伊坂幸太郎『首折り男のための協奏曲』は理不尽な目にあってもいつかは救われると思える物語

おすすめ小説

理不尽な目にあうことってありますよね。

そんなとき、どうすることも出来なくて、落ち込んでしまいがちですが、

伊坂幸太郎さんの小説『首折り男のための協奏曲』を読んで、しばらく耐えれば救われるかも!?と思えるようになりました。

タイトルの恐ろしさとは裏腹に、前向きな気持ちになれる物語なんですよね。

おすすめ度:4.5

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こんな人におすすめ

  • 理不尽な目にあっても救われる理由が知りたい人
  • ラストに驚きがある物語が好きな人
  • 異なるジャンルの短編がゆるくつながっていく物語が好きな人
  • 伊坂幸太郎さんの小説が好きな人

あらすじ:突然いじめにあった中学生の物語

中学二年生の中島は、軟式テニス部の仲間たちと楽しく過ごしていましたが、

ある日、「幽霊がいるかどうか」で友達と意見がわかれたことがキッカケで、無視されるようになりました。

それだけでなく、陰で殴られたり、大金をカツアゲされたりと、どんどんいじめがエスカレートしていきます。

そんな理不尽な毎日を過ごしていた中島に、救いの手が差し伸べられます。

いじめの現場にたまたま通りかかった「首折り男」が、見ず知らずの中島を助けると約束したのです。

首折り男は殺し屋でしたが、ときどき親切なことをして、心のバランスをとろうとしていました。

ところが、約束の日時になっても、彼は中島を助けに現れませんでした。

それだけでなく、ようやく助けに現れたと思ったら、そんな約束はなかったかのように振る舞うんですよね。

なぜなら…という物語が楽しめる小説です。

感想①:異なる短編がゆるくつながる

『首折り男のための協奏曲』は、あらすじでも紹介した『首折り男のための周辺』を含めて、7つの短編で構成されています。

どれも異なるジャンルの短編ですが、首折り男と泥棒の黒澤が複数の物語にわたって登場しているので、ゆるいつながりを感じることができ、

長編とも短編集とも一味違った楽しみが味わえました。

『アイネクライネナハトムジーク』もそうですが、伊坂幸太郎さんの得意なパターンにハマります。

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また、「首折り男」という殺し屋の設定が面白いので、ページをめくる手が止まらなくなりました。

「首折り男」は、普段は殺し屋として人殺しをしていますが、

それだけでは心がもたなくなるので、ときどき小さな親切をすることで、バランスを取ろうとしていました。

たとえば、銀行のATMでもたついている人がいると、首折り男はわざと大声で怒鳴って、そのあと小声で「ゆっくりと焦らずに」と伝えると言います。

そうすれば、ATMに並んでいる人たちは「そこまで怒らなくても」とイライラが抑えられ、一方のもたついていた人も落ち着いて機械操作ができるようになるからです。

先ほどあらすじでも紹介しましたが、中島を助けようとしたのも、そのためです。

このように、少し変わった首折り男に夢中になれる物語ですが、

泥棒の黒澤が登場することで、より魅力的になるので、最後まで一気読みしてしまう小説です。

感想②:理不尽な目にあっても救われるかもと思える

『首折り男のための協奏曲』は、収録されている多くの短編で「理不尽な目にあっても救われるかも」をテーマに描かれているように思います。

特に、それが色濃く出ているのが『人間らしく』です。

クワガタのブリーダーである窪田は、突然、泥棒の黒澤に「自分はクワガタにとって神様のような存在だ」と言い出しました。

クワガタは力関係がハッキリしていて、強いクワガタは弱いクワガタをいじめるそうですが、

その姿をみた窪田は次のように対処するといいます。

「いえ、ほら、僕はいつも仕事をしていて、その合間に気が向けば、隣の部屋のクワガタのケースを確認します」
「癒されたくて」
「そうです。そして、その時にクワガタがひっくり返っていれば直しますし、理不尽な喧嘩が起きていれば」
「助けてやる」
「悪いニジイロは指で叩きます。つまり」
「つまり?」
「天罰ですよ」
「なるほど」
「それにほら、やられそうになった可哀想なクワガタは、僕によって隔離されて、バナナを与えられます」
「神のご加護というわけか」

つまり、神さまは存在していて、いつもこっちを見ているわけではないけれど、

見ているときは、不公平や理不尽を正してくれると言っているんですよね。

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このような物語を読んでいると、理不尽な目にあってもいつかは救われるかも!?と前向きな気持ちになれます。

感想③:ラストは驚ける物語ばかり

もちろん、前向きな気持ちになれるだけではありません。

どの短編も、ラストは驚ける構成になっています。

なかでも私が特に驚いたのは、『僕の舟』と『月曜日から逃げろ』です。

『僕の舟』では、老女から「ある調査」を依頼された黒澤が、最後に自慢げに調査結果を報告するのですが、その内容が面白すぎて笑えます。

それだけでなく、明かされる内容に胸が熱くなるんですよね。

『月曜日から逃げろ』では、物語の構成そのものがトリックになっており、もう一度読み直したくなりました。

実は、他の短編にもヒントが散りばめられているので、読み終えたときには「そういうことだったのか!」と面白さが倍増します。

東野圭吾さんの小説『新参者』でも、物語に散りばめられた謎とその回収が楽しめましたが、

この物語でも、それに近いワクワク感が楽しめました。

と、ここまで各短編の驚きを紹介してきましたが、一冊の小説としても楽しめる構成になっています。

先ほども紹介しましたが、異なるジャンルの短編が、首折り男と黒澤を中心にゆるく繋がっているので、長編とも短編集とも一味違った楽しみが味わえるんですよね。

ひとつひとつの短編も、小説全体としても楽しめる物語です。

まとめ

今回は、伊坂幸太郎さんの小説『首折り男のための協奏曲』のあらすじと感想を紹介してきました。

理不尽な目にあってもいつかは救われるかも!?と思える物語なので、気なった方は、ぜひ読んでみてください。

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