自分は個性的だと思っていませんか?
私もそう思っていましたが、本谷有希子さんの小説『あなたにオススメの』を読んで、想像以上に世間の常識に左右されていることに気づかされました。
学校教育やSNS、動画やゲームなど、私たちの身の回りには個性を奪うものが溢れていることがわかる物語が描かれていたからです。
『あなたにオススメの』の情報
おすすめ度の理由
『あなたにオススメの』のあらすじ
都内でも有数の高級住宅地に住む凡事推子は、娘と同じ保育園に通う子をもつ、こぴくんママに興味を持っていました。
なぜなら、こぴくんママは時代遅れも甚だしく、いまだに旧型のスマートフォンを使い、体内にマイクロチップを埋めることを拒否していたからです。
これまでは、「AIに代替できない子を育てよう」という教育方針でしたが、AIの普及に伴い、国が「AIと共存する教育」にシフトしてからは、誰もが対内にチップを埋め込み、24時間ネット接続して過ごすことが当たり前になりました。
そのため、学校教育は、個性を育てるためではなく、等質にすることを目的としており、子どもたちの誰もが将来はAIになりたいと夢見ていました。
そんな中、こぴくんだけが個性的な行動をとっていたので、保育士から「オフライン依存症」だと指摘され、大学病院の精神科を受けた方がいいと言われます。
とはいえ、こぴくんママは、世間そのものがクソみたいに変わったのに、そうした世間の常識にあわせて生きることは幸せにはつながらないと考え、悩んでいました。
推子は、こうした悩みを抱えるこぴくんママの話を聞くことが、他のどのようなコンテンツよりも魅力的だと思っていました。
それだけでなく、推子は、三人目の子どもを産んで、はじめはこぴくんと同じようにオフライン依存症にして手のかかる子に育て、依存症を克服するというコンテンツを楽しもうかしら…なんて考えていました。
そこで推子は、オフラインを勧める小学校の説明会にこぴくんママを誘い、こぴくんをこれまで以上にオフライン依存症にしようとしますが…。という物語が楽しめる小説です。
『あなたにオススメの』の感想
この小説は、全部で2つの物語から構成されています。
どちらの物語も、誰もがもっている「意地の悪さ」を、毒のある皮肉たっぷりの物語として描かれていたので、一気に惹き込まれました。
たとえば、あらすじで紹介した『推子のデフォルト』では、こぴくんママを動画などのコンテンツのひとつとして、見下して楽しむ推子の姿が描かれていきます。
推子は、子どもを等質にするための徹底的なメソッドがあり、お受験用の塾に行かなくても私立小学校の合格率が高いと評判の保育園に通わせるために、夫と書類上の離婚をしていました。
母子家庭として優先されてまで、どうしても入園させたかったからです。
一方のこぴくんママは、家から近いというだけで入園してきたので、保育園に対する思いは薄く、また、どの子どもも等質に育てようとする教育方針に反感を抱いていました。
そんなこぴくんママを上から目線で見下して楽しむ推子の意地の悪さにぞっとしますが、自分にもその意地の悪さに思い当たるところがあるだけに、恐ろしさを感じます。
また、今の時代を生きる私たちの多くは、個性を殺すような教育に反感を覚えると思いますが、時代が変われば常識が変わり、「オンライン依存症」は正常なことで、「オフライン依存症」という正反対の病気が出来上がっているところにも恐怖を覚えました。
とはいえ、これは物語だからといって割り切れるようなものではなく、たとえばコロナ前までは誰もが会社に出勤するのが当たり前でしたが、今ではテレワークが推奨されるなど、常識が変われば、正しいとされる姿も変わります。
作中では、このことを次のような言葉で表現されています。
ママチャリに跨ると、自分が「ママ」という性能そのものになるのと同じく、濃紺スーツを着用すると、推子はいつも自分から「保護者」という性能以外すべてが削ぎ落とされるような快感を覚えるのだった。
つまり、私たちは正しいとか、正しくないとかに関わらず、社会に求められる常識に当てはまるように行動しているんですよね。
それだけでなく、今の学校教育やネットなど、身の回りには個性をなくそうとするもので溢れていることに気づかされる物語でもありました。
まとめ
今回は、本谷有希子さんの小説『あなたにオススメの』のあらすじと感想を紹介してきました。
学校教育やSNS、動画やゲームなど、私たちの身の回りには個性を奪うものが溢れていることがわかる物語が楽しめます。
気になった方は、ぜひ読んでみてください。
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