倍だけ進む」と考えることができます。
また、成分ごとに書けば、
$$
\begin{cases}
x=p_1+a_1t\\
y=p_2+a_2t
\end{cases}
$$
という媒介変数表示になります。ベクトル方程式と媒介変数表示は別物ではなく、同じ直線を違う形で表したものです。
さらに、媒介変数を消去すれば、普段使っている直線の方程式にも変換できます。そしてベクトル方程式なら、縦の直線や3次元空間の直線も、「出発点+方向ベクトル×どれだけ進むか」という同じ考え方で表すことができます。
直線のベクトル方程式は、公式として覚えるよりも、「ある点から、ある方向へ自由に動く式」として理解すると分かりやすくなります。
そう感じた人には、ベクトル方程式と媒介変数を基礎から解説してくれる本もおすすめです。



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