デビュー25周年を迎えた伊坂幸太郎さんが届ける短編集『パズルと天気』は、読み終えたあとに、じんわりと「幸せ」が広がる一冊です。
収められているのは五つの物語。発表時期もテーマもバラバラ。恋愛ミステリ、現代版おとぎ話、少し切ない再会譚、犬たちの冒険劇、そして結婚式の一日。
それぞれまったく違う顔をしているのに、最後のページを閉じたとき、どこかでそっと繋がっていたことに気づきます。
その瞬間、「ああ、伊坂作品を読んだな」と、にやりとしてしまいます。
さまざまな種類の短編が楽しめる贅沢
表題作「パズル」は、マッチングアプリで出会った「名探偵」に恋愛の謎を相談する物語。疑い、誤解、推理。物語は読者に「きっとこうだろう」と思わせながら、静かにその予想を裏切っていきます。
「竹やぶバーニング」は一転、七夕祭りの仙台を舞台に、竹に紛れ込んだ「かぐや姫」を探すドタバタ劇。現実と昔話が軽やかに混ざり合い、奇想天外なのにどこか人情味があります。
「透明ポーラーベア」は、行方不明になった姉の記憶と、シロクマの「透明な毛」の話が重なり、胸の奥に静かな余韻を残します。
「イヌゲンソーゴ」では、犬たちが語り手となり、人間社会を見つめます。おとぎ話や昔話が入り交じり、どこかで聞いたことのある物語が、現代版にアップデート。
そしてラストの「Weather」。結婚式という祝福の場で、過去と現在、友情と秘密が交錯します。最後に訪れる鮮やかな回収と余韻は、できれば他の短編を読んだあとに味わってほしいです。
ダジャレのようなオチが、たまらなく愛おしい
伊坂作品の魅力のひとつは、深刻になりすぎないユーモアです。
「竹やぶバーニング」では、物語のクライマックスが、まさかの「言葉遊び」的な着地を見せます。思わず「それか!」と声に出したくなる軽やかさ。
「イヌゲンソーゴ」でも、物語の展開の中にくすりと笑えるズレが潜んでいます。
重いテーマを扱いながらも、最後にふっと肩の力を抜いてくれる。その絶妙なバランス感覚が、この短編集全体を「幸福な読後感」へと導いています。
予想を覆す驚きが、いくつも待っている
「パズル」では、読者の推理を軽やかに裏切る真相が用意されています。「ああ、そう来たか」と思う瞬間の快感。
「透明ポーラーベア」では、姉の過去の恋人たちが思いがけない形で浮かび上がり、切なさと温かさが同時に押し寄せます。
「Weather」では、何気ない会話や細かい描写が最後に意味を持ち始めます。
伊坂幸太郎さんは、物語を「きれいに閉じる」作家です。けれど、その閉じ方は予定調和ではありません。少し意外で、でも確かにそこにしか辿り着けない結末。
それが、この本を読み終えたあとに誰かへ勧めたくなる理由です。
こんな人におすすめ
まとめ:人生は、パズルか。それとも天気か。
作中で語られる印象的な考え方があります。
他人のことはパズルだと思うよりも、天気だと思ったほうがいい。頑張って、ピースを探すのがパズルだけど、天気は自分の力ではどうにもできない。晴れるのも雨が降るのも操作はできないから、逆にこっちでそれにいかに合わせるか、いかに楽しむしかないんだって。
恋愛も、友情も、家族も。思い通りにならないことばかりです。
けれど、それを少しだけ優しく受け止められたとき、世界はほんの少しだけ晴れるのかもしれません。
『パズルと天気』は、そんな感覚をそっと差し出してくれる一冊です。
笑って、驚いて、少しだけ胸が熱くなる。そして最後には、きっと思う。
――やっぱり伊坂幸太郎さんは、うまい。


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