佐藤究『テスカトリポカ』感想/日常に紛れ込む闇を描いたハードボイルド小説

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日本は平和だと思っていませんか?

私は平和だと思っていましたが、佐藤究さんの小説『テスカトリポカ』を読んで考えが変わりました。

日本でも闇の勢力が暗躍していることがわかり、その恐ろしさと巧みさに衝撃を受けたんですよね。

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『テスカトリポカ』の情報

タイトル  テスカトリポカ
著者 佐藤究
おすすめ度 4.0
ジャンル ハードボイルド
出版 KADOKAWA (2021/2/19)
ページ数 560ページ (単行本)
第165回 直木賞、第34回 山本周五郎賞を受賞した作品です。

おすすめ理由

  • メキシコを支配する麻薬密売人の恐ろしさがわかる
  • 臓器ビジネスの裏側が覗ける
  • 恐ろしさと驚きが味わえる物語が楽しめる
  • ラストがフワッと終わっていく
  • 残酷なシーンが多い

『テスカトリポカ』の簡単な紹介

今回は、佐藤究さんの小説『テスカトリポカ』を紹介します。

麻薬密売人が支配するメキシコから抜け出し、日本で新しい人生を歩もうとする少女の物語と、

麻薬戦争に負けたカルテルの頂点に君臨していた男が、ジャカルタで臓器ビジネスに手を出そうとする2つの物語が楽しめます。

どちらの物語にも、メキシコ先住民族であるアステカの神・テスカトリポカに影響を受けた人たちが残酷な振る舞いをする姿が描かれています。

また、メキシコのカルテルだけでなく、日本の暴力団や中国黒社会、イスラム過激派など世界の闇組織も登場し、一大ビジネスを築き上げようとする恐ろしさが味わえるんですよね。

全体的に残酷なシーンも多く、ラストもフワッと終わっていきますが、それでも読み応えのある物語が楽しめました。

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『テスカトリポカ』のあらすじと感想

ここからは、『テスカトリポカ』のあらすじと感想を紹介していきます。

はじまり:麻薬国家から抜け出そうとする少女

あらすじ

物語は、メキシコの北西部、太平洋側にある町で暮らす17歳のルシアが国を抜け出そうとするところから始まります。

彼女が暮らす町では、法とは別の秩序がありました。カルテルが町に君臨し、その構成員である麻薬密売人が至るところで目を光らせていたのです。

しかも、彼らは、政治家や官僚、検事、警察らを買収して、誘拐、拷問、殺人などを業務の一部として活動していました。

世界金融に影響を与えるほどの資産を有しており、逆らえる者はいませんでした。

そんな町で暮らすルシアには2歳年上の兄がいました。

彼はアメリカに渡って働き、貧しい暮らしをする両親に送金して生活を支えることを望んでいましたが、麻薬密売人と繋がっていない密入国ブローカーの力を借りようとして殺されました。

麻薬密売人の支配から抜け出そうとした見せしめです。

こうしてルシアは、この町には誰一人として助けてくれる人がいないという現実を知り、誰の手も借りずに南を目指して国を抜け出そうとしたところ…。

感想

麻薬密売人の恐ろしさが描かれるところから物語が始まります。

彼らは、人を殺すことを何とも思っておらず、たとえばジャーナリストと名乗る二人のアメリカ人が取材に来たときも、週末になると二人とも死体となって発見されるなど、少しでも逆らえば命はありませんでした。

そんな恐ろしい町から抜け出そうとしたルシアは、縁あって日本にやってきます。

もちろん、就労ビザなどなく、観光目的で入国したのですが、生きていくためには働かねばならず、六本木でホテルの客室清掃として働くようになり、その後、スカウトされて闇カジノで働くようになりました。

しかし、闇カジノが摘発されると、彼女は引き続き日本で生活するためにバーで知り合った暴力団幹部と結婚し、子供を産みます。

この暴力団幹部は、高級クラブと湾岸倉庫の経営をして優雅に暮らしていましたが、暴排条例が制定されると、生活は一気に苦しくなりました。

こうしてルシアは子育てをしながら、夫に殴られ、生活費を稼ぐ必要にも迫られたので…。

というように、恐ろしいメキシコから抜け出してきたのに、日本でも苦しい思いをするルシアの姿に胸が痛くなりました。

法を破って理不尽な現状から抜け出したのに、今度は法を破ったせいで別の闇に支配されてしまう姿が描かれていたので、理不尽から抜け出す難しさに衝撃を受けました。

もうひとつのはじまり:麻薬戦争に負けた男

あらすじ

メキシコの北西部では、ロス・カサソラスとドゴ・カルテルという2つのカルテルが激しい勢力争いをしていました。

彼らは市内でも構わず発砲したので、将来を有望視されていた野球選手が乗るワゴンにも当たり、二人が亡くなる…といった事件が頻繁に起きていましたが、誰もカルテルを責めませんでした。

麻薬戦争を非難した人たちが大勢処刑されたからです。

ところが、ある日。ロス・カサソラスを仕切っていた4兄弟のうち3人がドローンを使った空爆で殺されます。

なんとか生き残ったバルミロ・カサソラは、復讐を誓って南へと姿を眩ませました。

こうしてインドネシアのジャカルタで暮らすようになったバルミロは、新たに麻薬ビジネスを展開しようと計画していましたが、臓器移植をコーディネートする日本人と出会い…。

感想

カルテルの頂点に君臨していたバルミロが麻薬戦争に負け、メキシコから逃げ出して、ジャカルタに姿をくらますところから物語が始まります。

バルミロは、アステカ人(メキシコ先住民)が信じる神々、なかでもテスカトリポカという神を強く信じていました。

彼の祖母がアステカの末裔で、しかもテスカトリポカに仕えた神官の末裔だったため、その影響を色濃く受けていたからです。

だからこそ、バルミロは「すべての神々は人間の血と心臓を食べて生きている。血と心臓を捧げなかったら、太陽も月も輝くのをやめるだろう」という祖母から聞いた言葉を信じ、人を殺すことをなんとも思っていませんでした。(むしろ殺すべきだと思っていました)

そのため、カルテルの頂点に立ってからも平気で人を殺していたのですが、そもそもカルテルの頂点に立とうとしたのは、カルテルに殺された父の復讐をするためでした。

ジャカルタに逃れてからも、カルテルに復讐をするために、新たな麻薬ビジネスを始めようとしていましたが、そこに臓器ビジネスが絡んできて…。

というように、人を殺すことをなんとも思わないバルミロが、復讐のために新たに臓器ビジネスに手を染めていく姿に恐怖を覚えました。

麻薬から臓器ビジネスへと、どんどん闇が深くなっていったからです。

また、平気で人を殺す人間がもつ闇の深さ(テスカトリポカという神を信仰する恐ろしさ)も描かれていたので、信じるものを間違えると恐ろしい人生を歩むことになるのだと痛感しました。

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臓器ビジネス〜ラストへ:2つの物語がある結末へとつながる

あらすじ

バルミロは臓器移植をコーディネートする日本人と出会い、新たに臓器移植ビジネスを手がけようとしていました。

このとき、PM2.5などに晒されず、汚染の少ない国で過ごした臓器の方が高く売れることを知ったバルミロは、日本の暴力団と協力することにしますが、彼らの要求が大きすぎたので、認識を変えさせるために殺し屋を育成しはじめます。

一方、日本の暴力団は、休眠中のNPO団体を復活させ、それを隠れ蓑にし、雇った女性を使ってDVを受けている子供の調査をはじめました。

こうして突き止めたDVをしている両親に接触し、高額の口止め料を請求したりしていたのですが、

それだけでなく、無戸籍児童を保護するという名目で子供を連れてきて、臓器を売り飛ばそうとしたのです。

さらに別の場所では、暴力団と結婚して生まれたルシアの息子が、バルミロに目をつけられて…。

感想

東野圭吾さんの小説『人魚の眠る家』でも紹介しましたが、臓器移植は簡単にできるわけではありません。

なかでも、特に日本で移植するのが難しいのですが、世界的にも簡単に臓器が見つかるわけではないので、投資家などの富豪層は、6億4千万という大金で臓器を買い求めました。

だからこそ、世界の闇勢力が協力して蠢いていたわけですが、無戸籍児童を臓器提供者として連れてくるという発想に驚きました。

無戸籍児童の母親の多くは、夫に暴力を振るわれて離婚届を提出せずに夜逃げし、ひっそりと子供を産んでいたので役所に登録できずにいました。

登録すると夫に居場所を知られてしまうからです。

しかし、その後。経済的に追い詰められて、子供を虐待するようになった彼女たちは、100万から150万で子供を売り飛ばします。

こうして売り飛ばされた無戸籍の子供たちから臓器を取り出し、富裕層に高額で提供する…というある意味リスクが少ない仕組みを築き上げていることに驚きました。

ちなみに、無戸籍児童がいる家庭を暴力団が知っていたのは、覚醒剤を売っている全国の売人を通じて情報を買っていたからです。

お金さえあればなんでも買えてしまう資本主義社会の恐ろしさが垣間見れる物語でした。

まとめ

今回は、佐藤究さんの小説『テスカトリポカ』のあらすじと感想を紹介してきました。

世界を取り巻く闇ビジネスが日本にも大きな影響を及ぼしていることがわかる、恐ろしさと驚きが味わえるハードボイルドな物語が楽しめます。

気になった方は、ぜひ読んでみてください。

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