伊藤潤『夜叉の都』感想/権力闘争に明け暮れた先に待っているものは?

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仕事でもプライベートでも権力闘争に明け暮れていませんか?

私は権力に興味がないので、闘争する気はありませんが、それでも権力志向の人たちに絡まれることがあります。

そんなとき、権力闘争に明け暮れた先には一体何が待ち受けているのだろうと思うのですが、伊藤潤さんの小説『夜叉の都』を読んで、その結末は虚しいものだとわかりました。

権力闘争に明け暮れる前に、本当に自分にとって大切なのは何なのかを考えたくなる物語です。

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『夜叉の都』の情報

タイトル 夜叉の都 
著者 伊藤潤 
おすすめ度 4.0 
ジャンル 歴史・時代 
出版 文藝春秋 (2021/11/22) 
ページ数 400ページ (単行本) 

おすすめポイント

  • 権力闘争に明け暮れる人たちの姿に心が痛む
  • 誰もが自分のことしか考えない姿に恐ろしさを感じる
  • 権力闘争に明け暮れた先に待っているのは虚しさだとわかる

『夜叉の都』のあらすじ

源頼朝と共に鎌倉幕府を開く夢を実現した北条政子でしたが、その道のりは決して楽しいものではありませんでした。

しかも、頼朝が落馬して亡くなった今では、将軍職を継いだ息子の頼家よりいえが酒色に溺れ、気に入らない人物を次々と粛清していったので、いつ北条家を潰そうとするかわかりませんでした。

そこで、政子の弟である義時が、将軍家の力を弱めるために、頼家の側近である梶原氏の失脚を画策します。

しかし、これは波乱の幕開けに過ぎませんでした。

政子は、鎌倉幕府を、北条家を守るために、次々と襲いかかってくる政敵に夜叉となって立ち向かっていきますが…。

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『夜叉の都』の感想

権力闘争に明け暮れる人たちの姿に心が痛む

目の前の敵を倒せば、すべてがうまくいくと思っていませんか?

『夜叉の都』の主人公・北条政子やその弟・北条義時も、そう思って目の前の政敵を倒していきましたが、どれだけ倒しても、新たな政敵が現れました。

いずれは北条一族をも滅ぼそうとするであろう将軍家の力を弱めるために、頼家の側近である梶原氏を讒言で陥れた義時でしたが、その直後に後鳥羽上皇が鎌倉幕府を逆賊として討ち果たそうとしていることがわかります。

そこで、酒色に興じる長男の頼家を将軍職から引き摺り下ろし、次男の実朝さねともを将軍職につけて対抗しようとしますが、今度は実朝が政子たちの指示に従わずに、自らの考えで行動しはじめました。

しかも実朝は、武士を滅ぼそうとしている後鳥羽上皇との関係を強くしようと、足利との婚姻を断って、京から室を迎えることにこだわります。

こうして、またしても将軍が北条家を、鎌倉幕府を滅ぼしかねないと心を痛めることになった政子でしたが、畠山重忠が乱を起こすと、北条家の中でも争いが起こりました。

さらに…というように、目の前の敵を倒しても、すぐに新たな敵が現れ、また殺しあう姿が描かれていたので、心が痛みました。

誰もが自分のことしか考えていない

では、なぜ彼らは権力闘争に明け暮れたのでしょうか。

それは、誰もが自分のことしか考えていなかったからです。

たとえば、将軍職を継いだ頼朝の息子たちは、北条家などの鎌倉武士たちのおかげで今があることを忘れ、むしろ邪魔だと言わんばかりに独断で行動しはじめました。

長男の頼家は、北条時政や大江広元らが「十三人の合議制」と呼ばれる、宿老たち数名が評議し、その結果を頼家に提示して決裁を仰ぐ方式に不満を持っていました。

もっと側近たちに力を持たせたいという理由でしたが、そのせいもあってか、将軍としての力を見せつけるように、頼朝の側近だった安達家の妾に想いを寄せて拉致するなど、酒色に溺れ、好き放題に振るまっていきます。

一方、次男の実朝は、鎌倉武士たちの力を削ごうとしていた後鳥羽上皇との関係を深めていきました。

鎌倉武士のおかげで将軍職に就けたのに、その恩を忘れ、むしろ力を削ぐような行動をとっていきます。

このように、将軍職を継いだ頼朝の息子たちは、武士たちの恩を忘れ、自分のことしか考えずに行動していった結果、身を滅ぼしますが、残念ながら北条を含む武士たちも自分のことしか考えていませんでした。

権力を手に入れるために、讒言や暗殺など当たり前の日々を過ごしていきます。

そんな権力闘争に明け暮れる人たちの姿に、恐ろしさを感じました。

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権力闘争に明け暮れた先に待っているものは?

こうした権力闘争に明け暮れる人たちと共に鎌倉時代を生きた北条政子は、夜叉となって鎌倉幕府を、北条家を命がけで守ろうとします。

しかし、そうした先に待っていたのは、彼女が望んでいたものとはまったく異なっていました。

北条一族は、憎しみ合う関係になり、父は追放され、息子や孫たちは次々と殺されていきます。

北条家の繁栄を願ったはずなのに、北条一族同士で殺し合い、憎しみあうことになりました。

もちろん、戦で勝ったものが正義だという時代だからこその権力闘争なのですが、そうして憎しみ合い、殺し合った結果、残されたものを見てみると、果たして憎み合い、殺し合った意味はあったのだろうかと考えさせられます。

また、本当に欲しいものは、権力闘争では得られないと思えるラストにも、いろいろ考えさせられる物語でした。

まとめ

今回は、伊藤潤さんの小説『夜叉の都』のあらすじと感想を紹介してきました。

鎌倉幕府を、北条家を守るために、苦悩しながらも、自ら悪鬼となって行動する北条政子の生涯に心が痛む物語です。

また、他人を犠牲にしてまで手に入れるほどの価値あるものは本当に存在するのか?と考えさせられる物語でもありました。

気になった方は、ぜひ読んでみてください。

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