誰かを犠牲にしてでも生き延びたい!/夕木春央『方舟』感想

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誰かを犠牲にしないと死ぬ状況に追い込まれたらどうしますか?

私は自己犠牲の道を選びたいとは思っているものの、実際は誰かを犠牲にしてでも、なんとかして生き延びようとすると思います。

方舟はこぶね』では、そんな極限の状況に追い込まれた人たちの心理戦が描かれていたので、ハラハラ&ドキドキが止まりませんでした。

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おすすめポイントとあらすじ

おすすめ度:3.6

  • 自分が助かるには誰かを犠牲にしなければいけないという設定に引き込まれる
  • 殺人事件の犯人と動機が気になって一気に読んでしまう
  • ラストはどんでん返しに驚かされる
あらすじ
大学時代の友人5人と従兄と共に長野県にある別荘に来た越野柊一しゅういちは、父が別荘の所有者である西村裕哉に連れられて、山奥にある地下建築「方舟」を探索していました。そこに、きのこ狩りをして道に迷った3人家族が合流します。ところが、夜が明けると地震が起こり、出入り口が岩で塞がれました。水も流入してきたので、1週間以内に脱出する必要に迫られますが、誰かを犠牲にしないと脱出できないことがわかります。しかも、友人のひとりが殺され…。

感想

集団の中で生きるには、ある程度の自己犠牲が必要ですが、さすがに生死に関わるとなると、他の誰かを犠牲にしてでも生き延びたくなります。

本作は、「10人のうち1人を犠牲にすれば、自分は助かる状況に追い込まれたらどうする?」をテーマに描かれたミステリです。

地下1階から3階で構成された地下建築「方舟」に閉じ込められた10人は、地下3階から水が流入してきたため、どうにかして1週間以内に脱出する必要に迫られます。

しかし、脱出するには、少なくとも誰か1人が地下2階にある巻き上げ機を回して、地下1階の出入り口を塞いでいる岩を下に落とす必要がありましたが、巻き上げ機を動かした人は、落ちてきた岩で閉じ込められてしまい、脱出できなくなることがわかりました。

このような状況に追い込まれたら、どうしますか?

私なら、他の誰かが犠牲者に選ばれることを祈りながら、目立たないように上手く振る舞おうとします。

本作でも、犠牲者を選ぶ心理戦が始まりますが、殺人事件が起きたことで状況は一変しました。

人を殺すような不届き者を犠牲者にすればいい!というわけです。

たしかに、この方法であれば、犯人でなければ、犠牲者に選ばれる確率は劇的に低くなり、心理的にも悪い奴が選ばれたと思えるので安心です。

とはいえ、犯人につながる手がかりは見つからず、それ以前に、人が減れば犠牲者に選ばれる確率は高くなるのに、なぜ犯人はこのタイミングで犯行に及んだのか?という疑問が湧き上がってきます。

それでも、登場人物たちは、そんな疑問は無視して、犯人を見つけ出し、自分だけでも助かろうとするので、冷静に眺めていると嫌な気持ちになりますが、同じ状況に追い込まれたら、私も自分だけでも助かろうとすると思います。

自分の命を犠牲にしてまで助けたいと思うのは、妻と子どもくらいかもしれません。

つまり、私が心から愛情を注げる相手は、とても少ないってことが明らかになり、人間としてまだまだだと痛感させられました。

誰かを犠牲にしてでも自分だけは生き残ろうとする人たちの心理と、どんでん返しに驚かされるエンタメミステリに興味がある方におすすめの小説です。

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