はじめに
微分を学び始めると、次のような公式が登場します。
$$
\frac{d}{dx}x^2=2x
$$
これは、\(x^2\) を微分すると \(2x\) になるという公式です。しかし、「なぜ \(x^2\) を微分すると \(2x\) になるのだろう?」「そもそも、微分するとは何をしているのだろう?」と疑問に思うかもしれません。
実は、微分の出発点はとてもシンプルです。それは、「ある量が変化したとき、別の量がどれくらい変化するのか」を調べることです。
たとえば、車が移動した距離と時間の関係を考えてみましょう。1時間で60km進んだなら、平均の速さは時速60kmです。しかし、出発してからちょうど30分後の速さは、どうすれば求められるのでしょうか。
このような「ある瞬間の変化の割合」を考えるために登場するのが微分です。
微分とは、ある量がほんの少し変化したとき、別の量がどれくらい変化するのかを調べるための考え方です。
この記事では、平均変化率から出発し、極限を使って微分係数を求め、さらに導関数へとつなげていきます。
この記事でわかること
この記事では、次の内容の理解を目指します。
- 平均変化率とは何か、なぜ変化量を割り算するのか
- 2点を限りなく近づけると、なぜ瞬間の変化率が求められるのか
- 微分係数とは何か、どのように計算するのか
- 微分係数と導関数には、どのような違いがあるのか
- 微分がAIの活性化関数とどのようにつながるのか
1.微分の出発点は「変化の割合」
まず、微分を理解するために、変化の割合について考えてみましょう。
ある車が2時間で120km進んだとします。このとき、平均の速さは、
$$
\frac{120}{2}=60
$$
なので、時速60kmです。
ここで行っているのは、移動距離を時間で割るという計算です。一般に、平均の速さは次のように表されます。
$$
\text{平均の速さ}
=
\frac{\text{距離の変化量}}{\text{時間の変化量}}
$$
このように、ある量が変化したとき、もう一方の量がどれくらい変化したのかを、基準となる量の変化で割って表すのが変化の割合です。
では、この考え方を関数に当てはめると、どうなるのでしょうか。
2.平均変化率とは何か?
関数 \(y=f(x)\) を考えます。\(x\) が \(a\) から \(b\) へ変化したとき、\(y\) は \(f(a)\) から \(f(b)\) へ変化します。
このとき、\(x\) の変化量は \(b-a\)、\(y\) の変化量は \(f(b)-f(a)\) です。したがって、平均変化率は、
$$
\frac{f(b)-f(a)}{b-a}
$$
となります。ただし、\(a\neq b\) とします。
平均変化率とは、ある区間における \(y\) の変化量を \(x\) の変化量で割った値です。 \(x\) が \(1\) 増えるあたり、\(y\) が平均してどれくらい変化するのかを表しています。
2.1.具体例で考えてみる
たとえば、関数 \(f(x)=x^2\) を考えます。
\(x\) が \(1\) から \(3\) へ変化したとき、関数の値は、
$$
f(1)=1,\quad f(3)=9
$$
となります。
したがって、平均変化率は、
$$
\begin{aligned}
\frac{f(3)-f(1)}{3-1}
&=\frac{9-1}{3-1}\\
&=\frac{8}{2}\\
&=4
\end{aligned}
$$
です。
つまり、\(x\) が \(1\) から \(3\) へ変化する間、\(y\) は \(x\) が \(1\) 増えるあたり平均して \(4\) 増えたことになります。
2.2.平均変化率をグラフで考える
平均変化率は、グラフを使うとさらに理解しやすくなります。
関数 \(y=x^2\) のグラフ上に、
$$
P=(1,\ 1),\quad Q=(3,\ 9)
$$
という2点を取ります。この2点を結ぶ直線を考えると、その傾きは、
$$
\frac{9-1}{3-1}=4
$$
です。

この図から、平均変化率には「グラフ上の2点を結ぶ直線の傾き」という意味があることがわかります。
このような、曲線上の異なる2点を通る直線を割線(かっせん)といいます。つまり、平均変化率を求めることは、グラフ上の2点を結ぶ割線の傾きを求めることでもあるのです。
3.ある瞬間の変化率はどう求めるのか?
ここまで、2点の間の平均変化率を考えてきました。しかし、平均変化率だけではわからないことがあります。
たとえば、車が2時間で120km進んだとしても、その間ずっと時速60kmで走っていたとは限りません。途中で加速したり、減速したりしていたかもしれません。
では、ある瞬間の速さはどうすれば求められるのでしょうか。
関数の場合も同じです。ある区間での平均変化率ではなく、特定の1点での変化率を知りたいことがあります。そこで、2点の間隔を少しずつ小さくしてみます。
3.1.2点の間隔を小さくしてみる
再び、\(f(x)=x^2\) を考えます。
今度は \(x=1\) における変化率を調べたいとします。そこで、\(x=1\) と、そこから \(h\) だけ離れた \(x=1+h\) の2点を考えます。
まずは \(h \gt 0\) として、\(x=1\) の右側にある点を考えましょう。この2点の間の平均変化率は、
$$
\frac{f(1+h)-f(1)}{h}
$$
です。
ここで、\(f(1+h)=(1+h)^2\) なので、
$$
\begin{aligned}
\frac{f(1+h)-f(1)}{h}
&=\frac{(1+h)^2-1}{h}\\
&=\frac{1+2h+h^2-1}{h}\\
&=\frac{2h+h^2}{h}\\
&=2+h
\end{aligned}
$$
となります。ただし、\(h\neq0\) です。
では、\(h\) を小さくするとどうなるでしょうか。
| \(h\) | 平均変化率 \(2+h\) |
|---|---|
| 1 | 3 |
| 0.5 | 2.5 |
| 0.1 | 2.1 |
| 0.01 | 2.01 |
| 0.001 | 2.001 |
この表を見ると、\(h\) が小さくなるにつれて、平均変化率が \(2\) に近づいていることがわかります。つまり、2点の間隔を限りなく小さくしていくと、\(x=1\) における変化率が見えてくるのです。
3.2.割線は接線に近づいていく
この変化をグラフでも考えてみましょう。
\(x=1\) にある点 \(P\) を固定し、もう一方の点 \(Q\) を少しずつ \(P\) に近づけていきます。すると、2点を結ぶ割線の傾きも変化します。

点 \(Q\) が点 \(P\) に近づくにつれて、割線は点 \(P\) における接線に近づいていきます。そして、割線の傾きが近づく値が、接線の傾きになります。今回の例では、その値が \(2\) でした。
ここで大切なのは、2点を完全に同じ位置にするのではなく、2点の間隔を限りなく \(0\) に近づけたときの値を考えるということです。この考え方を数学的に表すために、極限を使います。
4.極限を使うと「瞬間の変化率」を定義できる
先ほど、\(h\) を小さくすると、平均変化率 \(2+h\) が \(2\) に近づくことを確認しました。
このように、ある値を限りなく近づけたとき、式全体がどの値に近づくのかを考えるのが極限です。数学では、\(h\) を限りなく \(0\) に近づけることを \(h\to0\) と表し、\(2+h\) が \(2\) に近づくことを、
$$
\lim_{h\to0}(2+h)=2
$$
と書きます。
ここで、\(h\to0\) は、\(h=0\) を代入するという意味ではありません。\(h\) を \(0\) ではない値に保ちながら、正の側からも負の側からも限りなく \(0\) に近づけたとき、式の値がどこへ近づくのかを考えています。
実際に、\(h\) が負の場合も含めて平均変化率を調べてみましょう。
| \(h\) | 平均変化率 \(2+h\) |
|---|---|
| −0.1 | 1.9 |
| −0.01 | 1.99 |
| −0.001 | 1.999 |
| 0.001 | 2.001 |
| 0.01 | 2.01 |
| 0.1 | 2.1 |
負の側から近づけると平均変化率は \(2\) より小さく、正の側から近づけると \(2\) より大きくなります。しかし、どちらの場合も \(h\) を \(0\) に近づけると、平均変化率は \(2\) に近づいていきます。
先ほどの平均変化率に戻ると、
$$
\begin{aligned}
\lim_{h\to0}
\frac{f(1+h)-f(1)}{h}
&=\lim_{h\to0}(2+h)\\
&=2
\end{aligned}
$$
となります。
このように、平均変化率の極限を使うことで、ある1点における変化率を求めることができます。ただし、どの関数でも必ず極限が存在するわけではありません。左右から近づけたときの値が一致しない場合などには、微分できないことがあります。
5.微分係数とは何か?
ここまでの考え方を、一般の関数 \(f(x)\) に広げてみましょう。
\(x=a\) における変化率を知りたいとします。そこで、\(x=a\) と \(x=a+h\) の2点を考えます。この2点の平均変化率は、
$$
\frac{f(a+h)-f(a)}{h}
$$
です。
そして、\(h\) を限りなく \(0\) に近づけたときの極限を考えます。この極限が有限の値として存在するとき、その値を \(x=a\) における微分係数といいます。
$$
f'(a)=
\lim_{h\to0}
\frac{f(a+h)-f(a)}{h}
$$
これが、微分係数の定義です。
微分係数とは、平均変化率の極限として求められる、ある1点における瞬間の変化率です。
また、関数がその点で微分可能なら、微分係数はグラフの接線の傾きにも対応します。
5.1.微分係数を実際に求めてみる
たとえば、関数 \(f(x)=x^2\) の \(x=2\) における微分係数を求めてみましょう。
定義に代入すると、
$$
f'(2)=
\lim_{h\to0}
\frac{f(2+h)-f(2)}{h}
$$
です。
ここで、
$$
f(2+h)=(2+h)^2,\quad f(2)=4
$$
なので、
$$
\begin{aligned}
f'(2)
&=\lim_{h\to0}
\frac{(2+h)^2-4}{h}\\
&=\lim_{h\to0}
\frac{4+4h+h^2-4}{h}\\
&=\lim_{h\to0}
\frac{4h+h^2}{h}\\
&=\lim_{h\to0}(4+h)\\
&=4
\end{aligned}
$$
となります。
つまり、\(x=2\) における瞬間の変化率は \(4\) です。このとき、グラフの点 \((2,\ 4)\) における接線の傾きも \(4\) になります。
6.導関数とは何か?
ここまで、特定の1点における微分係数を求めてきました。しかし、関数の変化の様子を調べるときには、ある1点だけでなく、さまざまな点での変化率を知りたいことがあります。
たとえば、\(f(x)=x^2\) について、\(x=1\) では微分係数が \(2\)、\(x=2\) では \(4\) でした。では、任意の \(x\) における微分係数はどうなるのでしょうか。
6.1.任意の点で微分係数を求める
関数 \(f(x)=x^2\) を考えます。
今度は、\(x\) を特定の値に固定せず、一般の \(x\) における微分係数を求めます。定義から、
$$
f'(x)=
\lim_{h\to0}
\frac{f(x+h)-f(x)}{h}
$$
です。
ここに \(f(x)=x^2\) を代入すると、
$$
\begin{aligned}
f'(x)
&=\lim_{h\to0}
\frac{(x+h)^2-x^2}{h}\\
&=\lim_{h\to0}
\frac{x^2+2xh+h^2-x^2}{h}\\
&=\lim_{h\to0}
\frac{2xh+h^2}{h}\\
&=\lim_{h\to0}(2x+h)\\
&=2x
\end{aligned}
$$
となります。
したがって、\(f(x)=x^2\) の導関数は、
$$
f'(x)=2x
$$
です。
6.2.微分係数と導関数の違い
微分係数と導関数は似ていますが、意味が少し異なります。
微分係数は、ある特定の点における変化率を表す数値です。一方、導関数は、各点における微分係数を対応させた関数です。
両者の違いを整理すると、次のようになります。
| 比較項目 | 微分係数 | 導関数 |
|---|---|---|
| 表すもの | 特定の1点での変化率 | 各点での変化率 |
| 数学的な形 | 数値 | 関数 |
| \(f(x)=x^2\) の例 | \(f'(2)=4\) | \(f'(x)=2x\) |
たとえば、\(f(x)=x^2\) の導関数は \(f'(x)=2x\) なので、\(x\) の値を変えると、微分係数も次のように変化します。
| \(x\) | 微分係数 \(f'(x)\) |
|---|---|
| −2 | −4 |
| −1 | −2 |
| 0 | 0 |
| 1 | 2 |
| 2 | 4 |
このように、\(x\) の値によって微分係数は変わります。そして、これらをまとめて表しているのが、
$$
f'(x)=2x
$$
という導関数なのです。

元の関数 \(f(x)=x^2\) は放物線ですが、その導関数 \(f'(x)=2x\) は直線になります。つまり、導関数は元の関数とは別の関数であり、元の関数が各点でどのように変化しているのかを表しています。
微分係数は「ある1点での変化率」、導関数は「各点での変化率をまとめた関数」です。
7.微分するとは、何をしているのか?
ここまでの流れを整理してみましょう。
まず、関数 \(f(x)\) の2点を考えると、平均変化率は、
$$
\frac{f(a+h)-f(a)}{h}
$$
で表されます。
\(h\) を限りなく \(0\) に近づけると、極限が存在する場合には、ある1点での微分係数が求められます。さらに、特定の点 \(a\) ではなく、一般の \(x\) について同じことを考えると、導関数が得られます。
平均変化率 → 極限 → 微分係数 → 導関数
つまり、微分するというのは、単に公式を使って式を変形することではありません。関数の各点における瞬間の変化率を調べ、それを新しい関数として表すことなのです。
8.微分はAIでどのように使われるのか?
微分は、AIの仕組みを理解するうえでも重要な役割を持っています。
たとえば、ニューラルネットワークでは、入力された値を変換するために活性化関数を使います。その代表例のひとつが、ReLU関数です。
$$
f(x)=\max(0,\ x)
$$
これは、
$$
f(x)=
\begin{cases}
0 & (x\leq0)\\
x & (x>0)
\end{cases}
$$
と表すことができます。
この関数では、\(x<0\) の範囲では出力が常に \(0\) なので、変化率も \(0\) です。一方、\(x>0\) の範囲では \(f(x)=x\) なので、変化率は \(1\) です。
したがって、導関数は \(x\neq0\) において、
$$
f'(x)=
\begin{cases}
0 & (x<0)\\
1 & (x>0)
\end{cases}
$$
となります。
なお、\(x=0\) では左右から近づけたときの変化率が異なるため、通常の意味では微分できません。
ただし、ニューラルネットワークの実装では、計算を進めるために \(x=0\) における勾配を便宜上 \(0\) などに定めることがあります。これは、数学的な意味で微分係数が存在するということではありません。
ニューラルネットワークの学習では、このような活性化関数の微分が重要になります。ただし、実際の学習では活性化関数だけでなく、損失関数や重みなど、さまざまな量の変化率を考える必要があります。
それらをどのようにつなげて計算するのかは、今後学ぶ偏微分・勾配・連鎖律、そしてAI編の誤差逆伝播法へとつながっていきます。
まとめ
今回は、平均変化率から出発して、微分係数と導関数の意味を考えてきました。
- 平均変化率は、ある区間での変化の割合を表し、グラフ上では2点を結ぶ割線の傾きになる。
- 極限を使うと、2点の間隔を限りなく小さくしたときの変化率を考えることができる。
- 微分係数は、平均変化率の極限が存在するときに得られる、ある1点における瞬間の変化率である。
- 導関数は、各点における微分係数をまとめて表した関数である。
- 微分は、関数が各点でどのように変化するのかを調べるための基本的な考え方である。
微分係数の定義は、
$$
f'(a)=
\lim_{h\to0}
\frac{f(a+h)-f(a)}{h}
$$
でした。そして、\(f(x)=x^2\) の場合、導関数は、
$$
f'(x)=2x
$$
となります。
微分の本質は、平均変化率の極限を考えることで、関数の各点における瞬間の変化率を求めることです。その変化率を関数として表したものが導関数です。
次回は、導関数がグラフの形とどのようにつながっているのかを詳しく考えます。接線の傾きや導関数の符号を見ることで、関数が増加しているのか、減少しているのかがわかるようになります。
関連記事


シリーズ全体を理解する
(準備中)
関連書籍
微分の考え方をさらに深く理解したい方には、次の書籍もおすすめです。



コメント