毎日押し寄せてくる「やるべきこと」に疲れてしまったとき、ふと「どこか温かい場所に行きたい」と思うことはありませんか?
青山美智子さんの『遊園地ぐるぐるめ』は、まさにそんなときに手に取ってほしい、「読むだけで心の体温が1℃上がる物語」です。
古びた遊園地・山中青田遊園地、通称「ぐるぐるめ」。ここでは、不思議なピエロが迎えてくれて、訪れる人それぞれの心に、そっと寄り添う変化が起こります。
読むと「よし、頑張ってみようかな」と思える
本書に登場するのは、大学生、社会人、老夫婦、家族連れ、部活動を終えた高校生…と幅広い人々。それぞれが悩みや不安を抱えながら遊園地を訪れ、ひとつのアトラクションをきっかけに心を少しだけ前へ動かしていきます。
- 怖くて目を閉じていた絶叫マシンの頂上で、思わず息をのむほどの景色を見ること
- 「自分がサジェストできる価値」を知る瞬間
- 年齢を重ねても誰かを喜ばせようとする優しい手仕事
- 家族の中の、静かだけれど揺るぎない愛
- 仲間に向けていた信頼が、自分を導いてきたことへの気づき
どのエピソードも、一歩踏み出したくなるような余韻を残してくれます。読後、胸の奥でふわっと灯りがともるような感覚が残るはずです。
「笑顔になる温かさ」がページの中に満ちている
遊園地という舞台は、ただの背景ではありません。ここではピエロの手品から、ミニチュアアートの世界観まで、にぎやかだけれどどこか優しく、読む人をほほえませる仕掛けがたくさん散りばめられています。
特に印象的なのが、ピエロの存在。うまく周囲に馴染めず悩みながらも、「地球上にたったひとりのお客さん」と向き合う姿は、愛おしくて、そして励まされます。
まさに「笑顔になる温かさが満ちた作品」という言葉がぴったり。
作品そのものが遊園地のゆるやかな魔法をまとっていて、「読んでいるだけで楽しい」という希有な体験を運んできます。
「わかろうとする」ことの大切さを、そっと教えてくれる
この物語で繰り返し描かれるのは、「人の気持ちを完全に理解することは難しい」という厳しくも当たり前の現実。
でも同時に、「だからこそ、わかろうとする努力が尊い」と優しく伝えてくれるのが、本書の魅力です。
バーガーショップでのエピソードや、仲間とのやりとり、家族との会話──どれも大きなドラマではありませんが、「相手をちゃんと見ようとする眼差し」が物語の随所に流れています。
読んでいるうちに、「ああ、私もあの人にちゃんと向き合えていたかな?」そんな小さな自問が生まれて、気づけば心が少し柔らかくなっています。
青山美智子作品らしい、世代を超えて沁みる優しさ
青山さんの作品を読んだことがある方はご存じのとおり、「老若男女、誰が読んでも温かい気持ちになれる」という空気感が本書にも満ちています。
さらに、田中達也さんのミニチュアアートとのコラボによって、装丁から物語世界までがファンタジックに彩られており、紙の本を手元に置いておきたくなる一冊です。
まとめ
『遊園地ぐるぐるめ』は、
- 前向きになりたいとき
- 優しさに触れたいとき
- 誰かとの関係に悩んだとき
- ただ笑顔になりたいとき
そんなすべての瞬間に寄り添ってくれる作品です。
ぐるぐる回っているうちに、いつの間にか見える景色が変わっている──そんな遊園地の魔法が、きっとあなたの心にも届きます。


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