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北方謙三さんの『道誉なり』は、南北朝時代を舞台に、佐々木道誉の生き方を描いた歴史小説だ。
この作品で最も心に残ったのは、道誉と足利尊氏の対照的な生き方だった。
尊氏は、権力を手に入れるために身近な人々まで犠牲にしていく。一方、道誉は尊氏に負けたくないと思いながらも、権力を追い求めるのではなく、自分の意思で世の中を動かそうとする。
そして、二人がたどり着いた人生を比べたとき、私には道誉の方がずっと幸せそうに見えた。
他人に勝つことと、自分が納得できる人生を送ることは、同じではないのかもしれない。
そんなことを考えさせられた作品だった。
※以下、物語の重要な展開や結末に触れています。
1.権力を手に入れても満たされなかった尊氏
物語では、後醍醐天皇と足利尊氏が権力をめぐって争う姿が描かれている。後醍醐天皇は、天皇としての権威を持ちながら、それだけでは満足できず、武士を動かす力まで手に入れようとする。
一方、尊氏も、武士の頂点に立つために力を求め続ける。二人の姿を見ていると、どれだけ大きな力を手に入れても、それだけでは満足できないのだろうかと思えてきた。
特に尊氏は、権力を守るために、身近な人々との関係まで失っていく。弟の直義とも争い、かつて自分を支えていた人々も次第に離れていく。
征夷大将軍となり、大きな権力を手に入れた尊氏。しかし、その後も争いは続き、その姿は決して幸せそうには見えなかった。むしろ、手に入れた権力を守るために、さらに多くのものを失っているように感じた。
そこまでして頂点に立つことに、どれほどの意味があるのだろう。
尊氏の姿を見ていると、他人を従わせることで得られるものの虚しさを感じずにはいられなかった。
2.権力ではなく、自分の力で世の中を動かした道誉
そんな尊氏とは対照的だったのが、主人公の佐々木道誉だ。道誉もまた、尊氏を強く意識している。一人の男として、尊氏には負けたくないと考えていた。
しかし、そのために尊氏より高い地位を手に入れようとはしなかった。道誉が選んだのは、自分の意思を貫き、自分の力で世の中を動かすことだった。
その姿勢がよく表れていると感じたのが、戦で大きな功績を挙げても、恩賞を求めなかった場面だ。
道誉は、大井川で自軍よりはるかに多い敵を打ち破る。しかし、その功績に対して、尊氏に褒美を要求しようとはしない。
道誉にとって大切なのは、尊氏から何を与えられるかではなく、自分が何を成し遂げるかだったのではないだろうか。この姿が、とても格好よく感じられた。
また、道誉の魅力は、戦や政治での活躍だけではない。芸能にも深く関わり、能役者たちを招いて人を慰めるなど、権力争いとは違う世界にも目を向けている。
政治や軍事だけでなく、芸能にも価値を見いだし、自分が面白いと思うことに力を注いでいく。そんな道誉の姿からは、尊氏には感じられなかった人生の豊かさが伝わってきた。
さらに印象的だったのが、道誉の「ばさら」という生き方だ。
道誉は、身分や権威を絶対的なものとは考えず、ときには既存の秩序を壊すことさえ恐れない。尊氏が天皇の権威をどう利用するか考えているときにも、道誉は、その権威のあり方自体を問い直そうとする。
当たり前だと思われている仕組みに従うのではなく、必要なら壊して、新しいものをつくればいい。そんな発想ができるところにも、道誉の自由さを感じた。
もちろん、道誉は何の力も持たずに自由を主張しているわけではない。戦では結果を出し、政治でも存在感を示し、芸能にも深く関わっていく。
自分の意思を貫くだけでなく、それを実現するだけの力を持っている。
だからこそ、道誉の自由な生き方には説得力があり、魅力を感じたのだと思う。
3.他人に勝つことよりも、自分に負けない生き方
道誉の生き方を見ていて、考えさせられたことがある。それは、他人に勝つことと、自分が納得できる人生を送ることは、必ずしも同じではないということだ。
道誉も尊氏に負けたくないと思っていた。しかし、尊氏と同じように権力を求めるのではなく、自分なりの方法で勝負しようとした。
相手に勝とうとしながらも、自分の生き方を相手に合わせなかった。
私は、そんな道誉の姿に強く惹かれた。
もちろん、他人に認められたいと思うことや、誰かに負けたくないという気持ちが悪いわけではない。その気持ちが努力する力になることもある。
ただ、他人との比較ばかりを気にしていると、自分が本当にやりたいことを見失ってしまうこともある。
道誉は尊氏という大きな存在を意識しながらも、自分がどう生きたいかを見失わなかった。だからこそ、尊氏よりも自由で、充実した人生を送っているように見えたのだと思う。
他人より上に立つことよりも、自分のやりたいことに向き合い、自分の意思で行動すること。
道誉の姿を見ていると、その方がずっと楽しく生きられるのではないかと思えてきた。
まとめ:自由に生きた道誉の方が幸せそうだった
『道誉なり』を読み終えて、最も心に残ったのは、権力を手に入れた尊氏よりも、自分の意思で生きた道誉の方が幸せそうに見えたことだった。
どちらが幸せだったのかは、本人にしかわからない。それでも、私には道誉の生き方の方がずっと魅力的に映った。
他人に勝つことよりも、自分に負けないこと。そんな生き方を、自分も大切にしたいと思った。



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