カウンセリングにどのようなイメージを持っていますか?
私は相談者の心を丸裸にするイメージを持っていましたが、辻堂ゆめさんの小説『答えは市役所3階に』を読んで、そうではないことがわかりました。
カウンセリングとは、相談者の知られたくない秘密を心に留めながら、解決への糸口を相談者自身が見つけるサポートをすることだと気づかされました。
『答えは市役所3階に』のおすすめポイントとあらすじ
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『答えは市役所3階に』の感想
人の相談に乗るのは簡単ではありません。
どれだけ相談者のことを考えていたとしても、本当のことを話してくれるとは限らないからです。
『答えは市役所3階に』に登場する人たちも、新型コロナウィルスが蔓延したことがきっかけで、切実な悩みを抱えていましたが、カウンセラーにすべてを話しませんでした。
29歳の諸田真之介は、飲食店で働いていたこともあり、婚約者の野口愛花にコロナ患者と接する看護師の仕事を辞めろと迫ったせいで、婚約を破棄されました。
38歳の秋吉三千穂は、出産を間近に控えていましたが、新型コロナが蔓延したせいで立ち会い出産が全面禁止になり、しかもコンサルファームで働く健司からは仕事が忙しくてしばらく帰れないと言われ、出産後も産んだばかりの息子を一人で育てることになりました。
46歳の大河原昇は、日雇いの仕事をしていましたが、新型コロナによる緊急事態宣言で、ネットカフェが全店休業になり、日雇いの仕事も激減したので、ホームレスになりました。
このように彼らは、新型コロナウィルスの蔓延によって、さまざまなものを失い、悩み苦しんでいましたが、それでもカウンセラーにすべてを打ち明けませんでした。
なぜなら、どうしても話したくないこと、隠したいことを抱えていたからです。
カウンセラーは、そのことをわかった上で、相談者本人の問題を明確にし、相談者自身が解決する道を見つける手助けをする必要があることがわかり、難しい仕事だと痛感させられました。
私なら、相談者の秘密を引き出して、心を丸裸にするように思いますが、本当に相手の心に寄り添うには、たとえ秘密に気づいたとしても心に留めておく強さが必要なのだとわかりました。
切実な悩みを抱える人たちが、カウンセリングを受けたことをきっかけに、新たな一歩を踏み出す物語に興味がある方におすすめの小説です。
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