鯨井あめ『晴れ、時々くらげを呼ぶ』感想/優しさの本質は他人への興味

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他人に興味を持って生きていますか?

私はどちらかと言えば興味を持っているつもりでしたが、

鯨井あめさんの小説『晴れ、時々くらげを呼ぶ』を読んで、もっと他人に興味を持とうと思いました。

優しさの本質は他人への興味だと気づかせてくれる物語なんですよね。

おすすめ度:4.5

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こんな人におすすめ

  • クラゲは降ると言い張る女子高生の物語に興味がある人
  • 優しさとは何か知りたい人
  • 感動できる物語が好きな人
  • 鯨井あめさんの小説が好きな人

あらすじ:クラゲは降ると言い張る女子高生の物語

物語の主人公は、県内有数の進学校に通う越前享。

彼は変わり者の後輩・小崎優子と図書委員として行動を共にしていましたが、冷めた目で彼女を眺めていました。

小崎は、毎日のように学校の屋上に行き、クラゲは降ると信じて、「来い!降ってこい!」と叫んでいたからです。

越前は、そんな彼女を離れた場所から眺め、都合よく話を合わせ、頷き、馬鹿にしていたのですが、

図書委員の矢延先輩から、「越前は想像したことがないの?」と聞かれます。

大人がストレスマックスになって生徒に向かってバズーカを発射したり、車窓から忍者を走らせたり、布団の反対側が別世界につながっているかも…と想像したことがないの?と聞かれました。

さらに、先輩は「理不尽なんだよ」と続けます。

「理不尽に対抗する手段さえ、理不尽なんだ」「だからあの子はクラゲを呼んでいるんだよ」というのです。

ところが、実際に小崎の願いが叶って空からクラゲが降ってくると、小崎は「全部、無駄だった」と言います。なぜなら…。

という物語が楽しめる小説です。

感想①:悪いことをするのは理由があるから

あらすじでも紹介したように、小崎はクラゲを降らせたいと願っていましたが、

それは、ある理由があって、多くの人たちに迷惑をかけたいと考えていたからでした。

そのため、彼女は猛毒のあるクラゲばかりを選んで、空から降らせようとします。つまり、悪いことをしたかったのです。

他の登場人物たちも同じで、たとえば越前の親友だと言い張る遠藤は、同じサッカー部の下田が小崎のことが好きだと越前に伝えましたが、

それは、サッカー部でレギュラーをとった下田のことを妬んでおり、「小崎に振られて上位チームから落ちろ」と思っていたからでした。

成績優秀の同級生・関岡がコンビニでチロルチョコを万引きしたのも、ある理由があったからです。

越前は、関岡が万引きする姿を目撃したので名前を伏せて矢延先輩に相談したところ、「きっと複雑な理由があるんだよ」と言われます。

さらに、

「何かと難しい時期だからね、悶々と悩んでぐるぐる回って涙が出て、ひとりで苦しんでしまう。世界中でひとりぼっちになってしまう。その子もきっとひとりなんだよ。ひとりは凍えそうで息苦しくて、最も近くにいる、気軽にやってくる地獄なんだ」

と続けます。

だからこそ、私なら「その子をひとりにしない」と言うんですよね。

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この物語を読んで、実はそうした人たちには、自分の存在を気づいて欲しいという思いが潜んでいるのかもしれない…と思えるようになりました。

感想②:優しさの本質は他者への興味

とはいえ、越前は、関岡の万引きを先輩に相談するだけで、「どうでもいい」と放置します。

そもそも、越前は、小崎がクラゲを呼んでいる理由にも関心を持たず、下田が小崎のことが好きだと聞くと、本人に直接言ってしまうなど、まったく他人に興味がありませんでした。

それにも関わらず、小崎の願い通りにクラゲが降ると、それまで応援も期待もしていなかったのに、

一緒に喜び合えると思い、声をかけ、求めていた反応が返ってこないと、イライラするんですよね。

流石の越前も、そんな自分をわがままだと認め、小崎に謝りたいと思い、矢延先輩に相談したところ、

「越前くんはさ、無関心で自分勝手だよね。謝りたくなったから謝るけど、そこに相手の感情はないじゃん」

と言われます。さらに、

「無関心であることは、人に優しくできないということだ。自分勝手であることは、感情の矛先を間違えるということだ。優しさの本質は他者への興味だ。」

と言われました。

辻堂ゆめさんの小説『いなくなった私へ』では、他人に認識されなくなった主人公の姿を通して、誰もが自分の存在を認めて欲しいと思っていることが伝わってくる物語でしたが、

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この物語では、それとは反対の視点で、優しさとは他人に興味を持つことだと気づかされる物語でした。

感想③:悩みは向き合わないと解決しない

では、なぜ越前が他人に興味を持たなくなったのかと言うと、父親が小学三年生のときに亡くなっていたことが関係していました。

彼の父は売れない作家でしたが、死ぬ直前に「迷惑をかけてごめんな」と言います。

越前は、その日からこの言葉にとらわれるようになりました。

他人の行動を厳しく監視し、「迷惑をかけるようなことはするなよ」と心の中で他人を批判し、自分に災難が降りかかってきそうになると逃げるようになったのです。

まるで『ヱヴァンゲリヲン』の主人公・碇シンジくんみたいな行動ですが、

もちろん、誰かに八つ当たりをしたところで悩みは解決しません。

『悩まない技術』の感想にも書いたように、悩みと真正面から向き合うことが解決の秘訣なんですよね

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悩む必要のないことで悩んでいませんか? 私も以前は目の前にある悩みは、すべて解決する必要があると思っていましたが、 『悩まない技術』を読んで、多くの問題は悩む必要がないことに気づきました。 リフレーミング思考で視野を広げれば、多くの悩...

越前もそのことに気づき、変わろうとします。そこで彼がとった行動は…。

ぜひ、実際に読んで、彼の行動に涙してください。

まとめ

今回は、鯨井あめさんの小説『晴れ、時々くらげを呼ぶ』のあらすじと感想を紹介してきました。

第14回小説現代長編新人賞を受賞した作品で、感動できる物語でもあるので、気になった方は、ぜひ読んでみてください。

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