世界が終わる物語は、これまで数え切れないほど描かれてきました。
けれど『楽園の楽園』が描くのは、「世界の終わり」ではありません。「ヒトの世界が終わるかもしれない」という、もっと静かで、もっと根源的な終末です。
ページ数は驚くほど少なく、挿絵も多いですが…。それなのに読み終えたあと、不思議な余韻と問いだけが、長く胸に残ります。
短いのに、ちゃんと面白い。だからこそ刺さる
本作は短篇と言っていい分量です。1ページあたりの文字数も少なく、あっという間に読み終わります。
それなのに、
- 終盤で一気に意味がつながっていく快感
- これまでの出来事が「そういうことだったのか」と反転する感覚
- ジブリ映画のワンシーンのような情景が脳裏に浮かぶ瞬間
が用意されています。
「コスパはどうなんだろう」と思いながら読み始めても、読み終えたときには「買ってよかった」と感じてしまう――そんな不思議な読み味の一冊です。
人間は、理由とストーリーを欲しがる生き物
この物語の核にあるのは、とてもシンプルで残酷な指摘です。
人間は、どんな出来事にも理由があり、物語があると思い込んでしまう。
なぜこんなことが起きたのか。誰が悪かったのか。意味は何なのか。
それを知ることで、人は安心します。原因と結果がつながる「ストーリー」を得ることで、世界を理解した気になれるからです。
だからこそ、昔話は「人の悪口を言って口が腐った」と教え、宗教は「原罪」という形で理不尽に理由を与え、そしてこの物語の中でも、人間は「物語」によって導かれていきます。
それが救いなのか、罠なのかも知らずに。
思い込みを、やさしく、しかし確実に覆してくる
この作品が強烈なのは、声高に人類を否定しないところです。
怒りでも、断罪でもない。ただ、
- 人間が一番賢いと思い込んでいないか
- 世界の中心に自分たちがいると思い違いしていないか
その思い込みを、そっと脇にどけてくれます。
短い物語だからこそ、その一撃は鋭く、逃げ場がありません。
伊坂幸太郎という作家の「濃縮版」
本作は
- 伊坂幸太郎らしいユーモア
- ファンタジックで少し毒のある世界観
- 人間と自然、生き物への独特の距離感
が、ぎゅっと濃縮された一冊です。
伊坂作品が好きな人にはたまらない一方で、現実主義的な物語を好む人には、少し理解が難しいかもしれません。
それでも――多くの人に、深く刺さる物語だと思います。
まとめ:物語に誘われたのは、作中の登場人物だけじゃない
読み終えたとき、ふと気づきます。
この本を手に取り、この話を「面白い」と感じ、意味を探して考え続けている自分自身もまた、「物語が大好きな人間」なのだと。
『楽園の楽園』は、短くて、静かで、やさしい顔をした一冊です。
けれどその奥には、「あなたは本当に、この世界を理解していると思いますか?」という、逃れられない問いが潜んでいます。
ぜひ、その問いに出会ってみてください。


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