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夕木春央さんの『楽園』を読んだ。犯罪者たちが身を隠して暮らす場所に迷い込んだ男女が、そこから脱出するために過酷な選択を迫られるミステリーだ。
『方舟』『十戒』に続く作品ということもあり、今回も独特な状況設定と、最後に待ち受けるどんでん返しを楽しみに読み始めた。実際、ミステリーとしての仕掛けは今回も巧みだった。ある程度展開を予想していたにもかかわらず、結末では思いがけない驚きがあった。
しかし、今回それ以上に印象に残ったのは、登場人物の沙織が語った言葉だった。
最初はその言葉にハッとさせられ、読み進めるうちに、沙織と主人公・迫田の考え方の違いが気になるようになった。そして、自分の望みを実現するためには、他人への配慮だけでなく、自分の意思を優先する姿勢も必要なのではないかと考えさせられた。
※以下、ネタバレを含みます。物語の重要な展開や結末に触れているため、未読の方はご注意ください。
1.自分を責めても、何も解決しない
迫田と恋人の沙織は、行方がわからなくなった海原という女性の手がかりを追って、山奥の施設を訪れる。しかし、そこは指名手配犯たちが身を隠して暮らす場所だった。二人は自由を奪われ、脱出するために誰かを殺し、その証拠を残すよう要求される。
そんな状況に追い込まれた迫田は、自分の都合で沙織を巻き込んでしまったことを謝る。
ところが、沙織は、二人で決めたことなのだから謝る必要はないと返す。さらに、人は生きていれば、気づかないうちに誰かを不幸に巻き込むこともあるのだから、何でも自分の責任だと考える必要はない、という趣旨のことを話す。
私は、この言葉にハッとさせられた。
もし自分が迫田と同じ立場だったら、きっと同じように謝っていたと思う。自分の判断がきっかけで大切な人を危険な状況に巻き込んだのなら、申し訳なく感じるのは自然なことだ。
しかし、謝ったところで状況が変わるわけではない。もちろん、謝ること自体が悪いとは思わない。ただ、迫田の言葉には、自分を責めることで気持ちを落ち着かせ、今の状況をごまかそうとしているようなところも感じられた。
そして、これは自分にも当てはまると思った。
何か問題が起きたとき、自分の責任を考えたり、相手の気持ちを気にしたりする。しかし、それだけでは何も解決しないことがある。むしろ、自分を責めたり、慰めるような言葉を並べたりすることで、問題に向き合っているつもりになっているだけなのかもしれない。
大切なのは、誰の責任なのかを考え続けることではなく、今の状況をどう変えていくかではないだろうか。
沙織の言葉を読んで、そんなことに気づかされた。
2.自分の望みを実現する人と、他人に振り回される人
読み進めるうちに、沙織と迫田の考え方の違いが、さらに印象に残るようになった。
迫田は、沙織にどう思われているのかを気にしている。彼女が何かを隠しているのではないかと疑いながらも、見捨てられることが怖くて問い詰められない。
脱出するためには考え、行動できる迫田も、沙織との関係になると、自分の疑問や考えをはっきり伝えられなくなってしまう。
一方の沙織は、自分がどうしたいのかがはっきりしている。物語の結末を知れば、彼女が自分の望みを実現するために、どれほど周到に行動してきたのかがわかる。
もちろん、沙織のように他人を犠牲にしてまで、自分の望みを実現することが正しいとは思わない。しかし、他人の気持ちや期待ばかりを優先していては、自分のやりたいことを実現できないのも事実ではないだろうか。
普段の生活でも、周囲との関係を壊したくないからと、自分の考えを飲み込んでしまうことがある。それを続けていたら、いつの間にか自分の時間や人生を、他人の都合に合わせて使うことになってしまう。
私は、沙織と迫田の対比を見て、自分のやりたいことを実現する人と、他人にいいように利用されてしまう人の違いは、ここにあるのかもしれないと思った。
他人への配慮は必要だ。しかし、自分の望みまで手放してしまう必要はない。
3.結末を知っても、沙織の言葉への共感は変わらなかった
『楽園』は、ミステリーとしても面白い作品だった。特に驚かされたのは、沙織の正体をある程度予想できても、結末の衝撃が失われないことだ。
『方舟』『十戒』とのつながりから、沙織が何者なのかを疑いながら読み進めていた。それでも、今回の出来事が彼女の計画によるものだったとは気づかなかった。
また、物語の途中には、鍵やドアノブなど、事件の真相につながる手がかりも用意されている。私はトリックを見抜けなかったが、真相が明らかになったときには、それまでの細かな描写にも意味があったのだと納得できた。
そして、結末を知ることで、最初に共感した沙織の言葉も違って聞こえてくる。自分を責める必要はないという考え方は、彼女自身の行動を正当化するためのものだったのかもしれない。
しかし、私は結末を知っても、沙織の言葉への共感がなくなることはなかった。
もちろん、自分の望みを実現するために、他人を傷つけたり、犠牲にしたりしてよいわけではない。ただ、だからといって、自分の望みを後回しにし続けることが正しいとも思えない。
自分の行動に責任を持つことと、何でも自分の責任だと考えてしまうことは違う。他人の気持ちを大切にすることと、他人の都合に振り回されることも違う。
沙織は、自分の欲求を優先する姿勢が極端な形になった人物だと思う。その生き方を真似したいわけではない。それでも、自分の望みを実現するためには、自分の意思を大切にし、行動することが必要なのだと感じた。
まとめ|自分の望みを大切にするということ
『楽園』は、独特な状況設定と巧みなどんでん返しを楽しめるミステリーだった。
しかし、今回最も心に残ったのは、沙織の言葉にハッとさせられ、自分の考え方を振り返ることになったことだ。
沙織の行動には共感できない。それでも、自分の望みを後回しにしないという考え方には、今でも共感できる部分がある。
他人の気持ちを大切にしながらも、自分のやりたいことを諦めない。そんな姿勢を持ちたいと思った。




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