「この家、どこか変なんです」
たった一枚の間取り図から、物語は始まります。ドアのない「謎の空間」。窓のない子供部屋。二重扉。過剰な窓の数。
ぱっと見は、ごく普通の一軒家。けれど、じっと見つめるほどに、違和感が増していく…。
雨穴さんの小説『変な家』の幕開けです。
間取りひとつで、ここまで推理が広がる
本作の最大の魅力は、「事件」から始まらないところ。
普通のミステリは、殺人が起きてから謎が提示されます。でも『変な家』は逆。
「この家、なんか変だよね?」
そこから推理が始まるのです。
1階の謎の空間と、2階の子供部屋。重ね合わせると浮かび上がる「通路」の可能性。そこから連想される、監禁、殺人、死体の搬出ルート……。
間取り図を眺めているだけなのに、読者の頭の中では、どんどん恐ろしい物語が立ち上がっていきます。
「秘密の通路」という、古典的で使い古されたはずの装置が、アプローチを変えるだけで、ここまでゾクッとするものになるのか。
ページをめくる手が止まりません。
謎が、謎を呼ぶ構造
最初の間取り図の衝撃だけで終わらないのが、この作品の怖さです。
- 似た間取りの別の家
- 消えた住人
- 左手のない遺体
- 燃えた家
- さらに遡る旧家の因習
物語は、現在から過去へ、都市から地方へ、一軒家から「家系」へと広がっていきます。
一つ解けたと思えば、さらに深い闇が口を開く。
読者は「真相を知りたい」と思いながら、同時に「これ以上は知りたくない」とも感じる。
その引き裂かれる感覚こそが、『変な家』の醍醐味です。
歪んだ価値観が「教育」される恐怖
この物語が本当に恐ろしいのは、殺人そのものではありません。
恐ろしいのは、狂気が、家族の中で「当たり前」として受け継がれていくこと。
後継者問題。血筋への執着。呪いという名の思い込み。子供を道具のように扱う大人たち。
「家」という閉じた空間の中で、価値観は歪み、それが教育として刷り込まれていく。
刷り込まれた子供は、やがて加害者になる。愛と支配が混ざり合い、正常と異常の境界が曖昧になる。
この物語は、間取りミステリの顔をした、家族のホラーです。
スッキリしない。それがいい。
本作は、すべてを明確に断言しません。提示されるのは「仮説」です。
どこまでが事実で、どこからが推測なのか。読者は常に揺さぶられます。
だからこそ、読後も考え続けてしまう。
- 本当にそれが真相なのか?
- 語られていない「もう一つの可能性」はないのか?
- そもそも語り手はどこまで信用できるのか?
スッキリ解決型のミステリではありません。けれど、強烈に記憶に残る物語です。
こんな人におすすめ
まとめ:家族という密室を描いた物語
家は、安心する場所のはずです。けれど『変な家』は問いかけます。
「その家、本当に安全ですか?」
そしてもう一つ。
「あなたの常識は、本当に正しいですか?」
間取り図を一枚眺めるだけで、ここまで想像力が暴走する読書体験は、なかなかありません。
読み終えたあと、きっとあなたも、自宅の間取りを見直したくなるはずです。


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