『卒業』感想|自分の信念を貫くことが、友人関係からの卒業につながる

小説

おすすめ度:3.5

東野圭吾さんの『卒業』を読んだ。

主人公は、大学卒業を控えた加賀恭一郎。後に刑事として活躍する加賀の大学生時代を描いた、加賀恭一郎シリーズの第一作だ。

友人たちの間で起きた事件の真相を、加賀が持ち前の観察力と推理力で追いかけていく。

茶道を利用したトリックなど、ミステリーとしての面白さもあった。しかし、私が最も心を動かされたのは、友人を疑ってでも真相を追求しようとする加賀の姿だった。

友人関係が壊れるかもしれない。それでも、自分の信念を曲げようとしない。

そんな加賀の姿から、単に大学を卒業するだけではない、もうひとつの「卒業」の意味を感じた。

※以下、物語の重要な展開に触れています。

1.大学生の加賀恭一郎だからこそ感じられる魅力

この作品の魅力のひとつは、加賀恭一郎シリーズが大学生時代から始まることだ。

後の作品では刑事として活躍する加賀も、本作ではまだ社会に出ていない大学生。仲の良い友人たちと時間を過ごし、卒業後の進路を考えながら学生生活を送っている。

そんな日常の中で、友人たちの間に事件が起こる。

加賀には警察のような捜査権限はない。それでも、鋭い観察力と推理力を発揮し、事件の真相に迫っていく。

私は、刑事として完成された加賀ではなく、これから社会に出ようとしている加賀が描かれているところに魅力を感じた。

まだ大学生でありながら、自分の頭で考え、周囲の意見に流されずに行動する。その姿には、後の加賀恭一郎につながるものがある。

シリーズを読み進めることで、この大学生がどのような刑事になっていくのかを知ることができる。

その出発点が描かれているという意味でも、読む価値のある作品だと思う。

2.茶道のトリックは面白いが、説明の多さが気になった

ミステリーとして印象に残ったのは、茶道の「雪月花之式」を利用したトリックだった。

「雪月花之式」は、くじによってお茶を飲む人や役割を決める茶道の形式だ。誰がどの役割になるのかを自由に決められないはずなのに、その仕組みを利用した事件が起こる。

偶然によって決まるはずの役割を、犯人はどのように利用したのか。

私は、この謎に興味を引かれた。茶道の作法をミステリーの仕掛けに取り入れた発想も面白いと思った。

ただ、仕組みを理解するための説明が多く、少し複雑に感じたのも事実だ。

また、もうひとつの密室トリックについては、それほど強い印象が残らなかった。登場人物の言葉遣いなどにも、少し時代の古さを感じた。

ミステリーとして楽しめる部分はあったものの、トリックだけで強く心に残る作品ではなかった。

3.友人を疑ってでも、自分の信念を貫く

この作品で最も心に残ったのは、加賀が友人たちとの関係を壊すことになっても、事件の真相を追求しようとする姿だった。

事件の真相を明らかにしようとすれば、仲の良かった友人たちの中に犯人がいることがわかるかもしれない。これまで築いてきた関係が壊れてしまう可能性もある。

だからこそ、周囲の人たちは、これ以上事件を追求しない方がよいと加賀に伝える。

私は、その気持ちも理解できる。

仲の良い友人を疑いたくはないし、できることなら、これまでと同じ関係を続けていきたい。誰かを疑うことで友情が壊れてしまうくらいなら、何も知らないままでいたいと思うこともあるだろう。

しかし、加賀はそうしなかった。

友人たちとの関係を守るために、事件の真相から目を背けることはしない。たとえ友人を疑うことになっても、自分が正しいと思う道を進もうとする。

私は、そんな加賀がカッコいいと思った。

そもそも、友人を疑うことは、友情を裏切ることなのだろうか。

もちろん、何の根拠もなく友人を疑ったり、相手を傷つけたりすることが正しいとは思わない。しかし、友人だからという理由だけで疑うことをやめ、都合の悪い事実から目を背けるのも違うと思う。

大切なのは、友人を疑わないことではなく、相手との関係に流されず、自分が正しいと思うことに向き合えるかどうかではないだろうか。

加賀は、友人たちと過ごしてきた時間を否定しているわけではない。これまでの関係を大切に思っているからこそ、それが壊れる可能性もわかっている。

それでも、自分の信念を曲げようとはしない。

私は、そこに加賀の強さを感じた。

人は、慣れ親しんだ人間関係の中にいると安心する。周囲と同じ考え方をして、同じように行動していれば、波風を立てずに過ごせるからだ。

しかし、周囲と同じ道を進むことが、必ずしも自分にとって正しいとは限らない。

自分の考えと周囲の意見が食い違ったとき、これまでの関係を壊したくないという理由で、自分の考えを曲げてしまうこともあると思う。

だからこそ、加賀の姿が印象に残った。

加賀は、友人たちと同じ場所にとどまることよりも、自分の信念に従って進むことを選んだ。その結果、友人たちとの関係は、以前と同じではいられなくなる。

私は、そこにこの作品の「卒業」という意味が込められているように感じた。

大学を卒業することは、学生という立場から離れることだ。しかし、それだけではなく、慣れ親しんだ環境や人間関係から一歩踏み出すことでもある。

これまで仲良くしてきた友人たちと、ずっと同じ関係を続けられるとは限らない。それぞれが自分の信じる道を進めば、考え方が違ってきたり、距離ができたりすることもある。

それは寂しいことかもしれない。しかし、関係が変わることを恐れて、自分の信念を曲げ続ける必要はないと思う。

本当の友情とは、ただ一緒にいて安心できる関係ではなく、お互いが自分の信じる道を進める関係なのかもしれない。

そして、そのためには、ときに今までの関係から卒業することも必要なのだろう。

加賀が友人を疑ってでも真相を追求する姿を見て、そんなふうに思った。

まとめ|自分の信じる道を進むための卒業

『卒業』は、加賀恭一郎シリーズの始まりとして楽しめるミステリーだった。

茶道を利用したトリックには面白さがあったが、説明の多さや時代の古さなど、気になる部分もあった。

それでも、友人を疑ってでも真相から目を背けない加賀の姿は心に残った。

これまでの関係を大切にしながらも、必要なときには自分の信念を貫く。加賀の姿を思い出すと、そんな強さを持ちたいと思う。

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toshi

京都市在住のエンジニア。読書好きが高じてブログを始め、現在は数学やAI・ソフトウェアを中心に、おすすめの小説についても記事を書いています。

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