2022年に発売された小説【87作品】のおすすめをご紹介

エンタメまとめ

2022年に発売された小説の中から、個人的におすすめの小説【10作品】をランキング形式で紹介します。

とはいえ、趣味嗜好は人それぞれ違うので、ランキングから外れた小説も、ジャンル別に紹介します。

幅広いジャンルの小説を、「あらすじ」や「感想」、「おすすめ度」と共に紹介していくので、本選びの参考になれば嬉しいです。

2022年に初出版された小説のみを対象にしています。
※2022年に文庫化された小説のおすすめは、以下の記事で紹介しています。
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  1. 【2022年発売】おすすめ小説10作品をランキング形式でご紹介
    1. 第1位 安壇美緒『ラブカは静かに弓を持つ』
    2. 第2位 藤岡陽子『空にピース』
    3. 第3位 夏川草介『レッドゾーン』
    4. 第4位 川和田恵真『マイスモールランド』
    5. 第5位 町田そのこ『宙ごはん』
    6. 第6位 宇佐美まこと『月の光の届く距離』
    7. 第7位 葉真中顕『ロング・アフタヌーン』
    8. 第8位 東野圭吾『マスカレード・ゲーム』
    9. 第9位 呉勝浩『爆弾』
    10. 第10位 佐野広美『シャドウワーク』
  2. 2022年に発売された小説をジャンル別にご紹介
    1. ミステリー
      1. 青柳碧人『赤ずきん、ピノキオ拾って死体と出会う。』
      2. 小川哲『君のクイズ』
      3. ジェフリー・ディーヴァー『真夜中の密室』
      4. 白井智之『名探偵のいけにえ』
      5. 相沢沙呼『invert Ⅱ 覗き窓の死角』
      6. 佐藤青南『犬を盗む』
      7. 夕木春央『方舟』
      8. 五十嵐律人『幻告』
      9. ホリー・ジャクソン『優等生は探偵に向かない』
      10. 新川帆立『先祖探偵』
      11. 結城真一郎『#真相をお話しします』
      12. 浅倉秋成『俺ではない炎上』
      13. 新川帆立『競争の番人』
      14. 櫛木理宇『氷の致死量』
      15. 五十嵐律人『六法推理』
      16. 本城雅人『にごりの月に誘われ』
      17. 新川帆立『剣持麗子のワンナイト推理』
      18. 塩田武士『朱色の化身』
      19. 白木健嗣『ヘパイストスの侍女』
      20. 城山真一『看守の信念』
      21. 南原詠『特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来』
    2. ファンタジー
      1. 伊坂幸太郎『マイクロスパイ・アンサンブル』
      2. 上橋菜穂子『香君』
    3. サスペンス
      1. 長浦京『プリンシパル』
      2. 佐藤究『爆発物処理班の遭遇したスピン』
    4. ホラー
      1. 宇佐美まこと『夢伝い』
    5. 歴史・時代
      1. 藍銅ツバメ『鯉姫婚姻譚』
      2. 小川哲『地図と拳』
      3. 伊東潤『天下を買った女』
      4. 今村翔吾『幸村を討て』
      5. 蝉谷めぐ実『おんなの女房』
      6. 西條奈加『六つの村を超えて髭をなびかせる者』
      7. 朝井まかて『ボタニカ』
    6. ヒューマンドラマ
      1. 柚月裕子『教誨』
      2. 青山美智子『月の立つ林で』
      3. 知念実希人『機械仕掛けの太陽』
      4. 畑野智美『若葉荘の暮らし』
      5. 早見和真『新!店長がバカすぎて』
      6. 青山美智子『いつもの木曜日』
      7. 辻村深月『嘘つきジェンガ』
      8. 凪良ゆう『汝、星のごとく』
      9. 今村夏子『とんこつQ&A』
      10. 青山美智子『マイ・プレゼント』
      11. 瀬尾まいこ『掬えば手には』
      12. 熊谷達也『明日へのペダル』
      13. 寺地はるな『カレーの時間』
      14. 垣谷美雨『あきらめません』
      15. 窪美澄『夜に星を放つ』
      16. 山内マリコ『一心同体だった』
      17. 中山可穂『ダンシング玉入れ』
      18. 標野凪『今宵も喫茶ドードーのキッチンで。』
      19. 宇佐見りん『くるまの娘』
      20. 村崎なぎこ『百年厨房』
      21. 月村了衛『脱北航路』
      22. 髙森美由紀『羊毛フェルトの比重』
      23. 柚木麻子『ついでにジェントルメン』
      24. 坂木司『ショートケーキ。』
      25. 岩井圭也『生者のポエトリー』
      26. 早見和真『八月の母』
      27. 南杏子『アルツ村』
      28. 高瀬隼子『おいしいごはんが食べられますように』
      29. 名取佐和子『図書室のはこぶね』
      30. 瀬尾まいこ『夏の体温』
      31. 山本幸久『花屋さんが言うことには』
      32. 瀧羽麻子『博士の長靴』
      33. 原田ひ香『古本食堂』
      34. 村山早紀『風の港』
      35. 松浦理英子『ヒカリ文集』
      36. 角田光代『タラント』
      37. 伊与原新『オオルリ流星群』
      38. 坂木司『楽園ジューシー』
      39. 一穂ミチ『砂嵐に星屑』
      40. 小野寺史宜『いえ』
      41. 寺地はるな『タイムマシンに乗れないぼくたち』
      42. 永井みみ『ミシンと金魚』
      43. 浅田次郎『母の待つ里』
      44. 垣谷美雨『もう別れてもいいですか』
  3. まとめ

【2022年発売】おすすめ小説10作品をランキング形式でご紹介

では早速、2022年に発売されたおすすめの小説【10作品】をランキング形式で紹介します。

第1位 安壇美緒『ラブカは静かに弓を持つ』

おすすめ度:4.5

  • 個人レッスンでも著作権料を徴収しようとする著作権団体に怒りが湧く
  • スパイの仕事と音楽を楽しみたい気持ちの板挟みに合う主人公の姿に心が痛む
  • 人を信頼する大切さが感動と共に伝わってくる
あらすじ
中学一年生のとき、チェロ教室の帰りに「ある事件」に遭遇したたちばなたつるは、その日から、悪夢に悩まされていました。チェロに触れることさえできずにいましたが、上司の塩坪に呼び出されて、ミカサ音楽教室に潜入捜査を命じられます。映画音楽などの著作権料を支払わずに、個人レッスンをしているので、その証拠を集めろというのです。こうして橘は、身分を偽って、ミカサ音楽教室に潜り込み、若葉という講師にチェロを教わるようになりますが…。

個人レッスンでも著作権料を徴収するために、全日本音楽著作権連盟に所属する主人公が、ミカサ音楽教室にスパイとして潜り込む物語です。

はじめは割り切ってスパイをしていた主人公が、講師とその仲間たちの優しさや音楽の素晴らしさに触れて、「スパイとしての仕事」と「チェロを楽しみたい気持ち」の板挟みに合う姿に、心が揺さぶられました。

また、ラストは「無数の信頼の上に人間関係は構築される」という、人を信頼する大切さが感動と共に伝わってきたので、涙がこぼれ落ちそうになりました。

第2位 藤岡陽子『空にピース』

おすすめ度:4.5

  • 虐待や貧困、性暴力などに悩まされる子どもたちの姿に心が痛む
  • 自分勝手な親や自己保身に走る教師たちに怒りが湧く
  • 子どものためを思って行動し続ける主人公の姿に心が揺さぶられる
あらすじ
前担任が鬱で休職したので、その後を引き継ぐために水柄みずえ小学校に赴任してきた澤木ひかりは、6年2組を担当してすぐにショックを受けました。日本語が話せないベトナム人のロンや、授業中でも教室を抜け出す今田真亜紅、ときどき給食だけを食べにくる佐内大河など、多くの問題児がいたからです。同僚の先生に相談しても、「この学校では何もしないことです」と釘を刺される始末。それでも、ひかりはこのクラスを良くしようと奮闘しますが…。

問題児ばかりがいるクラスを担当することになった主人公が、虐待や貧困、性暴力などに悩まされる子どもたちのために奮闘する物語です。

子どものことを全く考えずに自分勝手に振るまう親や、自己保身に走る教師たちの姿に怒りが湧きますが、そうした大人たちにバカにされ、怒鳴られても、子どもたちのために行動し続ける主人公の姿に心が動かされました。

また、主人公の優しさや励ましに応えるかのように、前を向いて一歩踏み出そうとする子どもたちの素直な姿に、感動で涙が止まらなくなりました。

第3位 夏川草介『レッドゾーン』

おすすめ度:4.5

  • コロナ感染症の初期から緊急事態宣言までの流れが把握できる
  • コロナ患者を診る医師たちを誹謗中傷する人たちに怒りが込み上げてくる
  • 患者のために行動し続ける医師たちの姿に感動で涙がこぼれ落ちそうになる
あらすじ
長野県信濃山病院に勤務する47歳の日進義信は、コロナ患者を受け入れるという院長に反対しました。クルーズ船の入港から10日も経っておらず、何もわからない状況で、呼吸内科医もいない田舎町の古びた小病院が受け入れる意味がわからなかったからです。ところが、大病院のひしめく関東で、わずかな患者の受け入れが拒否されたため、国も途方に暮れて、押し付けてきたことがわかります。こうして渋々コロナ患者と向き合うことになった日進でしたが…。

ワクチンも薬もなく、対処法さえもわからない初期段階に、コロナ患者と向き合うことになった医師たちの葛藤と奮闘を描いた物語です。

大病院がひしめく関東で、コロナ感染症の疑いがある、わずか174人の患者の受け入れが拒否された事実に驚くだけでなく、拒否された患者を呼吸内科医もいない田舎の小病院に押し付けた国の対応に、呆れ果てて言葉も出なくなりました。

また、無理をしてでもコロナ患者を受け入れることを決意した医師たちに対して、コロナ感染症の原因がまるで彼らにあるかのように誹謗中傷する人たちに怒りが込み上げてきました。

一方で、誹謗中傷されても、家族に反対されても、役割分担という標語のもとに大学病院の医師たちが見て見ぬふりをしても、コロナ患者と誠実に向き合う医師たちの姿に、感動で涙が止まらなくなりました。

対処法さえもわからない初期段階に、誹謗中傷されても、家族に反対されても、コロナ患者と向き合う医師たちの物語に興味がある方におすすめの小説です。

第4位 川和田恵真『マイスモールランド』

おすすめ度:4.5

  • 日本で暮らすクルド人が直面している理不尽に心が痛む
  • 父からは文化で縛られ、日本人からは差別される主人公の姿に心がかき乱される
  • 自由を謳歌できる素晴らしさが痛いほど伝わってくる
あらすじ
クルド人としてトルコに生まれたサーリャは、5歳のときに両親と共に難民として日本に逃れてきました。父が独立運動のデモに参加し、憲兵に捕まり、拷問を受けた後、行方をくらませたので、母と二人で暮らしていましたが、憲兵が何度も家にやってきては、手当たり次第モノを壊したので、トルコから脱出することにしたのです。こうして日本で暮らすようになったサーリャは、高校三年生になり、夢を実現するために、大学に進学しようとしますが…。

迫害を受けてトルコから脱出したクルド人の家族が、日本でも理不尽な目にあいながらも、今を懸命に生きようとする物語です。

2000人以上いるトルコ国籍のクルド人の中で、日本に難民申請をして認められた人は、一人もいない…という現実に衝撃を受けるだけでなく、突然ビザが下りなくる可能性があるなかで、不安に苛まれながら日々を過ごす彼らの姿に、ぶつけようのない怒りが湧き上がってきました。

また、恋愛や結婚など、クルド人の文化で父から縛られる一方で、クルド人だからという理由で日本人から差別される主人公の姿に、心がかき乱されました。

第5位 町田そのこ『宙ごはん』

おすすめ度:4.5

  • 育児を放棄して自分勝手に振る舞う母の姿に怒りが込み上げてくる
  • 家族の呪いが連鎖していく展開に恐ろしさを覚える
  • ラストは感動で涙が止まらなくなる
あらすじ
そらには、愛情いっぱいで接してくれるママ・風海ふみと、ときどき会う魅力的な母・花野かのがいました。二人の母がいて宙は幸せでしたが、小学校に上がるタイミングで、風海夫妻が海外に行くことになり、花野と二人で暮らすことになります。ところが、花野は、ご飯も作らず、宙の世話もせず、学校行事にも参加せずに、仕事と年上の恋人に夢中になっていました。宙は寂しい思いをしていましたが、花野に想いを寄せる佐伯泰弘が手を差し伸べてくれたので…。

育児を放棄して自分勝手に振る舞う母・花野と暮すことになった宙が、料理人の佐伯泰弘に助けられながら成長していく物語です。

子どもよりも、自分が愛されて守られることに夢中になる花野に怒りが込み上げてきますが、宙が傷つく姿を見て、少しずつ変わっていく展開に心が動かされました。

また、家族から受けた呪いとも言うべき「思い込み」の恐ろしさに驚く一方で、思いがこもった料理など、人の優しさに触れて、少しずつ呪いから解放されていく人たちの姿に涙が止まらなくなりました。

第6位 宇佐美まこと『月の光の届く距離』

おすすめ度:4.5

  • 親子関係に苦しんできた人たちの過去をミステリーにした物語に引き込まれる
  • 売春をする少女たちの目的がお金ではないことに驚く
  • 傷ついた子どもを親のように愛そうとする人たちの姿に心が動かされる
あらすじ
平凡な女子高生の柳田美優は、軽い気持ちで付き合った同級生と深く考えずに体を重ねた結果、子どもを身籠ります。しかし、交際相手からは捨てられ、両親からは責められて、家を追い出されました。そこで美優は、子どもを産んで一人で育てていこうと決意しますが、厳しい現実に打ちのめされて、ビルの屋上から飛び降りようとします。そこに「何か食べ物を持ってない?」と尋ねてきた、5歳くらいの女の子が現れたことがきっかけとなって…。

母親に捨てられたり、傷つけられたりするなど、親の愛情を知らずに育った人たちの過去を、ミステリー仕立てにした物語です。

親に恵まれなかった彼らが、優しい人たちに助けられて大人になり、その恩に報いるためにも、親に恵まれない子どもたちを、本当の親のように愛そうとする姿に心が動かされました。

また、売春をする少女たちが、お金よりも、一時の優しさや、嘘でもいいので愛情欲しさに体を売っていることにも驚き、心が痛みました。

第7位 葉真中顕『ロング・アフタヌーン』

おすすめ度:4.5

  • 送られてきた小説と編集者の人生がリンクする展開に引き込まれる
  • 出版業界の厳しい現実と作家の大変さが伝わってくる
  • 不幸な今を幸せだと思い込もうとする女性の姿に心が痛む
あらすじ
新央出版で編集者をしている葛木梨帆は、年末の最終出勤日に、今年中にやるべきことがあったので、デスクを片付け、帰ろうとしたところ、小説が届けられます。それは、7年前に公募型新人賞で最終選考まで残った志村多恵という50代の女性が書いたもので、梨帆が応援していた作家でした。とはいえ、新央出版は、小説から撤退しており、梨帆もビジネス書や新書を手がけていたので、何もできませんでしたが、「読んでみたい!」と思って読み始めたところ…。

志村多恵という50代の女性が、自らの体験をもとに書いた小説が、編集者である葛木梨帆の人生に大きな影響を与える物語です。

送られてきた小説と編集者の人生がリンクする展開に引き込まれるだけでなく、出版業界の厳しい現実やネット右翼などのSNSがもたらす影響、作家の大変さなども伝わってきたので、ページをめくる手が止まらなくなりました。

また、夫や息子に押さえつけられて生きてきた女性が、不幸でも今を幸せだと思い込もうとする姿に心が痛むだけでなく、そこから驚きの一歩を踏み出す姿に心が揺さぶられました。

第8位 東野圭吾『マスカレード・ゲーム』

おすすめ度:4.5

  • 新田浩介と山岸尚美が再び協力する物語に引き込まれる
  • 当たり前のように違法捜査に手を染める梓警部に怒りが込み上げてくる
  • 被害者家族の苦しみに心が痛み、ラストの展開に心が揺さぶられる
あらすじ
駐輪禁止の場所に自転車を停めたことを注意した学生を植物人間になるまで殴り、逮捕された入江悠斗が殺されます。さらに、強盗殺人をした高坂義広と、当時中学生だった少女を自殺に追い込んだ村山慎二も殺されました。彼らは共通して人を殺していましたが、刑が軽かったので、納得のいかない被害者家族が殺したのではないかと疑いますが、アリバイがありました。ところが、被害者家族全員が同じ日にホテル・コルテシア東京に泊まることがわかり…。

犯した罪に対して軽い刑を受けた殺人犯たちが、次々と殺された事件の謎に迫る物語です。

被害者家族たちがホテル・コルテシア東京に集まったので、ホテルのどこかにいる軽い刑を受けた殺人犯を殺すかもしれないと、新田浩介が再びホテルマンに変装して潜入捜査を始めますが、新田が築いた信頼を踏みにじるかのように、次々と違法捜査に手を染める梓警部に怒りが込み上げてきました。

一方で、いつまでも家族が殺された事件に悩み苦しむ被害者家族の姿に心が痛むだけでなく、山岸尚美と新田浩介の決断と、ラストの展開に心が揺さぶられました。

第9位 呉勝浩『爆弾』

おすすめ度:4.0

  • 爆弾犯と警察の頭脳戦に引き込まれる
  • 社会の矛盾を突きつける問いかけに心が揺さぶられる
  • ラストは多くの人たちの決断に心が動かされる
あらすじ
酔っ払って酒屋の自動販売機を蹴り、止めにきた店員を殴って連行された49歳のスズキタゴサクと名乗る男が、取調べの最中に「10時ぴったりに秋葉原で何かが起こる」と予言します。予言通りに爆弾が爆破すると、「ここから3度、次は1時間後に爆破する」と言い出しました。警視庁捜査一課の清宮と類家るいけは、爆弾の在処を聞き出そうとしますが、「九つの尻尾」というゲームをやろうと言われます。このゲームにヒントが隠されていると気づいた清宮たちは…。

身元不明の中年男性が予言した「無差別爆破テロ」を未然に防ごうと、警視庁や所轄の刑事、交番の警官たちが奮闘する物語です。

「見知らぬ誰かと、仲間の命は平等なのか?」「気持ち悪いというだけで、本人だけでなく家族まで爪弾きにする社会は正常か?」「匿名で誰かを糾弾する行為に正義はあるのか?」など、次々と心が揺さぶられる疑問が提示されたので、ページをめくる手が止まらなくなりました。

また、社会には多くの矛盾があり、誰かを傷つけたり、誰かに傷つけられたりするけれど、それでも残酷からも綺麗事からも逃げ出さないと決意する人たちの姿に、心が動かされました。

第10位 佐野広美『シャドウワーク』

おすすめ度:4.0

  • DVを受ける女性たちの悲惨な日常に心が痛む
  • 殺人事件の真相と民間シェルターの秘密が気になって一気に読んでしまう
  • 自分以外の誰かに人生を支配させてはダメだとわかる
あらすじ
夫のDVに苦しむ宮内紀子は、救急車で搬送される大怪我を3回も負って、ようやく夫から離れる決意をしました。しかし、入居希望者が多いシェルターには2週間しかいられず、その後は自分でどうにかするしかありませんでした。とはいえ、両親も亡くなり、友達にも迷惑をかけたくないと考えていた紀子に頼れる相手はいませんでしたが、看護師の間宮路子みちこが救いの手を差し伸べてくれます。ところが、紹介された民間のシェルターには、ある秘密があり…。

夫のDVに苦しむ女性たちが、ある秘密を抱える民間シェルターでの生活を通して自分を取り戻していく物語です。

DVが悲惨なものだと頭ではわかっているつもりでしたが、殴る蹴るなどの暴力にとどまらず、瓶で殴ったり、刃物で刺すなど、想像を上回る犯罪行為に衝撃を受け、怒りが込み上げてきました。

一方で、DVの被害にあった女性たちが、民間のシェルターに入り、ある秘密のお陰で自分を取り戻していく展開に引き込まれるだけでなく、ある女性が殺された事件との関わりが気になって、最後まで一気に読みました。

また、「世間は法律で裁けない悪意で満ちている」ことがわかり、自分以外の誰かに人生を支配させてはダメだというメッセージに心が揺さぶられました。

殺人事件の真相に迫るミステリー要素と、DVの被害にあった女性たちが自分を取り戻していく姿に心揺さぶられる物語に興味がある方におすすめの小説です。

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2022年に発売された小説をジャンル別にご紹介

引き続き、2022年に発売された小説をジャンル別に紹介します。ジャンルは次のように分類しています。

  • ミステリー
  • サスペンス
  • ファンタジー
  • ホラー
  • 歴史・時代
  • ヒューマンドラマ

ミステリー

青柳碧人『赤ずきん、ピノキオ拾って死体と出会う。』

おすすめ度:3.0

  • 童話の世界を舞台に繰り広げられるミステリーに引き込まれる
  • 童話ならではのトリックや謎解きが面白い
  • 童話では語られなかったオリジナルのストーリーが魅力的
あらすじ
赤ずきんは、おじいさんの家に向かって歩いていたところ、キツネと黒猫と三毛猫を見かけます。彼らは大きな袋を担いでおり、その袋から木の腕を落としました。落とした腕はピノキオのもので、紙とペンを渡すと、騙されて旅回りの一座に売られ、やりたくもない芸を一年もやっているので助けて欲しいと書きます。そこで赤ずきんは、ピノキオを助けるために、親指一座を訪れますが、ショーが終わると、一座のひとり・キツネのアントニオが殺されたので…。

ピノキオの身体を取り戻すために、巻き込まれた殺人事件の謎を、赤ずきんが解き明かす物語です。

『白雪姫』や『ハーメルンの笛吹き男』、『三匹の子豚』など、童話の世界を舞台に繰り広げられるミステリーに引き込まれました。

また、嘘をつくとピノキオの鼻が伸びることを利用した謎解きなど、童話ならではのトリックや謎解きが面白く、最後まで一気に読みました。

他にも、「白雪姫に出てくる魔女は、実は落ちこぼれで、シングルマザーのために活動していた」など、童話では語られなかった物語を、独自の視点で、オリジナルのストーリーとして描いているのが魅力的で、これまでとは一味違った童話が楽しめました。

童話をミステリー仕立てにした物語に興味がある方におすすめの小説です。

小川哲『君のクイズ』

おすすめ度:3.5

  • クイズで勝つには独自の戦い方をする必要があることがわかる
  • テレビタレントがクイズを出題される前に正解できた理由が気になる
  • 恥ずかしさを捨てて行動することが大切だというメッセージに共感できる
あらすじ
生放送のテレビ番組「Q-1グランプリ」の決勝に残った三島怜央れおは、対戦相手の本庄きずなよりも正解を多く重ね、優勝賞金1000万円に王手をかけました。しかし、すぐに同点に追いつかれただけでなく、最終問題では、問題を読み上げる前に本庄が正解を答えたので敗退します。三島や準決勝で敗退したクイズプレイヤーたちは、「やらせ」を疑いますが、総合演出の坂田や本庄からは、納得のできる答えが返ってこなかったので、三島が独自に調査を始めたところ…。

テレビタレントが問題を読み上げる前に、クイズに正解できた謎に迫る物語です。

クイズは単純に知識の量を競うのではなく、クイズの答えが確定するポイントを見極めたり、他のプレイヤーに勝つためにリスクをとって確定前にボタンを押すなど、独自の戦い方があることがわかり、驚きました。

とはいえ、問題を読み上げる前にクイズに正解するのは不可能に思え、テレビタレントがなぜ正解できたのか?が気になって、ページをめくる手が止まらなくなりました。

また、クイズであれ現実であれ、誰かに笑われるのを恥ずかしがっていては、自分の可能性を閉ざしてしまうので、恥ずかしさを捨てて、何でもやってみることが大切だというメッセージに共感しました。

早押しクイズに勝つ戦略を、大きな謎と共に描いた物語に興味がある方におすすめの小説です。

ジェフリー・ディーヴァー『真夜中の密室』

おすすめ度:3.6

  • どんな錠でも解除するロックスミスの正体が気になって一気に読んでしまう
  • 主人公を捜査から外そうとする市長と警察上層部に怒りが込み上げてくる
  • ラストは怒涛のどんでん返しに驚かされる
あらすじ
ロックスミスと名乗る男が、最新の錠がかかった女性の部屋に侵入する事件が起きます。彼は住人には危害を加えませんでしたが、部屋にあったものを飲み食いし、包丁やパンティなどを盗み、新聞紙に因果応報と書いて立ち去りました。ニューヨーク市警からの依頼で、この事件を担当することになった科学捜査官のリンカーン・ライムは、全く証拠を残さないロックスミスを捕えようと奮闘しますが、政争に巻き込まれてしまい、事件から外されます。しかし…。

どんな錠でも一瞬で解除するロックスミスと、科学捜査官リンカーン・ライムの知能戦を描いたミステリに興味がある方におすすめの小説です。

白井智之『名探偵のいけにえ』

おすすめ度:3.5

  • 新興宗教に洗脳された人たちの思い込みに恐ろしくなる
  • 新興宗教を調査する人たちが次々と不審死を遂げていく謎が気になる
  • 奇蹟が起こる前提と起こらない前提での謎解きが面白い
あらすじ
探偵の大塒おおとやたかしは、大学生で助手の有森りり子が「コロンビア大学で開かれるアメリカ宗教学会の年次大会に参加する」と言って出て行ったまま、連絡が途絶えたことを心配して調べ始めます。その結果、りり子は奇蹟を起こす宗教団体「人民協会」を調査するために、ジョーデンタウンにいることがわかりました。そこで大塒は、ルポライターの乃木野蒜のびると共に乗り込みますが、着いて早々に乃木が殺されます。さらに、信者でない人たちが次々と死んでいき…。

奇蹟を起こすという宗教団体の真相を暴くために、探偵たちが調査に乗り出す物語です。

車椅子に乗らないと動けないのに、足が治ったと言ったり、顔にくっきり残っている傷が治っていると言い出すなど、新興宗教に洗脳されている人たちの言動に恐ろさを覚えるだけでなく、こうした幻覚が多くの人たちに伝播する「感応精神病」という病気が実際にあることに驚きました。

また、怪しげな宗教団体「人民協会」を調査しにジョーデンタウンに訪れた人たちが、密室で亡くなるなど、次々と不審死を遂げていく展開に、真相が気になってページをめくる手が止まらなくなりました。

さらに、奇蹟が起きる前提での謎解きと、起こらない前提での謎解きを披露し、宗教団体の教祖にどちらが真実かを選ばせる展開に引き込まれただけでなく、ラストは想像を上回る仕掛けに驚かされました。

新興宗教が起こす奇蹟の真相に迫るミステリーに興味がある方におすすめの小説です。

相沢沙呼『invert Ⅱ 覗き窓の死角』

おすすめ度:2.6

  • 城塚じょうづか翡翠ひすいシリーズの第3弾が楽しめる
  • トリックやどんでん返しに驚かされる
あらすじ
親友・悠人の両親が保有する別荘に忍び込んだ夏木蒼太は、悠人の母親に見つかり、泥棒と間違えられたので、思わず包丁で刺し殺しました。蒼太はすぐに逃げようとしますが、そこに城塚翡翠と千和崎真がやってきて、車が故障し、台風の豪雨で土砂崩れに巻き込まれ、道が復旧するには朝まで待たなくてはいけないので雨宿りをさせて欲しいと言われます。もちろん、蒼太は断ろうとしますが、翡翠に魅了されて了承してしまいました。そのせいで…。

トリックも、どんでん返しも面白いミステリなので、あざとい主人公が問題なく受け入れられる方におすすめの小説です。

佐藤青南『犬を盗む』

おすすめ度:3.5

  • 犬を中心に構成されたミステリーが新しい
  • 犬にまつわる「あるあるエピソード」が事件を解く鍵になるのが面白い
  • 登場人物それぞれの結末に心が揺さぶられる
あらすじ
警視庁捜査一課の植村光太郎は、後輩の下村正大と組んで老女が殺害された事件を捜査していました。殺された老女は、高級住宅街に一人で住み、犬を飼っていたようでしたが、家の中に犬はいませんでした。一方、コンビニでアルバイトをしている鶴崎猛は、先輩の松本博巳が突然犬を飼うようになったと聞いて驚きます。そして、強引に家までついていき、犬の散歩をしたいと言い出しました。さらに、ミステリー作家の小野寺真希がこの事件に興味を持ち…。

事件の鍵を握る犬を中心に、刑事やミステリー作家たちが、老女が殺害された事件の真相に迫るミステリーです。

殺された老女やコンビニでアルバイトをする先輩と後輩、ミステリー作家など、登場人物の誰もが何かを隠しているので怪しく思え、事件の真相が気になって一気に読みました。

また、ラストは想像を上回る展開に驚き、登場人物それぞれの苦い結末や心温まる結末に、心が揺さぶられました。

夕木春央『方舟』

おすすめ度:3.6

  • 自分が助かるには誰かを犠牲にしなければいけないという設定に引き込まれる
  • 殺人事件の犯人と動機が気になって一気に読んでしまう
  • ラストはどんでん返しに驚かされる
あらすじ
大学時代の友人5人と従兄と共に長野県にある別荘に来た越野柊一しゅういちは、父が別荘の所有者である西村裕哉に連れられて、山奥にある地下建築「方舟はこぶね」を探索していました。そこに、きのこ狩りをして道に迷った3人家族が合流します。ところが、夜が明けると地震が起こり、出入り口が岩で塞がれました。水も流入してきたので、1週間以内に脱出する必要に迫られますが、誰かを犠牲にしないと脱出できないことがわかります。しかも、友人のひとりが殺され…。

誰かを犠牲にしてでも自分だけは生き残ろうとする人たちの心理と、どんでん返しに驚かされるエンタメミステリに興味がある方におすすめの小説です。

五十嵐律人『幻告』

おすすめ度:3.0

  • 公正な判決をしようと真剣に裁判に向き合う人たちが魅力的
  • 自分を捨てた父とその家族の幸せのために奮闘する主人公に心が動かされる
あらすじ
裁判書記官の宇久井うぐいすぐるは、担当していた裁判が終わったので扉から出ようとしたところ、突然意識を失い、目が覚めると5年前にタイムリープしていました。その日は、傑が幼い頃に家を出ていった父が、義理の娘にわいせつな行為をした事件の裁判がある日でした。当時、学生だった傑は、有罪になった父を恨んでいましたが、冤罪の可能性に気付きます。そこで傑は、弁護士に手紙を渡し、無罪に誘導しますが、これが原因で未来がさらに悪化したので…。

過去にタイムリープした主人公が、父が強制わいせつ罪で訴えられた事件の真相に迫り、父たち家族の未来を切り開こうとする物語です。

盗みを働いたとしても、転売する目的であれば窃盗罪になり、トイレに流す目的であれは器物破損罪になるなど、刑罰の重さが大きく変わるので、被告人の内心を明らかにしようと真剣に裁判に向き合う人たちの姿に心が動かされました。

また、タイムリープを繰り返しながら、父が強制わいせつ罪で訴えられた事件の真相に迫る展開に引き込まれ、ラストに明かされた真実に心が揺さぶられました。

ホリー・ジャクソン『優等生は探偵に向かない』

おすすめ度:3.5

  • 前作『自由研究には向かない殺人』のその後が楽しめる
  • 失踪事件の真相が気になってページをめくる手が止まらなくなる
  • 想像を上回る悲しい結末に心が揺さぶられる
あらすじ
前作『自由研究には向かない殺人』で、真相を明らかにするために、全てを失いそうになったピップは、二度と探偵の真似事はしないと心に誓いますが、友人のコナーから兄・ジェイミーが行方不明になったので助けて欲しいと言われます。警察に相談しても事件性がないと相手にしてもらえなかったので、仕方なく引き受けることにしたピップは、ポッドキャストで状況を配信し、SNSを活用して情報を手に入れ、少しずつ事件の核心に迫っていきますが…。

女子高生のピップが、ポッドキャストやSNSを活用して、友人の兄・ジェイミーが失踪した事件の真相に迫る物語です。

なぜジェイミーは突然姿をくらませたのか?失踪する二週間ほど前から情緒不安定になったのはなぜか?など、気になる謎が次々と提示されたので、ページをめくる手が止まらなくなりました。

また、周りから嫉妬され、強く非難されたピップが、落ち込み、動けなくなりますが、ある人物の「自分が正しいとわかっていても、みんなにどう思われるかが気になる?」という言葉で自分を取り戻し、再び動き出す姿に胸が熱くなり、想像を上回る悲しい結末に心が揺さぶられました。

新川帆立『先祖探偵』

おすすめ度:3.4

  • 戸籍調査を通して依頼内容の真相に迫る展開に引き込まれる
  • 各短編のラストでちょっとした驚きが味わえる
  • 無戸籍問題を知るきっかけになる
あらすじ
5歳のときに母に捨てられてから、1人で生きてきた邑楽おうら風子は、先祖を探す探偵事務所を開いていました。自分のルーツを知りたいと思っていましたが、母との記憶しか頼れるものがなく、探偵をすれば手がかりが得られるかもしれないと考えたからです。そんな風子が今回依頼されたのは、111歳のひいじいさんを探して欲しいというものでした。「町おこしのために表彰したい」と市役所から連絡があったので、生きているなら会いたいと言われますが…。

先祖をめぐるミステリと、無戸籍問題に興味がある方におすすめの小説です。

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結城真一郎『#真相をお話しします』

おすすめ度:2.0

  • 話題性のあるテーマに引き込まれる
  • ちょっとした驚きが味わえる
あらすじ
大学3年生の片桐は、家庭教師の営業のアルバイトをしていました。今回、彼が訪問したのは、小学6年生の矢野悠くんのお宅です。全国模試の結果が散々だったので、受験に向けて巻き返しを図りたいという相談でしたが、約束の時間に家のチャイムを押しても誰も出てきませんでした。直前に家から女性の金切り声が聞こえていたので、不審に思った片桐が電話をかけようとしたところ、ようやく母親が応答します。その後、家に入った片桐は、何か違和感を覚え…。

日常に潜む小さな「歪み」を仕掛けにした短編ミステリー集です。

不妊に悩んでいた夫婦の夫が、精子提供をして生まれた子どもにこっそり会いに行く物語や、子どもが4人しかいない島で、YouTuberを目指す子どもたちが、殺人事件に巻き込まれる物語など、話題性のあるテーマに引き込まれました。

一方で、ほとんどの短編で結末が予測できるので、「どんでん返し」を期待して読むと、ショックを受けるかもしれません。

浅倉秋成『俺ではない炎上』

おすすめ度:3.5

  • 真犯人を見つけるために逃亡する主人公を応援したくなる
  • ラストはどんでん返しに驚かされる
あらすじ
ハウスメーカーで営業部長を務める山縣やまがた泰介たいすけは、彼になりすましたTwitterのアカウントから、女性を刺した写真を拡散されました。身に覚えがなかったので、すぐに騒ぎは収まると思っていましたが、死体が見つかったため炎上します。さらに、郵便受けに倉庫の鍵が入っていたので怪しく思い、開けたところ、ゴミ袋の中から生首が見つかりました。このままでは殺人犯にされてしまうと焦った泰介は、警察から逃げ出し、真犯人を見つけようとしますが…。

女性が刺された写真をなりすましアカウントから拡散された主人公が、警察や家族など多くの人に無実を信じてもらえず、真犯人を見つけるために一人逃亡する物語です。

正義のヒーロー気取りで適当なことばかりツイートする人たちに怒りが込み上げてくる一方で、SNSでは誰もが「自分は悪くない」と呟き、他人のせいにして自己承認をしているという指摘に納得しました。

また、終盤の怒涛の展開に引き込まれ、どんでん返しに驚かされました。

新川帆立『競争の番人』

おすすめ度:4.0

  • お人好しと天才が反発し合いながら真相に迫る物語に引き込まれる
  • 視野を広くもたないと真相には辿り着けないことに気づかされる
  • 人任せにしないで、挑戦と試行錯誤を積み重ねることが大切だとわかる
あらすじ
公正取引委員会の審査員として働く29歳の白熊楓は、道路工事の受注で談合をしていた市役所職員の豊島浩平に自殺されてしまい、部署異動になりました。新しい部署では、東大主席で、ハーバード大学留学帰りの天才審査官・小勝負勉と共に、ブライダル業界の価格カルテルを調査することになりましたが、談合の疑いがあるホテルのオーナー社長が何者かに刺されたり、尾行していた専務が刺されそうになったり、納入業者へのいじめが発覚したりしたので…。

公正取引委員会に勤める主人公が、天才審査官と共にブライダル業界の不正に迫る物語です。

ブライダル業界の納入業者へのいじめの実態を知り、傷つけられてきた業者に寄り添おうとするお人好しの主人公と、その業者は本当に精一杯努力しているんですかね?と冷静に物事をみようとする天才審査官が反発し合いながらも、協力して調査に乗り出す姿に引き込まれました。

また、ある主張を聞いていたときは被害者だと思われた人たちが、別の主張を聞くと加害者に変わる展開に、視野を広く持つことが大切だと気づかされました。

他にも、社会であれ、親子関係や恋人関係であれ、優秀な支配者がいて、その支配者のもとで人々に利益があてがわれていては、幸せにはなれない、だから不十分で弱くても、一人ひとりが挑戦と試行錯誤を積み重ねることが大切だというメッセージに共感できました。

たとえ能力が劣っていても、人任せにしないで、挑戦と試行錯誤を積み重ねることが大切だとわかるミステリーに興味がある方におすすめの小説です。

櫛木理宇『氷の致死量』

おすすめ度:4.0

  • 教師と連続殺人犯、刑事それぞれの視点で真相に迫る物語に引き込まれる
  • 当然のように他人を攻撃する人たちに怒りが込み上げてくる
  • 毒親に育てられた性的マイノリティの主人公が悩みから解放される姿に感動する
あらすじ
ある事件をきっかけに公立中学の教師を辞めて、聖ヨアキム学院に赴任した鹿原かばら十和子は、14年前に何者かに殺害された教師・戸川更紗さらさに興味を持ちます。更紗が自分と同じアセクシュアル(無性愛者)ではないかと考えたからです。一方、亡くなった更紗に異常な執着を持つ八木沼武史は、母を追い求めて、中年女性を4人殺害していました。そんな八木沼の前に更紗にそっくりな十和子が現れたので、八木沼は運命だと思い、十和子が担任する生徒の母親を殺し…。

14年前に殺害された教師にそっくりな主人公が、同じ学校に教師として赴任したことで、再び事件が起きる物語です。

主人公と連続殺人犯、刑事それぞれの視点で、14年前と新たに起こった事件の真相に迫る展開に、ページをめくる手が止まらなくなりました。

また、毒親に育てられた主人公が、相手が望む態度を反射的にとってしまい、悩み苦しむ姿に心が痛む一方で、アセクシュアルなどの性的マイノリティも含めて、「他者に迷惑をかけなければ、ありのままに生きていい」ことを心から理解し、解放されていく姿に感動しました。

五十嵐律人『六法推理』

おすすめ度:3.5

  • 無料法律相談所に持ち込まれた悩みを凸凹コンビが解決していく展開が面白い
  • 少し毒のあるラストに心が揺さぶられる
あらすじ
霞山かざん大学法学部4年生の古城成行は、「無料法律相談所」を運営していました。そこに経済学部3年生の戸賀夏倫かりんが訪れます。彼女が住む事故物件のアパートで、2ヶ月前から突然、夜中に赤ん坊の鳴き声が聞こえたり、ベランダの窓ガラスに赤い手形がこびりついていたり、郵便受けに真っ赤な文字の手紙が入るなど、日を追うごとにイタズラが悪化してきたので、解決して欲しいと言うのです。この話を聞いた古城は、管理人が怪しいと言い出し…。

リベンジポルノ動画をツイッターで拡散した犯人を捕まえたい、毒親と縁を切りたいなど、無料法律相談所に持ち込まれた悩みを、運営者の古城成行と、最初の相談者である戸賀夏倫が協力して解決していくミステリーです。

法律を駆使して倫理的に事件に向き合う古城に対して、古城の推理の矛盾を指摘し、直感と閃きで論理を再構築して、謎を解き明かす夏倫の凸凹コンビが面白く、ページをめくる手が止まらなくなりました。

また、リベンジポルノや毒親など、最近話題のテーマをミステリーにした物語に引き込まれ、少し毒があり、考えさせられるラストに心が揺さぶられました。

本城雅人『にごりの月に誘われ』

おすすめ度:3.5

  • 隠したい過去を公表しようとするカリスマ経営者の目的が気になる
  • ラストに二転三転する展開が面白い
あらすじ
IT企業の会長・釜田芳人よしとから、ゴーストライターとして自叙伝の執筆を依頼された上坂すぐるは、当初、断ろうと考えていました。11年ほど前に依頼された著作の報酬2000万円が未払いのままだったからです。それでも依頼を引き受けたのは、釜田が間もなく絶命することがわかり、自叙伝がヒットすると確信したからでした。ところが、取材をはじめると、驚きのエピソードが次々と飛び出します。上坂は、何か裏があるのではないかと疑い始めますが…。

余命3ヶ月もないIT企業の会長から、自叙伝の執筆を依頼されたフリーライターが、愛人との関係や警察沙汰になった話など、隠したいはずの過去を次々と聞かされ、何か裏があるのではないか?と疑うミステリーです。

出来上がった仮の自叙伝、フリーライター、IT企業の若手経営者という3つの視点が切り替わりながら物語の核心に迫っていく展開に、続きが気になってページをめくる手が止まらなくなりました。

ラストの二転三転する展開も面白く、タイトルに込められた意味もオシャレで心に残りました。

新川帆立『剣持麗子のワンナイト推理』

おすすめ度:3.0

  • お金のために行動してきた麗子が、お金にならない仕事を引き受けるのが面白い
  • ラストにすべてがつながっていく展開に引き込まれる
あらすじ
『元彼の遺言状』で亡くなった弁護士・村山権太の業務を引き継いだ剣持麗子は、そのせいで面倒なわりにお金にならない仕事ばかりが舞い込んできました。進藤不動産の社長が殺された事件もそのひとつ。武田信玄と名乗る男から夜中に呼び出された麗子は、仕方なく警察署に向かいますが、その男は本名も住所も明かしませんでした。麗子は翌日に控えた仕事に取り掛かれるよう、朝までに解決しようとしますが、橘という変わった刑事まで絡んできたので…。

面倒だけどお金にならない仕事が次々と舞い込んでくるようになった剣持麗子が、朝が来るまでに事件を解決しようと奮闘する物語です。

本名も住所も明かさない男の正体は?二人きりの密室で死体を見つけた男は本当に無実なのか?亡くなった先輩弁護士がすぐに復活して、再び亡くなった理由は?など、不可思議な事件の謎に迫るミステリーに引き込まれました。

また、ラストはすべての事件がつながっていく展開に、ページをめくる手がとまらなくなりました。

塩田武士『朱色の化身』

おすすめ度:3.0

  • 多くの人たちの証言で物語が進んでいく構成が面白い
  • 行方がわからなくなった女性の悲惨な過去に心が痛む
あらすじ
ライターの大路亨は、元新聞記者の父から、一世を風靡したゲームの開発者である辻珠緒に会わせてほしいと依頼されます。しかし珠緒は、亨が記事を書いてしばらくしてから、行方がわからなくなっていました。そこで、亨は珠緒と関係のある人たちに取材を申し込み、行方を尋ねます。珠緒の元夫や大学時代の旧友、銀行勤めをしていたときの同僚など、多くの人たちに取材を重ねるうちに、亨は珠緒という女性に興味を持ちはじめました。なぜなら、彼女は…。

ライターの主人公が、行方がわからなくなったゲームの開発者を探すために、多くの人たちに取材を重ね、彼女の過去を明らかにしていく物語です。

多くの人たちの証言で、珠緒という女性の人物像が浮き彫りになっていく構成が面白く、また彼女の悲惨な過去に心が痛みました。

「ゲーム障害」「家柄の格差」「銀行総合職」「就職差別」「親友の逮捕」など、時代の構造を浮き彫りにする社会問題が盛り込まれたストーリーに引き込まれ、最後まで一気に読みました。

白木健嗣『ヘパイストスの侍女』

おすすめ度:3.5

  • 最先端の自動運転技術やAI技術が盛り込まれた物語に引き込まれる
  • ラストに驚きが味わえ、何よりも心が大切だというメッセージに共感できる
あらすじ
パワハラで多くの部下を自殺に追い込んだ、あかつき自動車 先進技術課長の門倉隆之は、自動運転車WAVEの実証実験中に、車が急停止したせいで、トラックに追突衝突されて亡くなります。事件は交通事故として処理されるはずでしたが、サイバー攻撃で意図的に事故を起こしたという脅迫メールが届いたことで、警視庁捜査一課とサイバー犯罪対策課の刑事が捜査に乗り出しました。とはいえ、手がかりが掴めめず、捜査の行方は全知全能のAIに委ねられ…。

自動運転車へのサイバー攻撃で起きた事件の全貌を明らかにすべく、殺人事件やサイバー犯罪を取り締まる警視庁の刑事たちと、自動運転車を開発する技術者たちが奮闘するミステリーです。

パワハラ上司や、その被害に遭って辛酸を舐めることになった優秀な研究者の姿に心が揺さぶられるだけでなく、最先端の自動運転技術やAI技術が盛り込まれたストーリーに引き込まれ、ページをめくる手がとまらなくなりました。

また、ラストの展開に驚かされ、どれほど技術が進歩しても、何よりも心が大切だというメッセージに共感できました。

城山真一『看守の信念』

おすすめ度:4.0

  • 刑務所で起こる不可思議な事件の謎が気になって一気読みしてしまう
  • 敏腕刑務官・火石の鋭い推理と優しさに心が動かされる
  • 前作必読のどんでん返しに衝撃を受ける
あらすじ
加賀刑務所で看守部長を務める亀尾は、受刑者が出所予定日の2週間前から一人暮らしの形態で生活し、外出もできる、初導入の更生プログラムに昇任をかけて挑むことになりました。対象者は、26歳のハーフで、外見を揶揄されたことに腹が立ち、2回暴力事件を起こして捕まった坂本治温じおんでした。坂本は、今では真面目に刑に服していましたが、海岸清掃ボランティアに参加したときに、二人の若者が彼の容姿をしつこく揶揄してきたので…。

敏腕刑務官の火石が加賀刑務所で起こる不可思議な事件の謎に挑むミステリーです。

更生プログラムに参加した模範囚が姿を消してから発見されるまでの30分間に何が起こったのか?運動会の翌日に発生した食中毒は故意の犯行なのか?なぜ密室の備品保管庫で火災事件が起きたのか?など、不可思議な事件の謎が気になって一気読みしました。

また、火石の鋭い推理と優しさに心が動かされるだけでなく、前作『看守の流儀』を読んだ後だからこそ味わえる、衝撃のどんでん返しに驚かされました。

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南原詠『特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来』

おすすめ度:3.7

  • 次々と起こるトラブルをどのように解決していくのか気になる
  • VTuberとその撮影システムに興味が湧く
  • ラストの怒涛の展開に引き込まれる
あらすじ
自分では事業化するつもりのない製品の特許を取得し、特許侵害だと他の企業にぶつけて金をせびってきた弁理士・大鳳おおとり未来みらいは、「特許侵害を警告された企業を守る」ことを専門とする特許法律事務所を立ち上げました。そんな彼女に、1ヶ月で2億円稼いだことがある人気VTuberの天ノ川トリィを守って欲しいという依頼が来ます。トリィが使っている撮影システムが、特許を侵害していると測量機器メーカーが警告してきたのです。しかし、その背後には…。

弁理士の大鳳未来が、特許侵害を警告されたVTuberを守るために、驚きの方法で問題をねじ伏せていくミステリです。

次々と起こるトラブルを、未来がどのように解決していくのか気になって、ページをめくる手が止まらなくなりました。

ファンタジー

伊坂幸太郎『マイクロスパイ・アンサンブル』

おすすめ度:3.5

  • 失恋した社会人一年生と、元いじめられっ子スパイの物語に引き込まれる
  • ラストにすべてがつながっていく展開に驚き、クスッと笑える
あらすじ
「松嶋君って、エンジン積んでないよね」と言われて、彼女に振られた社会人一年生の松嶋は、夜遅くまで残業していたときに、マグカップをひっくり返して、ミニカーのように手で押して走らせる憧れの先輩社員の姿を目撃します。一方、父からも仲間からも暴力を振るわれて逃げ出してきた少年は、エージェント・ハルトという秘密情報局員に助けられ、一緒に仕事をしないか?と誘われました。彼ら二人の仕事が知らないところでつながっていく物語。

自ら行動を起こすのが苦手な社会人一年生、暴力を振るう父と仲間から逃げ出した少年、嫌なことばかりが続く先輩社員、誰にでも謝ってばかりいる課長など、さまざまな人たちの仕事が知らないところでつながっていく物語です。

誰にでも謝ってばかりいる情けない課長にも、実はすごいところがあって…というように、物事に絶対はなく、立場によって物事の見え方は変わるというメッセージに共感できました。

また、人生で大変なことはあるけれど、大抵のことは、元に戻せる、やり直せるというメッセージに励まされ、ラストですべてがつながっていく展開に驚き、クスッと笑えました。

上橋菜穂子『香君』

おすすめ度:3.5

  • 圧倒的な生命力をもつ稲の秘密が気になって一気に読んでしまう
  • 昆虫や植物の世界では匂いが大きな影響力を持っていることに驚かされる
  • 誰かに依存していては幸せになれないことがわかる
あらすじ
祖父が西カンタル藩王国の王だったアイシャは、現在の藩王に捕まり、殺されそうになりますが、視察官のマシュウに助けられます。アイシャが特殊な嗅覚を持っていることに気づいたマシュウが、香君に仕えさそうと考えたからです。一方、どんな土地でも実り、通常の4倍もの米を収穫できるオアレ稲をもたらし、香りで万象を知ることができると言われていた香君は、民衆から神のように崇められていましたが、オアレ稲に害虫が発生したことで…。

民衆から神のように崇められている香君に押し寄せる難問に、主人公の少女が立ち向かう物語です。

痩せた土地でもぐんぐん育ち、年に何度も収穫できて、味もいいオアレ稲という最強の穀物をコントロールして、複数の藩王国を支配するようになったウマール帝国が隠している「稲の秘密」が気になって、ページをめくる手が止まらなくなりました。

また、植物や昆虫が匂いをもとに行動しているという事実に驚き、特殊な嗅覚を持つ主人公が、彼らの生きる世界を垣間見る展開に引き込まれました。

さらに、誰もが神様のような存在を求めて楽をしたいと思っているけれど、それでは幸せになれないというメッセージに共感し、何事も自分のアタマで考えようと思えました。

特殊な嗅覚を持つ主人公が難問に立ち向かいながら、最強の稲に隠された秘密に迫る物語に興味がある方におすすめの小説です。

サスペンス

長浦京『プリンシパル』

おすすめ度:3.5

  • 終戦直後は暴力団が市民を護っていたという事実に驚かされる
  • 政治家やGHQと渡り合いながら成長していく暴力団の姿に恐ろしさを覚える
  • 暴力団の生き方に染まった主人公の末路に心が痛む
あらすじ
東京女子高等師範学校の附属高等女学校で教師をしていた水嶽みたけ綾女は、父が危篤になったので嫌々実家に戻りました。父は暴力団の組長で、人の命が途絶える瞬間を意図して子どもたちに見せてきました。綾女は、こうした非道と外道が規律の水嶽家に嫌気が差し、家を出て行きましたが、兄たちが戦地から帰ってくるまで、後継者になってほしいと言われます。もちろん、断りましたが、突然襲われた綾女を守るために、幼馴染とその家族が犠牲になったので…。

終戦と父の死により、暴力団の組長代行になった女教師が、GHQや政治家たちと対等に渡り合いながら組織を成長させていく物語です。

終戦後は、進駐軍は日本を占領しているだけで食料不足や燃料不足の対策をせず、政治家も自分たちのことしか考えず、警察もアメリカ人の強姦や強盗、暴行を取り締まれずにいたので、暴力団が物を運び、市を開いて商売人を護り、街や夜道を見回って女子供を護っていたという事実に驚かされました。

とはいえ、暴力団も自分たちの利益のことしか考えておらず、人の命を簡単に奪いながら、公共ギャンブルや芸能界などに入り込み、GHQや政治家たちと対立と協力を繰り返しながら成長していく姿に恐ろしさを覚えました。

また、暴力を心の底から嫌っていた主人公が、暴力団という組織にのめり込み、生き残るために人の命を簡単に奪うように変わっていく姿に心が痛みました。

終戦直後の暴力団がどのような組織だったのかがわかるだけでなく、暴力団にのめり込んでいく女教師の物語に興味がある方におすすめの小説です。

佐藤究『爆発物処理班の遭遇したスピン』

おすすめ度:3.5

  • SF要素の強い表題作に引き込まれる
  • さまざまなジャンルの闇を取り上げた物語に心が揺さぶられる
あらすじ
宇原巡査部長は、東京オリンピック・パラリンピックに向けたテロ対策合同訓練に爆発物処理班として参加していましたが、爆破予告があったので、後輩の駒沢と共に現場に駆けつけます。しかし、不審物の箱をX線撮影装置で確認すると、ただの石ころだとわかりました。ところが、駒沢が回収すると突然爆発します。箱が1メートル上昇すると爆破するトラップが仕掛けられていたのです。さらに、繁華街にあるホテルにも爆弾を設置したという連絡が入り…。

量子力学を用いた爆弾テロ犯や、架空のクリーチャーをデザインするために動物事件を繰り返す男など、様々なジャンルの闇を取り上げた短編集です。

SF要素の強い表題作だけでなく、裏家業や都市伝説、猟奇殺人、人種差別など、さまざまなジャンルの闇を取り上げた物語に引き込まれました。

一方で、どの短編もグロいシーンが多く、後味も悪いので、読み進めるのに少し時間がかかりました。

ホラー

宇佐美まこと『夢伝い』

おすすめ度:3.0

  • 日常に潜む怪奇現象を取り上げた物語に引き込まれる
  • 理不尽な出来事が、主人公の行動でさらに悪化する展開に心が痛む
あらすじ
人気作家の猿橋ヒデヲから、編集者の増元宛に「もう書けない」というメールが届きます。増元は、2年前に別れた恋人から「あなたの子を産んだ」という連絡があったので、それどころではありませんでしたが、猿橋に会いに行ったところ、これまで出版した小説は相澤という同級生のアイデアがベースになっており、しかも嫉妬で相澤を殺したので、もう書けないと聞かされました。ところが、相澤は12年前の交通事故で動けない身体になっていることがわかり…。

「21年前に妻を殺した男」を殺害した主人公が、幼少期を過ごした田舎で、亡くなった祖母と再会する物語や、精神病棟に入っている従兄弟のために、毎年、湖の底に住むと言われている湖族が人間に化ける話を繰り返し聞く物語など、日常に潜む怪奇現象を取り上げた短編集です。

多くの物語で、顔をしかめるような理不尽な出来事が起こり、しかも主人公の行動でさらに状況が悪化していく展開に心が痛みました。

また、毒のある終わり方にゾクっとし、ミスリードにまんまと騙されたので、いくつかの短編をもう一度読み返したくなりました。

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歴史・時代

藍銅ツバメ『鯉姫婚姻譚』

おすすめ度:3.0

  • 人と人以外のものが夫婦になる物語に引き込まれる
  • 残酷な物語なのに美しさを感じる
あらすじ
28歳の孫一郎は、人魚のおたつから「夫婦になってあげようと思うの」と言われました。孫一郎には結婚歴がありましたが、商才がなく、店に大損害を出し、妻に愛想をつかれて出ていかれました。今では優秀な弟が店を継いでおり、孫一郎は若隠居となって、老女中とおたつと暮らしていたので求婚されたのですが、人魚と夫婦になれるはずもなく、「猿と夫婦になった娘の話」など、人と人以外のものが夫婦になった物語を聞かせ、諦めさせようとしますが…。

人魚に求婚された主人公が、「白蛇と夫婦になった男」や「馬と一緒になった娘」などの物語を聞かせて、諦めさせようとする物語です。

人と人以外のものが夫婦になる物語が、どのように展開していくのか気になって、ページをめくる手が止まらなくなりました。

また、残酷で痛みがあり、死を取り上げた物語にも関わらず、不思議と嫌な気持ちにはならず、むしろ美しさえ感じる結末に引き込まれました。

小川哲『地図と拳』

おすすめ度:3.5

  • 満州をめぐり日本人やロシア人、支那人たちが戦う展開に引き込まれる
  • 未来予測で被害を抑えようという考えに共感し、その難しさに心が痛む
あらすじ
参謀本部から「ロシア軍の狙いと開戦の可能性を調査せよ」という任務を命じられた高木は、通訳の細川を連れて満州へと向かいました。一方、ロシア人宣教師のクラスニコフは、満州に鉄道を広げるために、地図を作ることを命じられます。鉄道を引いた後に、地図通りの都市を作るというのです。さらに、支那人の楊日綱は、両親と一緒に理想郷と言われていた満州で料理屋を開いていましたが、教会を建てるという理由でロシア人に家を奪われたので…。

満州をめぐって日本人とロシア人、支那人たちがそれぞれの思惑で戦いを繰り広げる物語です。

国家とは法であり、為政者であり、国民であり、理想や理念であり、歴史や文化でもある一方で、形あるものは地図だけであり、その地図を自分たちの思惑通りにしようと行動する人たちの熱気に引き込まれました。

また、拳で土地を奪い合う被害を最小限にするために、未来を予測しようとする人たちの姿に心が動かされましたが、戦いが始まると机上で考えた未来は無意味になるという指摘に心が痛みました。

伊東潤『天下を買った女』

おすすめ度:3.5

  • 応仁の乱のきっかけを作った大名たちの自分勝手な振る舞いに怒りが湧く
  • 戦乱を収めるために、頭を働かせて男たちに立ち向かう日野富子が魅力的
あらすじ
八代将軍・足利義政の正室として輿入れした16歳の日野富子は、多くの民が食うや食わずで苦しんでいるにも関わらず、武家や公家の一部が、当たり前のように豊かさを享受している現状に疑問を持っていました。ところが、義政は政治的なことに関心はなく、文化的なことにのみ力を注いでいました。何ひとつ決めることができず、細川勝元に言われるがままに畠山家の家督争いに口を出すなどしていたので、このままでは世の中が乱れると考えた富子は…。

将軍や大名たちが起こした戦乱を、銭の力で収めようと奮闘する日野富子の生涯を取り上げた物語です。

将軍家も大名家も家督争いが相次ぎ、その結果として「応仁の乱」という壊滅的に京を破壊する戦乱が11年も続いた事実に驚き、上に立つ者の欲望のせいで、多くの人たちが苦しむ姿に心が痛みました。

また、若き日の北条早雲と協力して、兵の力ではなく銭の力で応仁の乱を収めようと奮闘する日野富子の姿に心が揺さぶられました。

今村翔吾『幸村を討て』

おすすめ度:3.5

  • 真田幸村が大阪城に入った本当の理由に迫る物語に引き込まれる
  • 真田幸村を討とうとする7人の男たちの物語に心が動かされる
あらすじ
70歳になる家康は、豊臣家を滅ぼし、天下を統一するために大阪城を目指していました。ところが、2度も屈辱を味わわされた真田昌幸まさゆきの次男・信繁のぶしげが家康の前に立ちはだかります。秀吉が存命の頃から目をつけていた大阪城の弱点ともいうべき平野口の前に、真田丸という名の出城を築いたのです。しかも、信繁は幸村と名を改めたと言います。なぜ幸村は、有名な信繁の名を捨てまで改名したのか気になった家康は、何か裏があると考え、調べ始めたところ…。

真田信繁が大阪城に入り、幸村と名を改めた理由と、討てたはずの家康を逃した謎に迫る物語です。

織田有楽斎うらくさいや南条忠元、後藤又兵衛、伊達政宗など、7人の男たちが「幸村を討て」と叫ぶまでの、それぞれの物語に心が揺さぶられました。

また、真田兄弟の絆に心が動かされ、明かされた真相に驚かされました。

蝉谷めぐ実『おんなの女房』

おすすめ度:3.5

  • 女形おやまに嫁いできた女房という設定が面白い
  • 固定観念に捉われていた主人公が変わっていく姿に引き込まれる
あらすじ
武家の娘として育てられた志乃は、父の一存で、歌舞伎役者の喜多村燕弥えんやのもとに嫁ぎました。燕弥は、江戸三座のひとつ、森田屋で評判の女形でしたが、家に帰ってからも女として振る舞い、また役が変わるたびにその女になりきったので、どう接すべきかわからずにいました。そもそも、家でも女でいるのであれば、志乃を女房にした理由がわかりません。志乃は悩みながらも、武家の娘として、燕弥に尽くそうとしますが…。

人気歌舞伎役者の女房として嫁いできた志乃が、女形に人生を捧げる燕弥に振り回されながらも、武家の娘として奮闘する物語です。

はじめは、「武家の娘としてこうあるべきだ」という考えに捉われていた志乃が、燕弥たち歌舞伎役者やその妻たちに接し、少しずつ柔軟な発想をしていく姿に引き込まれました。

人の決めた枠にはまることばかり考えるのはやめて、己の頭で考え、己の手足で行動したくなりました。

西條奈加『六つの村を超えて髭をなびかせる者』

おすすめ度:4.0

  • アイヌの人たちが受けてきた民族差別に心が痛む
  • 賄賂のイメージが強い田沼意次がとった意外な政策に驚く
  • アイヌの本当の姿を世に広めるために人生をかけた最上徳内の半生に感動する
あらすじ
老中・田沼たぬま意次おきつぐが実権を握る江戸中期。幕府は南下を進めるロシアに対抗するために、蝦夷えぞ地開発に乗り出しました。このとき、算額の才能を発揮して「音羽おとわ塾」で頭角を現していた最上徳内は、師匠・本多利明の後押しもあって、蝦夷地見聞隊に参加します。はじめは、見知らぬ土地へ行けることを喜んでいた徳内でしたが、アイヌの人たちと出会い、現状を目の当たりにしたことで…。

松前藩から民族差別を受けるアイヌの人たちを解放するために、人生をかけて行動する最上徳内の半生を取り上げた歴史小説です。

算額の才能があるだけでも羨ましいのに、その才能を捨ててまで、人生をかけて「アイヌの真実を世に広めたい!」と奮闘する最上徳内の半生に、感動と嫉妬する物語でした。

歴史小説としても面白く、賄賂のイメージが強い田沼意次がとった意外な政策にも驚かされました。

朝井まかて『ボタニカ』

おすすめ度:3.0

  • 異常な情熱があれば、周りに迷惑をかけても何かを成し遂げられることがわかる
  • どれだけ迷惑をかけられても、主人公を助けようとする人たちに心が動かされる
あらすじ
明治初期。土佐の佐川で幼少期を過ごした牧野富太郎は、実家が裕福だったこともあり、お金に糸目をつけずに高価な本を買うなど、好きな学問に打ち込んでいました。しかし、学歴には興味がなかったので、つまらないという理由で、小学校を中退します。その後、「日本人の手で日本の植物相フロラを明らかにする」ことを志した富太郎は、上京し、新種の発見や雑誌の発刊など次々と成果を上げますが、お金にも人間関係にも興味がなかったので…。

何よりも大好きな植物学の研究に、人生のすべてを捧げた牧野富太郎の生涯を取り上げた物語です。

とはいえ、裕福だった実家の全財産を使い切って倒産させたり、妻が倒れてお金を求めてきても、お金を送らないどころか、さらに本を買って借金を重ねるなど、金銭感覚がないだけでなく、身近な人たちを思いやる力もない振る舞いに、怒りが込み上げてきました。

一方で、植物学に捧げる情熱は凄まじく、「学問は何かに役立てるためではなく、学問は学問をすることそのものに意義がある」という信念で行動し続ける富太郎と、彼を助ける人たちの姿に、心が動かされました。

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ヒューマンドラマ

柚月裕子『教誨』

おすすめ度:3.7

  • 死刑囚が遺した言葉の真意が知りたくてページをめくる手が止まらなくなる
  • 田舎町に住む人たちの言動に怒りと悲しみが込み上げてくる
  • ラストは胸が張り裂け、涙が溢れ落ちそうになる
あらすじ
32歳の吉沢香純は、10年前に娘と近所に住む少女の2人を殺した遠縁の三原響子の遺骨と遺品を受け取るために東京拘置所を訪れました。亡くなった響子の母以外は誰も面会に来なかったので、香純の母が身元引受人に指名されたからです。こうして母の代わりに東京拘置所を訪れた香純は、刑務官から響子が死刑になる直前に「約束は守ったよ、褒めて」と言ったと聞かされます。香純は、この言葉の真意が気になり、関係者に話を聞こうとしますが…。

二人の少女を殺し、死刑を執行された女性が言い遺した、「約束は守ったよ、褒めて」という言葉に込められた真意に迫る物語に興味がある方におすすめの小説です。

青山美智子『月の立つ林で』

おすすめ度:3.8

  • 登場人物たちが抱える悩みに共感できる
  • 自分もまわりの人たちも楽しくなるような行動をとりたくなる
  • ラストは感動で涙がこぼれ落ちそうになる
あらすじ
41歳まで看護師として働いてきた朔ヶ崎さくがさき玲花は、ある出来事があり、仕事を辞めました。実家暮らしをしていたので、生活には困りませんでしたが、まわりからは恵まれていると思われていたので辛くなり、早く仕事を見つけたいと思っていました。そんなとき、隣に住む樋口夫妻から猫を預かって欲しいと言われます。弟の佑樹が約束をしたのに、連絡がつかないので、代わりに世話をして欲しいと言うのです。玲花は、納得できないものの預かったところ…。

さまざまな悩みに直面している人たちが、自分と誰かの幸せを願って行動することで、人生が大きく変わっていく物語に興味がある方におすすめの小説です。

知念実希人『機械仕掛けの太陽』

おすすめ度:4.3

  • 新型コロナウィルスの恐怖が伝わってくる
  • 陰謀論に踊らされる人たちの滑稽さがわかる
  • 未知のウィルスに立ち向かう医師や看護師たちの姿に感動する
あらすじ
呼吸内科医の椎名あずさは、ワクチンや治療薬もないのに、病院が新型コロナウィルス感染者を受け入れると聞いて、戸惑いました。高齢の母と気管支喘息の息子と共に暮らしていたので、感染したときのリスクが高かったからです。一方、梓と同じ病院の救急部で看護師をしているはざま瑠璃子るりこは、父や婚約者から見下されていたので、コロナ病棟に入り、尊厳を取り戻そうと考えます。さらに、町医者の長峰邦昭は、70代にも関わらず、現場に立つことを決意し…。

新型コロナウィルスの誕生から、オミクロン株が発生するまでの医師や看護師たちの命がけの行動に感動する物語に興味がある方におすすめの小説です。

畑野智美『若葉荘の暮らし』

おすすめ度:3.5

  • 飲食関係で働く人たちの大変さが実感を伴って伝わってくる
  • 40歳を超えた女性たちのさまざまな悩みに心が痛む
  • 適度な距離感で人と付き合えるシェアハウスに住みたくなる
あらすじ
40歳になった望月ミチルは、「こんなところに誰が住むのだろう」と考えていた木造二階建ての古いアパート「若葉荘」に住むことを決めました。洋食店でアルバイトをしていましたが、コロナ感染症で営業時間の短縮が続いたので収入が激減し、貯金を切り崩す生活に限界がきたからです。とはいえ、若葉荘に決めたのは、「40歳以上の独身女性だけが住めるシェアハウス」に魅力を感じたからですが、さまざまな境遇の女性たちと実際に暮らし始めると…。

40歳以上の独身女性だけが住めるシェアハウス「若葉荘」に住むことを決めた望月ミチルの葛藤を描いた物語です。

コロナ感染症が原因で、飲食関係で働く人たちの生活が大変だと頭ではわかっていたつもりでしたが、将来が見えない生活に不安を膨らませていくミチルの姿を通して、その大変さが実感を伴って伝わってきました。

また、昔は多くの女性が専業主婦でしたが、今では専業主婦の人もいれば、正社員、派遣や契約社員、アルバイトの人、結婚する人、しない人、子どもがいる人、いない人、離婚した人など多種多様で、こうした選択肢の多さが原因で、何かのきっかけで破綻するギリギリの生活をしている貧困女性が増えているという指摘に驚かされ、納得しました。

一方で、生きていくことに悩みや不安を抱えている女性たちが、シェアハウスで共に暮らし、適度な距離を取りながら助け合う姿が魅力的で、人とのつながりが大切だと改めて理解できました。

40歳を超えた独身女性たちの悩みや不安を描いた物語に興味がある方におすすめの小説です。

早見和真『新!店長がバカすぎて』

おすすめ度:3.5

  • 前作『店長がバカすぎて』から、さらにパワーアップした店長の言動が面白い
  • どの道を選んでも、その瞬間、瞬間を楽しむことが大切だとわかる
  • ミステリー要素も楽しめる
あらすじ
宮崎の山奥にある新店舗に異動になった山本猛店長が、3年ぶりに「武蔵野書店」吉祥寺本店に戻ってきます。書店員の谷原京子は、「あなたを一人前の書店員にします」などと、相変わらず意味不明なことを口走る店長に怒りを覚えますが、それだけでなく、半年前に入ったアルバイトの山本多佳恵が店長に同調したり、心の中で神様と呼んでいるお客様たちが急に押し寄せてきたり、社長の息子がお客様の前で店員を叱責するなど、次々と問題が起きたので…。

書店員の主人公が、3年ぶりに戻ってきた店長に対して怒りを覚えながらも、仕事やプライベートと向き合っていく物語です。

前作『店長がバカすぎて』で活躍した店長が、さらにパワーアップしてバカな言動を繰り返す姿が面白く、何度もクスッと笑ってしまいました。

また、派遣社員から正社員になった主人公が、「正社員になりさえすればやっていける」と思っていたことが幻想だとわかり、仕事であれ、結婚であれ、何を選択しても、その後も人生は続いていくので、その瞬間、瞬間を楽しむことが大切だと気づく展開に、ハッとさせられました。

他にも、すべての短編に登場する小説『ステイフーリッシュ・ビッグパイン』を書いた謎の作家の正体に迫るといった「ミステリー要素」にも引き込まれて、最後まで一気に読みました。

前作からパワーアップした店長と書店員のクスッと笑えるやりとりを描いた物語に興味がある方におすすめの小説です。

青山美智子『いつもの木曜日』

おすすめ度:3.5

  • 『木曜日にはココアを』を読み返したくなる
  • カラフルで美しいデザインに引き込まれる
  • 心温まる物語とセリフに穏やかな気持ちになれる
あらすじ
マーブル・カフェで働くワタルは、掃除も、皿洗いも、明日のためのマリネの仕込みも終わりましたが、帰れずにいました。何度確認してもレジの計算が百円合わなかったからです。とはいえ、ワタルは雇われ店長で、ひとりでお店を回していたので、自分の財布から百円を足せば済みましたが、ほんのちょっとの「これくらい」を自分に許したら、「これ」は気がつかないうちにじわじわ大きくなっていくと思い、床磨きなどをしながら探し続けたところ…。

『木曜日にはココアを』に登場した12人のキャラクターたちのスピンオフ作品です。

読み進めていくうちに、『木曜日にはココアを』で描かれていた12人のキャラクターたちの心温まる物語を思い出し、もう一度読み返したくなりました。

また、短編ごとに異なる特定の色をベースにしたカラフルなデザインが美しく、キーアイテムの写真や絵にも引き込まれて、絵本のような楽しみ方ができました。

もちろん、心温まる物語にも癒され、「まだ起きていないことを楽しみだなぁと想像する力が未来を創る」「身を固くして戦闘体制に入るのではなく、心を柔らかくしてどんと構える強さが欲しい」「誰にも合わせなくていい。自分のルールでいけばいい」といったセリフが心に突き刺さり、肩の力が抜けて、穏やかな気持ちになれました。

絵本のような美しいデザインと心温まるショートストーリーに興味がある方におすすめの小説です。

辻村深月『嘘つきジェンガ』

おすすめ度:4.0

  • 詐欺をテーマにした物語に引き込まれ、ハラハラ&ドキドキが止まらない
  • 詐欺をする&詐欺にひっかかる人たちの心理が理解できる
  • ラストは想像を上回る展開に驚かされる
あらすじ
加賀耀太ようたは、大学進学を機に東京に出てきましたが、コロナのせいで4月になっても大学は始まりませんでした。しかも、山形で定食屋を営む両親も営業を休むことになったので、仕送りを半分に減らされ、またバイトを探しても採用されずに困っていました。そんなとき、幼馴染の奥田甲斐斗かいとからオンラインでできるアルバイトを紹介されます。送られてきたリストにメールを送るだけで大金がもらえるとあって、耀太は早速はじめますが、詐欺だとわかったので…。

幸せが欲しくて嘘に縋りついてしまう3人の主人公が、詐欺に巻き込まれ、驚きの結末へとたどり着く物語に興味がある方におすすめの小説です。

凪良ゆう『汝、星のごとく』

おすすめ度:3.0

  • 映画のようなストーリー構成で読みやすい
  • 毒親に育てられた高校生二人の日常に心が痛む
  • 周りの目を気にせず、自分の人生を生きようと思える
あらすじ
高校生の青埜あおのかいは、母が京都で知り合った男を瀬戸内の島まで追いかけたので、転校することになりました。母の愛情を知らずに育った櫂は、物語を書くことで何とか自分を保っていました。一方、父を浮気相手に奪われた井上暁海あきみは、メンタルがやられた母に振り回されていました。母の前では陽気に振る舞っていましたが、一人になるとメッキの笑顔が剥がれ、悩み苦しんでいました。そんな二人が出会い、恋に落ち、東京で暮らすことを夢みますが…。

毒親に育てられた高校生二人が出会い、恋をして、すれ違い、成長していく物語です。

子どもを犠牲にしてでも自分の幸せを手に入れようとする親や、他人の不幸をエンタメのように楽しむ島の人たちに怒りが込み上げ、そうしたつらい環境で悩み苦しむ高校生二人の姿に心が痛みました。

一方で、「自分の人生を生きることを、他の誰かに許されたいの?」「誰もあなたの人生の責任をとってくれない」といった言葉が心に突き刺さり、周りの目を気にせず、自分のために生きようと思えました。

今村夏子『とんこつQ&A』

おすすめ度:4.0

  • 日常に紛れ込んだ闇に迫る物語に引き込まれる
  • 現代のコミュニケーションが一方通行になっていることに気づかされる
  • それぞれの短編の結末に心が揺さぶられる
あらすじ
中華料理店「とんこつ」で働き出したわたしは、客の前に出ると緊張して声が出なくなりました。それでも、大将たちは優しく、「少しずつ慣れていけばいいからね」と言ってくれましたが、1ヶ月経っても改善しなかったので、辞表を出そうとしたところ、書かれている文字を読めば声が出せることに気付きます。それからは、書いたメモを読み上げて接客するようになりました。その後、わたしの接客で店が繁盛してきたので、新しいバイトが雇われますが…。

すべての問題はある人物のせいだと言って盛り上がる人たちや、興味本位で他人の問題に首を突っ込む人たちなど、日常に紛れ込んだ闇を取り上げた短編集です。

すべての短篇で共通して、他人を自分の都合のいいようにコントロールしようとする人たちの姿に恐ろしさを覚えるだけでなく、毒のあるそれぞれのラストに心が揺さぶられました。

特に、人前に出ると声が出せなくなる主人公が、Q&Aを作ってその通りに振る舞う姿と、それを利用して自分たちが望む返事を得ようとする人たちの姿を通して、現代のコミュニケーションが一方通行になっていることに気づかされました。

青山美智子『マイ・プレゼント』

おすすめ度:3.4

  • 心に響く物語に出会える
  • 温かくて前向きな気持ちになれる
  • 美しい水彩画に癒される

美しい水彩画と、疲れた心が癒されるショートショートに興味がある方におすすめの一冊です。

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瀬尾まいこ『掬えば手には』

おすすめ度:3.5

  • 個性的な登場人物たちが魅力的で、物語に一気に引き込まれる
  • 人のために行動し続ける主人公の優しさに心が動かされる
  • ラストは少しだけ良くなっていく関係性にジーンとくる
あらすじ
大学生の梨木匠は、平凡が嫌だったので、エスパーのように相手の心が読める能力にすがっていました。能力に気づいたのは、中学3年生のときです。不登校を続けていた三雲さんが、突然学校に来て自己紹介で固まったので、彼女だけが夏服を着ていることが原因だと気づき、助けたことが始まりです。それから梨木は、出来るだけ人の心を読み、困っている人がいれば助けてきましたが、オムライス屋のアルバイトにきた常盤さんの心はどうしても読めず…。

平凡な大学生の主人公が、相手の心が読める特別な能力を使って、まわりの人たちのお困りごとを解決しようと奮闘する物語です。

オムライス屋の店主で、毒ばかり吐いているのに、美味しいオムライスが作れる軟弱ヤンキーの大竹さんや、決して心を開かないアルバイトの常盤さんなど、個性的な登場人物たちが魅力的で、物語に一気に引き込まれました。

また、そんな個性的な二人との関係を少しでも良くしようと、空回りしても、お節介だと思われても、的外れでおかしいやつだと思われても、できる限りの行動を取り続ける主人公の優しさに心が動かされました。

さらに、ラストは3人の関係が少しだけ良くなっていく展開にジーンとくるだけでなく、普通であれ、平凡であれ、真剣な行動の積み重ねが特別を生み出すことが伝わってくる展開に励まされました。

平凡な主人公の特別な生き方を描いた物語に興味がある方におすすめの小説です。

熊谷達也『明日へのペダル』

おすすめ度:4.0

  • ロードバイクの魅力に引き込まれる
  • 仕事よりも趣味を優先する人たちに共感する
  • 新たな一歩を踏み出そうと励まされる
あらすじ
印刷会社で働く55歳の本間優一は、運動不足とお酒の飲み過ぎが原因で、コレステロール値が高くなり、医者からこのままでは薬が必要になると注意されました。そこで、スポーツクラブに入ろうとしますが、新型コロナウィルスが蔓延したので、断念します。しかし、部下の水野唯から、「一年で10キロ以上痩せたので、ロードバイクを始めてみてはどうか?」と提案されると、コロナ禍でもできると興味をもち、総額50万円以上もするロードバイクを買い揃え…。

コレステロール値が高くなった主人公が、部下にロードバイクを勧められて、のめり込んでいく物語です。

仕事も先が見え、定年後も読書とたまに旅行ができればいいと惰性で生きていた主人公が、ロードバイクの魅力にハマり、目標をもっていきいきと毎日を過ごす姿に引き込まれました。

また、コロナ禍によって社会は大きく変わろうとしているのに、時代の変化についていこうとしない人たちに怒りが湧く一方で、新たな一歩を踏み出す人たちの姿に心が動かされました。

寺地はるな『カレーの時間』

おすすめ度:4.0

  • 正反対な性格の祖父と孫が一緒に暮らす展開に引き込まれる
  • 無性にカレーが食べたくなる
  • ラストは感動で涙がこぼれ落ちそうになる
あらすじ
25歳になった桐矢は、母たち三姉妹とそれぞれの娘たちに囲まれて、誕生日を祝ってもらっていました。しかし、そこに苦手な祖父が押しかけてきます。桐矢は、「女は月経があるから機嫌がコロコロ変わりよる」などと属性で人を決めつける祖父がどうしても好きになれませんでしたが、心臓が悪いので一人にできないという理由で一緒に暮らせと言われます。もちろん、断ろうとしますが、まずは祖父の暮らしを覗いてみようと思ったことがきっかけで…。

男は、女はこうあるべきだとすぐに決めつける祖父と、失敗を恐れて人と距離をとって生きてきた孫が一緒に暮らす物語です。

頑固で他人に対して偉そうな態度をとる祖父と、人に興味がない主人公が、互いに影響されながら、少しずつ変わっていく姿に引き込まれました。

また、男として自分はこうあるべきだと思い込んで生きてきた祖父が、娘たちにもひた隠しにしていた秘密に心が動かされ、ラストは感動で涙がこぼれ落ちそうになりました。