伊藤潤『琉球警察』感想/イデオロギーを超えて大切にすべきものがあることを教えてくれる物語

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政治的に右か左に寄っていませんか?

私は右でも左でもありませんが、伊藤潤さんの小説『琉球警察』を読んで、現在も沖縄を中心に繰り広げられている右・左の戦いに改めて嫌気がさしました。

イデオロギーを超えて大切にすべきものがあることを教えてくれる物語だったからです。

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『琉球警察』の情報

タイトル 琉球警察 
著者 伊藤潤
おすすめ度 4.5
ジャンル サスペンス
出版 角川春樹事務所 (2021/7/15)
ページ数 440ページ (単行本)

おすすめ度の理由

  • 米軍と沖縄の関係性がよくわかる
  • 続きが気になってページをめくる手がとまらなくなる
  • イデオロギーを超えて大切にすべきものがあると教えてくれる
  • ラストがあっけない

『琉球警察』のあらすじ

物語の主人公は、徳之島出身のひがし貞吉さだきち

彼は、日本が戦争に負け、沖縄が米軍の支配下に置かれた後、琉球警察に採用されました。

奄美諸島では食料資源が豊富ではなく、芋や魚介類が食べられるならまだマシで、不作になるとカエルやイナゴ、ハブ、ネズミまで取って食べなければならなかったので、沖縄に来て工事現場で働いていましたが、食いっぱぐれない警察官に応募したところ採用されたのです。

とはいえ、貞吉が優秀だったわけではありません。

沖縄には銃が蔓延しており、戦果アギヤーと呼ばれる小年窃盗団が組織化され、ヤクザまがいの活動をするようになったため、危険で過酷な任務に耐えられそうな人材として採用されたのです。

そのため、警察学校の研修では目を覆いたくなるようなきついしごきが続きましたが、研修を終え、名護に配属されると、米兵が撃たれて現金輸送車の金が盗まれた事件を見事解決します。

この功績で、貞吉は共産主義の活動が活発化しているのを抑える役割を担う公安に推薦されましたが、諜報活動を始めると悩みを抱えるようになりました。

米軍から共産主義者としてマークするように指示された瀬長亀次郎が、共産主義とは関係なく、しかも沖縄のために行動していたからです。

貞吉は、米軍の命令を遂行するために、瀬長が所属していた人民党の党員である島袋しまぶくろ令秀れいしゅうに接近し、情報を引き出し、妨害工作を続けますが、このまま妨害工作を続けるべきか悩むんですよね。

そんなとき、貞吉の素性を見破る人物が現れたため…。という物語が楽しめる小説です。

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『琉球警察』の感想

まず、この小説を読んでわかったことは、「沖縄は米軍のおかげで発展してきた」という意見が正確ではないということです。

確かに、米軍がきたことで、基地建設などの仕事が増え、今では米軍がいなければ経済が成り立たなくなるほど強い関係性が出来上がりました。

しかし、当時の沖縄を除く日本は、前年比で倍以上の経済成長をしていました。

一方の沖縄では、米軍が「土地収用令」を行使して、法外な値段で沖縄の人たちから土地を強制的に取り上げたため、かつて広がっていた豊かな農地は消え去り、工場を立てる土地もないため、産業が育ちませんでした。

つまり、沖縄だけが取り残されたのです。

それだけでなく、米兵による暴力や強姦も多く、6歳の女の子が米兵に拉致され、乱暴され、絞殺されるも、犯人はアメリカに送還されて罪に問われない…といった事件が頻発しました。

米軍の横暴に泣き寝入りしている沖縄人が大勢いたのです。

そんな現状を変えようと、瀬長亀次郎が立ちあがります。

彼は、共産主義のような過激で、非現実的な理想を掲げるのではなく、「土地収用令」を認めないところから行動していきました。

しかし、米軍にとっては、自分に逆らう人物なので、共産主義者だと決めつけて迫害します。

瀬長が那覇市長に当選すると、那覇市の預金口座を凍結し、水を止めるなど、権力を行使して追い詰めていきました。

そんな米軍の敗戦国を自分の意のままに操ろうとする姿に衝撃を受けたんですよね。

もちろん、これはアメリカに限った話ではありません。ロシアなどの共産主義国でも同じです。

そのため、右や左といった論争に巻き込まれるのではなく、イデオロギーを超えて本当に大切なことは何か?と考える癖をつけることが重要だと改めて気づかされました。

物語としては、「権力をもつ米軍」と「沖縄をよくするために行動する瀬長」の間に挟まれながら、悩み行動していく貞吉の姿に胸が熱くなります。

まとめ

今回は、伊藤潤さんの小説『琉球警察』のあらすじと感想を紹介してきました。

米軍と沖縄の関係性がよくわかるだけでなく、イデオロギーを超えて大切にすべきものがあることを教えてくれる物語です。

気になった方は、ぜひ読んでみてください。

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