はじめに
前回は、行列とベクトルの積を「列ベクトルの線形結合」と「行ごとの内積」という2つの視点から考えました。特に重要だったのは、行列の列ベクトルが、標準基底ベクトルの変換先を表しているということです。
では、標準基底ではなく、別の基底を使ったらどうなるのでしょうか。
たとえば、平面上のベクトルを変換する線形写像があるとします。同じ線形写像であっても、ベクトルを表す基底を変えると、計算に使う行列の成分が変わることがあります。
一見すると不思議ですが、これは線形写像そのものが変わったわけではありません。同じ変換を、異なる基底を使って表しているためです。
表現行列とは、選んだ基底に関して、線形写像がベクトルの座標をどのように変えるかを表す行列です。線形写像が同じでも、基底によって表現行列の成分が異なることがあります。
この記事では、表現行列がどのように作られるのかを、基底ベクトルの変換先から導きます。そして、具体例を通して、線形写像と表現行列の違いを理解しましょう。
この記事でわかること
- 線形写像と表現行列の違い
- 基底を決めると表現行列が一意に決まる理由
- 基底ベクトルの変換先から表現行列を作る方法
- 表現行列と座標ベクトルの積が表す意味
- 基底を変えると表現行列が変わることがある理由
- 標準基底での行列と一般の基底での表現行列の関係
1.線形写像と行列は同じものなのか?
まず、線形写像と行列の関係を整理するために、次の線形写像を考えましょう。
$$
T:\mathbb{R}^2\longrightarrow\mathbb{R}^2
$$
$$
T\begin{pmatrix}x\\y\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
2x+y\\
x+3y
\end{pmatrix}
$$
標準基底を \(\mathcal{E}=(\boldsymbol{e}_1,\boldsymbol{e}_2)\) とすると、
$$
\boldsymbol{e}_1=
\begin{pmatrix}1\\0\end{pmatrix},
\quad
\boldsymbol{e}_2=
\begin{pmatrix}0\\1\end{pmatrix}
$$
です。それぞれの変換先は、
$$
T(\boldsymbol{e}_1)=
\begin{pmatrix}2\\1\end{pmatrix},
\quad
T(\boldsymbol{e}_2)=
\begin{pmatrix}1\\3\end{pmatrix}
$$
となります。この2本を列に並べると、
$$
A=
\begin{pmatrix}
2&1\\
1&3
\end{pmatrix}
$$
という行列が得られます。これは標準基底 \(\mathcal{E}\) に関する表現行列で、\(A=[T]_{\mathcal{E}}\) とも書けます。この行列を使えば、
$$
T(\boldsymbol{x})=A\boldsymbol{x}
$$
と計算できます。
ここまでは前回と同じです。しかし、重要なのは、この行列が標準基底を使って作られているという点です。
1.1.基底を変えても線形写像は変わらない
今度は、次の2本のベクトルを基底として使ってみましょう。
$$
\boldsymbol{b}_1=
\begin{pmatrix}1\\0\end{pmatrix},
\quad
\boldsymbol{b}_2=
\begin{pmatrix}1\\1\end{pmatrix}
$$
この2本は線形独立であり、平面上の任意のベクトルを線形結合で表せるため、\(\mathbb{R}^2\) の基底になります。
標準基底とは異なりますが、扱っている平面も線形写像 \(T\) も同じです。変わるのは、ベクトルをどの基底で表すかということだけです。
たとえば、次のベクトルを考えます。
$$
\boldsymbol{x}=
\begin{pmatrix}3\\1\end{pmatrix}
$$
標準基底 \(\mathcal{E}\) に関する座標ベクトルは、
$$
[\boldsymbol{x}]_{\mathcal{E}}=\begin{pmatrix}3\\1\end{pmatrix}
$$
です。ここで、\([\boldsymbol{x}]_{\mathcal{E}}\) は、ベクトル \(\boldsymbol{x}\) を標準基底 \(\mathcal{E}\) で表した座標ベクトルを意味します。
一方、基底 \(\mathcal{B}=(\boldsymbol{b}_1,\boldsymbol{b}_2)\) では、
$$
\begin{aligned}{}
\boldsymbol{x}
&=2\begin{pmatrix}1\\0\end{pmatrix}
+\begin{pmatrix}1\\1\end{pmatrix}\\
&=2\boldsymbol{b}_1+\boldsymbol{b}_2
\end{aligned}
$$
となるため、基底 \(\mathcal{B}\) に関する座標ベクトルは、
$$
[\boldsymbol{x}]_{\mathcal{B}}=\begin{pmatrix}2\\1\end{pmatrix}
$$
です。

図のように、同じベクトル \(\boldsymbol{x}\) であっても、標準基底 \(\mathcal{E}\) では座標が \((3,1)\)、基底 \(\mathcal{B}\) では \((2,1)\) になります。
つまり、ベクトルそのものは変わらなくても、基底によって座標の表し方が変わるのです。線形写像を表す行列も、同じように選んだ基底によって成分が異なることがあります。
2.表現行列はどのように作られるのか?
では、一般の基底を使って線形写像を行列で表す方法を考えましょう。
\(\mathbb{R}^2\) の基底を、
$$
\mathcal{B}=(\boldsymbol{b}_1,\boldsymbol{b}_2)
$$
とします。任意のベクトル \(\boldsymbol{x}\) は、この基底を使って、
$$
\boldsymbol{x}
=c_1\boldsymbol{b}_1+c_2\boldsymbol{b}_2
$$
と一意に表せます。
第1章と同じように、係数を並べた、
$$
[\boldsymbol{x}]_{\mathcal{B}}
=
\begin{pmatrix}c_1\\c_2\end{pmatrix}
$$
を、基底 \(\mathcal{B}\) に関する座標ベクトルと呼びます。
\(\boldsymbol{x}\) はもとのベクトルであり、\([\boldsymbol{x}]_{\mathcal{B}}\) はそのベクトルを基底 \(\mathcal{B}\) で表した座標です。この2つを区別しておきましょう。
2.1.基底ベクトルの変換先を考える
線形写像 \(T\) によって、基底ベクトルがどこへ移るかを考えます。変換先も同じ基底 \(\mathcal{B}\) で表すと、
$$
\begin{aligned}{}
T(\boldsymbol{b}_1)
&=a_{11}\boldsymbol{b}_1+a_{21}\boldsymbol{b}_2\\
T(\boldsymbol{b}_2)
&=a_{12}\boldsymbol{b}_1+a_{22}\boldsymbol{b}_2
\end{aligned}
$$
と書けます。
この係数を列に並べた行列、
$$
[T]_{\mathcal{B}}
=
\begin{pmatrix}
a_{11}&a_{12}\\
a_{21}&a_{22}
\end{pmatrix}
$$
が、基底 \(\mathcal{B}\) に関する線形写像 \(T\) の表現行列です。
つまり、表現行列の第1列は \(T(\boldsymbol{b}_1)\) の座標、第2列は \(T(\boldsymbol{b}_2)\) の座標を表しています。
表現行列は、基底ベクトルの変換先を、選んだ基底で表した座標ベクトルを列に並べることで作られます。
2.2.なぜ基底の変換先だけで十分なのか?
その理由は、線形写像が線形結合を保つからです。
任意のベクトルを、
$$
\boldsymbol{x}
=c_1\boldsymbol{b}_1+c_2\boldsymbol{b}_2
$$
とすると、
$$
\begin{aligned}{}
T(\boldsymbol{x})
&=T(c_1\boldsymbol{b}_1+c_2\boldsymbol{b}_2)\\
&=c_1T(\boldsymbol{b}_1)+c_2T(\boldsymbol{b}_2)
\end{aligned}
$$
となります。ここに基底ベクトルの変換先を代入し、\(\boldsymbol{b}_1\) と \(\boldsymbol{b}_2\) の係数を整理すると、
$$
\begin{aligned}{}
T(\boldsymbol{x})
&=c_1(a_{11}\boldsymbol{b}_1+a_{21}\boldsymbol{b}_2)+c_2(a_{12}\boldsymbol{b}_1+a_{22}\boldsymbol{b}_2)\\
&=(a_{11}c_1+a_{12}c_2)\boldsymbol{b}_1+(a_{21}c_1+a_{22}c_2)\boldsymbol{b}_2
\end{aligned}
$$
となります。
したがって、変換後の座標ベクトルは、
$$
[T(\boldsymbol{x})]_{\mathcal{B}}
=
\begin{pmatrix}
a_{11}c_1+a_{12}c_2\\
a_{21}c_1+a_{22}c_2
\end{pmatrix}
$$
となります。これを行列で書くと、
$$
[T(\boldsymbol{x})]_{\mathcal{B}}
=
[T]_{\mathcal{B}}[\boldsymbol{x}]_{\mathcal{B}}
$$
です。つまり、表現行列と座標ベクトルの積によって、変換後の座標ベクトルを求められるのです。
基底を決めると、各ベクトルの座標は一意に定まります。そのため、基底ベクトルの変換先の座標も一意に決まり、表現行列も一意に決まります。
ここで使った「線形結合を保つ」という性質は、線形写像の基本となる性質です。線形写像の定義や、なぜこの性質が重要なのかについては、以下の記事で詳しく説明しています。

3.具体例で表現行列を求めてみる
ここからは、実際に表現行列を作ってみましょう。
第1章で使った線形写像、
$$
T\begin{pmatrix}x\\y\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
2x+y\\
x+3y
\end{pmatrix}
$$
を考えます。標準基底 \(\mathcal{E}\) に関する表現行列は、
$$
A=
\begin{pmatrix}
2&1\\
1&3
\end{pmatrix}
$$
でした。
今度は、次の基底を使います。
$$
\mathcal{B}=(\boldsymbol{b}_1,\boldsymbol{b}_2)
$$
$$
\boldsymbol{b}_1=
\begin{pmatrix}1\\0\end{pmatrix},
\quad
\boldsymbol{b}_2=
\begin{pmatrix}1\\1\end{pmatrix}
$$
3.1.第1の基底ベクトルを変換する
まず、\(\boldsymbol{b}_1\) を変換します。
$$
T(\boldsymbol{b}_1)
=
T\begin{pmatrix}1\\0\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}2\\1\end{pmatrix}
$$
このベクトルを基底 \(\mathcal{B}\) で表すには、
$$
\begin{pmatrix}2\\1\end{pmatrix}
=
c_1\begin{pmatrix}1\\0\end{pmatrix}
+c_2\begin{pmatrix}1\\1\end{pmatrix}
$$
となる係数を求めます。成分を比較すると、
$$
\begin{cases}
c_1+c_2=2\\
c_2=1
\end{cases}
$$
となるため、\(c_1=1,\ c_2=1\) が得られます。したがって、
$$
T(\boldsymbol{b}_1)
=\boldsymbol{b}_1+\boldsymbol{b}_2
$$
となり、基底 \(\mathcal{B}\) に関する座標ベクトルは、
$$
[T(\boldsymbol{b}_1)]_{\mathcal{B}}
=
\begin{pmatrix}1\\1\end{pmatrix}
$$
です。
3.2.第2の基底ベクトルを変換する
次に、\(\boldsymbol{b}_2\) を変換します。
$$
T(\boldsymbol{b}_2)
=
T\begin{pmatrix}1\\1\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}3\\4\end{pmatrix}
$$
同じように、
$$
\begin{pmatrix}3\\4\end{pmatrix}
=
c_1\begin{pmatrix}1\\0\end{pmatrix}
+c_2\begin{pmatrix}1\\1\end{pmatrix}
$$
とおき、成分を比較すると、
$$
\begin{cases}
c_1+c_2=3\\
c_2=4
\end{cases}
$$
となります。よって、\(c_1=-1,\ c_2=4\) なので、
$$
T(\boldsymbol{b}_2)
=-\boldsymbol{b}_1+4\boldsymbol{b}_2
$$
となり、基底 \(\mathcal{B}\) に関する座標ベクトルは、
$$
[T(\boldsymbol{b}_2)]_{\mathcal{B}}
=
\begin{pmatrix}-1\\4\end{pmatrix}
$$
です。
3.3.変換先の座標を列に並べる
求めた2つの座標ベクトルを列に並べると、
$$
[T]_{\mathcal{B}}
=
\begin{pmatrix}
1&-1\\
1&4
\end{pmatrix}
$$
となります。これが、基底 \(\mathcal{B}\) に関する線形写像 \(T\) の表現行列です。
ここで、第1列は \(T(\boldsymbol{b}_1)\)、第2列は \(T(\boldsymbol{b}_2)\) を、それぞれ基底 \(\mathcal{B}\) で表した座標ベクトルになっています。
つまり、表現行列の各列を見ることで、基底ベクトルがどこへ移るのかがわかるのです。

標準基底での行列とは成分が異なりますが、どちらも同じ線形写像を表しています。つまり、表現行列は基底によって異なる形になることがあるのです。
4.表現行列を使ってベクトルを変換する
では、求めた表現行列を使って、実際にベクトルを変換してみましょう。
第1章でも使った、次のベクトルを考えます。
$$
\boldsymbol{x}
=2\boldsymbol{b}_1+\boldsymbol{b}_2
$$
基底 \(\mathcal{B}\) に関する座標ベクトルは、
$$
[\boldsymbol{x}]_{\mathcal{B}}
=
\begin{pmatrix}2\\1\end{pmatrix}
$$
です。
4.1.表現行列で計算する
第3章で求めた表現行列を掛けると、
$$
\begin{aligned}{}
[T(\boldsymbol{x})]_{\mathcal{B}}
&=[T]_{\mathcal{B}}[\boldsymbol{x}]_{\mathcal{B}}\\
&=
\begin{pmatrix}
1&-1\\
1&4
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}2\\1\end{pmatrix}\\
&=
\begin{pmatrix}1\\6\end{pmatrix}
\end{aligned}
$$
となります。これは、変換後のベクトルが、
$$
T(\boldsymbol{x})
=\boldsymbol{b}_1+6\boldsymbol{b}_2
$$
と表せることを意味します。標準基底での成分に直すと、
$$
\begin{aligned}{}
T(\boldsymbol{x})
&=\begin{pmatrix}1\\0\end{pmatrix}
+6\begin{pmatrix}1\\1\end{pmatrix}\\
&=\begin{pmatrix}7\\6\end{pmatrix}
\end{aligned}
$$
となります。
4.2.標準基底でも同じ結果になる
もとのベクトルを標準基底 \(\mathcal{E}\) で表すと、
$$
\begin{aligned}{}
\boldsymbol{x}
&=2\begin{pmatrix}1\\0\end{pmatrix}
+\begin{pmatrix}1\\1\end{pmatrix}\\
&=\begin{pmatrix}3\\1\end{pmatrix}
\end{aligned}
$$
です。標準基底 \(\mathcal{E}\) に関する表現行列 \(A\) を使うと、
$$
\begin{aligned}{}
A\boldsymbol{x}
&=
\begin{pmatrix}
2&1\\
1&3
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}3\\1\end{pmatrix}\\
&=\begin{pmatrix}7\\6\end{pmatrix}
\end{aligned}
$$
となり、同じ結果が得られます。

表現行列の成分は基底によって異なることがありますが、座標ベクトルも同じ基底に合わせて表せば、得られる変換先のベクトルは同じです。
ここで注意したいのは、表現行列 \([T]_{\mathcal{B}}\) に掛けるのは、標準基底 \(\mathcal{E}\) に関する座標ベクトル \([\boldsymbol{x}]_{\mathcal{E}}\) ではなく、基底 \(\mathcal{B}\) に関する座標ベクトル \([\boldsymbol{x}]_{\mathcal{B}}\) だということです。
5.基底を変えると表現行列はどう変わるのか?
ここまでの結果から、標準基底での行列と、一般の基底での表現行列には関係があることがわかります。
以前学んだ基底変換行列は、同じベクトルを異なる基底の座標で表すための行列でした。一方、今回の表現行列は、線形写像によってベクトルがどのように変換されるかを表しています。
この2つの関係を使って、基底を変えたときに表現行列がどう変わるのかを考えてみましょう。

5.1.基底を並べた行列を考える
基底 \(\mathcal{B}\) のベクトルを列に並べた行列を、
$$
P=
\begin{pmatrix}
\boldsymbol{b}_1&\boldsymbol{b}_2
\end{pmatrix}
$$
とします。今回の例では、
$$
P=
\begin{pmatrix}
1&1\\
0&1
\end{pmatrix}
$$
です。
この行列を使うと、基底 \(\mathcal{B}\) に関する座標ベクトルから、標準基底での成分を求められます。
$$
\boldsymbol{x}
=P[\boldsymbol{x}]_{\mathcal{B}}
$$
また、\(\mathcal{B}\) は基底なので、\(P\) は逆行列をもちます。したがって、
$$
[\boldsymbol{x}]_{\mathcal{B}}
=P^{-1}\boldsymbol{x}
$$
とも書けます。
5.2.2つの表現行列の関係を導く
標準基底 \(\mathcal{E}\) に関する表現行列を \(A\) とすると、
$$
T(\boldsymbol{x})=A\boldsymbol{x}
$$
です。ここに \(\boldsymbol{x}=P[\boldsymbol{x}]_{\mathcal{B}}\) を代入すると、
$$
T(\boldsymbol{x})
=AP[\boldsymbol{x}]_{\mathcal{B}}
$$
となります。
一方、変換後のベクトルも基底 \(\mathcal{B}\) を使って表せるため、
$$
T(\boldsymbol{x})
=P[T(\boldsymbol{x})]_{\mathcal{B}}
$$
です。したがって、
$$
P[T(\boldsymbol{x})]_{\mathcal{B}}
=AP[\boldsymbol{x}]_{\mathcal{B}}
$$
となり、両辺に左から \(P^{-1}\) を掛けると、
$$
[T(\boldsymbol{x})]_{\mathcal{B}}
=P^{-1}AP[\boldsymbol{x}]_{\mathcal{B}}
$$
が得られます。
一方、第2章で導いた表現行列の定義から、
$$
[T(\boldsymbol{x})]_{\mathcal{B}}
=[T]_{\mathcal{B}}[\boldsymbol{x}]_{\mathcal{B}}
$$
です。したがって、
$$
[T]_{\mathcal{B}}[\boldsymbol{x}]_{\mathcal{B}}
=P^{-1}AP[\boldsymbol{x}]_{\mathcal{B}}
$$
となります。
この式は任意の座標ベクトルについて成り立ちます。つまり、\([T]_{\mathcal{B}}\) と \(P^{-1}AP\) は、どの座標ベクトルに掛けても同じ結果を返す行列です。
したがって、2つの行列は等しく、
$$
[T]_{\mathcal{B}}=P^{-1}AP
$$
となります。
これが、同じ線形写像を異なる基底で表した行列の関係です。
5.3.具体例で確かめる
今回の例では、
$$
A=
\begin{pmatrix}2&1\\1&3\end{pmatrix},
\quad
P=
\begin{pmatrix}1&1\\0&1\end{pmatrix}
$$
でした。\(P\) の逆行列は、
$$
P^{-1}=
\begin{pmatrix}1&-1\\0&1\end{pmatrix}
$$
なので、
$$
\begin{aligned}{}
P^{-1}AP
&=
\begin{pmatrix}1&-1\\0&1\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}2&1\\1&3\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}1&1\\0&1\end{pmatrix}\\
&=
\begin{pmatrix}
1&-1\\
1&4
\end{pmatrix}
\end{aligned}
$$
となります。第3章で基底ベクトルの変換先から求めた表現行列と一致しました。
このように、表現行列は基底ベクトルの変換先から直接作ることも、基底を並べた行列を使って求めることもできます。
ただし、\(P^{-1}AP\) という式は、同じベクトル空間からそれ自身への線形写像について、入力と出力に同じ基底を使う場合のものです。
6.定義域と終域で異なる基底を使う場合
ここまでは、入力と出力が同じ平面にあり、どちらも同じ基底で座標を表してきました。
しかし、線形写像は必ずしも同じ空間の中でベクトルを変換するとは限りません。たとえば、2次元のベクトルを3次元のベクトルへ移す線形写像も考えられます。
このような場合には、入力側と出力側でそれぞれ基底を決める必要があります。
一般に、
$$
T:\mathbb{R}^n\longrightarrow\mathbb{R}^m
$$
という線形写像を考えます。
定義域 \(\mathbb{R}^n\) の基底を、
$$
\mathcal{B}=
(\boldsymbol{b}_1,\ldots,\boldsymbol{b}_n)
$$
終域 \(\mathbb{R}^m\) の基底を、
$$
\mathcal{C}=
(\boldsymbol{c}_1,\ldots,\boldsymbol{c}_m)
$$
とします。
このとき、各基底ベクトルの変換先を、終域の基底 \(\mathcal{C}\) で表します。
$$
T(\boldsymbol{b}_j)
=
\sum_{i=1}^{m}a_{ij}\boldsymbol{c}_i
$$
この係数を並べた \(m\) 行 \(n\) 列の行列が、基底 \(\mathcal{B}\) と \(\mathcal{C}\) に関する表現行列です。
$$
[T]_{\mathcal{C}\leftarrow\mathcal{B}}
=
\begin{pmatrix}
a_{11}&\cdots&a_{1n}\\
\vdots&\ddots&\vdots\\
a_{m1}&\cdots&a_{mn}
\end{pmatrix}
$$
ここで、添字 \(\mathcal{C}\leftarrow\mathcal{B}\) は、入力を基底 \(\mathcal{B}\) で、出力を基底 \(\mathcal{C}\) で表すことを示しています。
したがって、
$$
[T(\boldsymbol{x})]_{\mathcal{C}}
=
[T]_{\mathcal{C}\leftarrow\mathcal{B}}
[\boldsymbol{x}]_{\mathcal{B}}
$$
となります。つまり、一般の場合にも、表現行列は「入力の座標を出力の座標へ移す行列」なのです。
表現行列を決めるには、線形写像だけでなく、定義域の基底と終域の基底を指定する必要があります。同じ基底を使う場合は、その特別な場合です。
まとめ
今回は、線形写像の表現行列がどのように作られ、なぜ基底によって成分が異なることがあるのかを考えました。
重要なポイントを整理します。
- 線形写像はベクトルを別のベクトルへ移す規則であり、表現行列はその規則を選んだ基底で表したもの。
- 表現行列の各列は、基底ベクトルの変換先を、出力側の基底で表した座標ベクトルになる。
- 定義域と終域の基底を決めると、表現行列が一意に決まる。
- 表現行列と入力の座標ベクトルの積から、変換後の座標ベクトルを求められる。
- 同じ線形写像でも、基底を変えると表現行列の成分が変わることがある。
- 入力と出力で同じ基底を使う場合、標準基底での行列 \(A\) と表現行列の間には \([T]_{\mathcal{B}}=P^{-1}AP\) の関係がある。
- 一般には、定義域と終域で異なる基底を使って表現行列を定義できる。
今回、最も重要なのは次の関係です。
$$
[T(\boldsymbol{x})]_{\mathcal{C}}
=
[T]_{\mathcal{C}\leftarrow\mathcal{B}}
[\boldsymbol{x}]_{\mathcal{B}}
$$
線形写像そのものは基底に依存しません。しかし、その線形写像を数値の行列として表すには基底が必要です。表現行列は、選んだ基底における座標どうしの関係を表しています。
前回は、行列の列ベクトルが標準基底の変換先を表すことを学びました。今回、その考え方を一般の基底へ拡張することで、線形写像と行列の関係がより明確になりました。
次回は、基底ベクトルの行き先を使って、回転行列がなぜあの形になるのかを考えます。
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Part 3.線形写像と行列をまとめて理解する
Part 3では、線形写像を行列で表す仕組みから、行列の演算、像・核・ランク・次元定理までを学びます。線形写像と行列の関係を整理したい人は、次のまとめ記事をご覧ください。

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線形写像と行列の関係や、基底によって表現行列が変わる仕組みをさらに深く理解したい人には、線形代数を体系的に学べる書籍も参考になります。
特に、基底・座標変換・線形写像を関連づけて学ぶことで、行列が単なる数値の表ではなく、線形写像を座標で表現するための道具であることが、より明確になります。



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