はじめに
行列を掃き出し法で変形していると、すべての成分が \(0\) になる行が現れることがあります。
たとえば、
$$
A=
\begin{pmatrix}
1&2&3\\
2&4&6\\
1&1&2
\end{pmatrix}
$$
を行基本変形すると、
$$
\begin{pmatrix}
1&2&3\\
0&-1&-1\\
0&0&0
\end{pmatrix}
$$
のような階段形になります。
3行あったはずなのに、最後の行はすべて \(0\) になりました。これは単に計算の途中で \(0\) が現れただけなのでしょうか。
実は、このゼロ行には、「この行列には、独立した情報が2つしかなかった」という重要な意味があります。この「独立した情報がいくつあるのか」を表す数が、行列のランクです。
行列のランクとは、その行列がもつ「独立な情報の数」を表す数だと考えることができます。
この記事では、掃き出し法を使ってランクを求めながら、「なぜゼロ行が現れるのか」「ランクは線形独立や連立方程式とどうつながっているのか」を順番に見ていきます。
1.掃き出し法をすると「重複した情報」が消えていく
まずは、次の行列を考えてみましょう。
$$
A=
\begin{pmatrix}
1&2&3\\
2&4&6\\
1&1&2
\end{pmatrix}
$$
この行列の第2行を見ると、
$$
(2,\ 4,\ 6)=2(1,\ 2,\ 3)
$$
となっています。つまり、第2行は第1行を2倍しただけです。第2行には、第1行にはなかった新しい情報が含まれていません。
実際に、
$$
R_2\rightarrow R_2-2R_1
$$
とすると、
$$
\begin{pmatrix}
1&2&3\\
0&0&0\\
1&1&2
\end{pmatrix}
$$
となります。さらに行を入れ替えて整理すれば、
$$
\begin{pmatrix}
1&2&3\\
0&-1&-1\\
0&0&0
\end{pmatrix}
$$
という階段形になります。
ここで重要なのは、ゼロ行が「情報が消えてしまった」ことを意味しているのではないということです。もともと第2行は第1行の2倍だったため、最初から独立した情報を持っていませんでした。掃き出し法によって、その重複が見える形になっただけです。

このように、掃き出し法で階段形にすると、重複していた情報はゼロ行となり、本当に独立した情報だけが残ります。この例では \(0\) ではない行が2本残っているので、この行列には2つの独立な情報があることが分かります。
掃き出し法は、行列に含まれている重複した情報を取り除き、「本当に独立した情報」がいくつあるのかを見えやすくする操作だと考えることができます。

2.行列のランクとは何か?
では、行列のランク(rank)を定義してみましょう。
行列を行基本変形して階段形にしたとき、\(0\) ではない行の本数を、その行列のランクといいます。先ほどの行列は、
$$
\begin{pmatrix}
1&2&3\\
0&-1&-1\\
0&0&0
\end{pmatrix}
$$
となりました。\(0\) ではない行は2本なので、
$$
\mathrm{rank}(A)=2
$$
です。
行列を階段形にしたときの「\(0\) ではない行の本数」がランクです。
ただし、ランクを単なる「\(0\) ではない行の数」として覚えるだけでは、その意味が見えません。大切なのは、ランクは、その行列の中に独立した情報がいくつ含まれているのかを表しているということです。
3.ランクは「ピボットの数」としても分かる
階段形では、それぞれの \(0\) でない行に「最初に現れる \(0\) でない成分」があります。
たとえば、
$$
\begin{pmatrix}
1&2&3\\
0&-1&-1\\
0&0&0
\end{pmatrix}
$$
なら、第1行では第1列、第2行では第2列に最初の \(0\) でない成分があります。このような、各行の先頭となる成分をピボットと呼びます。
したがって、この行列にはピボットが2つあります。つまり、
\(\mathrm{rank}(A)=\) ピボットの数 \(=2\)
です。
ランクは、「階段形の \(0\) でない行の本数」としても、「ピボットの数」としても求めることができます。
掃き出し法で行列を階段形にするのは、単に計算しやすい形へ変えるためだけではありません。どこにピボットが残るのかを見ることで、その行列が持っている独立な情報の数が見えてきます。
4.ランクは行基本変形をしても変わらない
ここで、「行列をどんどん変形してしまって、本当に元の行列のランクが分かるのだろうか?」という疑問が出てくるかもしれません。
結論からいうと、行基本変形をしてもランクは変わりません。
行基本変形には、
- 2つの行を入れ替える
- 1つの行を \(0\) でない定数倍する
- ある行に別の行の定数倍を加える
という3つの操作があります。これらの操作は、行どうしが持つ独立・従属の関係を変えません。
たとえば、
$$
R_2\rightarrow R_2-2R_1
$$
によって第2行がゼロ行になったとしても、新しい情報を失ったわけではありません。第2行がもともと第1行から作れる情報だったことが明らかになっただけです。
そのため、
\(A \longrightarrow\) 階段形
と変形してからランクを調べることができます。
5.ランクと「線形独立」はどうつながる?
ここまで「独立な情報」という言葉を使ってきました。これは、以前扱った線形独立と深く関係しています。
たとえば、行列
$$
A=
\begin{pmatrix}
1&2\\
2&4
\end{pmatrix}
$$
を考えます。第2行は、
$$
(2,\ 4)=2(1,\ 2)
$$
なので、第1行と第2行は線形従属です。したがって、この行列には独立な行が1本しかありません。
実際に掃き出すと、
$$
\begin{pmatrix}
1&2\\
2&4
\end{pmatrix}
\longrightarrow
\begin{pmatrix}
1&2\\
0&0
\end{pmatrix}
$$
となるので、
$$
\mathrm{rank}(A)=1
$$
です。
一方、
$$
B=
\begin{pmatrix}
1&2\\
2&3
\end{pmatrix}
$$
では、2つの行は互いに定数倍ではありません。掃き出すと、
$$
\begin{pmatrix}
1&2\\
2&3
\end{pmatrix}
\longrightarrow
\begin{pmatrix}
1&2\\
0&-1
\end{pmatrix}
$$
となり、ピボットは2つあります。したがって、
$$
\mathrm{rank}(B)=2
$$
です。
ランクは、「互いに線形独立な行が最大で何本あるのか」を表しています。
そして実は、行ではなく列について考えても、得られる最大本数は同じになります。つまり、
線形独立な行の最大本数 = 線形独立な列の最大本数 = ランク
です。

6.ランクは「作れる空間の次元」でもある
ランクには、もうひとつ重要な見方があります。
行列
$$
A=
\begin{pmatrix}
1&2\\
2&4
\end{pmatrix}
$$
を、列ベクトルに分けて見てみましょう。
$$
\boldsymbol{a}_1=
\begin{pmatrix}
1\\
2
\end{pmatrix},
\quad
\boldsymbol{a}_2=
\begin{pmatrix}
2\\
4
\end{pmatrix}
$$
この2本には、
$$
\boldsymbol{a}_2=2\boldsymbol{a}_1
$$
という関係があります。そのため、2本をどのように線形結合しても、作れるベクトルは同じ直線上にしかありません。
つまり、この行列の列ベクトルが作る空間は1次元です。そして、
$$
\mathrm{rank}(A)=1
$$
でした。
一方、2本の列ベクトルが線形独立なら、その2本の線形結合によって平面を作ることができます。その場合、作られる空間は2次元なので、ランクは2になります。

図の左では、2本のベクトルが同じ方向にあるため、線形結合しても直線しか作ることができません。一方、右では2本が線形独立なので、線形結合によって平面を作ることができます。
ランクは、行列の列ベクトルを線形結合して作られる空間の「次元」として見ることもできます。
ここで、これまで学んできた「線形結合 → 線形独立 → 基底 → 次元」という流れと、ランクがつながります。
ランクは単なる掃き出し法の計算結果ではなく、「この行列から何次元の空間を作ることができるのか」を表しているのです。
7.正方行列では「ランクが最大」なら逆行列が存在する
ランクは、逆行列ともつながっています。たとえば、\(2\times2\) 行列なら、ランクとして考えられる最大値は2です。
$$
\mathrm{rank}(A)=2
$$
なら、2つの独立な方向が残っています。このとき、変換によって平面が直線へつぶれていないため、逆行列が存在します。
一方、
$$
\mathrm{rank}(A) \lt 2
$$
なら、独立な方向が失われています。たとえばランク1なら、平面が直線へつぶれるような変換になります。その場合、失われた情報を完全にもとへ戻すことはできないため、逆行列は存在しません。
一般に、\(n\times n\) の正方行列では、
$$
\mathrm{rank}(A)=n
$$
であることと、逆行列が存在することは同値です。さらに、
$$
\det A\neq0
$$
とも同値になります。
つまり、正方行列では、
\(\mathrm{rank}(A)=n \quad\Longleftrightarrow\quad \det A\neq0 \quad\Longleftrightarrow\quad A^{-1}\) が存在する
というつながりがあります。
正方行列では、「ランクが最大」「行列式が \(0\) ではない」「逆行列が存在する」は、同じ状態を別の角度から見ています。

8.ランクを見ると連立方程式の構造も分かる
ランクは、連立一次方程式を考えるときにも重要です。たとえば、次の連立方程式を考えてみましょう。
$$
\begin{cases}
x+2y=3\\
2x+4y=6
\end{cases}
$$
係数行列と拡大係数行列は、
$$
A=
\begin{pmatrix}
1&2\\
2&4
\end{pmatrix},
\quad
(A\mid\boldsymbol{b})
=
\left(
\begin{array}{cc|c}
1&2&3\\
2&4&6
\end{array}
\right)
$$
です。
第2行から第1行の2倍を引くと、
$$
\left(
\begin{array}{cc|c}
1&2&3\\
0&0&0
\end{array}
\right)
$$
となります。
係数行列 \(A\) にはピボットが1つしかないので、
$$
\mathrm{rank}(A)=1
$$
です。一方、拡大係数行列にも新しいピボットは現れないため、
$$
\mathrm{rank}(A\mid\boldsymbol{b})=1
$$
となります。つまり、
$$
\mathrm{rank}(A)
=
\mathrm{rank}(A\mid\boldsymbol{b})
$$
なので、この連立方程式には解が存在します。
ただし、未知数は2つあるのにランクは1なので、1つの変数を自由に決めることができます。したがって、解は1つではなく無数にあります。
右辺だけを変えるとどうなる?
では、左辺はそのままで、右辺だけを変えてみましょう。
$$
\begin{cases}
x+2y=3\\
2x+4y=7
\end{cases}
$$
このとき、拡大係数行列は、
$$
\left(
\begin{array}{cc|c}
1&2&3\\
2&4&7
\end{array}
\right)
$$
です。同じように、
$$
R_2\rightarrow R_2-2R_1
$$
とすると、
$$
\left(
\begin{array}{cc|c}
1&2&3\\
0&0&1
\end{array}
\right)
$$
となります。
最後の行は、
$$
0x+0y=1
$$
つまり、
$$
0=1
$$
を意味します。これは成り立たないので、この連立方程式には解がありません。
ここでランクを見てみましょう。係数行列だけなら、
$$
\begin{pmatrix}
1&2\\
0&0
\end{pmatrix}
$$
なので、
$$
\mathrm{rank}(A)=1
$$
です。しかし、拡大係数行列では右端に新しいピボットが現れるため、
$$
\mathrm{rank}(A\mid\boldsymbol{b})=2
$$
となります。つまり、
$$
\mathrm{rank}(A)
\neq
\mathrm{rank}(A\mid\boldsymbol{b})
$$
です。

この2つの例では、係数行列 \(A\) はまったく同じです。違うのは右辺 \(\boldsymbol{b}\) だけです。
1つ目では、右辺を加えても独立な情報は増えませんでした。一方、2つ目では右辺を加えることで新しいピボットが現れ、「もとの係数行列では作れない条件」が加わっています。
一般に、
$$
\mathrm{rank}(A)
=
\mathrm{rank}(A\mid\boldsymbol{b})
$$
なら、連立方程式には解が存在します。一方、
$$
\mathrm{rank}(A)
\neq
\mathrm{rank}(A\mid\boldsymbol{b})
$$
なら、連立方程式に解は存在しません。
さらに未知数の個数を \(n\) とすると、解が存在する場合、
$$
\mathrm{rank}(A)=n
$$
なら、すべての未知数がピボット変数になるため、解は1つに決まります。一方、
$$
\mathrm{rank}(A) \lt n
$$
なら自由変数が現れるため、解は無数に存在します。
連立一次方程式では、係数行列と拡大係数行列のランクを比べることで「解が存在するか」が分かります。さらに、解が存在する場合は、ランクと未知数の個数を比べることで「解が1つか、無数にあるか」も分かります。

9.ランクは行列の大きさとは違う
ここで注意したいのは、行列の大きさとランクは別のものだということです。\(m\times n\) 行列には \(m\) 本の行と \(n\) 本の列がありますが、それらがすべて独立とは限りません。
ランク \(r\) は、
$$
r\leq \min(m,\ n)
$$
を満たします。たとえば、\(3\times5\) 行列なら、
$$
\mathrm{rank}(A)\leq3
$$
です。行が3本しかないので、独立な情報も最大で3つまでしか持てません。
ランクは行列に並んでいる行や列の本数ではなく、その中で本当に独立している情報の数です。
10.ランクから「像」と「核」へ
ここまで、ランクを「独立な情報の数」や「列ベクトルが作る空間の次元」として見てきました。この考え方は、この先に学ぶ線形写像の「像」と「核」へつながります。
行列 \(A\) による線形変換
$$
T(\boldsymbol{x})=A\boldsymbol{x}
$$
を考えてみましょう。
入力されたベクトルは、行列 \(A\) によって別のベクトルへ移されます。このとき、変換によって実際に到達できるベクトル全体を像といいます。
そして、ランクはこの像の次元に対応します。
$$
\mathrm{rank}(A)
=
\dim(\mathrm{Im}T)
$$
つまり、ランクは、「この線形変換によって、何次元分の方向を作ることができるのか」を表しているとも考えられます。
一方、
$$
A\boldsymbol{x}=\boldsymbol{0}
$$
となるベクトルを考えると、「変換によって \(0\) につぶれてしまう方向」が見えてきます。これが、この先に学ぶ核につながります。
ランクは、掃き出し法のためだけの数ではありません。「線形変換によってどれだけの次元が残るのか」を表し、線形写像の像と核へつながる重要な概念です。
(準備中)
11.ランクを求める流れを整理すると
最後に、ランクを求める流れを整理しておきましょう。
もとの行列
↓
行基本変形
↓
階段形
↓
ピボットを見つける
↓
ピボットの数 = ランク
手順だけを見るとシンプルですが、本当に大切なのは、なぜこの方法でランクが分かるのかということです。掃き出し法によって重複した情報が取り除かれ、ピボットとして残った部分が、その行列の独立した情報を表しています。
掃き出し法で階段形にする → ピボットを数える → その数がランク。ランクは、行列が本質的に持っている独立な情報の数を表します。
まとめ
行列のランクは、掃き出し法で階段形にしたときの \(0\) ではない行の本数、あるいはピボットの数として求めることができます。
しかし、ランクの本当の意味は、単に行を数えることではありません。ランクは、その行列が持っている「独立な情報の数」を表しています。
線形独立の立場から見れば「独立な行・列の最大本数」、空間の立場から見れば「列ベクトルが作る空間の次元」、線形変換の立場から見れば「変換によって作られる像の次元」として見ることができます。
ランクとは、「この行列には、本質的に何次元分の情報が残っているのか」を表す数だと考えると、線形独立・基底・連立方程式・線形写像とのつながりが見えやすくなります。
ランクまで理解すると、これまで学んできた線形結合、線形独立、基底、行列、掃き出し法が、かなり一本につながってきます。そして次は、行列による変換をさらに一般化した線形写像へ進みます。
(準備中)
そう感じた人には、行列や行列式、逆行列を基礎から解説してくれる本もおすすめです。



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