多くの建物が壊されているのをご存知ですか?
私は経済が上向きになっているとは思えないので、それほど多くの建物が壊されているとは思っていませんでしたが、
恩田陸さんの小説『スキマワラシ』を読んで、今が時代の変わり目で、多くの建物が壊されていることに気づけました。
それだけでなく、解体現場に現れるスキマワラシという少女が何者なのか、あれこれ想像する楽しさが味わえる物語だったんですよね。
おすすめ度:
こんな人におすすめ
- ミステリーとファンタジー要素のある物語が好きな人
- 気になる謎が次々と提示される物語が好きな人
- 読み終わった後にあれこれ考えたい人
- 恩田陸さんの小説が好きな人
作品の簡単な紹介
今回は、恩田陸さんの小説『スキマワラシ』を紹介します。
タイトルから座敷童子のような少女が出てくる物語だと推測した方は正解。
座敷童子は、座敷や蔵に住む神と言われ、悪戯をしますが、家にいる間は幸運が訪れると言われています。
ただし、家から去ると一気に崩壊へと傾くそうです。
では、この小説に登場するスキマワラシとは何者で、何を目的に行動しているのか?という謎に迫るのが、この小説の惹き込まれるポイントです。
ミステリーとファンタジー要素のある物語が好きな方や、スキマワラシという謎の少女が気になる方におすすめの小説です。
ただし、恩田陸さんらしく?結末はサラッとしているので、すべての謎が回収されることを期待して読むと、残念な気持ちになるかもしれません。
あらすじ:スキマワラシという少女を目撃した主人公の物語
物語の主人公は、八つ年上の兄・太郎と共に古道具屋を営む纐纈散多(こうけつさんた)。
もともとは、兄の太郎が引手を集める趣味が高じて古道具屋を始めたのですが、
散多が勤めていた都内の飲食店が店を畳むことになったのを機に、彼も実家に戻って兄を手伝うようになりました。
古道具屋での散多の主な仕事は運転と運搬で、夜の8時頃からはバーのようなものを開いていましたが、
仕事とは別に、触れると暖かい感じがするタイルを探していました。
なぜなら、散多はモノに残っている思念を読み取ることができ、特にある種類のタイルからは強烈なイメージを読み取ることができたからです。
しかし、タイルを探しているうちに、スキマワラシを目撃したことがキッカケとなって…。
という物語が楽しめる小説です。
感想①:続きが気になって一気読み
この小説は、460ページほどある長編ですが、続きが気になって一気に読んでしまいました。
それは、気になる謎が次々と提示されたからですが、
それだけでなく、関係のなさそうな話から始まって、それが物語の核心に迫っていくという構成で描かれていたことも関係しています。
たとえば、散多がゆるく集めていた風景印という名所旧跡等の図柄が入った消印がきっかけとなって、タイルから読みとったイメージの正体が明らかになったり、
胴乱という植物などを採取したものを入れるブリキのカバンが、スキマワラシの存在につながったりと、意外な組み合わせの物語が描かれていたからです。
伊坂幸太郎さんの小説『ラッシュライフ』では、5つの異なる物語が少しずつ繋がっていき、最後にはすべてが繋がっていたことに気づける物語が楽しめましたが、
この小説では、関係なさそうな物語がつながっていく気持ち良さが味わえたので、一気読みしてしまいました。
感想②:スキマワラシとは時代の変わり目に現れる少女?
さて、この小説のタイトルにもなっている『スキマワラシ』とは何者でしょうか?
実は、最後まで読んでもその正体は明かされません。
読者が物語から読みとる、もしくは読み解くように描かれています。
ネタバレにならないように書くと、スキマワラシは、長い髪をした三つ編みの女の子で、
どうやら古い建物の解体現場に現れて、何かを探しているように思えます。
一方、古道具屋を営む散多たちも、解体現場に行っては、売れそうな物や気になる物を集めていました。
時代の変わり目だからなのか、想像以上に多くの建物が壊されていたので、散多たちは次々と解体現場に向かいました。
こうして、多くの解体現場に訪れたことで、散多たちはスキマワラシと出会うわけですが、
散多の兄・太郎は、スキマワラシは戦略的撤退、つまり消えゆく物のなかから未来に役立つ物を探しているのでは?と推測します。
日本は、近代化するまで個人という概念がほとんどありませんでした。あなたも私も共同体の一部という認識でした。
ところが、この150年ほどで「個」に細分化されました。
共同住宅から一軒家になり、個室を持つようになって、個別にメディアまで持つようになりました。
世界を細かく分けて、バラバラに分解していったのです。
では、これからは?
そんなこれからの未来に必要な物をスキマワラシが集めているのでは?と言うんですよね。
劉慈欣さんの小説『三体』では、人類は今後も生きる価値があるのか?と直接的に問いかけてくる物語が楽しめましたが、
この小説では、スキマワラシとは何者なのか?未来はどうなるのか?など、読者が読み取って考える楽しさが味わえる物語が描かれていました。
ちなみに、ラストでは、スキマワラシが何を集めていたのか明かされるので、
ぜひ実際に読んで、スキマワラシとは何者なのか?未来はどうなっていくのか?など、じっくり考えてみてください。
感想③:すべての謎が解き明かされない
ここまで紹介してきたように、この小説ではすべての謎が解き明かされません。
スキマワラシの正体もそうですが、散多がタイルから読み取った思念は一体何だったのか?など、重要な謎が、謎のまま終わりを迎えます。
以前、このブログで紹介した『きのうの世界』もそうでしたが、恩田陸さんらしく?ラストはさらっと終わっていきます。
私はどちらかと言うと、こじつけでも謎が回収されていく物語が好きなので、「え!?これで終わり?」という気持ちになりましたが、
それでも十分楽しめる物語だったので、モヤモヤが楽しめる人もそうでない人も楽しめる物語だと思います。
まとめ
今回は、恩田陸さんの小説『スキマワラシ』のあらすじと感想を紹介してきました。
解体現場に現れる少女が何者か想像する楽しさが味わえる物語なので、気になった方は、ぜひ読んでみてください。
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