座標と基底変換の仕組みを理解する|ベクトルの表し方と行列の関係

数学

はじめに

ベクトルは、普段 \((2,1)^T\) のような数字の組で表します。しかし、この数字はベクトルそのものに最初から付いているわけではありません。どの基底を使うかによって、同じベクトルを表す数字は変わります。

では、基底を取り替えると座標はどのように変わり、その関係をなぜ行列で表せるのでしょうか。この記事では、座標・基底変換・基底変換行列を、同じ具体例を使ってつなげて考えます。

座標は、選んだ基底に対する線形結合の係数です。基底を変えると座標は変わりますが、ベクトルそのものは変わりません。基底同士の関係を行列にまとめることで、座標を相互に変換できます。

この記事でわかること

  • 基底を決めると座標が一意に決まる理由
  • 同じベクトルでも基底によって座標が変わる仕組み
  • 基底変換行列の各列が表すもの
  • 逆行列を使って座標を逆向きに変換する方法
  • 基底変換と線形変換の違い

1.座標とは、基底に対する線形結合の係数

平面 \(\mathbb{R}^2\) の標準基底を、次のように表します。

$$
E=(\boldsymbol{e}_1,\boldsymbol{e}_2),\quad
\boldsymbol{e}_1=\begin{pmatrix}1\\0\end{pmatrix},\quad
\boldsymbol{e}_2=\begin{pmatrix}0\\1\end{pmatrix}
$$

たとえば、ベクトル \(\boldsymbol{v}\) が、

$$
\boldsymbol{v}=2\boldsymbol{e}_1+\boldsymbol{e}_2
$$

と表されるとき、標準基底 \(E\) に対する座標は、

$$
[\boldsymbol{v}]_E=\begin{pmatrix}2\\1\end{pmatrix}
$$

です。数字の \(2\) と \(1\) は、基底ベクトルをそれぞれ何倍して足すかを表しています。

一般に、基底 \(B=(\boldsymbol{b}_1,\ldots,\boldsymbol{b}_n)\) に対して、

$$
\boldsymbol{v}=c_1\boldsymbol{b}_1+\cdots+c_n\boldsymbol{b}_n
$$

と表せるとき、\((c_1,\ldots,c_n)^T\) が基底 \(B\) に対する座標です。基底は空間全体を張り、しかも線形独立なので、どのベクトルもただ1通りの係数で表せます。

つまり、座標は、選んだ基底に対してベクトルを表す線形結合の係数なのです。

▶ 座標が一意に決まる理由を詳しく知りたい
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2.基底を変えると、同じベクトルの座標が変わる

次に、標準基底とは異なる2本のベクトルを考えます。

$$
B=(\boldsymbol{a},\boldsymbol{b}),\quad
\boldsymbol{a}=\begin{pmatrix}1\\1\end{pmatrix},\quad
\boldsymbol{b}=\begin{pmatrix}1\\-1\end{pmatrix}
$$

この2本は線形独立なので、\(\mathbb{R}^2\) の基底になります。先ほどのベクトル \(\boldsymbol{v}\) は、この基底を使うと、

$$
\boldsymbol{v}=\frac32\boldsymbol{a}+\frac12\boldsymbol{b}
$$

と表せます。したがって、同じベクトルの座標は、基底によって次のように変わります。

$$
[\boldsymbol{v}]_E=\begin{pmatrix}2\\1\end{pmatrix},\quad
[\boldsymbol{v}]_B=\begin{pmatrix}\frac32\\\frac12\end{pmatrix}
$$

数字は違いますが、どちらも同じ \(\boldsymbol{v}\) を表しています。基底変換では、ベクトルを動かすのではなく、ベクトルを表す基準を取り替えます。

この関係を図で確認しましょう。2つの基底で線形結合の係数は異なりますが、表しているベクトルの終点は同じです。

同じベクトルを標準基底と別の基底で表すと座標が変わる様子

▶ 基底を取り替えたときの座標の変化を詳しく知りたい
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3.基底変換行列は、基底同士の関係をまとめたもの

基底を変えると座標が変わることがわかりました。では、その座標を毎回連立方程式で求める代わりに、まとめて計算する方法はないでしょうか。

基底 \(B\) の2本のベクトルは、標準基底 \(E\) に対して、

$$
\boldsymbol{a}=\boldsymbol{e}_1+\boldsymbol{e}_2,\quad
\boldsymbol{b}=\boldsymbol{e}_1-\boldsymbol{e}_2
$$

と表せます。\([\boldsymbol{v}]_B=(s,t)^T\) なら、

$$
\begin{aligned}{}
\boldsymbol{v}&=s\boldsymbol{a}+t\boldsymbol{b}\\
&=(s+t)\boldsymbol{e}_1+(s-t)\boldsymbol{e}_2
\end{aligned}
$$

なので、

$$
[\boldsymbol{v}]_E=
\begin{pmatrix}s+t\\s-t\end{pmatrix}
=
\underbrace{\begin{pmatrix}1&1\\1&-1\end{pmatrix}}_{P}
\begin{pmatrix}s\\t\end{pmatrix}
$$

となります。つまり、

$$
[\boldsymbol{v}]_E=P[\boldsymbol{v}]_B
$$

です。この \(P\) が、基底 \(B\) に対する座標を基底 \(E\) に対する座標へ変換する行列です。

ここで注目したいのは、行列の列です。

$$
P=\left([\boldsymbol{a}]_E\quad[\boldsymbol{b}]_E\right)
=\begin{pmatrix}1&1\\1&-1\end{pmatrix}
$$

変換元の基底ベクトルを、変換先の基底で表した座標を列に並べると、基底変換行列ができます。行列とベクトルの積が「列ベクトルの線形結合」になっていることが、その理由です。

4.逆行列で座標を逆向きに変換する

基底 \(B\) の座標から標準基底 \(E\) の座標へは、\(P\) を掛ければ変換できます。逆に、標準基底の座標から基底 \(B\) の座標へ変換するには、逆行列 \(P^{-1}\) を使います。

$$
[\boldsymbol{v}]_B=P^{-1}[\boldsymbol{v}]_E
$$

今回の例では、

$$
P^{-1}=\frac12\begin{pmatrix}1&1\\1&-1\end{pmatrix}
$$

なので、

$$
\begin{aligned}{}
[\boldsymbol{v}]_B
&=\frac12\begin{pmatrix}1&1\\1&-1\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}2\\1\end{pmatrix}\\
&=\begin{pmatrix}\frac32\\\frac12\end{pmatrix}
\end{aligned}
$$

となり、第2章の座標に戻ります。基底を構成するベクトルは線形独立なので、対応する基底変換行列は可逆であり、座標を相互に変換できます。

2つの方向でどちらの行列を使うのか、図で確認しましょう。\(P\) は \(B\) から \(E\) へ、\(P^{-1}\) は \(E\) から \(B\) への座標変換を表します。

基底Bと標準基底Eの座標を行列Pと逆行列で相互変換する対応図

▶ 基底変換行列の各列の意味と逆行列の仕組みを詳しく知りたい
基底変換行列とは何か?|座標系を行列で変換する仕組み
基底変換行列とは何か?同じベクトルでも基底が変わると座標が変わる理由を、具体例と図でわかりやすく解説します。基底変換行列の各列が表す意味から、行列の掛け算による座標変換、逆行列を使った逆向きの変換、逆行列が存在する理由まで、線形代数の基本を理解できます。

5.基底・座標・行列のつながりを一つの式で理解する

ここまでの概念の役割を整理してみましょう。

概念 役割
基底 ベクトルを表すために選ぶ基準
座標 基底に対する線形結合の係数
基底変換 同じベクトルを別の基底で表し直すこと
基底変換行列 異なる基底間で座標を変換する行列
逆行列 座標変換を逆向きに行う行列

これらの関係は、一つの式にまとめられます。同じ有限次元ベクトル空間の基底 \(E=(\boldsymbol{e}_1,\ldots,\boldsymbol{e}_n)\)、\(B=(\boldsymbol{b}_1,\ldots,\boldsymbol{b}_n)\) に対して、

$$
P_{E\leftarrow B}=
\left([\boldsymbol{b}_1]_E\quad\cdots\quad[\boldsymbol{b}_n]_E\right)
$$

とすると、

$$
[\boldsymbol{v}]_E=P_{E\leftarrow B}[\boldsymbol{v}]_B
$$

が成り立ちます。矢印は「\(B\) に対する座標から \(E\) に対する座標へ」という変換方向を表しています。

第2章で見た同じベクトルの2つの座標は、第3章・第4章の行列によって結ばれていました。基底を選ぶと座標が決まり、基底同士の関係を列に並べると座標変換の行列が決まるということです。

6.基底変換と線形変換は何が違う?

基底変換は、同じベクトルを異なる基底で表し直す操作です。座標の数字は変わりますが、ベクトルそのものは変わりません。

一方、線形変換は、ベクトルを別のベクトルへ写す操作です。たとえば回転や拡大は、ベクトルそのものを変換します。基底変換が同じベクトルの表し方を変えるのに対し、線形変換はベクトルに作用する点が異なります。

どちらも行列を使って表せるため混同しやすいのですが、「ベクトルの表現を変える」のか、「ベクトルを変換する」のかを区別することが重要です。この違いが、次の線形写像と行列を理解する出発点になります。

まとめ

今回は、座標・基底変換・基底変換行列の関係を整理しました。

  • 基底を決めると、ベクトルを表す座標が一意に決まる。
  • 座標は、選んだ基底に対する線形結合の係数である。
  • 基底を変えると座標は変わるが、ベクトルそのものは変わらない。
  • 基底変換行列の各列は、変換元の基底ベクトルを変換先の基底で表した座標である。
  • 基底変換行列と逆行列によって、座標を双方向に変換できる。
  • 基底変換と線形変換は、座標の表現を変えるか、ベクトルを写すかという点で異なる。

基底・座標・行列は別々の話ではありません。基底を選ぶと座標が決まり、基底同士の関係が座標変換行列になります。

Part 2の個別記事一覧

座標の意味から始め、基底を取り替えたときの変化を理解し、最後に行列で計算する順番です。詳しく学びたいテーマから読み進めてください。

学習順 テーマ 個別記事
① 座標 座標とは何か?|基底を決めると数字が決まる理由
② 基底変換 基底変換とは何か?|同じベクトルなのに座標が変わる理由
③ 基底変換行列 基底変換行列とは何か?|座標系を行列で変換する仕組み

次に学ぶテーマ

ここまでは、同じベクトルを異なる基底で表す方法を考えてきました。次は、ベクトルそのものを別のベクトルへ写す「線形変換」を学びます。

▶ 次に学ぶ:線形変換とは何か?|行列がベクトルをどう動かすのかを図で理解する
線形変換とは何か?|行列がベクトルをどう動かすのかを図で理解する
線形変換とは何か?行列によってベクトルや空間がどのように変形するのかを図で解説します。拡大・縮小、回転、せん断の具体例から、基底ベクトルと行列の列の関係、線形結合を保つ意味、行列式による面積の変化、基底変換との違いまで理解できます。

シリーズ全体を理解する

線形代数の他のテーマとのつながりや、学習する順番はシリーズ全体のまとめで確認できます。

▶ 線形代数の全体像を理解したい
線形代数とは何か?|ベクトル・行列・行列式のつながりを図で理解する
線形代数とは何かを、ベクトル・行列・行列式のつながりから図解。線形結合、線形独立、基底、線形変換、逆行列、連立方程式、ランクまで、バラバラに見える概念をひとつの流れとしてわかりやすく整理します。

関連書籍

基底・座標・行列のつながりをさらに深く理解したい人には、線形代数の考え方を基礎から学べる書籍もおすすめです。具体例や図解を通して学ぶことで、座標変換の仕組みだけでなく、線形代数全体への理解も深まります。

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toshi

京都市在住のエンジニア。読書好きが高じてブログを始め、現在は数学やAI・ソフトウェアを中心に、おすすめの小説についても記事を書いています。

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