バブルの怪人と闘うトッカイをご存知ですか?
「整理回収機構 不良債権特別回収部」という国が設立した組織で、
バブル時代に悪事に手を染め、バブルが崩壊してからも借金を返そうとしない商人たちから不良債権を回収しようとする人たちのことです。
実は今でもトッカイが奮闘して不良債権を回収し続けているんですよね。
怪商とトッカイの対決が描かれている物語
ここからは、清武英利さんの著書『トッカイ』を参考に紹介していきます。
物語は西本願寺と東本願寺に挟まれた下京区仏具屋町の一角にある仏具屋が、近所のお寺から相談を受けるところから始まります。
内容はお寺を売りたいという怪しげなものだったので、仏具屋は中学校以来の旧友である西山正彦という人物を紹介しました。
義侠心のある男だから話に乗ってくれるかもしれないというのです。
その数日後。大雲寺から梵鐘や十一面観音像、千体仏、襖絵などの寺宝、秘宝などがすべて消えました。
これに味をしめた西山は、天皇家の血を引く人々が務めた門跡寺院である実相院を潰すと言い出します。
こうして西山は、通称「白足袋族」と呼ばれる神社仏閣の僧侶や神主などと繋がるようになり、不動産業者として、京都仏教会を裏で指揮するようになりました。
京都市が赤字経営で苦しみ、有料拝観に対して一人一回五十円の税金をかけるという「古都税」を実行しようとしたときも、
金閣寺や清水寺などの有名寺院が猛反対し、拝観を禁止するなどの強硬手段にでましたが、西山はその代表者として、京都市長とやり合い、古都税を撤廃させました。
しかし、ついに西山が正式な手続きもせずに、梵鐘を買い取ったり、境内地などを不正売買したりした疑いで警察が動き出します。文化財保護法違反の容疑です。
ところが、警察が強制捜査をした三日後に、京都地検が任意調べにすべきだと介入してきたので、捜査は一気に萎みました。書類送検しても、京都地検が不起訴処分にしたのです。
おそらく、寺や神社に対する忖度が働いたのでしょう。
こうして西山は、処分されることなく、京都を中心に次々と不動産投資を手掛けていきます。
バブル景気に突入すると、さらに大量のお金を住宅金融専門会社(住専)から借りて投資を進めましたが、
バブルが崩壊して、返済を迫られるようになっても、一円も返そうとはしませんでした。
この不良債権に立ち向かうことになったのが、トッカイと呼ばれる「整理回収機構 不良債権特別回収部」です。
事実をベースに怪物商人とトッカイの対決が描かれた物語です。
怪商と呼ばれる人物が存在した
先ほど、西山という怪物のような商人を紹介しましたが、大阪にも末野謙一という怪商がいました。
彼は幼少の頃、貧乏でしたが、ダンプカーを購入して「末野組」を起こします。
大阪万博では、ダンプカーを50台も買って動かし、数十億円を手にしました。
しかし、万博景気が終わると、新たな事業に手をつける必要に迫られ、売り出されていた新町一丁目のビル購入に踏み切ります。
花街だったので、地価が安く、また今後不動産は儲かると考えたからです。
こうして末野は、大阪では有名なお茶屋街を、雑居ビルのムラに変えました。
違法建築でビルを建て、ラブホテルやパチンコ屋を始めて大金を手にするんですよね。
建てれば建てるほど儲かったからです。その後、違法建築で逮捕されましたが…。
こうして末野グループの借入残高は、一兆円を超えるまでに至りました。全国に260棟の貸与ビルを持つまでになったのです。
その後、バブル景気が起きます。このとき、末野はさらに多くのお金を借りましたが、西山と同じく借りたお金を返そうとはしませんでした。
ちなみに、金融機関に年間で支払わなければいけない金額は450億ほどでした。さらに建設中の工事代請負代金が約500億もありました。
それにも関わらず、住宅金融専門会社は、バブルが崩壊するまで、末野や西山にお金を貸し続けるんですよね。
伊坂幸太郎さんの小説『ゴールデンスランバー』では、冤罪に陥れられた主人公が逃げ惑う姿が描かれていましたが、

この物語では、それとは逆に、悪事に手を染める人間に住専がお金を注ぎ込んでいく姿に驚かされます。
政府が悪事に手を染めた人たちを税金で救う
もちろん、住宅金融専門会社だけが問題を抱えていたわけではありません。
銀行も似たようなものでした。ヤバい取引だとわかった上で、住専に紹介していたからです。
また、政府関係者にも責任がありました。
大阪にあった木津信用組合が破綻することになったのは、末野謙一が引き金を引いたからですが、その裏には大阪府知事の存在がありました。
末野は、木津信用組合に業務停止命令が出る数ヶ月前から合計で560億円近くある預金を引き出していました。
業務停止1日前に残りの預金全額を引き出すなど、明らかに破綻することを知っていたのです。
なぜなら、業務停止命令の発令者だった横山ノック大阪府知事から事前に連絡があったからです。
つまり、大阪府知事がインサイダー情報を流していたんですよね。
その後、末野や西山といった怪商が借りたお金を返さなかったため、住宅金融専門会社8社のうち7社が破綻に追い込まれます。
回収できていないのに、さらにお金を貸していたので、住専に問題があるのは明らかでしたが、なぜか国の税金・6850億をつぎ込んで政府が助けたのです。
当時の首相だった橋本龍太郎は国会で追及されましたが、何も説明しませんでした。
ちなみに、地方の名士が住専のひとつである農林系の役員になっており、それを救うために税金を支払ったのだと言われています。
その後、農林系の共同住宅ローンを除く住専7社が倒産、消滅することが決まり、住宅金融債権管理機構なる新組織が作られて、債権回収をやることになりました。これがトッカイの前身です。
とはいえ、政府の無策はまだまだ続きます。
北海道開拓銀行の破綻に続いて山一證券が自主廃業を発表すると、政府は公的資金30兆円を導入しました。
こうして政府の無策が金融システムに危機をもたらしたのです。
海堂尊さんの小説『コロナ黙示録』では、安倍政権の異常な振る舞いが描かれていましたが、

この物語からもわかるように、政治家の感覚は、庶民のものとは大きくかけ離れていることがわかります。
今でも問題は残り続けている
さて、ここまで紹介してきた不良債権をトッカイに配属された人たちが、暴力団などを相手に命懸けで回収していくわけですが、
実は今でもこの戦いは続いています。
ハワイや西インド諸島、香港やシンガポールに隠されたお金を取り戻しにかかるなど、引き続き隠されたお金を回収しようと奮闘する人たちがいるのです。
また、大阪では、末野のファミリー企業が今でも不動産業者として看板を立てかけています。
悪事に手を染め、大金を手に入れ、豪華な暮らしをしてきた人間が未だにのさばっているんですよね。
一方で、こういった悪事のほとんどが、税金の大量投入によって無かったものにされてきたのです。
こういった事実を知ると、南杏子さんの小説『いのちの停車場』の感想にも書きましたが、法律がいかに無力か思い知らされます。
芸能人のスキャンダルを騒ぎ立てる人は大勢いますが、こういった不祥事にもっと多くの人たちが目を向けるべきだと教えられる物語でした。
まとめ
今回は、清武英利さんの著書『トッカイ』を参考に、バブル時代の怪商と闘うトッカイについて紹介してきました。
まるで小説のような物語ですが、ノンフィクションです。
私たちの税金がいかに無駄に使われてきたのかがわかる物語でもあるので、気になった方は、ぜひ読んでみてください。
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