下村敦史『生還者』感想/ゴシップに踊らされるのは時間のムダ

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 ゴシップに踊らされていませんか。

 先日、コカイン疑惑で芸能界から引退した成宮寛貴さんが、芸能界に復帰するというフェイクニュースが飛び交いました。

 この報道に多くの人が反応していましたが、私たちの人生にそれほど影響ある内容なのでしょうか。

 下村敦史さんの小説『生還者』を読めば、ゴシップに踊らされるのは時間のムダだとわかります。




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 どちらかが嘘をついているミステリー

 物語の舞台は、ヒマラヤ山脈東部、世界第3位の標高を誇るカンチェンジュンガ。

 この山で大規模な雪崩が発生し、日本人登山者7名が巻き込まれ、生死が確認できない惨事が起こります。

 事故発生当初は、「生存者はいない」と思われていましたが、高瀬という人物が奇跡的に生還を果たし、マスコミのインタビューに次のように答えました。

「単独行動をしていた私は、猛吹雪の中、登山隊に助けを求めたが冷たくあしらわれた。しかし、登山隊のひとりである加賀谷さんだけが自分を助けてくれた」

 この報道を受けて、ネット上では登山隊に批判が浴びせられ、加賀谷が英雄のように扱われましたが…。

 その数日後、東という男性が救助されたことで物語が大きく動き出します。東は高瀬がウソをついており、加賀谷こそが卑怯者だと証言したからです。

 果たしてどちらが真実を語っているのでしょうか。

 というストーリー構成なので、東野圭吾さんの小説『どちらかが彼女を殺した』のように、推理を楽しみながら読むことができます。

 しかし、それだけでなく…。

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 雑誌やネットの情報にはフェイクが溢れている

 高瀬や東を取材している記者とその編集長のやり取りを通して、雑誌がどのレベルの情報を流しているかがわかります。

「最優先すべきは真実です。記事を書いた後でもし何か誤解が判明したら、来週は謝罪記事になりますよ」
「んなもん、気にしてたら記事なんて書けんぞ」

 私たちは、このようないい加減な情報に振り回されているんですよね。

 実際、『ワイドナショー』で松本人志さんが、これまで報道されてきた内容のほとんどがフェイクニュースだったと言われていました。

 では、なぜ私たちは、何の価値もないフェイクニュースに夢中になってしまうのでしょうか。

 死を意識して生きていないから

 それは「死」を意識して生きていないからです。いつまでも生きられると思っているので、人生に何の影響も与えないゴシップに夢中になれるんですよね。

 では、どうすれば死を意識できるのでしょうか。

「人生がどんどん過ぎ去っていくってのに、その人生を本当に生きていないんだと思うと、僕は耐えられないんだ」
「闘牛士でもなけりゃ、自分の人生をとことんまで生きてる奴なんていないさ」

 とは、ヘミングウェイの小説『日はまた昇る』の一節ですが、闘牛士のように命がけの行動をとることです。山に登るのも、そのひとつでしょう。

 もちろん、目の前にある仕事に命がけで挑戦するのも悪くありません。

 とにかく、命がけで何かに挑戦すればゴシップに振り回される時間がムダだとわかります。

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 ◆

 下村敦史さんの小説『生還者』。読めばミステリーとしての物語にハマるだけでなく、命がけで何かに挑戦したくなります。

 気になった方は、ぜひ読んでみてください。

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