2022年に発売された小説【66冊】のおすすめをご紹介

エンタメまとめ

2022年に発売された小説の中から、個人的におすすめの小説【10冊】をランキング形式で紹介します。

とはいえ、趣味嗜好は人それぞれ違うので、ランキングから漏れた小説も、ジャンル別に紹介します。

幅広いジャンルの小説を、「あらすじ」や「感想」、「おすすめ度」と共に紹介していくので、本選びの参考になれば嬉しいです。

2022年に初出版された小説のみを対象にしています。
※2022年に文庫化された小説のおすすめは、以下の記事で紹介しています。
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  1. 【2022年発売】おすすめ小説10冊をランキング形式でご紹介
    1. 第1位 安壇美緒『ラブカは静かに弓を持つ』
    2. 第2位 藤岡陽子『空にピース』
    3. 第3位 川和田恵真『マイスモールランド』
    4. 第4位 町田そのこ『宙ごはん』
    5. 第5位 宇佐美まこと『月の光の届く距離』
    6. 第6位 葉真中顕『ロング・アフタヌーン』
    7. 第7位 東野圭吾『マスカレード・ゲーム』
    8. 第8位 呉勝浩『爆弾』
    9. 第9位 垣谷美雨『あきらめません』
    10. 第10位 今村夏子『とんこつQ&A』
  2. 2022年に発売された小説をジャンル別にご紹介
    1. ミステリー
      1. 佐藤青南『犬を盗む』
      2. 五十嵐律人『幻告』
      3. ホリー・ジャクソン『優等生は探偵に向かない』
      4. 新川帆立『先祖探偵』
      5. 結城真一郎『#真相をお話しします』
      6. 浅倉秋成『俺ではない炎上』
      7. 櫛木理宇『氷の致死量』
      8. 五十嵐律人『六法推理』
      9. 本城雅人『にごりの月に誘われ』
      10. 新川帆立『剣持麗子のワンナイト推理』
      11. 塩田武士『朱色の化身』
      12. 白木健嗣『ヘパイストスの侍女』
      13. 城山真一『看守の信念』
      14. 南原詠『特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来』
    2. ファンタジー
      1. 伊坂幸太郎『マイクロスパイ・アンサンブル』
    3. サスペンス
      1. 佐藤究『爆発物処理班の遭遇したスピン』
    4. ホラー
      1. 宇佐美まこと『夢伝い』
    5. 歴史・時代
      1. 藍銅ツバメ『鯉姫婚姻譚』
      2. 小川哲『地図と拳』
      3. 伊東潤『天下を買った女』
      4. 今村翔吾『幸村を討て』
      5. 蝉谷めぐ実『おんなの女房』
      6. 西條奈加『六つの村を超えて髭をなびかせる者』
      7. 朝井まかて『ボタニカ』
    6. ヒューマンドラマ
      1. 凪良ゆう『汝、星のごとく』
      2. 熊谷達也『明日へのペダル』
      3. 寺地はるな『カレーの時間』
      4. 窪美澄『夜に星を放つ』
      5. 山内マリコ『一心同体だった』
      6. 中山可穂『ダンシング玉入れ』
      7. 標野凪『今宵も喫茶ドードーのキッチンで。』
      8. 宇佐見りん『くるまの娘』
      9. 村崎なぎこ『百年厨房』
      10. 月村了衛『脱北航路』
      11. 髙森美由紀『羊毛フェルトの比重』
      12. 柚木麻子『ついでにジェントルメン』
      13. 坂木司『ショートケーキ。』
      14. 岩井圭也『生者のポエトリー』
      15. 早見和真『八月の母』
      16. 南杏子『アルツ村』
      17. 高瀬隼子『おいしいごはんが食べられますように』
      18. 名取佐和子『図書室のはこぶね』
      19. 瀬尾まいこ『夏の体温』
      20. 山本幸久『花屋さんが言うことには』
      21. 瀧羽麻子『博士の長靴』
      22. 村山早紀『風の港』
      23. 松浦理英子『ヒカリ文集』
      24. 角田光代『タラント』
      25. 伊与原新『オオルリ流星群』
      26. 坂木司『楽園ジューシー』
      27. 一穂ミチ『砂嵐に星屑』
      28. 小野寺史宜『いえ』
      29. 寺地はるな『タイムマシンに乗れないぼくたち』
      30. 永井みみ『ミシンと金魚』
      31. 浅田次郎『母の待つ里』
      32. 垣谷美雨『もう別れてもいいですか』
  3. まとめ

【2022年発売】おすすめ小説10冊をランキング形式でご紹介

では早速、2022年に発売されたおすすめの小説【10冊】をランキング形式で紹介します。

第1位 安壇美緒『ラブカは静かに弓を持つ』

おすすめ度:4.5

  • 個人レッスンでも著作権料を徴収しようとする著作権団体に怒りが湧く
  • スパイの仕事と音楽を楽しみたい気持ちの板挟みに合う主人公の姿に心が痛む
  • 人を信頼する大切さが感動と共に伝わってくる
あらすじ
中学一年生のとき、チェロ教室の帰りに「ある事件」に遭遇したたちばなたつるは、その日から、悪夢に悩まされていました。チェロに触れることさえできずにいましたが、上司の塩坪に呼び出されて、ミカサ音楽教室に潜入捜査を命じられます。映画音楽などの著作権料を支払わずに、個人レッスンをしているので、その証拠を集めろというのです。こうして橘は、身分を偽って、ミカサ音楽教室に潜り込み、若葉という講師にチェロを教わるようになりますが…。

個人レッスンでも著作権料を徴収するために、全日本音楽著作権連盟に所属する主人公が、ミカサ音楽教室にスパイとして潜り込む物語です。

はじめは割り切ってスパイをしていた主人公が、講師とその仲間たちの優しさや音楽の素晴らしさに触れて、「スパイとしての仕事」と「チェロを楽しみたい気持ち」の板挟みに合う姿に、心が揺さぶられました。

また、ラストは「無数の信頼の上に人間関係は構築される」という、人を信頼する大切さが感動と共に伝わってきたので、涙がこぼれ落ちそうになりました。

第2位 藤岡陽子『空にピース』

おすすめ度:4.5

  • 虐待や貧困、性暴力などに悩まされる子どもたちの姿に心が痛む
  • 自分勝手な親や自己保身に走る教師たちに怒りが湧く
  • 子どものためを思って行動し続ける主人公の姿に心が揺さぶられる
あらすじ
前担任が鬱で休職したので、その後を引き継ぐために水柄みずえ小学校に赴任してきた澤木ひかりは、6年2組を担当してすぐにショックを受けました。日本語が話せないベトナム人のロンや、授業中でも教室を抜け出す今田真亜紅、ときどき給食だけを食べにくる佐内大河など、多くの問題児がいたからです。同僚の先生に相談しても、「この学校では何もしないことです」と釘を刺される始末。それでも、ひかりはこのクラスを良くしようと奮闘しますが…。

問題児ばかりがいるクラスを担当することになった主人公が、虐待や貧困、性暴力などに悩まされる子どもたちのために奮闘する物語です。

子どものことを全く考えずに自分勝手に振るまう親や、自己保身に走る教師たちの姿に怒りが湧きますが、そうした大人たちにバカにされ、怒鳴られても、子どもたちのために行動し続ける主人公の姿に心が動かされました。

また、主人公の優しさや励ましに応えるかのように、前を向いて一歩踏み出そうとする子どもたちの素直な姿に、感動で涙が止まらなくなりました。

第3位 川和田恵真『マイスモールランド』

おすすめ度:4.5

  • 日本で暮らすクルド人が直面している理不尽に心が痛む
  • 父からは文化で縛られ、日本人からは差別される主人公の姿に心がかき乱される
  • 自由を謳歌できる素晴らしさが痛いほど伝わってくる
あらすじ
クルド人としてトルコに生まれたサーリャは、5歳のときに両親と共に難民として日本に逃れてきました。父が独立運動のデモに参加し、憲兵に捕まり、拷問を受けた後、行方をくらませたので、母と二人で暮らしていましたが、憲兵が何度も家にやってきては、手当たり次第モノを壊したので、トルコから脱出することにしたのです。こうして日本で暮らすようになったサーリャは、高校三年生になり、夢を実現するために、大学に進学しようとしますが…。

迫害を受けてトルコから脱出したクルド人の家族が、日本でも理不尽な目にあいながらも、今を懸命に生きようとする物語です。

2000人以上いるトルコ国籍のクルド人の中で、日本に難民申請をして認められた人は、一人もいない…という現実に衝撃を受けるだけでなく、突然ビザが下りなくる可能性があるなかで、不安に苛まれながら日々を過ごす彼らの姿に、ぶつけようのない怒りが湧き上がってきました。

また、恋愛や結婚など、クルド人の文化で父から縛られる一方で、クルド人だからという理由で日本人から差別される主人公の姿に、心がかき乱されました。

第4位 町田そのこ『宙ごはん』

おすすめ度:4.5

  • 育児を放棄して自分勝手に振る舞う母の姿に怒りが込み上げてくる
  • 家族の呪いが連鎖していく展開に恐ろしさを覚える
  • ラストは感動で涙が止まらなくなる
あらすじ
そらには、愛情いっぱいで接してくれるママ・風海ふみと、ときどき会う魅力的な母・花野かのがいました。二人の母がいて宙は幸せでしたが、小学校に上がるタイミングで、風海夫妻が海外に行くことになり、花野と二人で暮らすことになります。ところが、花野は、ご飯も作らず、宙の世話もせず、学校行事にも参加せずに、仕事と年上の恋人に夢中になっていました。宙は寂しい思いをしていましたが、花野に想いを寄せる佐伯泰弘が手を差し伸べてくれたので…。

育児を放棄して自分勝手に振る舞う母・花野と暮すことになった宙が、料理人の佐伯泰弘に助けられながら成長していく物語です。

子どもよりも、自分が愛されて守られることに夢中になる花野に怒りが込み上げてきますが、宙が傷つく姿を見て、少しずつ変わっていく展開に心が動かされました。

また、家族から受けた呪いとも言うべき「思い込み」の恐ろしさに驚く一方で、思いがこもった料理など、人の優しさに触れて、少しずつ呪いから解放されていく人たちの姿に涙が止まらなくなりました。

第5位 宇佐美まこと『月の光の届く距離』

おすすめ度:4.5

  • 親子関係に苦しんできた人たちの過去をミステリーにした物語に引き込まれる
  • 売春をする少女たちの目的がお金ではないことに驚く
  • 傷ついた子どもを親のように愛そうとする人たちの姿に心が動かされる
あらすじ
平凡な女子高生の柳田美優は、軽い気持ちで付き合った同級生と深く考えずに体を重ねた結果、子どもを身籠ります。しかし、交際相手からは捨てられ、両親からは責められて、家を追い出されました。そこで美優は、子どもを産んで一人で育てていこうと決意しますが、厳しい現実に打ちのめされて、ビルの屋上から飛び降りようとします。そこに「何か食べ物を持ってない?」と尋ねてきた、5歳くらいの女の子が現れたことがきっかけとなって…。

母親に捨てられたり、傷つけられたりするなど、親の愛情を知らずに育った人たちの過去を、ミステリー仕立てにした物語です。

親に恵まれなかった彼らが、優しい人たちに助けられて大人になり、その恩に報いるためにも、親に恵まれない子どもたちを、本当の親のように愛そうとする姿に心が動かされました。

また、売春をする少女たちが、お金よりも、一時の優しさや、嘘でもいいので愛情欲しさに体を売っていることにも驚き、心が痛みました。

第6位 葉真中顕『ロング・アフタヌーン』

おすすめ度:4.5

  • 送られてきた小説と編集者の人生がリンクする展開に引き込まれる
  • 出版業界の厳しい現実と作家の大変さが伝わってくる
  • 不幸な今を幸せだと思い込もうとする女性の姿に心が痛む
あらすじ
新央出版で編集者をしている葛木梨帆は、年末の最終出勤日に、今年中にやるべきことがあったので、デスクを片付け、帰ろうとしたところ、小説が届けられます。それは、7年前に公募型新人賞で最終選考まで残った志村多恵という50代の女性が書いたもので、梨帆が応援していた作家でした。とはいえ、新央出版は、小説から撤退しており、梨帆もビジネス書や新書を手がけていたので、何もできませんでしたが、「読んでみたい!」と思って読み始めたところ…。

志村多恵という50代の女性が、自らの体験をもとに書いた小説が、編集者である葛木梨帆の人生に大きな影響を与える物語です。

送られてきた小説と編集者の人生がリンクする展開に引き込まれるだけでなく、出版業界の厳しい現実やネット右翼などのSNSがもたらす影響、作家の大変さなども伝わってきたので、ページをめくる手が止まらなくなりました。

また、夫や息子に押さえつけられて生きてきた女性が、不幸でも今を幸せだと思い込もうとする姿に心が痛むだけでなく、そこから驚きの一歩を踏み出す姿に心が揺さぶられました。

第7位 東野圭吾『マスカレード・ゲーム』

おすすめ度:4.5

  • 新田浩介と山岸尚美が再び協力する物語に引き込まれる
  • 当たり前のように違法捜査に手を染める梓警部に怒りが込み上げてくる
  • 被害者家族の苦しみに心が痛み、ラストの展開に心が揺さぶられる
あらすじ
駐輪禁止の場所に自転車を停めたことを注意した学生を植物人間になるまで殴り、逮捕された入江悠斗が殺されます。さらに、強盗殺人をした高坂義広と、当時中学生だった少女を自殺に追い込んだ村山慎二も殺されました。彼らは共通して人を殺していましたが、刑が軽かったので、納得のいかない被害者家族が殺したのではないかと疑いますが、アリバイがありました。ところが、被害者家族全員が同じ日にホテル・コルテシア東京に泊まることがわかり…。

犯した罪に対して軽い刑を受けた殺人犯たちが、次々と殺された事件の謎に迫る物語です。

被害者家族たちがホテル・コルテシア東京に集まったので、ホテルのどこかにいる軽い刑を受けた殺人犯を殺すかもしれないと、新田浩介が再びホテルマンに変装して潜入捜査を始めますが、新田が築いた信頼を踏みにじるかのように、次々と違法捜査に手を染める梓警部に怒りが込み上げてきました。

一方で、いつまでも家族が殺された事件に悩み苦しむ被害者家族の姿に心が痛むだけでなく、山岸尚美と新田浩介の決断と、ラストの展開に心が揺さぶられました。

第8位 呉勝浩『爆弾』

おすすめ度:4.0

  • 爆弾犯と警察の頭脳戦に引き込まれる
  • 社会の矛盾を突きつける問いかけに心が揺さぶられる
  • ラストは多くの人たちの決断に心が動かされる
あらすじ
酔っ払って酒屋の自動販売機を蹴り、止めにきた店員を殴って連行された49歳のスズキタゴサクと名乗る男が、取調べの最中に「10時ぴったりに秋葉原で何かが起こる」と予言します。予言通りに爆弾が爆破すると、「ここから3度、次は1時間後に爆破する」と言い出しました。警視庁捜査一課の清宮と類家るいけは、爆弾の在処を聞き出そうとしますが、「九つの尻尾」というゲームをやろうと言われます。このゲームにヒントが隠されていると気づいた清宮たちは…。

身元不明の中年男性が予言した「無差別爆破テロ」を未然に防ごうと、警視庁や所轄の刑事、交番の警官たちが奮闘する物語です。

「見知らぬ誰かと、仲間の命は平等なのか?」「気持ち悪いというだけで、本人だけでなく家族まで爪弾きにする社会は正常か?」「匿名で誰かを糾弾する行為に正義はあるのか?」など、次々と心が揺さぶられる疑問が提示されたので、ページをめくる手が止まらなくなりました。

また、社会には多くの矛盾があり、誰かを傷つけたり、誰かに傷つけられたりするけれど、それでも残酷からも綺麗事からも逃げ出さないと決意する人たちの姿に、心が動かされました。

第9位 垣谷美雨『あきらめません』

おすすめ度:4.0

  • 男尊女卑が当たり前の田舎の人たちに怒りが湧く
  • 自分のことしか考えない市議会議員に立ち向かう主人公が魅力的
  • 現状を打開するために諦めずに挑戦し続ける主人公の姿に心が揺さぶられる
あらすじ
定年退職を迎えた霧島郁子は、ワンオペ育児を卒業し、住宅ローンも返済できたので、自由になれたと喜んでいましたが、夫の幹夫が突然、田舎に帰りたいと言い出しました。幹夫は嘱託として働いていましたが、裁量権も決定権もなく、かつての部下たちには煙たがられ、給料も大幅に減ったので、リタイヤしたいと思っていたからです。とはいえ、それだけでは田舎には住めないと思っていた郁子でしたが、庭付き一軒家が安価で手に入ることがわかると…。

楽しいセカンドライフを夢見て田舎に引っ越してきた霧島郁子が、男が優先されて当たり前だと考える田舎の人たちに囲まれますが、反旗を翻して、女性が活躍できる社会に変えようと奮闘する物語です。

「育児も介護も、昔は女が文句ひとつ言わずにやっていたのに、保育園や老人ホームを充実させろなんて主張は甘えだ」と言いながら、自分たちは海外視察という名目で遊び呆けるなど、何ひとつ現状を良くしようとしない市議会議員たちに怒りが込み上げてきました。

その一方で、このままでは田舎から若い女性がいなくなり、世界から取り残されてしまうと考えた郁子が、まわりの女性たちを巻き込み、市議会議員に立候補し、現状を打開しようと諦めずに挑戦し続ける姿に心が動かされました。

第10位 今村夏子『とんこつQ&A』

おすすめ度:4.0

  • 日常に紛れ込んだ闇に迫る物語に引き込まれる
  • 現代のコミュニケーションが一方通行になっていることに気づかされる
  • それぞれの短編の結末に心が揺さぶられる
あらすじ
中華料理店「とんこつ」で働き出したわたしは、客の前に出ると緊張して声が出なくなりました。それでも、大将たちは優しく、「少しずつ慣れていけばいいからね」と言ってくれましたが、1ヶ月経っても改善しなかったので、辞表を出そうとしたところ、書かれている文字を読めば声が出せることに気付きます。それからは、書いたメモを読み上げて接客するようになりました。その後、わたしの接客で店が繁盛してきたので、新しいバイトが雇われますが…。

すべての問題はある人物のせいだと言って盛り上がる人たちや、興味本位で他人の問題に首を突っ込む人たちなど、日常に紛れ込んだ闇を取り上げた短編集です。

すべての短篇で共通して、他人を自分の都合のいいようにコントロールしようとする人たちの姿に恐ろしさを覚えるだけでなく、毒のあるそれぞれのラストに心が揺さぶられました。

特に、人前に出ると声が出せなくなる主人公が、Q&Aを作ってその通りに振る舞う姿と、それを利用して自分たちが望む返事を得ようとする人たちの姿を通して、現代のコミュニケーションが一方通行になっていることに気づかされました。

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2022年に発売された小説をジャンル別にご紹介

引き続き、2022年に発売された小説をジャンル別に紹介します。ジャンルは次のように分類しています。

  • ミステリー
  • サスペンス
  • ファンタジー
  • ホラー
  • 歴史・時代
  • ヒューマンドラマ

ミステリー

佐藤青南『犬を盗む』

おすすめ度:3.5

  • 犬を中心に構成されたミステリーが新しい
  • 犬にまつわる「あるあるエピソード」が事件を解く鍵になるのが面白い
  • 登場人物それぞれの結末に心が揺さぶられる
あらすじ
警視庁捜査一課の植村光太郎は、後輩の下村正大と組んで老女が殺害された事件を捜査していました。殺された老女は、高級住宅街に一人で住み、犬を飼っていたようでしたが、家の中に犬はいませんでした。一方、コンビニでアルバイトをしている鶴崎猛は、先輩の松本博巳が突然犬を飼うようになったと聞いて驚きます。そして、強引に家までついていき、犬の散歩をしたいと言い出しました。さらに、ミステリー作家の小野寺真希がこの事件に興味を持ち…。

事件の鍵を握る犬を中心に、刑事やミステリー作家たちが、老女が殺害された事件の真相に迫るミステリーです。

殺された老女やコンビニでアルバイトをする先輩と後輩、ミステリー作家など、登場人物の誰もが何かを隠しているので怪しく思え、事件の真相が気になって一気に読みました。

また、ラストは想像を上回る展開に驚き、登場人物それぞれの苦い結末や心温まる結末に、心が揺さぶられました。

五十嵐律人『幻告』

おすすめ度:3.0

  • 公正な判決をしようと真剣に裁判に向き合う人たちが魅力的
  • 自分を捨てた父とその家族の幸せのために奮闘する主人公に心が動かされる
あらすじ
裁判書記官の宇久井うぐいすぐるは、担当していた裁判が終わったので扉から出ようとしたところ、突然意識を失い、目が覚めると5年前にタイムリープしていました。その日は、傑が幼い頃に家を出ていった父が、義理の娘にわいせつな行為をした事件の裁判がある日でした。当時、学生だった傑は、有罪になった父を恨んでいましたが、冤罪の可能性に気付きます。そこで傑は、弁護士に手紙を渡し、無罪に誘導しますが、これが原因で未来がさらに悪化したので…。

過去にタイムリープした主人公が、父が強制わいせつ罪で訴えられた事件の真相に迫り、父たち家族の未来を切り開こうとする物語です。

盗みを働いたとしても、転売する目的であれば窃盗罪になり、トイレに流す目的であれは器物破損罪になるなど、刑罰の重さが大きく変わるので、被告人の内心を明らかにしようと真剣に裁判に向き合う人たちの姿に心が動かされました。

また、タイムリープを繰り返しながら、父が強制わいせつ罪で訴えられた事件の真相に迫る展開に引き込まれ、ラストに明かされた真実に心が揺さぶられました。

ホリー・ジャクソン『優等生は探偵に向かない』

おすすめ度:3.5

  • 前作『自由研究には向かない殺人』のその後が楽しめる
  • 失踪事件の真相が気になってページをめくる手が止まらなくなる
  • 想像を上回る悲しい結末に心が揺さぶられる
あらすじ
前作『自由研究には向かない殺人』で、真相を明らかにするために、全てを失いそうになったピップは、二度と探偵の真似事はしないと心に誓いますが、友人のコナーから兄・ジェイミーが行方不明になったので助けて欲しいと言われます。警察に相談しても事件性がないと相手にしてもらえなかったので、仕方なく引き受けることにしたピップは、ポッドキャストで状況を配信し、SNSを活用して情報を手に入れ、少しずつ事件の核心に迫っていきますが…。

女子高生のピップが、ポッドキャストやSNSを活用して、友人の兄・ジェイミーが失踪した事件の真相に迫る物語です。

なぜジェイミーは突然姿をくらませたのか?失踪する二週間ほど前から情緒不安定になったのはなぜか?など、気になる謎が次々と提示されたので、ページをめくる手が止まらなくなりました。

また、周りから嫉妬され、強く非難されたピップが、落ち込み、動けなくなりますが、ある人物の「自分が正しいとわかっていても、みんなにどう思われるかが気になる?」という言葉で自分を取り戻し、再び動き出す姿に胸が熱くなり、想像を上回る悲しい結末に心が揺さぶられました。

新川帆立『先祖探偵』

おすすめ度:3.5

  • 先祖を調査する探偵という設定が新しい
  • 各短編のラストでちょっとした驚きが味わえる
  • 無戸籍問題を知るきっかけになる
あらすじ
5歳のときに母に捨てられてから、20年以上1人で生きてきた邑楽おうら風子は、先祖を探す探偵事務所を開いていました。自分のルーツを知りたいと思っていましたが、母との記憶だけが頼りだったので、先祖を探す助けになるかもしれないと考えたからです。そんな風子が今回依頼されたのは、「町おこしのために表彰したい」と市役所から連絡があった111歳のひいじいさんを探して欲しいというものでした。依頼者は、生きているなら会いたいと言いますが…。

さまざまな理由で自分の先祖を知りたい人たちが、先祖探偵の主人公に調査を依頼する短編集です。

夏休みの課題で家族史を調べて発表するので手伝ってほしい、先祖の霊のたたりで発作が起きるようになった甥を救って欲しいなど、先祖を調べたいと思うさまざまな動機が面白いだけでなく、戸籍調査を通して明かされる真相に、ちょっとした驚きが味わえました。

また、戸籍をめぐる問題、特に戸籍がはっきりしない、存在しない人たちが抱える問題(無戸籍問題)の理不尽さを知るきっかけにもなりました。

結城真一郎『#真相をお話しします』

おすすめ度:2.0

  • 話題性のあるテーマに引き込まれる
  • ちょっとした驚きが味わえる
あらすじ
大学3年生の片桐は、家庭教師の営業のアルバイトをしていました。今回、彼が訪問したのは、小学6年生の矢野悠くんのお宅です。全国模試の結果が散々だったので、受験に向けて巻き返しを図りたいという相談でしたが、約束の時間に家のチャイムを押しても誰も出てきませんでした。直前に家から女性の金切り声が聞こえていたので、不審に思った片桐が電話をかけようとしたところ、ようやく母親が応答します。その後、家に入った片桐は、何か違和感を覚え…。

日常に潜む小さな「歪み」を仕掛けにした短編ミステリー集です。

不妊に悩んでいた夫婦の夫が、精子提供をして生まれた子どもにこっそり会いに行く物語や、子どもが4人しかいない島で、YouTuberを目指す子どもたちが、殺人事件に巻き込まれる物語など、話題性のあるテーマに引き込まれました。

一方で、ほとんどの短編で結末が予測できるので、「どんでん返し」を期待して読むと、ショックを受けるかもしれません。

浅倉秋成『俺ではない炎上』

おすすめ度:3.5

  • 真犯人を見つけるために逃亡する主人公を応援したくなる
  • ラストはどんでん返しに驚かされる
あらすじ
ハウスメーカーで営業部長を務める山縣やまがた泰介たいすけは、彼になりすましたTwitterのアカウントから、女性を刺した写真を拡散されました。身に覚えがなかったので、すぐに騒ぎは収まると思っていましたが、死体が見つかったため炎上します。さらに、郵便受けに倉庫の鍵が入っていたので怪しく思い、開けたところ、ゴミ袋の中から生首が見つかりました。このままでは殺人犯にされてしまうと焦った泰介は、警察から逃げ出し、真犯人を見つけようとしますが…。

女性が刺された写真をなりすましアカウントから拡散された主人公が、警察や家族など多くの人に無実を信じてもらえず、真犯人を見つけるために一人逃亡する物語です。

正義のヒーロー気取りで適当なことばかりツイートする人たちに怒りが込み上げてくる一方で、SNSでは誰もが「自分は悪くない」と呟き、他人のせいにして自己承認をしているという指摘に納得しました。

また、終盤の怒涛の展開に引き込まれ、どんでん返しに驚かされました。

櫛木理宇『氷の致死量』

おすすめ度:4.0

  • 教師と連続殺人犯、刑事それぞれの視点で真相に迫る物語に引き込まれる
  • 当然のように他人を攻撃する人たちに怒りが込み上げてくる
  • 毒親に育てられた性的マイノリティの主人公が悩みから解放される姿に感動する
あらすじ
ある事件をきっかけに公立中学の教師を辞めて、聖ヨアキム学院に赴任した鹿原かばら十和子は、14年前に何者かに殺害された教師・戸川更紗さらさに興味を持ちます。更紗が自分と同じアセクシュアル(無性愛者)ではないかと考えたからです。一方、亡くなった更紗に異常な執着を持つ八木沼武史は、母を追い求めて、中年女性を4人殺害していました。そんな八木沼の前に更紗にそっくりな十和子が現れたので、八木沼は運命だと思い、十和子が担任する生徒の母親を殺し…。

14年前に殺害された教師にそっくりな主人公が、同じ学校に教師として赴任したことで、再び事件が起きる物語です。

主人公と連続殺人犯、刑事それぞれの視点で、14年前と新たに起こった事件の真相に迫る展開に、ページをめくる手が止まらなくなりました。

また、毒親に育てられた主人公が、相手が望む態度を反射的にとってしまい、悩み苦しむ姿に心が痛む一方で、アセクシュアルなどの性的マイノリティも含めて、「他者に迷惑をかけなければ、ありのままに生きていい」ことを心から理解し、解放されていく姿に感動しました。

五十嵐律人『六法推理』

おすすめ度:3.5

  • 無料法律相談所に持ち込まれた悩みを凸凹コンビが解決していく展開が面白い
  • 少し毒のあるラストに心が揺さぶられる
あらすじ
霞山かざん大学法学部4年生の古城成行は、「無料法律相談所」を運営していました。そこに経済学部3年生の戸賀夏倫かりんが訪れます。彼女が住む事故物件のアパートで、2ヶ月前から突然、夜中に赤ん坊の鳴き声が聞こえたり、ベランダの窓ガラスに赤い手形がこびりついていたり、郵便受けに真っ赤な文字の手紙が入るなど、日を追うごとにイタズラが悪化してきたので、解決して欲しいと言うのです。この話を聞いた古城は、管理人が怪しいと言い出し…。

リベンジポルノ動画をツイッターで拡散した犯人を捕まえたい、毒親と縁を切りたいなど、無料法律相談所に持ち込まれた悩みを、運営者の古城成行と、最初の相談者である戸賀夏倫が協力して解決していくミステリーです。

法律を駆使して倫理的に事件に向き合う古城に対して、古城の推理の矛盾を指摘し、直感と閃きで論理を再構築して、謎を解き明かす夏倫の凸凹コンビが面白く、ページをめくる手が止まらなくなりました。

また、リベンジポルノや毒親など、最近話題のテーマをミステリーにした物語に引き込まれ、少し毒があり、考えさせられるラストに心が揺さぶられました。

本城雅人『にごりの月に誘われ』

おすすめ度:3.5

  • 隠したい過去を公表しようとするカリスマ経営者の目的が気になる
  • ラストに二転三転する展開が面白い
あらすじ
IT企業の会長・釜田芳人よしとから、ゴーストライターとして自叙伝の執筆を依頼された上坂すぐるは、当初、断ろうと考えていました。11年ほど前に依頼された著作の報酬2000万円が未払いのままだったからです。それでも依頼を引き受けたのは、釜田が間もなく絶命することがわかり、自叙伝がヒットすると確信したからでした。ところが、取材をはじめると、驚きのエピソードが次々と飛び出します。上坂は、何か裏があるのではないかと疑い始めますが…。

余命3ヶ月もないIT企業の会長から、自叙伝の執筆を依頼されたフリーライターが、愛人との関係や警察沙汰になった話など、隠したいはずの過去を次々と聞かされ、何か裏があるのではないか?と疑うミステリーです。

出来上がった仮の自叙伝、フリーライター、IT企業の若手経営者という3つの視点が切り替わりながら物語の核心に迫っていく展開に、続きが気になってページをめくる手が止まらなくなりました。

ラストの二転三転する展開も面白く、タイトルに込められた意味もオシャレで心に残りました。

新川帆立『剣持麗子のワンナイト推理』

おすすめ度:3.0

  • お金のために行動してきた麗子が、お金にならない仕事を引き受けるのが面白い
  • ラストにすべてがつながっていく展開に引き込まれる
あらすじ
『元彼の遺言状』で亡くなった弁護士・村山権太の業務を引き継いだ剣持麗子は、そのせいで面倒なわりにお金にならない仕事ばかりが舞い込んできました。進藤不動産の社長が殺された事件もそのひとつ。武田信玄と名乗る男から夜中に呼び出された麗子は、仕方なく警察署に向かいますが、その男は本名も住所も明かしませんでした。麗子は翌日に控えた仕事に取り掛かれるよう、朝までに解決しようとしますが、橘という変わった刑事まで絡んできたので…。

面倒だけどお金にならない仕事が次々と舞い込んでくるようになった剣持麗子が、朝が来るまでに事件を解決しようと奮闘する物語です。

本名も住所も明かさない男の正体は?二人きりの密室で死体を見つけた男は本当に無実なのか?亡くなった先輩弁護士がすぐに復活して、再び亡くなった理由は?など、不可思議な事件の謎に迫るミステリーに引き込まれました。

また、ラストはすべての事件がつながっていく展開に、ページをめくる手がとまらなくなりました。

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塩田武士『朱色の化身』

おすすめ度:3.0

  • 多くの人たちの証言で物語が進んでいく構成が面白い
  • 行方がわからなくなった女性の悲惨な過去に心が痛む
あらすじ
ライターの大路亨は、元新聞記者の父から、一世を風靡したゲームの開発者である辻珠緒に会わせてほしいと依頼されます。しかし珠緒は、亨が記事を書いてしばらくしてから、行方がわからなくなっていました。そこで、亨は珠緒と関係のある人たちに取材を申し込み、行方を尋ねます。珠緒の元夫や大学時代の旧友、銀行勤めをしていたときの同僚など、多くの人たちに取材を重ねるうちに、亨は珠緒という女性に興味を持ちはじめました。なぜなら、彼女は…。

ライターの主人公が、行方がわからなくなったゲームの開発者を探すために、多くの人たちに取材を重ね、彼女の過去を明らかにしていく物語です。

多くの人たちの証言で、珠緒という女性の人物像が浮き彫りになっていく構成が面白く、また彼女の悲惨な過去に心が痛みました。

「ゲーム障害」「家柄の格差」「銀行総合職」「就職差別」「親友の逮捕」など、時代の構造を浮き彫りにする社会問題が盛り込まれたストーリーに引き込まれ、最後まで一気に読みました。

白木健嗣『ヘパイストスの侍女』

おすすめ度:3.5

  • 最先端の自動運転技術やAI技術が盛り込まれた物語に引き込まれる
  • ラストに驚きが味わえ、何よりも心が大切だというメッセージに共感できる
あらすじ
パワハラで多くの部下を自殺に追い込んだ、あかつき自動車 先進技術課長の門倉隆之は、自動運転車WAVEの実証実験中に、車が急停止したせいで、トラックに追突衝突されて亡くなります。事件は交通事故として処理されるはずでしたが、サイバー攻撃で意図的に事故を起こしたという脅迫メールが届いたことで、警視庁捜査一課とサイバー犯罪対策課の刑事が捜査に乗り出しました。とはいえ、手がかりが掴めめず、捜査の行方は全知全能のAIに委ねられ…。

自動運転車へのサイバー攻撃で起きた事件の全貌を明らかにすべく、殺人事件やサイバー犯罪を取り締まる警視庁の刑事たちと、自動運転車を開発する技術者たちが奮闘するミステリーです。

パワハラ上司や、その被害に遭って辛酸を舐めることになった優秀な研究者の姿に心が揺さぶられるだけでなく、最先端の自動運転技術やAI技術が盛り込まれたストーリーに引き込まれ、ページをめくる手がとまらなくなりました。

また、ラストの展開に驚かされ、どれほど技術が進歩しても、何よりも心が大切だというメッセージに共感できました。

城山真一『看守の信念』

おすすめ度:4.0

  • 刑務所で起こる不可思議な事件の謎が気になって一気読みしてしまう
  • 敏腕刑務官・火石の鋭い推理と優しさに心が動かされる
  • 前作必読のどんでん返しに衝撃を受ける
あらすじ
加賀刑務所で看守部長を務める亀尾は、受刑者が出所予定日の2週間前から一人暮らしの形態で生活し、外出もできる、初導入の更生プログラムに昇任をかけて挑むことになりました。対象者は、26歳のハーフで、外見を揶揄されたことに腹が立ち、2回暴力事件を起こして捕まった坂本治温じおんでした。坂本は、今では真面目に刑に服していましたが、海岸清掃ボランティアに参加したときに、二人の若者が彼の容姿をしつこく揶揄してきたので…。

敏腕刑務官の火石が加賀刑務所で起こる不可思議な事件の謎に挑むミステリーです。

更生プログラムに参加した模範囚が姿を消してから発見されるまでの30分間に何が起こったのか?運動会の翌日に発生した食中毒は故意の犯行なのか?なぜ密室の備品保管庫で火災事件が起きたのか?など、不可思議な事件の謎が気になって一気読みしました。

また、火石の鋭い推理と優しさに心が動かされるだけでなく、前作『看守の流儀』を読んだ後だからこそ味わえる、衝撃のどんでん返しに驚かされました。

南原詠『特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来』

おすすめ度:3.5

  • 特許を巡る争いをミステリーにした物語に引き込まれる
  • VTuberという職業と彼らが使っている撮影システムに興味が湧く
あらすじ
事業化するつもりのない製品の特許を取得し、特許侵害だと他の企業にぶつけて金をせびってきた弁理士の大鳳未来は、「特許侵害を警告された企業を守る」ことを専門とする正反対の特許法律事務所を立ち上げました。そんな彼女に、1ヶ月で2億円稼いだこともある人気VTuberの天ノ川トリィを守って欲しいという依頼が来ます。トリィが使っている撮影システムが、特許を侵害していると測量機器メーカーが警告してきたのです。しかし、その背後には…。

凄腕弁理士の大鳳未来が、特許侵害を警告されたVTuberを守るために、驚きの手を使って相手をねじ伏せていくミステリーです。

特許を巡る争いをミステリーにした、これまでにない物語に引き込まれるだけでなく、VTuberという職業や、彼らが使っている撮影システム(測量用の3Dレーザースキャナーで人体をトラッキングし、データは独自の無線方式でサーバーに高速転送する…など)にも興味が湧きました。

テンポよく新たな謎が提示されていくので、続きが気になって一気読みしました。

ファンタジー

伊坂幸太郎『マイクロスパイ・アンサンブル』

おすすめ度:3.5

  • 失恋した社会人一年生と、元いじめられっ子スパイの物語に引き込まれる
  • ラストにすべてがつながっていく展開に驚き、クスッと笑える
あらすじ
「松嶋君って、エンジン積んでないよね」と言われて、彼女に振られた社会人一年生の松嶋は、夜遅くまで残業していたときに、マグカップをひっくり返して、ミニカーのように手で押して走らせる憧れの先輩社員の姿を目撃します。一方、父からも仲間からも暴力を振るわれて逃げ出してきた少年は、エージェント・ハルトという秘密情報局員に助けられ、一緒に仕事をしないか?と誘われました。彼ら二人の仕事が知らないところでつながっていく物語。

自ら行動を起こすのが苦手な社会人一年生、暴力を振るう父と仲間から逃げ出した少年、嫌なことばかりが続く先輩社員、誰にでも謝ってばかりいる課長など、さまざまな人たちの仕事が知らないところでつながっていく物語です。

誰にでも謝ってばかりいる情けない課長にも、実はすごいところがあって…というように、物事に絶対はなく、立場によって物事の見え方は変わるというメッセージに共感できました。

また、人生で大変なことはあるけれど、大抵のことは、元に戻せる、やり直せるというメッセージに励まされ、ラストですべてがつながっていく展開に驚き、クスッと笑えました。

サスペンス

佐藤究『爆発物処理班の遭遇したスピン』

おすすめ度:3.5

  • SF要素の強い表題作に引き込まれる
  • さまざまなジャンルの闇を取り上げた物語に心が揺さぶられる
あらすじ
宇原巡査部長は、東京オリンピック・パラリンピックに向けたテロ対策合同訓練に爆発物処理班として参加していましたが、爆破予告があったので、後輩の駒沢と共に現場に駆けつけます。しかし、不審物の箱をX線撮影装置で確認すると、ただの石ころだとわかりました。ところが、駒沢が回収すると突然爆発します。箱が1メートル上昇すると爆破するトラップが仕掛けられていたのです。さらに、繁華街にあるホテルにも爆弾を設置したという連絡が入り…。

量子力学を用いた爆弾テロ犯や、架空のクリーチャーをデザインするために動物事件を繰り返す男など、様々なジャンルの闇を取り上げた短編集です。

SF要素の強い表題作だけでなく、裏家業や都市伝説、猟奇殺人、人種差別など、さまざまなジャンルの闇を取り上げた物語に引き込まれました。

一方で、どの短編もグロいシーンが多く、後味も悪いので、読み進めるのに少し時間がかかりました。

ホラー

宇佐美まこと『夢伝い』

おすすめ度:3.0

  • 日常に潜む怪奇現象を取り上げた物語に引き込まれる
  • 理不尽な出来事が、主人公の行動でさらに悪化する展開に心が痛む
あらすじ
人気作家の猿橋ヒデヲから、編集者の増元宛に「もう書けない」というメールが届きます。増元は、2年前に別れた恋人から「あなたの子を産んだ」という連絡があったので、それどころではありませんでしたが、猿橋に会いに行ったところ、これまで出版した小説は相澤という同級生のアイデアがベースになっており、しかも嫉妬で相澤を殺したので、もう書けないと聞かされました。ところが、相澤は12年前の交通事故で動けない身体になっていることがわかり…。

「21年前に妻を殺した男」を殺害した主人公が、幼少期を過ごした田舎で、亡くなった祖母と再会する物語や、精神病棟に入っている従兄弟のために、毎年、湖の底に住むと言われている湖族が人間に化ける話を繰り返し聞く物語など、日常に潜む怪奇現象を取り上げた短編集です。

多くの物語で、顔をしかめるような理不尽な出来事が起こり、しかも主人公の行動でさらに状況が悪化していく展開に心が痛みました。

また、毒のある終わり方にゾクっとし、ミスリードにまんまと騙されたので、いくつかの短編をもう一度読み返したくなりました。

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歴史・時代

藍銅ツバメ『鯉姫婚姻譚』

おすすめ度:3.0

  • 人と人以外のものが夫婦になる物語に引き込まれる
  • 残酷な物語なのに美しさを感じる
あらすじ
28歳の孫一郎は、人魚のおたつから「夫婦になってあげようと思うの」と言われました。孫一郎には結婚歴がありましたが、商才がなく、店に大損害を出し、妻に愛想をつかれて出ていかれました。今では優秀な弟が店を継いでおり、孫一郎は若隠居となって、老女中とおたつと暮らしていたので求婚されたのですが、人魚と夫婦になれるはずもなく、「猿と夫婦になった娘の話」など、人と人以外のものが夫婦になった物語を聞かせ、諦めさせようとしますが…。

人魚に求婚された主人公が、「白蛇と夫婦になった男」や「馬と一緒になった娘」などの物語を聞かせて、諦めさせようとする物語です。

人と人以外のものが夫婦になる物語が、どのように展開していくのか気になって、ページをめくる手が止まらなくなりました。

また、残酷で痛みがあり、死を取り上げた物語にも関わらず、不思議と嫌な気持ちにはならず、むしろ美しさえ感じる結末に引き込まれました。

小川哲『地図と拳』

おすすめ度:3.5

  • 満州をめぐり日本人やロシア人、支那人たちが戦う展開に引き込まれる
  • 未来予測で被害を抑えようという考えに共感し、その難しさに心が痛む
あらすじ
参謀本部から「ロシア軍の狙いと開戦の可能性を調査せよ」という任務を命じられた高木は、通訳の細川を連れて満州へと向かいました。一方、ロシア人宣教師のクラスニコフは、満州に鉄道を広げるために、地図を作ることを命じられます。鉄道を引いた後に、地図通りの都市を作るというのです。さらに、支那人の楊日綱は、両親と一緒に理想郷と言われていた満州で料理屋を開いていましたが、教会を建てるという理由でロシア人に家を奪われたので…。

満州をめぐって日本人とロシア人、支那人たちがそれぞれの思惑で戦いを繰り広げる物語です。

国家とは法であり、為政者であり、国民であり、理想や理念であり、歴史や文化でもある一方で、形あるものは地図だけであり、その地図を自分たちの思惑通りにしようと行動する人たちの熱気に引き込まれました。

また、拳で土地を奪い合う被害を最小限にするために、未来を予測しようとする人たちの姿に心が動かされましたが、戦いが始まると机上で考えた未来は無意味になるという指摘に心が痛みました。

伊東潤『天下を買った女』

おすすめ度:3.5

  • 応仁の乱のきっかけを作った大名たちの自分勝手な振る舞いに怒りが湧く
  • 戦乱を収めるために、頭を働かせて男たちに立ち向かう日野富子が魅力的
あらすじ
八代将軍・足利義政の正室として輿入れした16歳の日野富子は、多くの民が食うや食わずで苦しんでいるにも関わらず、武家や公家の一部が、当たり前のように豊かさを享受している現状に疑問を持っていました。ところが、義政は政治的なことに関心はなく、文化的なことにのみ力を注いでいました。何ひとつ決めることができず、細川勝元に言われるがままに畠山家の家督争いに口を出すなどしていたので、このままでは世の中が乱れると考えた富子は…。

将軍や大名たちが起こした戦乱を、銭の力で収めようと奮闘する日野富子の生涯を取り上げた物語です。

将軍家も大名家も家督争いが相次ぎ、その結果として「応仁の乱」という壊滅的に京を破壊する戦乱が11年も続いた事実に驚き、上に立つ者の欲望のせいで、多くの人たちが苦しむ姿に心が痛みました。

また、若き日の北条早雲と協力して、兵の力ではなく銭の力で応仁の乱を収めようと奮闘する日野富子の姿に心が揺さぶられました。

今村翔吾『幸村を討て』

おすすめ度:3.5

  • 真田幸村が大阪城に入った本当の理由に迫る物語に引き込まれる
  • 真田幸村を討とうとする7人の男たちの物語に心が動かされる
あらすじ
70歳になる家康は、豊臣家を滅ぼし、天下を統一するために大阪城を目指していました。ところが、2度も屈辱を味わわされた真田昌幸まさゆきの次男・信繁のぶしげが家康の前に立ちはだかります。秀吉が存命の頃から目をつけていた大阪城の弱点ともいうべき平野口の前に、真田丸という名の出城を築いたのです。しかも、信繁は幸村と名を改めたと言います。なぜ幸村は、有名な信繁の名を捨てまで改名したのか気になった家康は、何か裏があると考え、調べ始めたところ…。

真田信繁が大阪城に入り、幸村と名を改めた理由と、討てたはずの家康を逃した謎に迫る物語です。

織田有楽斎うらくさいや南条忠元、後藤又兵衛、伊達政宗など、7人の男たちが「幸村を討て」と叫ぶまでの、それぞれの物語に心が揺さぶられました。

また、真田兄弟の絆に心が動かされ、明かされた真相に驚かされました。

蝉谷めぐ実『おんなの女房』

おすすめ度:3.5

  • 女形おやまに嫁いできた女房という設定が面白い
  • 固定観念に捉われていた主人公が変わっていく姿に引き込まれる
あらすじ
武家の娘として育てられた志乃は、父の一存で、歌舞伎役者の喜多村燕弥えんやのもとに嫁ぎました。燕弥は、江戸三座のひとつ、森田屋で評判の女形でしたが、家に帰ってからも女として振る舞い、また役が変わるたびにその女になりきったので、どう接すべきかわからずにいました。そもそも、家でも女でいるのであれば、志乃を女房にした理由がわかりません。志乃は悩みながらも、武家の娘として、燕弥に尽くそうとしますが…。

人気歌舞伎役者の女房として嫁いできた志乃が、女形に人生を捧げる燕弥に振り回されながらも、武家の娘として奮闘する物語です。

はじめは、「武家の娘としてこうあるべきだ」という考えに捉われていた志乃が、燕弥たち歌舞伎役者やその妻たちに接し、少しずつ柔軟な発想をしていく姿に引き込まれました。

人の決めた枠にはまることばかり考えるのはやめて、己の頭で考え、己の手足で行動したくなりました。

西條奈加『六つの村を超えて髭をなびかせる者』

おすすめ度:4.0

  • アイヌの人たちが受けてきた民族差別に心が痛む
  • 賄賂のイメージが強い田沼意次がとった意外な政策に驚く
  • アイヌの本当の姿を世に広めるために人生をかけた最上徳内の半生に感動する
あらすじ
老中・田沼たぬま意次おきつぐが実権を握る江戸中期。幕府は南下を進めるロシアに対抗するために、蝦夷えぞ地開発に乗り出しました。このとき、算額の才能を発揮して「音羽おとわ塾」で頭角を現していた最上徳内は、師匠・本多利明の後押しもあって、蝦夷地見聞隊に参加します。はじめは、見知らぬ土地へ行けることを喜んでいた徳内でしたが、アイヌの人たちと出会い、現状を目の当たりにしたことで…。

松前藩から民族差別を受けるアイヌの人たちを解放するために、人生をかけて行動する最上徳内の半生を取り上げた歴史小説です。

算額の才能があるだけでも羨ましいのに、その才能を捨ててまで、人生をかけて「アイヌの真実を世に広めたい!」と奮闘する最上徳内の半生に、感動と嫉妬する物語でした。

歴史小説としても面白く、賄賂のイメージが強い田沼意次がとった意外な政策にも驚かされました。

朝井まかて『ボタニカ』

おすすめ度:3.0

  • 異常な情熱があれば、周りに迷惑をかけても何かを成し遂げられることがわかる
  • どれだけ迷惑をかけられても、主人公を助けようとする人たちに心が動かされる
あらすじ
明治初期。土佐の佐川で幼少期を過ごした牧野富太郎は、実家が裕福だったこともあり、お金に糸目をつけずに高価な本を買うなど、好きな学問に打ち込んでいました。しかし、学歴には興味がなかったので、つまらないという理由で、小学校を中退します。その後、「日本人の手で日本の植物相フロラを明らかにする」ことを志した富太郎は、上京し、新種の発見や雑誌の発刊など次々と成果を上げますが、お金にも人間関係にも興味がなかったので…。

何よりも大好きな植物学の研究に、人生のすべてを捧げた牧野富太郎の生涯を取り上げた物語です。

とはいえ、裕福だった実家の全財産を使い切って倒産させたり、妻が倒れてお金を求めてきても、お金を送らないどころか、さらに本を買って借金を重ねるなど、金銭感覚がないだけでなく、身近な人たちを思いやる力もない振る舞いに、怒りが込み上げてきました。

一方で、植物学に捧げる情熱は凄まじく、「学問は何かに役立てるためではなく、学問は学問をすることそのものに意義がある」という信念で行動し続ける富太郎と、彼を助ける人たちの姿に、心が動かされました。

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ヒューマンドラマ

凪良ゆう『汝、星のごとく』

おすすめ度:3.0

  • 映画のようなストーリー構成で読みやすい
  • 毒親に育てられた高校生二人の日常に心が痛む
  • 周りの目を気にせず、自分の人生を生きようと思える
あらすじ
高校生の青埜あおのかいは、母が京都で知り合った男を瀬戸内の島まで追いかけたので、転校することになりました。母の愛情を知らずに育った櫂は、物語を書くことで何とか自分を保っていました。一方、父を浮気相手に奪われた井上暁海あきみは、メンタルがやられた母に振り回されていました。母の前では陽気に振る舞っていましたが、一人になるとメッキの笑顔が剥がれ、悩み苦しんでいました。そんな二人が出会い、恋に落ち、東京で暮らすことを夢みますが…。

毒親に育てられた高校生二人が出会い、恋をして、すれ違い、成長していく物語です。

子どもを犠牲にしてでも自分の幸せを手に入れようとする親や、他人の不幸をエンタメのように楽しむ島の人たちに怒りが込み上げ、そうしたつらい環境で悩み苦しむ高校生二人の姿に心が痛みました。

一方で、「自分の人生を生きることを、他の誰かに許されたいの?」「誰もあなたの人生の責任をとってくれない」といった言葉が心に突き刺さり、周りの目を気にせず、自分のために生きようと思えました。

熊谷達也『明日へのペダル』

おすすめ度:4.0

  • ロードバイクの魅力に引き込まれる
  • 仕事よりも趣味を優先する人たちに共感する
  • 新たな一歩を踏み出そうと励まされる
あらすじ
印刷会社で働く55歳の本間優一は、運動不足とお酒の飲み過ぎが原因で、コレステロール値が高くなり、医者からこのままでは薬が必要になると注意されました。そこで、スポーツクラブに入ろうとしますが、新型コロナウィルスが蔓延したので、断念します。しかし、部下の水野唯から、「一年で10キロ以上痩せたので、ロードバイクを始めてみてはどうか?」と提案されると、コロナ禍でもできると興味をもち、総額50万円以上もするロードバイクを買い揃え…。

コレステロール値が高くなった主人公が、部下にロードバイクを勧められて、のめり込んでいく物語です。

仕事も先が見え、定年後も読書とたまに旅行ができればいいと惰性で生きていた主人公が、ロードバイクの魅力にハマり、目標をもっていきいきと毎日を過ごす姿に引き込まれました。

また、コロナ禍によって社会は大きく変わろうとしているのに、時代の変化についていこうとしない人たちに怒りが湧く一方で、新たな一歩を踏み出す人たちの姿に心が動かされました。

寺地はるな『カレーの時間』

おすすめ度:4.0

  • 正反対な性格の祖父と孫が一緒に暮らす展開に引き込まれる
  • 無性にカレーが食べたくなる
  • ラストは感動で涙がこぼれ落ちそうになる
あらすじ
25歳になった桐矢は、母たち三姉妹とそれぞれの娘たちに囲まれて、誕生日を祝ってもらっていました。しかし、そこに苦手な祖父が押しかけてきます。桐矢は、「女は月経があるから機嫌がコロコロ変わりよる」などと属性で人を決めつける祖父がどうしても好きになれませんでしたが、心臓が悪いので一人にできないという理由で一緒に暮らせと言われます。もちろん、断ろうとしますが、まずは祖父の暮らしを覗いてみようと思ったことがきっかけで…。

男は、女はこうあるべきだとすぐに決めつける祖父と、失敗を恐れて人と距離をとって生きてきた孫が一緒に暮らす物語です。

頑固で他人に対して偉そうな態度をとる祖父と、人に興味がない主人公が、互いに影響されながら、少しずつ変わっていく姿に引き込まれました。

また、男として自分はこうあるべきだと思い込んで生きてきた祖父が、娘たちにもひた隠しにしていた秘密に心が動かされ、ラストは感動で涙がこぼれ落ちそうになりました。

窪美澄『夜に星を放つ』

おすすめ度:4.0

  • コロナ禍ならではの心の痛みに寄り添う物語に引き込まれる
  • 折り合いをつけてなんとか生きていこうとする人たちの姿に心が揺さぶられる
  • 新しい母との関係に悩みながらも、前を向いて生きようとする小学生に涙する
あらすじ
コロナ自粛が始まり、リモートワークになった綾は、婚活アプリで知り合った麻生さんに恋していました。しかし、自粛期間に入ってからは、会話の途中でも「急ぎの仕事が入った」というメッセージが続くようになり、不安に思っていました。しかも、ランチでの無駄話や会社帰りにちょっと呑むといった、息抜き兼ガス抜きもできずにいたので、体も心も弱っていた綾は、アボカドを育てることにします。命の元みたいなものの存在が必要だったからですが…。

学校でいじめられている女子中学生が、交通事故で亡くなった母の幽霊と同居する物語や、父の再婚相手との微妙な距離感に悩む小学生の物語など、誰もが抱えている心の痛みを取り上げた短編集です。

どの物語も、最後まで痛みが取り除かれることはなく、むしろ何かを失ったり、誰かを傷つけたり、傷ついたりしながらも、なんとか折り合いをつけて生きていこうとする姿に、心が揺さぶられました。

特に、小学生の男の子が、本当の母と、新しい母、そして父との関係に悩まされながらも、前を向いて生きていこうとする姿に、涙がこぼれ落ちそうになりました。

山内マリコ『一心同体だった』

おすすめ度:3.0

  • 各年代における女性たちの友情物語に引き込まれる
  • 世代を超えて協力する女性たちを応援したくなる
あらすじ
小学四年生の大西千紗は、同じクラスの芳賀裕子と仲良くしていましたが、自分から行動するのが苦手だったので、行動力のある阿部美香にペアを誘われてからは、美香と行動するようになりました。裕子は一人になったので怒りますが…。その後、中学生になった裕子はバレーボール部に入りましたが、友達ができずに悩んでいたところ、ある出来事がきっかけで青柳めぐみと仲良くなります。しかし、めぐみは裕子が好きな男の子にちょっかいを出したので…。

10歳から40歳までの女性の主人公たちが、バトンタッチをしながら、各年代における友情を取り上げた物語です。

高校時代は、大人の男たちに作られたイメージを真似して、合わせて、自分を押し込めて日々を過ごし、働き出してからは、結婚・出産をして男性に尽くすことが正解に思えてしまうなど、各年代の女性が抱える葛藤に心が痛みました。

一方で、女性たちは、自分たちの代で何かをほんの少し良くしたり、変えたり、打破したり、前進させたりすることで、次の世代に少しでも良いバトンを渡そうとしている、というメッセージに共感し、応援したくなりました。

中山可穂『ダンシング玉入れ』

おすすめ度:3.0

  • 凄腕の殺し屋が宝塚にハマっていく展開が面白い
  • 悲しい結末に心が痛む
あらすじ
アラフィフの殺し屋・コリオレイナスは、宝塚のトップスター・三日月傑を事故死か自然死に見せかけて殺して欲しいと依頼されました。事故死か自然死に見せかけるには、ターゲットにできる限り近づき、生活のすべてを把握し、隙を見せた瞬間に殺す必要がありましたが、三日月は朝から晩まで稽古場におり、まったく隙がありませんでした。それでも、殺す隙を窺っていたコリオレイナスでしたが、宝塚のショーで彼女の凄さを目の当たりすると…。

凄腕の殺し屋が宝塚のトップスターを殺そうとするも、ショーの素晴らしさに心を動かされ、仕事をまっとうするかどうか葛藤する物語です。

宝塚でトップスターを務める女性たちのストイックな生活に驚かされ、多くの人たちが宝塚にハマる理由が少しわかりました。

また、凄腕の殺し屋が宝塚という沼にハマっていく展開が面白い一方で、悲しい結末に心が痛みました。

標野凪『今宵も喫茶ドードーのキッチンで。』

おすすめ度:3.0

  • 忙しい毎日に疲れ果てた人たちの姿に共感する
  • 温かい食事と心に響く言葉に癒される
あらすじ
児童文学の翻訳をしている小橋可絵は、コロナ禍の影響でステイホームが求められるようになった今だからこそ、食べ物や暮らし方にも気をつけるチャンスだと思い、心身共に穏やかな生活をしようと決意しました。そこで、SNSでフォローしていたsayoさんのおすすめ商品を買って真似しようとしますが、まったく上手くいきません。それどころか、逆に疲れ果てました。そんなとき、偶然見つけた「おひとりさま専用カフェ 喫茶ドードー」に入ったことで…。

忙しい毎日に疲れ果てたさまざまな年代の女性たちが、森に囲まれた「おひとりさま専用カフェ 喫茶ドードー」に入り、癒されていく物語です。

「素敵でしょ、丁寧でしょ」の押し売りにうんざりしたり、仕事を一人で抱え込んだり、お客様の心ない言葉に傷つくなど、心も身体も疲れ果てた人たちが、店主そろりの温かい食事に癒されていく展開に引き込まれました。

また、「自分自身の芯を持つこと」「白黒つけすぎないこと」「心に余裕を持つこと」といったそろりの言葉が心に響きました。

宇佐見りん『くるまの娘』

おすすめ度:3.5

  • 傷つけ合わずにはいられない家族に恐ろしさを覚える
  • 親が受けた心の傷を受け止めようとして壊れていく主人公の姿に心が痛む
あらすじ
秋野かんこには、兄と弟がいましたが、兄は結婚して、弟は高校進学を機に家を出て行きました。父が、自分が思う道から外れた者に対して冷徹だったからです。父は大学を勝手に辞めた兄を今でも許しておらず、中学でいじめられていた弟には、お前が空気が読めないのが原因だと怒鳴り、家族がこんな風になったのは、母が脳梗塞で倒れたせいだと暴言を吐き、暴力を振るっていました。かんこは、父の思う道から外れませんでしたが、心が病んでしまい…。

両親から見捨てられた父が、自分の存在意義を妻や子どもたちに求めるようになり、それが原因で崩壊した家族を取り上げた物語です。

祖父母から受けた父の苦しみを、暴言を吐かれても、暴力を振るわれても、受け止めようとする主人公の姿に心が痛み、互いに傷つけ合うことでしか家族でいられない彼らの姿に、恐ろしさを覚えました。

また、自分だけでなく他人の苦しみも引き受けてきた優しい母が、病気をきっかけにわがままを言ったり、隠れてお酒を飲むなど、大きく変わった姿を見て、自分の幸せを手放してまで人の幸せを願ってはダメだと気づかされました。

村崎なぎこ『百年厨房』

おすすめ度:3.5

  • 人と距離をとって生きてきた主人公が、突然女性3人と同居する展開が面白い
  • 明治時代からタイムスリップしてきた女性が作ったご飯を食べてみたくなる
  • 自分のことしか考えない主人公が変わっていく姿に心が動かされる
あらすじ
公務員の石庭大輔は、宇都宮市にある元石材商の旧家で一人暮らしをしていましたが、アヤという若い女性が明治時代から突然タイムスリップしてきます。彼女は石庭家で女中をしていたと言い、祖父が生前に語っていたコーヒーを再現したので、疑いつつも信じるしかなく、同居することになりました。さらに、大輔の妹が癌で亡くなったので、娘のルナを引き取ることになります。しかも、大輔と同い年で、民族学芸員の篠原ゆかりまで同居すると言い出したので…。

人と距離をとって生きてきた主人公が、明治時代からタイムスリップしてきた女性と妹の娘、民族学芸員の女性たちと一緒に暮らす物語です。

タイムスリップしてきた女性は元の時代に戻りたいと願い、妹の娘は信頼できる身寄りがおらず、心を閉ざしていましたが、時代を超えた美味しさ溢れる手作りの食事をきっかけに、心が通い合っていく姿に、今すぐ美味しいご飯が食べたくなりました。

また、自分のことしか考えてこなかった主人公が、人の温かさに触れて変わっていく姿に心が動かされ、目の前にいる人を今まで以上に大切にしたくなりました。

月村了衛『脱北航路』

おすすめ度:4.0

  • 北朝鮮の悲惨な現状と、命がけで脱北しようとする人たちの姿に心が痛む
  • 日本の拉致問題に対する杜撰な対応に怒りが湧く
  • 命がけで拉致被害者を助けようとする人たちの姿に涙する
あらすじ
政治指導員のシン・吉夏ギルハは、107号と呼ばれる女性を、キム・正恩ジョンウンの命令だと偽って連れ出しました。彼女は、45年前に北朝鮮に拉致された日本人で、日本では拉致問題の象徴ともいえる存在だったので、日本で受け入れてもらうために、彼女を連れて脱北しようとしたのです。その方法は、国の威信をかけた大規模演習で、ケ・東月ドンウォル大佐率いる潜水艦11号で日本まで逃げ切るというものでしたが、演習統制本部に気づかれ、次々と追っ手を差し向けられたので…。

日本で受け入れてもらうために、広野珠代という45年前に拉致された日本人女性を連れて、脱北しようとする人たちの姿を取り上げた物語です。

国民が飢え、軍人が盗みを働いていても、金家族の権力を維持するのが最優先の北朝鮮に怒りが湧く一方で、妻と子どもが餓死したり、弟を被曝で亡くすなど、家族が犠牲になった軍人たちが命懸けで脱北しようとする姿に心が動かされました。

また、今では拉致問題を声高に叫んでいる日本政府や警察、マスコミの過去の杜撰な対応に怒りが湧くだけでなく、そんな過去を後悔し、命がけで拉致被害者を助けようとする人たちの姿に涙がこぼれ落ちそうになりました。

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髙森美由紀『羊毛フェルトの比重』

おすすめ度:3.5

  • 他人に流されてきた主人公が、自分を取り戻していく姿に心が動かされる
  • 他人の気持ちや世間の当たり前よりも自分を大切にしたくなる
あらすじ
手芸店で働く30歳の根状ねじょうつむぎは、仕事を押し付けてくる先輩や自分勝手な彼氏に疲れ切っていました。それでも、私にも悪いところがあると考えて、問題から目を背け、自分にふたをして毎日をやり過ごしてきましたが、ある日、趣味のぬいぐるみづくりにケチをつけられ、さらにいくつかの出来事が重なったので…。

両親の喧嘩をみて育った主人公が、他人と言い争うことを極端に嫌うようになり、自分に「ふた」をして生きてきましたが、ある出来事をきっかけに変わろうとする物語です。

お金や仕事、他人の気持ち、世間の当たり前に振り回されてきた彼女が、ある少年との出会いをきっかけに、自分を取り戻し、新たな一歩を踏み出す姿に心が動かされました。

自分勝手な彼氏や、意地悪な先輩と向き合っていく彼女の姿をみて、これまで以上に自分を大切にしたくなりました。

柚木麻子『ついでにジェントルメン』

おすすめ度:3.5

  • ユニークな設定の短編に引き込まれる
  • 特権を振りかざす男性に振り回される女性の悩みがわかる
  • 菊池寛像のセリフが心に突き刺さり、もっと自由に生きたくなる
あらすじ
3年前に短編小説で新人賞をとった原嶋覚子は、担当からダメ出しされ続けていました。11回も書き直していましたが、雑誌への掲載もままならず、最初の一冊を出すなんて遠い夢でした。そのため、別の新人賞に応募してデビューし直そうかなと呟いたところ、菊池寛の銅像が「そんなの意味ないよ」と話しかけてきます。「他人の意見とか読者のことは気にせず、やりたいように書きなさい」「仲間を作って、社交性を取り戻しなさい」と言われた覚子は…。

生きづらさを感じていた人たちが、少し不思議な出来事に遭遇し、自由になっていく短編集です。

不倫カップルが訪れるお洒落なお店に、子連れの中年女性が乱入して場を支配する物語や、夫と離婚するために実家に帰ってきた女性に、舅が一緒に住ませて欲しいと言ってきたので、家事・育児をやらせる物語など、ユニークな設定に引き込まれました。

また、「もともとこの世界に確かなものなんて何もないし、どんな仕事も保障はない。だったら、面白い方を、私が楽しくなる方を、信じた方が断然豊かじゃないの」といったセリフが心に突き刺さり、もっと自由に生きたくなりました。

坂木司『ショートケーキ。』

おすすめ度:3.0

  • 甘くて少し酸っぱい物語に心が動かされる
  • 今すぐショートケーキが食べたくなる
あらすじ
大学生のゆかは、高校で知り合ったこいちゃんと今でも仲良くしていました。父が浮気をして家を出て行き、母と二人で暮らすなど、境遇が似ていたので、話があったからです。彼女たちは、今でも数ヶ月に一度、父と会っていましたが、あまり会いたいとは思っていませんでした。ところが、20歳になったことをきっかけに、二人は父から大事な話があると言われます。養育費を払う義務は20歳までなので、最後の面会になるかもしれないと思った彼女たちは…。

予約なしでホールケーキを買いに来る女子大生に密かに恋心を抱く大学生の物語や、良いことがあるとパックで買ったイチゴをケーキの上に追加する女性の物語など、ショートケーキをテーマにした短編集です。

父が浮気をして家を出ていってから、母と二人では大きすぎるので、ホールケーキが食べられなくなったことを「寂さの象徴」として取り上げるなど、ショートケーキに込められた特別な思いに引き込まれました。

また、悩みを抱えている人たちがショートケーキに癒される姿に心が動かされ、今すぐショートケーキが食べたくなりました。

岩井圭也『生者のポエトリー』

おすすめ度:4.0

  • 悩みを抱えた主人公たちが本音を込めた詩を朗読する姿に引き込まれる
  • 詩の力が伝播していく展開に心が揺さぶられる
  • 自分の言葉で詩を書いてみたくなる
あらすじ
中学時代のいじめがきっかけで、母親以外の人と話せなくなった悠平が、バイト中に自作の詩を呟いたことで、ステージに立つことになる『テレパスくそくらえ』。彼氏の顔色を伺ってばかりいた千紗子が、手帳に書いていた詩をバカにされ、他人に見せびらかされたことに怒る『夜更けのラテ欄』。ブラジル出身の少女が、友達と仲良くなるために、詩にも挑戦する『あしたになったら』など、詩をきっかけに新たな一歩を踏み出す6人の姿を取り上げた短編集。

母親以外の人と話せなかったり、彼氏の顔色を伺ってばかりいたり、妻を亡くしたのに寂しいと言えなかったりしている主人公たちが、心の奥底にある本音を詩として表現しようとする物語です。

悩み苦しみながらも、自分の本音と向き合うことを恐れて、誤魔化して生きてきた主人公たちが、勇気を奮い立たせて本音を込めた詩を人前で朗読することで、新たな一歩踏み出す姿に心が動かされました。

また、詩のパワーが伝播していく展開に引き込まれ、本音を込めて、自分の言葉で詩を書いてみたくなりました。

早見和真『八月の母』

おすすめ度:4.0

  • 娘に虐待を繰り返す母の姿に恐怖を覚える
  • 不幸な少女に次々と襲いかかる悲劇に心がかき乱される
  • 自分の人生は他の誰のものでもない、自分だけのものだとわかる
あらすじ
母に虐待されて育った越智エリカは、この街からいつか出ていきたいと願っていました。ところが、彼女に近づいてくる誰もが、彼女をさらなる不幸へと追いやります。それは、スナックを経営する母・美智子の影響によるものでした。しかし、エリカも最愛の娘を授かると…。
愛媛県伊予市で実際に起きた、17歳集団暴行死事件をモチーフにした衝撃の物語。

娘に虐待を繰り返してきた母が、自分の幸せのために娘を縛り付け、またその娘が自分の娘に同じことを繰り返す姿を取り上げた物語です。

不幸な少女に「これでもか!」というほど、次々と悲劇が襲いかかってくるので、心がかき乱されましたが、その一方で、自ら不幸に飛び込むかのように振る舞う少女たちの姿に衝撃を受けました。

たとえどれだけ世話になったとしても、自分の人生はその人のものではなく、自分だけのものだと、深く心に刻み込まれました。

南杏子『アルツ村』

おすすめ度:3.5

  • アルツ村に隠された秘密が気になって一気読みしてしまう
  • 若者の人生を犠牲にしないためにも、認知症患者への対策が必要だと痛感する
あらすじ
夫の暴力から逃れるために、幼い娘を連れて夜逃げをした明日香は、行く当てもなく北海道を車で走っていると、突如、煽ってくる若者たちに追いかけられます。何とか逃れようと山奥に向かった彼女は、高齢者ばかりが暮らす村にたどり着きました。そこはアルツ村と呼ばれる認知症患者ばかりが暮らす村で、一見平和に見えましたが、実は裏では…。

夜逃げをした主人公が、たどり着いた山奥の村に身を隠しながら、認知症患者ばかりが暮らす、その村に隠された秘密に迫る物語です。

認知症患者だとしても、老人ホームに入るのは難しく、家族が自宅で介護をするなんて不可能な現実に衝撃を受けましたが、その皺寄せを若者たちに押し付け、彼らの未来ある人生を犠牲にして生きながらえる老人たちの姿に、心がかき乱されました。

一方で、認知症になっても、患者自身が自由と尊厳を持って暮らしていける可能性があるという示唆に、希望がもてました。

高瀬隼子『おいしいごはんが食べられますように』

おすすめ度:3.5

  • 食事を通して仕事と恋愛関係を浮き彫りにする構成が面白い
  • 誰もが抱えている闇をさらけ出す言葉が心に突き刺さる
  • 現代社会の不条理を目の当たりにできる
あらすじ
前の会社でパワハラを受けていたという芦川さんは、ミスをしても自分で謝りにいかず、別の人が尻拭いをしました。同僚が23時頃まで働いても、片頭痛を理由に早退します。しかも、そのお詫びだと言って、手作りのお菓子を職場に持ってきました。パワハラになるので、「そんな時間があるなら働けよ」とは言えず、仕事ができて頑張り屋の女性・押尾や、芦川さんの彼氏である二谷が、彼女の分まで働く羽目になりました。しかし、我慢の限界がきたので…。

あまり仕事ができないのに、無理をせずに一人先に帰る芦川さんの分まで仕事をする羽目になった男女二人の本音を描いた物語です。

早退してお菓子作りに励む芦川さんが、彼女の分まで働く彼氏に、「ちゃんとしたご飯を食べて」「身体を大切にして」という姿に怒りが込み上げ、「こうした言葉は俺への攻撃だ」という彼氏の心の叫びに共感しました。

また、現代社会は、片頭痛でも薬を飲んで頑張る真面目な強者ではなく、無理をせずに楽に生きる弱者に優しく、弱者が勝つ仕組みになっていることがわかる展開に「その通りだ!」と思う一方で、そうした不条理を目の当たりにして嫌な気持ちになりました。

名取佐和子『図書室のはこぶね』

おすすめ度:4.0

  • 10年ぶりに図書室に戻ってきた小説の謎が気になって一気読みしてしまう
  • 過去と現在がリンクする展開に引き込まれる
  • 今の自分にできることを模索して行動に移す主人公の姿に心が動かされる
あらすじ
バレー部のエースだった高校三年生の百瀬花音かのんは、友人の村木紗千さちに図書委員の代打を頼まれました。体育祭まで一週間を切っていたので、その準備が忙しかったからですが、花音は左足を痛めていたので、参加できずに暇だったからです。こうして一週間、図書委員の俵朔太郎さくたろうと共に図書室で過ごすことになった花音は、ケストナーの小説『飛ぶ教室』が1冊しかないはずなのに、2冊あることに気づきます。しかも、暗号のようなメモまで挟まっていたので…。

左足を怪我して体育祭に参加できなくなった百瀬花音が、図書委員の俵朔太郎を巻き込んで、小説『飛ぶ教室』が10年ぶりに図書室に戻ってきた理由と、小説に挟まっていた暗号メモの謎に迫る物語です。

過去と現在がリンクする展開に引き込まれるだけでなく、図書室にやってきた生徒たちの悩みを解決しようと、今の自分にできることを模索し、奮闘する花音の姿に心が動かされました。

また、「全員で楽しもうと謳う行事は、全員が楽しめる環境を整える必要がある」といった言葉が心に突き刺さり、ラストはこの言葉通りに行動していく花音たちの姿に、感動で涙がこぼれ落ちそうになりました。

瀬尾まいこ『夏の体温』

おすすめ度:3.5

  • 心が痛み、癒され、笑えて、感動できる物語が楽しめる
  • 悩みを抱えながらも他人に優しく接する人たちの温かさに心がほぐされる
あらすじ
小学三年生の瑛介は、ぶつけてもいないのに足にあざができるようになったので、県立病院に検査入院しました。その結果、血小板が少ないことがわかりましたが、経過観察のため、1ヶ月以上入院生活を続けています。とはいえ、病院での生活は退屈でした。低身長の検査入院をする幼児ばかりが入院してきたので、話があわなかったからです。そんな瑛介の前に、同学年の壮太が現れます。瑛介は大喜びしますが、壮太の入院はたったの3日間だったので…。

退屈な入院生活に嫌気がさしている小学生の前に、遊びの天才が現れる物語と、極悪人を主人公にした小説を書くために、腹黒と呼ばれる男子大学生に取材をする女子大生の物語、引っ越しを繰り返してきたせいで友だちができない中学生の物語、という3つの短編が楽しめる小説です。

どの物語も大きな出来事は起きませんが、悩みを抱えながらも他人に優しく接する人たちの温かさに触れて、凝り固まった心がほぐされていくように感じました。

また、病を抱える子どもたちの姿に心が痛み、それでも今を楽しもうとする姿にパワーをもらえ、腹黒い男子大学生と彼に取材をする女子大生のやり取りに笑い、ラストはジーンとする展開に心が動かされました。

山本幸久『花屋さんが言うことには』

おすすめ度:3.5

  • さまざまな想いが詰まった「花」をテーマにした物語に引き込まれる
  • ラストの展開に心が揺さぶられる
あらすじ
ブラック企業に勤める君名紀久子は、退職願を社長に送ってから、電話やメールがひっきりなしに来るようになり、上司まで押しかけてきました。仕方なくファミレスで話を聞いたところ、「本気で辞めるなら無断欠勤で訴えてやる」と言われます。紀久子は困り果てましたが、話を聞いていた花屋の外島とじま李多りたが、「録音したので出るとこ出ようか」と言って助けてくれました。さらに、次の仕事が見つかるまで花屋でバイトしたらいいと誘ってくれたので…。

ブラック企業に勤めていた主人公が、花屋さんでアルバイトを始め、個性的な従業員やお客さんたちと接することで、自分と向き合っていく物語です。

花屋さんの作業の多くは、力仕事と水仕事で、結構な重労働のうえ、ほぼ立ちっぱなしだという事実に驚く一方で、多くの人たちのさまざま想いが詰まった「花」をテーマにした物語に引き込まれました。

また、個性豊かな人たちに影響を受けながら、自分と向き合っていく主人公を応援したくなり、ラストの展開に心が揺さぶられました。

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瀧羽麻子『博士の長靴』

おすすめ度:3.0

  • 知的欲求だけで気象学に向き合う藤巻博士が魅力的
  • 4世代にわたる家族を取り上げた物語に引き込まれる
あらすじ
20歳のスミには下を向いて歩く癖がありました。中学を卒業してすぐに、大きな屋敷の女中として働き始め、掃除にやりがいを感じるようになり、他の用事をこなす合間にも、床が汚れていないかチェックするようになったからです。藤巻家に通うようになってからも、その癖を続けていました。そんなある日。雨の強い日に買い物に出かけ、なんとか帰ってきたところ、長靴を履いた坊っちゃまが突然傘を放り出し、雨にずぶ濡れになったまま空を見上げたので…。

藤巻家に女中として通うようになったスミが、気象学を研究する藤巻博士と出会う物語から始まり、博士一家・4世代の人生を取り上げた短編集です。

何かに役立つかどうかを基準にものを考えるのではなく、気象の仕組みが知りたい、ただそれだけで、人生をかけて気象学を研究する藤巻博士の魅力に引き込まれました。

また、「自分の頭で考えたことは、あなたの財産です。残しておかないともったいない」という藤巻博士の言葉が心に突き刺さり、自分の考えをメモとして残しておきたくなりました。

村山早紀『風の港』

おすすめ度:3.5

  • 新たな旅立ちのきっかけとなる空港に行きたくなる
  • 上手くいかないときは、良い風が吹くまでじっと待とうと励まされる
あらすじ
友人に恋人を奪われ、漫画家としての夢も破れた主人公が、空港で似顔絵画家の老紳士と出会う『旅立ちの白い翼』。空港にある小さな書店で働く女性が、不思議な出来事を体験する『それぞれの空』。幼なじみのベテラン女優と新人賞受賞作家が空港の本屋で33年ぶりに再会する『夜間飛行』。年老いた奇術師がこれまでの人生を振り返る『花を撒く魔女』。4人の主人公が、空港という旅立ちの場所で、ちょっとした奇跡と出会う短編集。

悩みを抱える主人公たちが、空港という新たな旅立ちの場所で、ちょっとした奇跡と出会い、前を向いて歩んでいく姿に心が温まる短編集です。

「にっちもさっちもいかないときは風を待っていてもいいんですよ、きっと。静かに、諦めずに。良い風が吹くその日まで。」といった言葉が心に沁みました。

また、主人公たちのように、未来に飛び立てる日が来ることを信じて、今を懸命に生きようと励まされました。

松浦理英子『ヒカリ文集』

おすすめ度:2.0

  • 多くの男女と付き合っては、相手をふる女性の人物像に迫る構成が面白い
あらすじ
劇作家兼演出家の破月悠高ゆうこうは、2年前に東北で横死しました。その後、妻の久代が、悠高が遺した未完の戯曲を見つけます。夫妻が大学時代に所属していた劇団NTRをモデルにしたものだったので、元劇団員の鷹野裕に「この続きを書いてみない?」と尋ねたところ、荷が重いなと断られたので、5人の元劇団員たちで書くことに決めました。内容は、彼らが愛したにも関わらず、決して心を開かなかったヒカリという女性との思い出を綴ったもので…。

大学時代に劇団に所属していた男女6人が、ヒカリという女性との思い出を綴った文集形式で進んでいく物語です。

多くの男女に愛されたヒカリが、恋愛関係になっては、相手をふり、その後も友達として付き合っていこうとする理由が気になり、ページをめくる手が止まらなくなりました。

とはいえ、ヒカリには、人に尽くさずにはいられないのに、近寄られると離れたくなるほどの心の闇があったのだろう…ということしかわからず、読み終わった後は、虚しさだけが残りました。

角田光代『タラント』

おすすめ度:4.0

  • 人生を諦めた人たちの物語に心が痛む
  • 「特別な人」なんていないことがわかる
  • 小さくても新たなスタートを切ろうと励まされる
あらすじ
大学進学を機に東京で暮らすようになったみのりは、今いる場所から動こうとすれば、失敗して、大勢の人に迷惑をかけると思い込んでいました。ケーキ菓子を売るお店で働いていましたが、責任ある仕事を任されそうになると、祖父が危篤だと嘘をついて実家に帰るなど、仕事から逃げ出していました。とはいえ、大学時代はボランティアサークルに入り、海外に行くなど積極的に行動していましたが、ある出来事の影響で、すべてが嫌になったので…。

過去のある出来事がきっかけで行動できなくなった主人公と、戦争で夢や感情、足など多くのものを失った祖父が、諦めた人生のその先を目指そうとする物語です。

難民になったり、戦争で足を失うなど、つらい問題を抱えている人たちを特別扱いして、自分たちの日常と切り離すのではなく、失恋して、残業続きで、病気になってつらいなど、日常の延長線上に彼らのつらさがあると思うことが、自分事として考えるきっかけになり、問題解決の糸口になるという指摘にハッとしました。

また、自分にしかできない特別な使命を持つことが大切なのではなく、目標もゴールも特になくても、「やってみようかな」と思ったことを始めてみることが大切だというメッセージに心が動かされ、小さくても新たなスタートを切ってみようと励まされました。

伊与原新『オオルリ流星群』

おすすめ度:4.0

  • 未来に希望がもてなくなった主人公が天文台作りを手伝う展開が熱い
  • 天文学の画期的な研究手法に驚かされる
  • 特別だと思っている人たちも必死になって手足を動かしていることがわかる
あらすじ
父から受け継いだ薬局を経営する45歳の種村久志ひさしは、近所にできたドラッグストアの影響で、経営は悪化の一途を辿っていましたが、何も行動する気が起きませんでした。そんな久志の前に高校時代の同級生・山際慧子けいこが現れます。彼女は国立天文台の研究員をクビになり、自ら天文台を作るために、この町に戻ってきたと言いました。この話を聞いた同級生たちは、高校時代にみんなで協力して作った巨大なタペストリーを思い出し、自主的に手伝い始めますが…。

40歳を過ぎたあたりから、「このままでいいのかなぁ…」と不安に思っていた主人公たちが、天文台作りの手伝いを通して、第二の人生を歩む意義を見出していく物語です。

特別だと思っていた人たちも、実は悩み苦しみながら手足を動かし、アイデアを捻り出して、必死になって一歩ずつ前に進んでいる姿に、今を精一杯頑張ろうと励まされました。

また、天文学の画期的な研究手法に驚かされ、興味が湧きました。

坂木司『楽園ジューシー』

おすすめ度:4.0

  • もみくちゃにされて変わっていく主人公を応援したくなる
  • いいイメージがある沖縄にも多くの問題があることに気づかされる
  • 「ここではないどこか」に行っても幸せにはなれないことがわかる
あらすじ
太っていて、色白で、天然パーマで、5カ国のミックスとして生まれた松田英太は、小中学生の頃にいじめられていました。心の傷は深く、大学生になった今でも、卑屈になって友達ができませんでした。そんな英太の心の拠り所は、中学2年生のときに、同じく居場所がなかった2人と共に過ごした思い出です。嫌なことがあるたびに、「3人で沖縄に行こう!」という約束に思いを馳せていました。ところが、意図せず沖縄のホテルでアルバイトをすることになり…。

ウジウジと過去にしがみつく主人公が、ホテルジューシーで「濃い」人たちと関わり、少しずつ自分が出せるように変わっていく物語です。

ミックスって外国人ぽくってカッコいい/カッコ悪い…といった外側からくる評価にこだわるのはやめて、自分の内側にある本当にやりたいこと、楽しいことに目を向けようと後押しされました。

また、南国で住みやすそうなイメージがある沖縄にも、家父長制といった古いしきたりや基地問題があり、単純に「ここではないどこか」に行っても幸せにはなれないことに気づかされました。

一穂ミチ『砂嵐に星屑』

おすすめ度:3.5

  • 華やかに見えるテレビ業界の裏側を取り上げた物語に引き込まれる
  • 弱い自分&嫌な自分を認めて前に進もうと励まされる
あらすじ
過去に社内不倫をした40代の独身女性アナウンサーが、亡くなった不倫相手の幽霊を何度も目撃する『資料室の幽霊』。報道デスクで働く50代の男性が、「娘との関係」と「同期の早期退職」に悩む『泥舟のモラトリアム』。20代の女性が、好きになった相手がゲイだとわかっても好きになるのをとめられない『嵐のランデブー』など、4人の主人公が、弱い自分&嫌な自分に傷つきながらも、認め、愛していく短編集。

悩みと向き合って思いっきり傷ついた後に、弱い自分&嫌な自分を認めて前に進もうとする人たちの姿に、励まされる短編集です。

「ツイッター眺めるばっかりの頭でっかちから、ちょっとは大人になったということやね」といった言葉が心に突き刺さり、安全地帯から誰かを批判するのはやめて、今すぐ動き出したくなりました。

また、華やかに見えるテレビ業界にも裏があり、どのような場所にいようと、自分を認め、愛していくことが、前を向いて生きる力になるのだと気づかされました。

小野寺史宜『いえ』

おすすめ度:4.0

  • 怒りの矛先のない悲劇に心が痛む
  • スーパーで働く大変さが伝わってくる
  • 人間関係がうまくいかない時は相手の意思を尊重しようと思える
あらすじ
スーパーで働く三上すぐるは、大学3年生の妹・若緒わかおのことばかり気にするようになりました。仲は特に良くも悪くもなく、普通でしたが、若緒の恋人で、傑の友人でもある城山大河が、ドライブ中に事故を起こし、その後遺症で左足を引きずるようになったからです。その後、大河は家に謝りに来ましたが、父と母が正反対の態度を取り、ギクシャクするようになりました。さらに、傑は仕事先のスーパーでも、パートさんとの関係を悩むようになり…。

妹の左足に怪我を負わせた友人に対して、モヤモヤした気持ちを抑えきれなくなった主人公が、仕事でもプライベートでも人間関係で悩む物語です。

傷つき、ぼろぼろになった主人公が、相手の意思を尊重してこなかったことに気づき、苦手意識があった人たちの懐に飛び込み、相手の意思を知り、その意思を尊重して関係を改善していく姿に心が揺さぶられました。

また、お仕事小説としても面白く、スーパーで働く(=パートさんと良い関係を築く)大変さも伝わってきました。

寺地はるな『タイムマシンに乗れないぼくたち』

おすすめ度:3.5

  • まわりと違うだけで傷つけられる人たちに心が痛む
  • 誰もが適切な距離感で孤独と付き合う必要があると気づかされる
あらすじ
他人に同調するのが苦手な20代の女性が、殺し屋という設定で退屈な毎日をやり過ごす『コードネームは保留』。転校してから誰とも口を聞かなくなった小学生が、博物館に癒しを求める『タイムマシンに乗れないぼくたち』。保育園に通う姪を迎えに行くことになった未婚女性が、美しいメロディに耳を傾ける『口笛』。亡くなった夫が書いた小説のヒロインが、日常生活に入り込む『夢の女』など、孤独に傷つく人たちの日常を取り上げた短編集。

まわりと話し方が違っていたり、結婚していなかったり、群れるのが苦手だったりする人たちが、孤独に傷つく日常を取り上げた短編集です。

「幸せ」のカタチは、一つではないはずなのに、まわりと違うだけで距離を取られ、不幸だと決めつけられ、傷つく人たちの姿に心が痛みました。

一方で、本当は誰もが孤独で、それぞれの苦しみがあり、痛みがあり、喜びが、願いがあることに気づくことができ、適切な距離感で孤独と付き合っていく必要があるとわかりました。

永井みみ『ミシンと金魚』

おすすめ度:4.0

  • 認知症を患う老女の視点で物語が語られる構成が新しい
  • 老女の壮絶な人生に心が痛む
  • 次々と悪いことが起こっても、ひたむきに生きる老女の姿に感動する
あらすじ
認知症を患うカケイは、デイサービスで「みっちゃん」たちから介護を受けていました。ある日、病院から帰る途中に、あるみっちゃんから「今までの人生をふり返って、しあわせでしたか?」と聞かれます。考えたことがなかったので、正直言ってわかりませんでしたが、真剣だったので、来し方を話すことにしました。カケイは、幼い頃は父と継母に毎日殴られ、結婚・妊娠しても亭主が蒸発したので、ひとりミシンを踏んで子どもを育ててきましたが…。

認知症を患う老女が、これまでの壮絶な人生を振り返り、語る物語です。

幼い頃は父と継母から毎日殴られ、結婚して息子を孕っても、亭主は連れ子を残して蒸発し、生活するために必死になってミシンを踏み続けても、想像を絶する出来事に遭遇するなど、老女の壮絶な人生に心が痛みました。

一方で、「わるいことがおこっても、なんかしらいいことがかならず、ある。おなし分量、かならず、ある」と考える老女が魅力的で、ひたむきに生きる彼女の姿に感動しました。

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浅田次郎『母の待つ里』

おすすめ度:3.0

  • 寂しさのあまり故郷を求める人たちの姿に心が動かされる
  • 「快適さ」や「便利さ」で幸せかどうかは決まらないことがわかる
あらすじ
大企業の社長・松永徹は、四十数年ぶりに里帰りをしました。野心のかけらもありませんでしたが、時代の後押しもあり、役員になり、今では社長にまでなりました。そんな彼を郷里で出迎えたのは、顔も名前も知らない母でした。なぜなら…。還暦世代の3人が、故郷に里帰りをする感動の物語。

一人暮らしを通してきた大企業の社長、退職と共に妻に離婚を言い渡された男性、母に先立たれて一人になった女医という還暦世代の3人が、故郷を求めて「母の待つ里」へと向かう物語です。

都会で何不自由なく暮らしてきた彼らが、ふとした瞬間に寂しさを覚え、自然豊かな故郷に思いを馳せ、いくつになっても自分のことを本気で思ってくれる母なる人を求める姿に、心が動かされました。

また、作中に登場する「ユナイテッド・ホームタウン・サービス」が新しく、今後こうしたサービスを求める人たちが本当に出てくるかもしれないと思えました。

垣谷美雨『もう別れてもいいですか』

おすすめ度:3.5

  • 「夫と別れたい」という一点で物語が構成されているのが面白い
  • あまりにも横暴な夫たちに怒りが込み上げてくる
  • 萎縮するような相手は切り離した方が幸せになれると心から思える
あらすじ
58歳の原田澄子は、パート仕事と家事で忙しい毎日を過ごしていましたが、夫からはバカにされ、見下されていました。澄子にとってモラハラ夫は鬱陶しい存在でしかありませんでしたが、それでも離婚できずにいたのは、一人で暮らす勇気も、お金もなかったからです。しかし、高校時代の同級生・雅代から夫が亡くなったという喪中ハガキが届いたことで、羨ましさが爆発します。さらに、別の同級生・美沙緒が離婚したことを知り、話を聞いたことで…。

モラハラ夫との日々に疲れ切っていながらも、お金や周りの目を気にして離婚できずにいた主婦が、勇気を出して離婚を決断する物語です。

夫にバカ扱いされて見下されるようになってから、どんどん萎縮するようになり、いつの間にか客観的に自分を見られなくなった主人公の姿に心が痛み、一緒に暮らす相手次第で人生が大きく左右されることを痛感しました。

また、日本人は自分が幸せかどうかよりも、人から幸せそうに見えることの方が大切だという指摘に納得する一方で、本当に大切なのは自分の幸せだというメッセージに励まされ、勇気を出して一歩踏み出す主人公の姿に心が動かされました。

まとめ

今回は、2022年に発売された小説【66冊】のおすすめを紹介しました。

どれも魅力的な小説ばかりなので、未読のものがあれば、この機会にぜひ読んでください。

今後も追記していくので、ときどきチェックしてもらえると嬉しいです。

「この小説もおすすめ!」など、お気軽にコメントください。
もしよろしければ、ブックマークやシェアもお願いします。