小川糸『とわの庭』感想/母に捨てられても今を懸命に生きる少女の物語

おすすめ小説

心から信頼していた人に裏切られたら、どうしますか?

私は心の中が恨みで溢れそうになると思いますが、小川糸さんの小説『とわの庭』の主人公は違いました。

母に捨てられたせいで悲惨な毎日を過ごしてきたのに、過去にとらわれず、今を懸命に生きるんですよね。

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『とわの庭』の情報

タイトル とわの庭
著者 小川糸
おすすめ度 4.0
ジャンル ヒューマンドラマ
出版 新潮社 (2020/10/29)
ページ数 247ページ (単行本)
第34回 山本周五郎賞の候補になった作品です。

おすすめ理由

  • ネグレクトの親の気持ちと子供の気持ちがわかる
  • 目が見えないことで起こる様々な困難を疑似体験できる
  • 登場人物たちの生命力に励まされる
  • 前半が暗すぎる

『とわの庭』の簡単な紹介

今回は、小川糸さんの小説『とわの庭』を紹介します。

母さんと二人で暮らしていた目が見えない少女が、母さんに捨てられ、長い間一人で暮らし、周りの人たちに助けられながら自立していく物語です。

読みはじめた直後は、本の表紙のイメージもあって、母さんと少女の愛情が描かれたゆるい物語だと思っていたので驚きましたが、

読み進めていくと、娘に対する母さんの態度が徐々に変わっていく理由が気になり、ページをめくる手が止まらなくなりました。

また、母さんに捨てられて一人で暮らすようになってからは、その悲惨な毎日に心が痛みました。

それでも母さんを恨むことなく、今を懸命に生きる少女に励まされたんですよね。

生命力あふれる主人公の物語に触れてみたい人におすすめの小説です。

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『とわの庭』のあらすじと感想

ここからは、『とわの庭』のあらすじと感想を紹介していきます。

はじまり:母さんと二人で暮らす目が見えない少女

あらすじ

物語の主人公は、目が見えない少女・とわ。

彼女は、物心がつく頃には「明るい」と「暗い」しか識別できなくなっており、今ではそれらの境界も曖昧になり、暗闇のなかで暮らしていました。

そんな彼女の太陽になったのが、母さんです。

母さんは、とわにも季節の巡りがわかるようにと、沈丁花(ちんちょうげ)や金木犀(きんもくせい)などの香りがする木を庭に植えて、「とわの庭」と名付けました。

他にも、文字を教えたり、本を読んだりと、とわに優しく接していましたが、お金がないので働きに行くと言い出してから少しずつ接し方が変わっていきます。

母さんが働きにいくときは、とわは頭が重くなるネムリグスリを飲まされて、嫌がってもオムツを履かされて寝かしつけられました。

さらに、誰が尋ねてきても絶対にドアを開けてはいけない、返事をしてもいけないと言われます。

こうして一人でお留守番をするようになったとわでしたが、ある日突然、母さんが今日がとわの10歳の誕生日だと言い出し…。

感想

はじめは目が見ないとわと母さんのゆるい愛情物語なのかな…と思いながら読み進めていましたが、週に一度生活必需品を運んでくるオットさんの登場ですぐに違和感を覚えました。

母さんはオットさんと顔を合わせることなく生活必需品を受け取り、しかも彼が何者なのか、とわに教えなかったからです。

さらに、母さんが仕事を始めてからは、とわに対して「適当に何か食べてくれる?」と言ったり(とわは、目が見えず、料理もできなかったので、カップ焼きそばを適当に作って食べることしかできず、次の日には必ずお腹を壊していたのに…)、

仕事に出かけるときも、とわに睡眠薬を飲ませて強制的に寝かせつけ、誰が尋ねてきても声を出すなと言うなど怪しすぎです。

それだけでなく、10歳になるまで誕生日を教えたことも、祝ったこともなく、母さんが何かを隠していることは明らかです。

そんな怪しすぎる母さんが何を隠しているのかが気になり、ページをめくる手が止まらなくなりました。

サバイバル:一人で生活することになったとわ

あらすじ

母さんは、仕事をするようになってから喜怒哀楽が激しくなり、とわを叩くようになりました。

それだけでなく、ある日、忽然と姿を消します。

家に一人取り残されたとわは、週に一度、オットさんから届けられる生活必需品だけを頼りに暮らしていましたが、オットさんの訪問回数も徐々に減っていき、ピタッとなくなりました。

それでも生きていくために、とわは床に落ちている良い匂いのするものを片っぱしから食べていきますが、

モノが溢れてキッチンもお風呂もトイレも使えなくなった家の床には、異臭がするオムツやガサゴソと音がするビニール袋などが溢れかえっていました。

こうして自分の爪や髪の毛を食べたくなるほど、ひもじい思いをしていたとわでしたが、母さんの「家から出てはいけない」という言いつけを守って一人で家に居続けます。

「とわの庭」に生えている植物や、どこからか聞こえてくるピアノの音を生きがいに、とわは母さんの帰りを一人待ち続けていました。

しかし、ある日。地震が起こったことで…。

感想

10歳になったばかりの少女が一人で生活をするだけでも大変なのに、さらに目が見えないことで困難が次々と押し寄せてきます。

たとえば、オットさんが持ってきてくれた生活必需品の中には缶詰がありましたが、目が見えないとわには中身がわからず、開けるのも難しかったので、ひもじい思いをしても手をつけられずにいました。

また、そもそも床が散らかっていたので、トイレやお風呂に辿り着くことができず、自分から放たれる異臭と、周りから漂ってくる異臭に悩まされていました。

それでもとわは、母さんが帰ってくると信じて、床に転がっていた良い匂いがするものを片っ端から口にして生き延びていくんですよね。

そんなとわの姿を見ていると、娘がどんな暮らしをすることになるかわかっていたのに、一人家を出ていった母さんに激しい怒りが湧いてきました。

現実でも、ネグレクトがよく問題になっていますが、育児放棄された子供のツラさがよくわかる物語です。

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養護施設〜ラストへ:周りの人たちに助けられて自立していくとわ

あらすじ

地震が起きても母さんが助けに来なかったという現実に直面したとわは、勇気を出して外の世界へと一歩踏み出しました。

とはいえ、生まれてからほとんど外出したことがなく、また極度の栄養失調になっていたとわは、すぐに倒れてしまいますが、通りかかった40代の女性が救急車を呼んでくれます。

そのおかげで、とわは病院で治療を受けることができ、さらに児童養護施設で暮らせるようになりました。

児童養護施設で暮らすようになったとわは、はじめは母さん以外の人間が大勢いることに驚き、パニックを起こしてばかりいましたが、

何度パニックになっても優しく寄り添ってくれるスズちゃんのおかげで落ち着くようになります。

さらに、スズちゃんは一緒にお風呂に入って洗い方を教えてくれたり、おむつを取ってトイレの仕方を教えてくれたりしたので、とわは少しずつ出来ることが増えていきました。

こうして、ある程度、自分のことは自分でできるようになったとわは、グループホームと呼ばれる施設に居続けることもできましたが、盲導犬のジョイと一緒にもとの家に戻ることを決めて…。

感想

母さんから生きる術を教わってこなかったとわが、児童養護施設の人やボランティアの人たちに助けられて自立していく姿に胸が熱くなります。

また、とわは母さんから酷い仕打ちを受けていましたが、恨んだり憎んだりすることなく、今を精一杯楽しもうと行動していきました。

盲導犬のジョイと一緒に図書館に行って、録音図書で大好きな読書を楽しんだり、

ボランティアのリヒトくんに動物たちの様子を実況中継してもらいながら、動物園を歩き回ったり、

近所に住む60代前半のマリさんとお茶友達になったりと、これまでの不幸に浸るのではなく、前を向いて今を生きる姿に励まされました。

しかも、ラストは母さんとの絆も描かれていたので、温かくて優しい気持ちになれました。

まとめ

今回は、小川糸さんの小説『とわの庭』のあらすじと感想を紹介してきました。

長年信じてきた母さんに裏切られても、母さんを恨むことなく、今を懸命に生きる少女に励まされる物語です。

気になった方は、ぜひ読んでみてください。

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