自分の好きを大切にしていますか?
私も以前は自分の好きよりも他人の目を優先していましたが、
寺地はるなさんの小説『水を縫う』を読んで、改めて自分の好きを大切にするようになって良かったと思えました。
今すぐ勇気を出して自分の好きを大切にしたくなる物語なんですよね。
おすすめ度:
こんな人におすすめ
- 誰がも普通ではないことに気づける家族の物語に興味がある人
- 自分の好きを大切にしたくなる物語を読んでみたい人
- 感動できる物語が好きな人
- 寺地はるなさんの小説が好きな人
あらすじ:縫い物が好きな男子高校生が主人公の物語
物語の主人公は、高校に入学したばかりの松岡清澄。
彼は縫い物が好きでしたが、そのせいで中学生の時に、
「コレなん?」
「女の子になりたいの?」
「男が好きなん?」
と同級生に聞かれて嫌気がさしていました。
そんな質問をしてくる同級生をバカじゃないかと思っていたのです。
調理や裁縫のスキルを性的嗜好と結びつけるなんて突拍子がなく、
仮にそうだとしても、だからなんだという話で、そんなことは他人にはなんの関係もないことだと思っていたからです。
こうして清澄は、いじめられることはありませんでしたが、なんとなく浮くようになりました。
家族からも「友達がいない子」として認識されていました。
そんな清澄が高校に入学して、宮多という同級生とラインを交換します。
しかし、宮多を中心とする5人グループは「にゃんこなんとか」という清澄が知らないスマホゲームの話で盛り上がっていたので、一人で刺繍の本を読もうとしたところ…。
という物語が楽しめる小説です。
感想①:「普通」ではない家族の物語が描かれている
この物語では、「普通」ではない家族の物語が描かれています。
あらすじでも紹介したように、清澄は男なのに裁縫が好きでした。
姉の水青(みお)は小学生の頃のある出来事がきっかけで、女なのに可愛いものが苦手になり、
母のさつ子は、子供のことを可愛く思っていましたが、無償の愛情を注げるほど余裕がありませんでした。
父の全は、お金の使い方がだらしなく、さつ子が子育てで忙しくしていても葉っぱを眺めているような真っ当な父親にはなれない人間で、
祖母の文枝は自分よりも夫を立てる良いお嫁さんになるように育てられました。
このように家族の誰もが「普通」ではなく、何らかの歪みと悩みを抱えていたんですよね。
村田沙耶香さんの小説『コンビニ人間』でも、普通とは何か考えさせられましたが、

この物語を読んで、普通なんて存在しないのではないかと思えてきました。
感想②:人とわかり合うには努力が必要
先ほど誰もが普通ではないと書きましたが、それは価値観が違うということであり、わかり合うには努力が必要です。
たとえば、姉の水青は小学6年生の時に変質者に追いかけられて、スカートを切られました。
その後、学校に祖母と報告に行くと、担任の男教師と教頭は、切られたスカートを見るなり、
「ひらひらしとるなあ」
「オンナノコオンナノコした服やから、目立ってたんちゃうか」
「べつに身体に触られたりしてへんのやろ。まだよかったやないか」
と言い出しました。
その話を聞いた祖母が「よくありません」ときっぱり言ってくれたので、苦しみ続けることはありませんでしたが、それ以来、可愛い服を着られなくなったのです。
それだけでなく、水青は「どうせわかってくれない」と自分の考えを誰にも言わなくなったんですよね。
結婚式のドレスは可愛いものばかりなので着たくないと言った水青のために、弟の清澄が自分が作ってあげると言ったときも、
シンプルなドレスを要望しても思うような出来にならないことを詳しく伝えようとはしませんでした。
割烹着みたいでもそれで良いと言います。
この話を聞いた水青の結婚相手である紺野さんは、
「伝える努力をしていないくせに『わかってくれない』なんて文句を言うのは違うと思うで」
と声をかけました。
垣谷美雨さんの小説『子育てはもう卒業します』では、親子でも価値観が違うことがわかる物語でしたが、

この物語では、家族であれ親友であれ、自分の思いを伝えなければわかりあえないことがわかります。
感想③:自分の好きを大切にしたくなる
さて、この物語には、「誰に何を言われても自分の好きを大切にしよう」というメッセージが込められているように思います。
清澄が誰に何を言われても、縫い物が好きなことを貫いたように、水青がオンナノコオンナノコした格好を拒み続けたように、
母も父も祖母も誰もが自分の好きを追い求めるように変わっていく物語が描かれているんですよね。
もちろん、先ほども書いたように他人とわかり合うためには自分の想いを伝える努力をする必要がありますが、
その一方で自分を犠牲にしてまでわかってもらう必要がないこともわかります。
とはいえ、他人に理解してもらえない新たな世界に一歩踏み出すには勇気が必要です。
しかし、森絵都さんの小説『漁師の愛人』を読んだときと同じように、一歩踏み出す勇気があれば人生は何度でもやり直せるのかもと思えてきます。

自分の「好き」を抑えて我慢してきた人に読んで欲しい一冊です。
まとめ
今回は、寺地はるなさんの小説『水を縫う』のあらすじと感想を紹介してきました。
自分の好きを抑えて我慢している人に、一歩踏み出す勇気をくれる物語なので、気になった方は、ぜひ読んでみてください。
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