角田光代『銀の夜』感想/青春時代が人生のピークだと思って未来を諦めていませんか?

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青春時代が人生のピークだと思って、未来を諦めていませんか?

私は何度挑戦しても上手くいかないときに、そう思って諦めそうになることがありますが、

角田光代さんの小説『銀の夜』を読んで、年を重ねても青春時代と同じ充実感や達成感が味わえるのだと励まされました。

高校生の頃に思い描いていた未来の自分とは全く異なる毎日を過ごす30代半ばの女性3人が、現実と向き合い、新たな一歩を踏み出す姿に励まされる物語です。

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あらすじと内容紹介

「私たちの人生のピークって、やっぱり十代の半ばだったのかしらね」

高校生の頃に、バンドデビューをして世間の注目を集めた3人の女性が、30代半ばになり、想像していた未来とは違う日々を過ごす自分に、無力感を覚える姿が描かれている物語です。

浮気をしている夫と離れられなかったり、いまだに親に反抗していたり、子どもに自分の夢を託したりする彼女たちの姿に心が痛くなりますが、最後は彼女たちの決断に励まされました。

心が軽くなり、前向きな気持ちになれる小説です。

『銀の夜』の感想(ネタバレあり)

ここからは多少のネタバレありで感想を書いていきます。

物語の核心を突くようなネタバレは避けていますが、それでも気になる方は、本を読み終わった後に再び訪れてください。

高校時代が人生のピークだと思う30代半ばの女性たちに心が痛む

イラストの仕事をしている井上ちづるは、ぽっちゃりして、センスのかけらもない夫と結婚していましたが、夫は若い女性と浮気をしていました。

黙認していると、帰りがどんどん遅くなっていき、土日も仕事があるといって浮気相手のもとに通うようになります。

ところが、ちづるは馬鹿にされているような不快感を感じていたものの、嫉妬心がまったくないことに戸惑っていました。

それにも関わらず、夫と離婚する勇気はありませんでした。

草部伊都子は、翻訳家として活躍する母親の影響もあり、フリーのライターや写真家として活動していましたが、母にダメ出しされるたびに仕事を変えていたので、どれも中途半端でした。

結婚したいと考えていた男性も過去にいましたが、母の一言で嫌になり、いまだに独身生活を続けています。

そのため、自分がこんな状況になったのは、すべて母のせいだと考え、母とは真逆の人生を歩もうと躍起になっていました。

岡野麻由美は、起業家の夫と結婚して裕福な暮らしをしていましたが、夫に媚びている自分に嫌気がさしていました。

そこで、自分が叶えられなかった夢を子どもに託そうとします。

麻由美は、高校生のときに、ちづると伊都子と一緒にバンドデビューをして、世間の注目を集めた過去があったので、子どもを芸能人にして、再び注目を集めようと考えていたのです。

そんな彼女たちは、

「私たちの人生のピークって、やっぱり十代の半ばだったのかしらね」

と言い、40歳になるまでに充実感や達成感を心底実感したいと考えていましたが、誰もが行動できずにいたんですよね。

このように、何者にもなれなかった3人の女性が、今の生活に違和感を覚えながらも、これまで通りの日常を過ごす姿が描かれていたので、心が痛みました。

現実と向き合う恐怖を誤魔化す姿が弱い自分と重なる

そんな彼女たちが、日々の生活に違和感を覚えながらも、新たな一歩踏み出せずにいたのは、現実と向き合うことを恐れていたからです。

ちづるが愛情のない夫と離婚できずにいたのは、夫と別れて一人になったときに襲いかかってくる漠然とした不安と向き合いたくなかったからでした。

一人で生きていく自信がなかったのです。

伊都子が母親に反発していたのは、誰にも束縛されずに自分の人生を歩みたいと思っていたからですが、母から離れても、付き合っている男性編集者の言いなりになっていました。

心の底では才能がないと思っていたので、彼の言いなりになって行動し、自分の頭で考えることを放棄していたのです。

麻由美が娘を芸能界に入れようとしていたのは、夫に媚びている自分が嫌で、他人とは違うことを何らかの形で証明したかったからです。

だからこそ、娘の意思などお構いなしに行動していきます。

このように、現実と向き合うことを恐れ、今手元にある日常で何とか充実感や達成感を手に入れようとする彼女たちの姿が、弱い自分と重なり、共感できました。

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一歩踏み出せば壁は簡単に乗り越えていけると励まされる

さて、現実と向き合うことを恐れ、今手元にある日常で充実感や達成感を手に入れようとしてきた彼女たちでしたが、ある出来事を通して、ひとりになっても、現実と向き合っても大丈夫だと気づきます。

壁というものは、ほんの少し新たな一歩を踏み出すだけで、想像していたよりも簡単に乗り越えていけることに気づいたからです。

これまで彼女たち3人は、日常の雑事に追われてどんどん時間が経っていき、たくさん歩いてきた気がするのに、振り返っても自分の足跡が見つからないと不安に思っていましたが、

それは現実と向き合わず、考えることを放棄し、何ひとつ新しい挑戦をしてこなかったからなんですよね。

そんな彼女たちの姿を通して、ほんの少し新たな一歩を踏み出せば、壁は簡単に乗り越えていける、何歳になっても充実感や達成感を味わうことができるのだと励まされました。

私もほんの少しの新たな一歩を踏み出そうと思います。

まとめ

今回は、角田光代さんの小説『銀の夜』のあらすじと感想を紹介してきました。

  • 高校時代が人生のピークだと思う30代半ばの女性たちに心が痛む
  • 現実と向き合う恐怖を誤魔化す姿が弱い自分と重なる
  • 一歩踏み出せば壁は簡単に乗り越えていけると励まされる

以上、3つの魅力がある物語なので、気になった方は、ぜひ読んでみてください。

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