自然保護活動を積極的に行っている団体の裏側に、「考えなくていい世界」への誘いが隠されているとしたら――。
町田その子さんの小説『彼女たちは楽園で遊ぶ』は、親友を取り戻そうとする少女・凛音と、「特別」になれると信じて山の施設へやってきた初花、ふたりの視点が絡み合いながら進む青春×スリラーです。
舞台は、自然保護を掲げる団体「NI求会」。そこは大人たちが「楽園」と名づけた場所。しかし、その聖地で子どもたちは、目を覆いたくなる出来事と、禍々しい存在に直面していきます。
物語の中心にある、もうひとつの「楽園」
この物語の核に置かれているのが、伊坂幸太郎さんの小説『楽園の楽園』。
作中で「聖書」のように扱われるこの小説が、現実の出来事をじわじわと侵食していく構図がとにかく面白い。
フィクションが現実を動かし、人を熱狂させ、歪めていく。物語の中にもう一つの物語があることで、読者は「どこまでが信じていい世界なのか」を問い続けることになります。
本好きなら、この仕掛けだけでも胸が高鳴るはずです。

ホラー×ミステリーの中毒性
- 山でささやかれる「めぇ、くださりませ」という声
- 若者たちの不可解な死
- 着物姿の少女の影
そして、徐々に明かされていく地方の因習、怨霊伝承、生贄の歴史――。
背筋が冷えるホラー要素と、事件の真相を追うミステリー要素が絶妙に組み合わさり、ページをめくる手が止まりません。
怖い。けれど、真相を知らずにはいられない。まるで映画を観ているようなスピード感と映像的な展開で、一気読み必至です。
「自分で考えなくていい」という誘惑
本作でいちばん胸に刺さったのは、ここです。
大人や権力者たちは、こう言います。
- 選ばなくていい
- 考えなくていい
- 私たちが正しい道を示すから
それはとても甘く、安心できる言葉。でもそれは、思考を手放すことと引き換えです。
子どもたちが「大人の理想」のために利用されていく構図は、決して遠い世界の話ではありません。
宗教だけではない。広告も、SNSも、巨大な権力も、私たちにささやきます。「自分で考えなくていいんだよ」と。
だからこそ凛音の言葉が強く響きます。
「ちゃんと考えられる大人になりたい。選び取れる大人になりたい」
この一文だけでも、読む価値があります。
それでも、希望は消えない
物語は過酷です。失われるものも多い。取り戻せないものもある。
それでも、最後に残るのは希望でした。
大事なものは失われない。守ろうとする誰かがいれば、きっとつながっていく。
誰かが祈り、誰かが手渡しでつないでいく。スマホで何でも検索できる時代だからこそ、人と人が直接つなぐものの尊さが沁みます。
怖い物語なのに、読み終えたとき、心の奥にあたたかい灯がともる。それが町田そのこさんのすごさだと思いました。
こんな人におすすめ
まとめ:「選ぶ力」を取り戻す物語
この小説は、ただのスリラーではありません。「選ぶ力」を取り戻す物語です。
読み終えたあと、きっとあなたも誰かと語りたくなる。そして、そっと大切な人の顔を思い浮かべるはずです。
ぜひ、その「楽園」をのぞいてみてください。



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