今村夏子『こちらあみ子』は誰もがいじめる側にもいじめられる側にもなりうることに気づける物語

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少し変わった人を見たとき、バカにしていませんか?

私もついつい心の中でバカにしてしまうことがありますが、

今村夏子さんの小説『こちらあみ子』を読んで、いつバカにされる側になってもおかしくないことに気づきました。

誰もが攻撃的な一面を持っている一方で、攻撃される変わった一面も持ち合わせていることに気づける物語なんですよね。

おすすめ度:4.5

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こんな人におすすめ

  • 不思議な物語が好きな人
  • 考えるキッカケを与えてくれる物語を読みたい人
  • いじめる側にもいじめられる側にもなる可能性がある理由を知りたい人
  • 今村夏子さんの小説が好きな人

あらすじ:他人と同じように振る舞えない少女の物語

物語の主人公は、前歯が三本ないあみ子。

彼女は中学生のときに、大好きだった「のり君」から顔面を殴られて、前歯を失いました。

そんな彼女の小学生時代は…。

あみ子は15歳で引っ越しをするまで、田中家の長女として育てられました。

あみ子には両親と兄がいましたが、彼女だけが少し変わっており、他の子供たちからいじめられていたのです。

授業中に歌をうたったり、落書きをしたり、ボクシングやはだしのゲン、インド人のマネをしたりしていたからです。

そのため、家の裏庭にあったクルマに、母の書道教室に通う子供が、「あみ子の馬鹿」と刻んだこともありました。

しかも、母はあみ子に厳しく、習字を教えてくれませんでした。

そこで、あみ子は襖の隙間から母が習字を教えている姿を覗き込むようになりましたが、そんな彼女が熱心に興味を持つ人物が現れます。

襖から覗き込んでいたときに、「こめ」という綺麗な字を見せてくれた「のり君」です。

しかし、のり君はあみ子にではなく、習字の先生である母に向かって完成した文字を見せていました。

こうして、あみ子は一方的にのり君のことを好きになりますが、それだけでなく…。

という物語が楽しめる小説です。

感想①:変わり者たちが主人公の物語

この小説は、あらすじで紹介した『こちらあみ子』以外に、『ピクニック』と『チズさん』という合計3つの短編で構成されています。

それぞれ簡単に紹介すると、

  • 『ピクニック』:有名なお笑いタレントと付き合っていると自称する七瀬さんが、アルバイトの先輩たちに励まされて妄想を膨らませていく物語
  • 『チズさん』:全体的に左に傾いているチズさんの世話をする私が、なぜかチズさんの家族から隠れようとする物語

というように、どの短編も変わり者が主人公の物語なんですよね。

漫画『進撃の巨人』も、巨人のことが何よりも大好きなハンジ分隊長や極端に綺麗好きなリヴァイ兵長など、変わり者ばかりが登場しますが、

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今村夏子さんの小説は、どの物語でも変わり者が登場します。

現実では、少し変わっている人をバカにする人たちも大勢いますが、誰にでも変わった一面があることを気づかせようとしているのでしょうか。

どちらにしても、変わり者たちの行動に惹きつけられる物語です。

感想②:まわりと協調できないと残酷な目にあう

さて、あらすじでも紹介したように、あみ子は他の子供たちと同じように振る舞うことができませんでした。

授業中に歌をうたったり、落書きをしたり、ボクシングやはだしのゲン、インド人のマネをしたりしていました。

兄は、そんなあみ子が恥ずかしく、帰り道に友達に会うと、彼女を隠そうとしました。

「給食を手で食べるんだろ?」などと揶揄われるのがイヤだったからです。

それでも兄は、二人きりになると、あみ子に優しく接していましたが、ある出来事がキッカケで不良になり、あみ子と顔を合わさないようになりました。

また、両親もあみ子を避けるようになります。

母はほとんど喋らなくなり、父はあみ子が起きる前に出勤して、夜遅くに帰ってくるようになりました。

そのせいで、あみ子は、お風呂にも入れず、ご飯も食べられなくなりました。

それでも、あみ子は温もりが欲しくて両親の部屋で寝ようとしますが、父から鎖骨のあたりを押されて追い出されます。

もちろん、学校でもイジメは日常的で、キモいと言われるのは当たり前。上履きを隠され、裸足で歩いたりしていました。

崔実さんの小説『ジニのパズル』を読んだときも思いましたが、人というのは、どこまでも残酷になれるんですよね。

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私にもそんな残酷な一面があるのでしょうが、その残酷さが前に出てこないように…と思わずにはいられない物語でした。

感想③:他人の不幸は蜜の味?

では、なぜ人は残酷になれるのでしょうか。

それは、他人の不幸を楽しんでいるからだと思います。

『ピクニック』では、人気タレントと付き合っているという七瀬さんの言葉を信じていないアルバイトの先輩・ルミ子たちが、

彼女の行動をピクニック気分で眺めている姿が描かれています。

七瀬さんは、付き合っていると信じている彼から、「川に落とした携帯電話を探して欲しい」と言われ、泥だらけの用水路に向かって鋤を持って出かけていきました。

ルミ子たちは、そんな七瀬さんの姿を、少し離れた場所からピーナッツを食べながら眺めていました。

しかも、七瀬さんがお腹を空いたと言うと、彼女の口めがけてピーナッツを投げます。

まるで、動物に餌付けをしているかのように…。

伊坂幸太郎さんの小説『ガソリン生活』の感想にも、いじめをする人間には想像力がないため、他人をいじめて優越感に浸るしかないと書きましたが、

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ルミ子たちにも想像力がなく、七瀬さんの振る舞いをバカにすることで優越感を得ているように思います。

ただし、表面上は七瀬さんに優しく接しているので、余計にタチが悪いのですが…。

このように、人間はとても残酷で、しかもその行為を楽しめる一面を持っていますが、

その一方で、あみ子のように変わった一面も持っていることに気づかせてくれる物語でした。

まとめ

今回は、今村夏子さんの小説『こちらあみ子』のあらすじと感想を紹介してきました。

人は誰しも「攻撃的な一面」と「攻撃される変わった一面」を持っていることに気づけるので、他人に優しくありたいと思える物語です。

気になった方は、ぜひ読んでみてください。

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