「犯人は誰だ?」を追いかけていたはずなのに、気づけば次の謎が叩き込まれている。
市川憂人さんの小説『ジェリーフィッシュは凍らない』は、そんな“息継ぎを許さないタイプ”のミステリーです。
小型飛行船という閉鎖空間。
雪山。
連続殺人。
隠蔽された過去。
設定だけ見ると本格ミステリーですが、実際に読んで感じたのは、“トリックを解く快感”よりも、“次々に疑念が増殖していく面白さ”です。
だからこそ、一気読みしてしまう。
でも読み終わったあとには、理不尽さと後味の悪さが静かに残りました。
こんな人におすすめ
あらすじ(ネタバレなし)
航空機の歴史を変えた小型飛行船〈ジェリーフィッシュ〉。
その新型機の航行試験中、閉鎖された艇内でファイファー教授が毒を飲んで死にます。
さらに自動航行システムが暴走し、乗組員たちは雪山へ不時着。
外部と連絡も取れず、逃げ場のない極限状態の中で、次々と犠牲者が増えていきます。
一方、地上では刑事のマリアと九条蓮が捜査を開始。
墜落事故の裏には、“ある過去”が隠されていた――。
感想①:答えが出そうになると、次の謎が来る
この小説は、とにかくテンポが速いです。
ただ、事件数が多いから速いわけではありません。
“答えが見えそうになるたびに、別の謎が差し込まれる”構成になっている。
だから読者は、一つを整理する前に次を考えさせられるんです。
「教授は本当に事故死なのか?」
↓
「なぜ航路がズレた?」
↓
「なぜ軍が機体回収を急ぐ?」
↓
「レベッカとは誰なのか?」
みたいに、常に頭の中に未解決が積み上がっていく。
“考える暇を与えない面白さ”がある。
じっくり推理するというより、ページをめくる手が止まらないタイプの小説でした。
感想②:「悪人が優秀」ではなく、「組織が歪んでいた」
個人的に面白かったのが、教授たち研究開発部と製造部の空気感です。
製造側の人たちは、別に悪人ではない。
でも、「自分たちに関係ないなら勝手にやってくれ」という距離感がある。
この“別部署に興味がないリアルさ”が妙に生々しかったです。
しかも、教授たちもそこまで有能には見えない。
セキュリティの甘さも含めて、「本当に大丈夫な組織なのか?」と思わされる場面が多い。
外部の人間に簡単に侵入される。
ソフトを書き換えられる。
雪山に追い込まれる。
むしろ、「組織全体の歪み」が事件を成立させていたように感じました。
“完璧な犯罪”というより、“壊れた組織の上で偶然が噛み合った犯罪”。
そこに、この小説独特のリアリティがありました。
感想③:ダメそうなのに、本質を見抜くマリアがいい
マリアはかなり好きなキャラクターでした。
寝癖。
だらしない格好。
適当そうな態度。
なのに、人間の嘘や違和感を嗅ぎ分ける鋭さがある。
特に、「敵国の工作員なら雪山に降りる意味がない」と見抜く場面は、“本質を見る人”感が強くて印象的でした。
ただ一方で、キャラクターとしての深掘りはそこまで多くありません。
過去描写や感情の揺れが少なく、属性で動いているようにも感じました。
魅力はあるのに、もう一歩踏み込めそうで踏み込まない。
そこが少し惜しくもありました。
感想④:理不尽さは刺さる。でも、最後だけ引っかかった
この小説で一番感情が動いたのは、レベッカの扱いです。
努力した人が利用される。
成果を奪われる。
死んだ後ですら、自分の研究を他人に使われる。
しかも、事故死として処理される。
理不尽が積み重なっていく。
だからこそ、「教授たちは報いを受けるべきだ」という感情には納得できました。
ただ、最後まで引っかかったのが、“なぜ殺人という形を選んだのか”です。
実験ノートを公開する。
研究盗用を暴露する。
社会的に追い込む。
そういう方法でも目的は達成できたように思えたんですよね。
小説でもその点には触れられます。
でも、自分の中では最後まで完全には繋がりませんでした。
「気持ちはわかる。でも、行動には納得しきれない。」
この感覚が、読後にも静かに残りました。
レビュー
読みやすさ:3.5
次々に謎が提示されるので、テンポよく読み進めやすい。
没入感:3.5
「次は何が起きる?」の連続で、一気読みしやすい構成。
感情の深さ:3.0
レベッカ周りの理不尽さは刺さるが、人物描写はやや薄め。
余韻:3.0
爽快感というより、“割り切れなさ”が静かに残る読後感。
独自性:3.5
飛行船×クローズドサークルという舞台設定がかなり強い。
まとめ:「誰が犯人なのか?」を追い続ける物語
『ジェリーフィッシュは凍らない』は、“完璧な論理”で驚かせる物語というより、“止まれない勢い”で読ませる物語でした。
だからこそ、細かく考え込みすぎるより、
「次はどうなる?」
「誰が犯人なんだ?」
を追いかけながら読むと、かなり楽しい。
理不尽さ。
閉鎖空間。
隠蔽。
連続殺人。
その全部が絡み合いながら、一気に雪山まで連れて行かれるような小説でした。

次に読むなら
クローズドサークルで「誰が犯人なのか?」を追い続ける面白さが刺さった人には、綾辻行人さんの小説『十角館の殺人』もおすすめです。
“閉ざされた場所で、疑いが少しずつ広がっていく怖さ”という意味では、かなり近い読書体験が味わえます。



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