希望ある人生を歩んでいますか?
私は希望を抱いて生きていますが、何のために生きているのかわからないまま、日々を過ごしている人たちも大勢います。
そんな若者たちを描いた物語が岸政彦さんの小説『ビニール傘』。
希望をもたずに生きる人生が、どれほど無味乾燥なものなのかが伝わってくる物語です。
おすすめ度:
こんな人におすすめ
- 希望がもてない若者たちの生き方に興味がある人
- 散文のような物語に興味がある人
- 日常を描いた物語が好きな人
- 淡々と語られる物語が好きな人
あらすじ:大阪で暮らす若者たちの物語
物語の主人公は、大阪の繁華街から少し離れた此花、西九条、野田あたりに住む若者たち。
この小説では、
- タクシー運転手の男
- 水商売の女
- 清掃作業の会社で働く男
- コンビニ店員の男
- 工場で日雇い労働をする男
- 部屋に引きこもる女
- 日雇いで解体現場で働く男
- ガールズバーの女
- 美容師の女
などが登場しますが、ほとんどの登場人物に名前が与えられておらず、誰が誰なのかをあえて明確にしないまま描かれていきます。
そのため、他にも登場人物がいるかもしれませんし、上で挙げた人たちの中にも同一人物がいる可能性があります。
さらに、時系列もバラバラで、誰が会話をしているのかもわからない描かれ方をしているので、
「大阪に住む希望をもたずに生きる若者たち」が主人公の物語として読むことになるんですよね。
この書き方に「面白い!」と思うか、「ありきたりな人たちを並べて何が言いたいの?」と思うかで、評価が分かれるところだと思います。
さて、前置きが長くなりましたが、この物語では、こういった若者たちが、何の目的もないまま、過ごしていく姿が描かれていきます。
たとえば…。
希望なく毎日を過ごす若者たちの思いが描かれる
自宅マンションのエレベーターにカップラーメンの容器が転がっているのを見て、
あれはただ、ゴミを捨てるのがめんどくさいとか、マナーが悪いとか、そういうことじゃなくて、もっと何か攻撃的な感じ。
と、自分の中に鬱屈している気持ちをカップラーメンの容器を通して表現しています。
他にも、
みんなゴミを吸い、ゴミを読み、ゴミを食っている。
と自分たちの置かれている環境はゴミみたいなものだと言い現わしています。
とはいえ、彼らは決して自分から何かを変えようとはしません。
たとえば、
なんとなく、誰かと話をしたいな、と思った。たとえば、黒い髪の、水商売の女なんかと。つらいことがあれば聞いてやりたい。自分の話なんかしないで、ただ愚痴を聞いてやるのに。
と、異性とのゆるいつながりを求める一方で、
長い間ひとりで生きてきて、そのことに慣れすぎてしまって、いまからだれかと関係を作ることは、想像しただけでしんどい。
と自ら動き出そうという意欲がまったくありません。
また、すでに異性と同棲している男も、
そもそも、俺はこいつと付き合っているんだろうか。
ただなんとなく付き合うことになって、短期間だが一緒に暮らしたこともあったが、俺はこいつがいなくなっても何も変わらないだろうなと思った。
と、彼女との未来を描けずに、なんとなく日々を過ごしていることがわかります。
このように、未来を描けない若者たちの姿に、心がグッと締め付けられる人もいるのでしょうが…。
現実に甘えて生きる若者たちをどう感じるか?
私はもっと悲惨な状況から這い上がってきたので、「甘えた若者たちの物語」にしか思えませんでした。
「希望は自分で描くものだ!」
「毎日必死になって行動しろ!」
なんて思いながら読んでいたので、私の心にはまったく響かなかったんですよね。
とはいえ、貧乏な暮らしを知らない人にとっては、
「こんなつらい現実があるのか!?」
と胸が締め付けられる物語かもしれません。
気になった方は、ぜひ読んでみてください。
あわせて読みたい

コメント