大人になれていますか?
私は大人になれているつもりでしたが、池井戸潤さんの小説『民王』を読んで、子供化していたかも…と反省しました。
コロナになった今でも要求ばかりする人たちがいるように、多くの日本人が子供化していることがわかる物語なんですよね。
おすすめ度:
こんな人におすすめ
- 政治を舞台に繰り広げられるエンタメ小説を読んでみたい人
- 人格が入れ替わる物語が好きな人
- 日本人が子供化している事実がわかる物語に興味がある人
- 池井戸潤さんの小説が好きな人
あらすじ:主人公の総理大臣が息子と入れ替わる物語
物語の主人公は、内閣総理大臣になったばかりの武藤泰山。
彼は総理大臣になってすぐに解散するように言われましたが、解散時期については慎重になっていました。
彼が所属する民政党が、この前の参議院選挙で大敗して、ねじれ国会になっていたからです。
ところが、内閣が発足してすぐに、国土交通大臣に任命した江見が問題発言をします。
さらに、国会でその問題発言を野党から追求されていたときに、なぜか息子と人格が入れ替わってしまったのです。
泰山の息子・翔は、京成大学に通う大学生でしたが、夜な夜なクラブで遊び歩き、親のツケで高級ワインを呑んで騒ぐようなバカ息子でした。
そのせいで、2回も留年していましたが、反省していませんでした。
そんな翔が、父の代わりに国会で答弁することになり…。という物語が楽しめる小説です。
感想①:総理大臣とバカ息子が入れ替わるという設定にハマる
あらすじでも紹介したように、総理大臣の武藤泰山は、なぜかバカ息子と人格が入れ替わりました。
まるで、『君の名は。』のような設定ですが、入れ替わる相手が総理大臣とバカな大学生という設定が面白いんですよね。
とはいえ、この背景には、内閣総理大臣が漢字の読み間違えをしたり、
経済産業大臣が酩酊状態で記者会見に臨んだり…という実際にあった騒動が関係しています。
このようなミスや騒動を起こしたのは、総理大臣や経済産業大臣が本人ではなく、実は社会経験のない遊び呆けていた大学生だったから…。
という、池井戸潤さんの皮肉が込められているんですよね。
そうでなければ、国の代表がそんな醜態は晒さないはずだ、という思いが込められているように思います。
畠中恵さんの小説『アコギなのかリッパなのか』では、政治家になるのがどれだけ大変なのかが描かれていましたが、

この小説では、いかに政治家が頼りないかが描かれていました。
感想②:与党も野党もマスコミも同じ
とはいえ、野党はしっかりしているのか?…といえば、全くそんなことはありません。
予算委員会の答弁では、世間で話題になっている「バナナを使った女性関係のスキャンダル」の質問ばかりします。
そんなバカな政治家たちの姿を見た翔が、野党をぶった斬るんですよね。
「だいたいお前ら、なんのために国会議員やっているんだよ。そんなくだらねえ質問をするためか。いいか、民意はな、バナナのことなんてどうでもいいんだよ。そんなことよりも、もっと国を良くしてくれ、景気をなんとかしてくれって、そう思っているはずだ。それなのになんだ。くだらねえマスコミに便乗し、党首までのこのこ出てきてバナナだなんだと時間のムダ遣いだ。それで恥ずかしくないのか!もう一度いう、ここは予算を話し合う場だろう。お前ら、国家予算よりバナナのほうが大事か?そりゃ、違うだろう。顔洗って出なおしてきやがれ!」
もちろん、どうでもいいスキャンダルばかり垂れ流しているマスコミも同じです。
「いったいあんたたちの仕事はなんなんだ。人の私生活を暴いて、女とああしたこうしたと書き立てることか?それがいったいなんなんだ。意味ねーだろ。お前らマスコミがバカだから、国民もどんどん勘違いしてバカになるんだ」
これらは現実でも思い当たるところがありますよね。
伊坂幸太郎さんの小説『バイバイ、ブラックバード』では、世間から奇異の目で見られてきた女性が本質を突く物語が楽しめましたが、

この小説では、バカだけど純粋な大学生が、物事の本質を突く姿が楽しめました。
感想③:子供化している日本人が描かれている
さて、この小説では、日本人が子供化している姿が浮き彫りになるように描かれているように思います。
たとえば、泰山のセリフを通して次のように表現されています。
「日本中がどうも子供じみているような気がする。政治家に女がいたらけしからんとなり、増税だといえばとんでもないとなる。一方で、各世帯に金をばらまくとか、高速道路を安くするとか――そんな目先の利益に飛びつく。それでいいのか?いまのご時世、世論なんてものはどこにもない。あるのは要求だけだ。この日本に、日本の将来を真剣に考えて投票する人間が果たしてどれだけいる?」
もちろん、これは過去の話ではなく、コロナになった今でも同じです。
目先の利益ばかり優先する議論が飛び交い、意に反するような意見には「リコール」という脅しをかけたりと、子供じみています。
もちろん、与党も野党も、右翼も左翼も関係ありません。
『フランス人は10着しか服を持たない』の感想で、日本には、大人になりきれていない、子供のような大人が溢れているのかもしれないと書きましたが、

この小説では、思考力も子供化していることがわかりました。
とはいえ、私も極論に反応しがちなので、気をつけなければ…と反省していますが。
まとめ
今回は池井戸潤さんの小説『民王』のあらすじと感想を紹介してきました。
日本人が子供化していることがわかるだけでなく、エンタメ小説としても楽しめるので、気になった方は、ぜひ読んでみてください。
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