櫛木理宇さんの小説『ふたり腐れ』は、単なるサスペンスでも、猟奇事件を描いた物語でもありません。
読み進めるほどに、「これはフィクションだ」と思いたくなるのに、どこかで「現実と地続きだ」と感じてしまう――そんな、逃げ場のない物語です。
ページをめくる手が止まらなくなる一方で、心のどこかが冷えていく。それでも目を逸らせない。
その理由は、この物語が「社会そのもの」を描いているからだと思います。
女性が生きづらい社会を、これほど静かに突きつける物語は稀
本作で描かれる女性たちは、特別な境遇にいるようでいて、決して他人事ではありません。
- 被害を訴えても「大げさ」「気のせい」で片づけられる
- 恐怖や違和感を感じても、周囲はまともに取り合ってくれない
- 危険は常に身近にあるのに、それが「なかったこと」にされていく
作中で繰り返し描かれるのは、女性が日常的に危険にさらされている現実です。
それは派手な暴力としてではなく、軽視、無関心、思い込みという形でじわじわと迫ってきます。
読んでいて苦しくなるのに、目を背けたくなるのに、「でも、これが現実だ」と納得せざるを得ない瞬間が何度も訪れます。
警察は「正義の味方」ではないのかもしれない
本作では、警察組織の抱える問題も容赦なく描かれます。
- 県境をまたぐ事件で生じる連携不足
- 縄張り意識が捜査を妨げる現実
- 被害者よりも「組織の都合」が優先される場面
これらはフィクションでありながら、どこか現実のニュースと重なります。
「なぜ捕まらないのか」「なぜ見逃されるのか」
その理由が、制度や組織の歪みにあることが、淡々と、しかし鋭く示されていきます。
正義が機能しない場所で、人はどうやって生き延びるのか。その問いが、物語全体に重くのしかかります。
主人公・市果が抱える「違和感」が、物語を離さない
主人公・市果は、どこか影があり、感情の輪郭が曖昧な女性です。
普通であろうとしながら、普通になりきれない。執着を嫌いながら、何かを強く求めている。
「この人は、何かを隠している」
読み始めて早い段階で、そんな予感が芽生えます。
その違和感は、物語が進むにつれて少しずつ形を持ちはじめ、やがてラストで、想像をはるかに超える「事実」として突きつけられます。
驚愕、という言葉では足りません。
理解した瞬間、これまで読んできたすべての場面が、別の意味を帯びて立ち上がってくる――まさに櫛木理宇さんならではの構成です。
「ふたり」とは誰なのか──読み終えたあとも残り続ける問い
タイトルの『ふたり腐れ』。この「ふたり」が誰を指すのかは、明確に答えが示されるわけではありません。
だからこそ、読者それぞれの中に問いが残ります。
共依存なのか、救済なのか、歪んだ愛なのか。それとも、生きるために選んだ「最悪の形」だったのか。
物語を閉じたあとも、登場人物たちの言動が頭から離れず、「あれは何だったのか」と考え続けてしまう――そんな余韻の強さこそ、本作最大の魅力だと思います。
まとめ:重くて、怖くて、それでも「読んでよかった」と思える一冊
『ふたり腐れ』は、決して気軽におすすめできる物語ではありません。読後感も決して爽快ではないでしょう。
それでも、
- 人の怖さを描くサスペンスが好きな方
- 社会の歪みを真正面から描く作品に惹かれる方
- 読後、価値観を揺さぶられる体験を求めている方
には、強くおすすめしたい一冊です。
これは「怖い物語」ではなく、「現実から目を逸らさせない物語」。ぜひ、覚悟を持ってページを開いてみてください。きっと、あなたの心にも深く残るはずです。


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