柚月裕子『盤上の向日葵』感想/親の呪縛からは逃れられないのか?

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親の呪縛から逃れたいと思っていませんか?

私もそう思っていた時期はありましたが、

子供をもつ親になった今でも、気づけば親の言いつけを守って行動している自分に気づくことがあります。

柚月裕子さんの小説『盤上の向日葵』を読んで、親の呪縛から逃れる、

つまり、宿命を変えるのは難しいことだと改めて気づかされたんですよね。

おすすめ度:4.0

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こんな人におすすめ

  • 親の呪縛から逃れられない主人公の物語に興味がある人
  • 将棋を舞台にした物語が好きな人
  • 胸が締め付けられるようなラストを迎える物語が好きな人
  • 柚月裕子さんの小説が好きな人

あらすじ:幼少時代を悲惨な環境で過ごしたプロ棋士の物語

物語の主人公は、成功者としてマスコミにも取り上げられている上条桂介。

彼は「実業界の寵児」と呼ばれるほど、起業したソフトウェア会社で大成功をおさめていましたが、それだけではありませんでした。

実業界から転身して特例でプロ棋士になったのです。

将棋界最高峰のタイトル戦「竜昇戦」に挑戦できるだけの実力を発揮していました。

このように、世間からは思い通りの人生を歩んでいるように思われていた桂介でしたが、実は彼の幼少時代は悲惨なものでした。

母の春子は精神を病み、若くして自殺。

これをきっかけに父の庸一は、酒とギャンブルに溺れ、桂介の面倒をまったくみなくなりました。

そんな桂介の面倒をみてくれたのが、定年退職した元教師で、桂介とは赤の他人である唐沢光一郎です。

唐沢は、桂介に食事を与え、お風呂に入らせ、そして将棋を教えました。

その結果、桂介は驚くような速さで将棋の実力を伸ばしていくんですよね。

そんな姿をみた唐沢は、桂介をプロ棋士にさせようと奨励会への入会を勧めますが、父が邪魔をしました。

こうしてプロ棋士への道が閉ざされた桂介でしたが、持ち前の頭の良さを発揮して東大に入学します。

その後、外資系企業に入社したのち、自らソフトウェア会社を立ち上げて大成功を収め、

ようやく大好きだった将棋の世界に転身することができたのですが、そこにまたしても…。

という物語が楽しめます。

感想①:将棋を舞台にした物語は暗い?

将棋を舞台にした物語で有名なのは、漫画『3月のライオン』だと思います。

主人公の桐山零は、幼い頃に交通事故で家族を亡くし、父の友人だった棋士の幸田に引き取られますが、

将棋のせいで幸田の娘・香子との関係が悪くなり、また学校でも他人と馴染むことができない彼は、孤独な毎日を過ごすようになります。

そんな桐山に手を差し伸べたのが、ホステスとして銀座の店で働いていた川村あかりでした。

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…というような物語なのですが、『盤上の向日葵』といくつか共通点が見られます。

「好きな将棋ができない」「好きな将棋のせいで苦しめられる」といったところや、

「幼少期に不幸な出来事が起こり、家族から愛されなくなった」「幼少期に両親を亡くし、引き取られた人たちと関係が築けなかった」など、

幼い頃に不幸があったり、家族との関係が上手くいかなかったり、大好きな将棋に苦しめられたり、といくつかの共通点がありますよね。

将棋というのは、どこか影をもっている世界なのでしょうか。

塩田武士さんも『盤上のアルファ』という将棋を舞台にした物語を描かれているので、読んで確認したいと思います。

感想②:主人公が成り上がっていく姿にグッとくる

幼少時代を劣悪な環境で過ごした主人公が、成り上がっていく物語として有名なのは、

たとえば漫画『キングダム』もそのひとつです。

春秋戦国時代に戦災孤児として過ごした主人公・信が、始皇帝のもとで戦果をあげながら、大将軍を目指していく物語です。

他にも、漫画『ピアノの森』もそのひとつです。

母親の玲子と二人で暮らしていた主人公の一ノ瀬海は、とても貧乏だったので、小学五年生で風俗店の雑用として働くなど劣悪な環境で育ちましたが、

周りの人たちに鍛えられ、天才的なピアノの才能を発揮し、驚くような成果を出していく姿が描かれています。

一方、『盤上の向日葵』でも、桂介の成り上がっていく姿が描かれていますが、

『キングダム』や『ピアノの森』のように幸せなラストは用意されていません。

(もしかすると『キングダム』のラストはハッピーエンドではないかもしれませんが…)

そのため、つらい幼少時代を乗り越え、せっかく成り上がってきたのに!?と胸が締め付けられる物語が描かれているんですよね。

そんな悲しい物語に興味がある人におすすめの小説です。

感想③:親の呪縛からは逃れられないのか?

さて、『盤上の向日葵』では、最後まで親の呪縛から逃れられない桂介の姿が描かれています。

仏教用語でいう「因果は巡る糸車」をテーマに描かれている物語だからかもしれませんが、

親の呪縛の恐ろしさが「これでもか!」と思うほど克明に描かれています。

湊かなえさんの小説『母性』では、母親に愛されたいと願い続けた人たちの物語が描かれていましたが、

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「親に愛されたい」という思いをあまり見せなかった桂介にも、そんな思いが潜んでいたのかもしれません。

どちらにしても、親とは違う人生を歩むことの難しさ、宿命を変えていく難しさ…

Official髭男dismの『宿命』の歌詞にある、

「ただ宿命ってやつをかざして 立ち向かうだけなんだ」

という宿命を乗り越えていくことが、どれほど難しいことなのかがわかる物語でした。

まとめ

今回は、柚月裕子さんの小説『盤上の向日葵』のあらすじと感想を紹介してきました。

2018年の本屋大賞で2位を獲得し、すでにテレビドラマ化もされている魅力的な物語なので、気になった方は、ぜひ読んでみてください。

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