はじめに
前回は、ベクトル空間の次元が「基底を構成するベクトルの本数」で決まることを学びました。たとえば、平面は2本の基底ベクトルで表せるため、2次元です。
では、平面上の1つのベクトルを、数字の組で表せるのはなぜでしょうか。また、同じベクトルなのに、基底を取り替えると数字が変わるのはなぜでしょうか。
座標とは、選んだ基底の線形結合でベクトルを表したときの係数の組です。同じベクトルでも、基底が変われば座標は変わります。
この記事では、平面のベクトルを例に、座標がどのように決まるのかを考えます。さらに、基底が座標を一意に決める理由や、ベクトルそのものと座標の違いを整理します。
この記事でわかること
この記事では、次の内容の理解を目指します。
- 座標が基底に対する線形結合の係数になる理由
- 標準基底を使うと、普段の成分表示が得られる理由
- 基底を変えると、同じベクトルの座標が変わる理由
- 基底を決めると座標が一意に決まる理由
- 座標の個数と次元が一致する理由
1.座標とは、ベクトルを表すための数字の組
平面上のベクトルを考えるとき、私たちはよく \(2,\ 1\) のような数字の組を使います。しかし、この数字は、ベクトルに最初から貼り付いているものなのでしょうか。
たとえば、東へ2歩、北へ1歩進むことを考えます。「東へ1歩」と「北へ1歩」を基準にすれば、この移動は「東方向を2倍、北方向を1倍して足し合わせたもの」と考えられます。
つまり、\(2,\ 1\) という数字は、基準となる2つの方向をそれぞれ何倍したかを表しています。一方、斜め方向を基準に選ぶと、同じ移動でも別の数字の組で表されます。
このように、座標とは、基準となるベクトルをそれぞれ何倍すれば目的のベクトルになるかを表す数字の組です。その基準となるベクトルの組が「基底」です。
2.標準基底を使うと、いつもの成分表示になる
まず、\(\mathbb{R}^2\) の標準基底を考えます。標準基底は、次の2本のベクトルです。
$$
\boldsymbol{e}_1=\begin{pmatrix}1\\0\end{pmatrix},\quad
\boldsymbol{e}_2=\begin{pmatrix}0\\1\end{pmatrix}
$$
この2本を使うと、たとえば \(\boldsymbol{v}\) を次のように表せます。
$$
\boldsymbol{v}=2\boldsymbol{e}_1+\boldsymbol{e}_2
=\begin{pmatrix}2\\1\end{pmatrix}
$$
つまり、\(\boldsymbol{e}_1\) を2倍、\(\boldsymbol{e}_2\) を1倍して足し合わせると、\(\boldsymbol{v}\) が得られます。このときの係数 \(2\) と \(1\) が、標準基底に対する座標です。
ここで、標準基底を \(E=(\boldsymbol{e}_1,\boldsymbol{e}_2)\) と書くことにします。基底 \(E\) に対する \(\boldsymbol{v}\) の座標を、次のように表します。
$$
[\boldsymbol{v}]_E=\begin{pmatrix}2\\1\end{pmatrix}
$$
標準基底では、ベクトルの成分表示と座標の数字が一致します。そのため、普段は両者を特に区別せずに扱うことが多いのです。

3.基底を変えると、同じベクトルの座標が変わる
では、基準となるベクトルを変えてみましょう。次の2本を、新しい基底として選びます。
$$
\boldsymbol{a}=\begin{pmatrix}1\\1\end{pmatrix},\quad
\boldsymbol{b}=\begin{pmatrix}1\\-1\end{pmatrix}
$$
この2本は互いに定数倍の関係になく、線形独立です。また、平面全体を張るので、\(B=(\boldsymbol{a},\ \boldsymbol{b})\) も \(\mathbb{R}^2\) の基底になります。
先ほどと同じベクトル \(\boldsymbol{v}=(2,\ 1)^T\) を、この基底で表してみます。
$$
\boldsymbol{v}=s\boldsymbol{a}+t\boldsymbol{b}
$$
成分を比較すると、次の連立方程式が得られます。
$$
\begin{cases}
s+t=2\\
s-t=1
\end{cases}
$$
2つの式を足すと \(2s=3\) なので \(s=\frac32\)、そこから \(t=\frac12\) とわかります。したがって、同じベクトルは次のようにも表せます。
$$
\boldsymbol{v}=\frac32\boldsymbol{a}+\frac12\boldsymbol{b}
$$
このとき、新しい基底 \(B\) に対する座標は次のとおりです。
$$
[\boldsymbol{v}]_B=\begin{pmatrix}\frac32\\\frac12\end{pmatrix}
$$
標準基底に対する座標は \((2,\ 1)^T\) でしたが、新しい基底に対する座標は \((\frac32,\ \frac12)^T\) になりました。数字は変わっても、表しているベクトル \(\boldsymbol{v}\) は同じです。

4.座標は基底に対する線形結合の係数である
ここまでの例を一般化してみましょう。2次元のベクトル空間 \(V\) に基底 \(B=(\boldsymbol{b}_1,\ \boldsymbol{b}_2)\) を選ぶと、任意のベクトル \(\boldsymbol{v}\in V\) は、次のように表せます。
$$
\boldsymbol{v}=c_1\boldsymbol{b}_1+c_2\boldsymbol{b}_2
$$
このとき、基底 \(B\) に対する座標は、係数を順番に並べたものです。
$$
[\boldsymbol{v}]_B=\begin{pmatrix}c_1\\c_2\end{pmatrix}
$$
大切なのは、基底ベクトルの順番も決めておくことです。たとえば \((\boldsymbol{b}_1,\ \boldsymbol{b}_2)\) と \((\boldsymbol{b}_2,\ \boldsymbol{b}_1)\) では、係数を並べる順序が変わります。
また、ここで扱っているのはベクトルの座標です。点の位置を座標で表すときには、基準となる原点も必要になります。この違いは、後の座標変換の記事で改めて扱います。
5.基底を決めると、なぜ座標が一意に決まるのか?
基底が決まると、どのベクトルも線形結合で表せます。では、同じベクトルに対して、係数の組が何通りも見つかることはないのでしょうか。
仮に、同じベクトル \(\boldsymbol{v}\) が、次の2通りに表せたとします。
$$
\boldsymbol{v}=c_1\boldsymbol{b}_1+c_2\boldsymbol{b}_2
=d_1\boldsymbol{b}_1+d_2\boldsymbol{b}_2
$$
両辺を移項すると、次の式が得られます。
$$
(c_1-d_1)\boldsymbol{b}_1+(c_2-d_2)\boldsymbol{b}_2=\boldsymbol{0}
$$
基底の2本は線形独立なので、この式が成り立つには \(c_1-d_1=0\) と \(c_2-d_2=0\) でなければなりません。つまり、\(c_1=d_1\)、\(c_2=d_2\) です。
したがって、基底を決めれば、どのベクトルもただ1通りの係数の組で表せます。 これが、座標を使ってベクトルを指定できる理由です。
基底が空間全体を張るので、すべてのベクトルに座標が存在します。基底が線形独立なので、その座標は一意に決まります。
6.座標の個数は、なぜ次元と一致するのか?
前回は、次元が基底の本数で決まることを学びました。基底が2本なら、ベクトルを表すための係数も2個です。基底が3本なら、係数は3個必要になります。
一般に、\(n\) 次元のベクトル空間 \(V\) の基底を \(B=(\boldsymbol{b}_1,\ \ldots,\ \boldsymbol{b}_n)\) とすると、任意のベクトルは次のように表せます。
$$
\boldsymbol{v}=c_1\boldsymbol{b}_1+\cdots+c_n\boldsymbol{b}_n
$$
したがって、その座標は \(n\) 個の数字を並べた列ベクトルになります。
$$
[\boldsymbol{v}]_B=\begin{pmatrix}c_1\\\vdots\\c_n\end{pmatrix}
$$
つまり、次元は基底の本数であると同時に、ベクトルを座標で表すときに必要な数字の個数でもあります。座標は、前回学んだ「自由に選べる係数」を具体的な数字の組として表したものなのです。
7.ベクトルそのものと座標を区別しよう
ここまで、同じベクトルでも基底を変えると座標が変わることを確認しました。この違いを理解するために、ベクトルそのものと座標を区別しておきましょう。
ベクトル \(\boldsymbol{v}\) は、考えているベクトル空間の要素です。一方、\([\boldsymbol{v}]_B\) は、選んだ基底 \(B\) に対して、そのベクトルを数字の組で表したものです。
つまり、ベクトルは表現したい対象であり、座標はそれを表現するための数字です。
ただし、\(\mathbb{R}^n\) では標準基底を使った成分表示をベクトルそのものとして扱うことが一般的です。そのため、普段は両者の違いを意識する機会が少ないのです。
基底を取り替えると、この違いがはっきり現れます。次回は、基底の変更によって座標がどのように変わるのかを詳しく考えます。
まとめ
今回は、座標を「基底に対する線形結合の係数」という視点から考えました。重要なポイントを整理します。
- 座標は、選んだ基底に対する線形結合の係数を並べた数字の組である。
- 標準基底に対する座標は、普段使っているベクトルの成分表示と一致する。
- 同じベクトルでも、基底を取り替えると座標の数字は変わる。
- 基底が空間全体を張り、線形独立であるため、座標は存在して一意に決まる。
- 基底の本数が次元なので、座標に必要な数字の個数も次元と一致する。
- ベクトルそのものと、それを表す座標は区別して考える。
座標とは、基底を決めたときに、ベクトルをただ1通りに表す係数の組です。基底が変わると座標は変わりますが、ベクトルそのものは変わりません。
次回は、同じベクトルの座標が基底によって変わる仕組みを、図と数式でさらに詳しく調べます。これが「基底変換」の考え方です。
関連記事



シリーズ全体を理解する

関連書籍
座標や基底の考え方をさらに深く学びたい人には、線形代数を基礎から解説する書籍もおすすめです。



コメント