2022年に発売された小説の中から、個人的におすすめの小説【10作品】をランキング形式で紹介します。
とはいえ、趣味嗜好は人それぞれ違うので、ランキングから外れた小説も、ジャンル別に紹介します。
幅広いジャンルの小説を、「あらすじ」や「感想」、「おすすめ度」と共に紹介していくので、本選びの参考になれば嬉しいです。
- 【2022年発売】おすすめ小説10作品をランキング形式でご紹介
- 2022年に発売された小説をジャンル別にご紹介
- ミステリー
- 青柳碧人『赤ずきん、ピノキオ拾って死体と出会う。』
- 小川哲『君のクイズ』
- ジェフリー・ディーヴァー『真夜中の密室』
- 白井智之『名探偵のいけにえ』
- 相沢沙呼『invert Ⅱ 覗き窓の死角』
- 佐藤青南『犬を盗む』
- 夕木春央『方舟』
- 五十嵐律人『幻告』
- ホリー・ジャクソン『優等生は探偵に向かない』
- 新川帆立『先祖探偵』
- 結城真一郎『#真相をお話しします』
- 浅倉秋成『俺ではない炎上』
- 新川帆立『競争の番人』
- 櫛木理宇『氷の致死量』
- 五十嵐律人『六法推理』
- 本城雅人『にごりの月に誘われ』
- 新川帆立『剣持麗子のワンナイト推理』
- 塩田武士『朱色の化身』
- 白木健嗣『ヘパイストスの侍女』
- 城山真一『看守の信念』
- 南原詠『特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来』
- ファンタジー
- サスペンス
- ホラー
- 歴史・時代
- ヒューマンドラマ
- 柚月裕子『教誨』
- 青山美智子『月の立つ林で』
- 知念実希人『機械仕掛けの太陽』
- 畑野智美『若葉荘の暮らし』
- 早見和真『新!店長がバカすぎて』
- 青山美智子『いつもの木曜日』
- 辻村深月『嘘つきジェンガ』
- 凪良ゆう『汝、星のごとく』
- 今村夏子『とんこつQ&A』
- 青山美智子『マイ・プレゼント』
- 瀬尾まいこ『掬えば手には』
- 熊谷達也『明日へのペダル』
- 寺地はるな『カレーの時間』
- 垣谷美雨『あきらめません』
- 窪美澄『夜に星を放つ』
- 山内マリコ『一心同体だった』
- 中山可穂『ダンシング玉入れ』
- 標野凪『今宵も喫茶ドードーのキッチンで。』
- 宇佐見りん『くるまの娘』
- 村崎なぎこ『百年厨房』
- 月村了衛『脱北航路』
- 髙森美由紀『羊毛フェルトの比重』
- 柚木麻子『ついでにジェントルメン』
- 坂木司『ショートケーキ。』
- 岩井圭也『生者のポエトリー』
- 早見和真『八月の母』
- 南杏子『アルツ村』
- 高瀬隼子『おいしいごはんが食べられますように』
- 名取佐和子『図書室のはこぶね』
- 瀬尾まいこ『夏の体温』
- 山本幸久『花屋さんが言うことには』
- 瀧羽麻子『博士の長靴』
- 原田ひ香『古本食堂』
- 村山早紀『風の港』
- 松浦理英子『ヒカリ文集』
- 角田光代『タラント』
- 伊与原新『オオルリ流星群』
- 坂木司『楽園ジューシー』
- 一穂ミチ『砂嵐に星屑』
- 小野寺史宜『いえ』
- 寺地はるな『タイムマシンに乗れないぼくたち』
- 永井みみ『ミシンと金魚』
- 浅田次郎『母の待つ里』
- 垣谷美雨『もう別れてもいいですか』
- ミステリー
- まとめ
【2022年発売】おすすめ小説10作品をランキング形式でご紹介
では早速、2022年に発売されたおすすめの小説【10作品】をランキング形式で紹介します。
第1位 安壇美緒『ラブカは静かに弓を持つ』
おすすめ度:
個人レッスンでも著作権料を徴収するために、全日本音楽著作権連盟に所属する主人公が、ミカサ音楽教室にスパイとして潜り込む物語です。
はじめは割り切ってスパイをしていた主人公が、講師とその仲間たちの優しさや音楽の素晴らしさに触れて、「スパイとしての仕事」と「チェロを楽しみたい気持ち」の板挟みに合う姿に、心が揺さぶられました。
また、ラストは「無数の信頼の上に人間関係は構築される」という、人を信頼する大切さが感動と共に伝わってきたので、涙がこぼれ落ちそうになりました。
第2位 藤岡陽子『空にピース』
おすすめ度:
問題児ばかりがいるクラスを担当することになった主人公が、虐待や貧困、性暴力などに悩まされる子どもたちのために奮闘する物語です。
子どものことを全く考えずに自分勝手に振るまう親や、自己保身に走る教師たちの姿に怒りが湧きますが、そうした大人たちにバカにされ、怒鳴られても、子どもたちのために行動し続ける主人公の姿に心が動かされました。
また、主人公の優しさや励ましに応えるかのように、前を向いて一歩踏み出そうとする子どもたちの素直な姿に、感動で涙が止まらなくなりました。
第3位 夏川草介『レッドゾーン』
おすすめ度:
ワクチンも薬もなく、対処法さえもわからない初期段階に、コロナ患者と向き合うことになった医師たちの葛藤と奮闘を描いた物語です。
大病院がひしめく関東で、コロナ感染症の疑いがある、わずか174人の患者の受け入れが拒否された事実に驚くだけでなく、拒否された患者を呼吸内科医もいない田舎の小病院に押し付けた国の対応に、呆れ果てて言葉も出なくなりました。
また、無理をしてでもコロナ患者を受け入れることを決意した医師たちに対して、コロナ感染症の原因がまるで彼らにあるかのように誹謗中傷する人たちに怒りが込み上げてきました。
一方で、誹謗中傷されても、家族に反対されても、役割分担という標語のもとに大学病院の医師たちが見て見ぬふりをしても、コロナ患者と誠実に向き合う医師たちの姿に、感動で涙が止まらなくなりました。
対処法さえもわからない初期段階に、誹謗中傷されても、家族に反対されても、コロナ患者と向き合う医師たちの物語に興味がある方におすすめの小説です。
第4位 川和田恵真『マイスモールランド』
おすすめ度:
迫害を受けてトルコから脱出したクルド人の家族が、日本でも理不尽な目にあいながらも、今を懸命に生きようとする物語です。
2000人以上いるトルコ国籍のクルド人の中で、日本に難民申請をして認められた人は、一人もいない…という現実に衝撃を受けるだけでなく、突然ビザが下りなくる可能性があるなかで、不安に苛まれながら日々を過ごす彼らの姿に、ぶつけようのない怒りが湧き上がってきました。
また、恋愛や結婚など、クルド人の文化で父から縛られる一方で、クルド人だからという理由で日本人から差別される主人公の姿に、心がかき乱されました。
第5位 町田そのこ『宙ごはん』
おすすめ度:
育児を放棄して自分勝手に振る舞う母・花野と暮すことになった宙が、料理人の佐伯泰弘に助けられながら成長していく物語です。
子どもよりも、自分が愛されて守られることに夢中になる花野に怒りが込み上げてきますが、宙が傷つく姿を見て、少しずつ変わっていく展開に心が動かされました。
また、家族から受けた呪いとも言うべき「思い込み」の恐ろしさに驚く一方で、思いがこもった料理など、人の優しさに触れて、少しずつ呪いから解放されていく人たちの姿に涙が止まらなくなりました。
第6位 宇佐美まこと『月の光の届く距離』
おすすめ度:
母親に捨てられたり、傷つけられたりするなど、親の愛情を知らずに育った人たちの過去を、ミステリー仕立てにした物語です。
親に恵まれなかった彼らが、優しい人たちに助けられて大人になり、その恩に報いるためにも、親に恵まれない子どもたちを、本当の親のように愛そうとする姿に心が動かされました。
また、売春をする少女たちが、お金よりも、一時の優しさや、嘘でもいいので愛情欲しさに体を売っていることにも驚き、心が痛みました。
第7位 葉真中顕『ロング・アフタヌーン』
おすすめ度:
志村多恵という50代の女性が、自らの体験をもとに書いた小説が、編集者である葛木梨帆の人生に大きな影響を与える物語です。
送られてきた小説と編集者の人生がリンクする展開に引き込まれるだけでなく、出版業界の厳しい現実やネット右翼などのSNSがもたらす影響、作家の大変さなども伝わってきたので、ページをめくる手が止まらなくなりました。
また、夫や息子に押さえつけられて生きてきた女性が、不幸でも今を幸せだと思い込もうとする姿に心が痛むだけでなく、そこから驚きの一歩を踏み出す姿に心が揺さぶられました。
第8位 東野圭吾『マスカレード・ゲーム』
おすすめ度:
犯した罪に対して軽い刑を受けた殺人犯たちが、次々と殺された事件の謎に迫る物語です。
被害者家族たちがホテル・コルテシア東京に集まったので、ホテルのどこかにいる軽い刑を受けた殺人犯を殺すかもしれないと、新田浩介が再びホテルマンに変装して潜入捜査を始めますが、新田が築いた信頼を踏みにじるかのように、次々と違法捜査に手を染める梓警部に怒りが込み上げてきました。
一方で、いつまでも家族が殺された事件に悩み苦しむ被害者家族の姿に心が痛むだけでなく、山岸尚美と新田浩介の決断と、ラストの展開に心が揺さぶられました。
第9位 呉勝浩『爆弾』
おすすめ度:
身元不明の中年男性が予言した「無差別爆破テロ」を未然に防ごうと、警視庁や所轄の刑事、交番の警官たちが奮闘する物語です。
「見知らぬ誰かと、仲間の命は平等なのか?」「気持ち悪いというだけで、本人だけでなく家族まで爪弾きにする社会は正常か?」「匿名で誰かを糾弾する行為に正義はあるのか?」など、次々と心が揺さぶられる疑問が提示されたので、ページをめくる手が止まらなくなりました。
また、社会には多くの矛盾があり、誰かを傷つけたり、誰かに傷つけられたりするけれど、それでも残酷からも綺麗事からも逃げ出さないと決意する人たちの姿に、心が動かされました。
第10位 佐野広美『シャドウワーク』
おすすめ度:
夫のDVに苦しむ女性たちが、ある秘密を抱える民間シェルターでの生活を通して自分を取り戻していく物語です。
DVが悲惨なものだと頭ではわかっているつもりでしたが、殴る蹴るなどの暴力にとどまらず、瓶で殴ったり、刃物で刺すなど、想像を上回る犯罪行為に衝撃を受け、怒りが込み上げてきました。
一方で、DVの被害にあった女性たちが、民間のシェルターに入り、ある秘密のお陰で自分を取り戻していく展開に引き込まれるだけでなく、ある女性が殺された事件との関わりが気になって、最後まで一気に読みました。
また、「世間は法律で裁けない悪意で満ちている」ことがわかり、自分以外の誰かに人生を支配させてはダメだというメッセージに心が揺さぶられました。
殺人事件の真相に迫るミステリー要素と、DVの被害にあった女性たちが自分を取り戻していく姿に心揺さぶられる物語に興味がある方におすすめの小説です。
2022年に発売された小説をジャンル別にご紹介
引き続き、2022年に発売された小説をジャンル別に紹介します。ジャンルは次のように分類しています。
ミステリー
青柳碧人『赤ずきん、ピノキオ拾って死体と出会う。』
おすすめ度:
ピノキオの身体を取り戻すために、巻き込まれた殺人事件の謎を、赤ずきんが解き明かす物語です。
『白雪姫』や『ハーメルンの笛吹き男』、『三匹の子豚』など、童話の世界を舞台に繰り広げられるミステリーに引き込まれました。
また、嘘をつくとピノキオの鼻が伸びることを利用した謎解きなど、童話ならではのトリックや謎解きが面白く、最後まで一気に読みました。
他にも、「白雪姫に出てくる魔女は、実は落ちこぼれで、シングルマザーのために活動していた」など、童話では語られなかった物語を、独自の視点で、オリジナルのストーリーとして描いているのが魅力的で、これまでとは一味違った童話が楽しめました。
童話をミステリー仕立てにした物語に興味がある方におすすめの小説です。
小川哲『君のクイズ』
おすすめ度:
テレビタレントが問題を読み上げる前に、クイズに正解できた謎に迫る物語です。
クイズは単純に知識の量を競うのではなく、クイズの答えが確定するポイントを見極めたり、他のプレイヤーに勝つためにリスクをとって確定前にボタンを押すなど、独自の戦い方があることがわかり、驚きました。
とはいえ、問題を読み上げる前にクイズに正解するのは不可能に思え、テレビタレントがなぜ正解できたのか?が気になって、ページをめくる手が止まらなくなりました。
また、クイズであれ現実であれ、誰かに笑われるのを恥ずかしがっていては、自分の可能性を閉ざしてしまうので、恥ずかしさを捨てて、何でもやってみることが大切だというメッセージに共感しました。
早押しクイズに勝つ戦略を、大きな謎と共に描いた物語に興味がある方におすすめの小説です。
ジェフリー・ディーヴァー『真夜中の密室』
おすすめ度:
どんな錠でも一瞬で解除するロックスミスと、科学捜査官リンカーン・ライムの知能戦を描いたミステリに興味がある方におすすめの小説です。
白井智之『名探偵のいけにえ』
おすすめ度:
奇蹟を起こすという宗教団体の真相を暴くために、探偵たちが調査に乗り出す物語です。
車椅子に乗らないと動けないのに、足が治ったと言ったり、顔にくっきり残っている傷が治っていると言い出すなど、新興宗教に洗脳されている人たちの言動に恐ろさを覚えるだけでなく、こうした幻覚が多くの人たちに伝播する「感応精神病」という病気が実際にあることに驚きました。
また、怪しげな宗教団体「人民協会」を調査しにジョーデンタウンに訪れた人たちが、密室で亡くなるなど、次々と不審死を遂げていく展開に、真相が気になってページをめくる手が止まらなくなりました。
さらに、奇蹟が起きる前提での謎解きと、起こらない前提での謎解きを披露し、宗教団体の教祖にどちらが真実かを選ばせる展開に引き込まれただけでなく、ラストは想像を上回る仕掛けに驚かされました。
新興宗教が起こす奇蹟の真相に迫るミステリーに興味がある方におすすめの小説です。
相沢沙呼『invert Ⅱ 覗き窓の死角』
おすすめ度:
トリックも、どんでん返しも面白いミステリなので、あざとい主人公が問題なく受け入れられる方におすすめの小説です。
佐藤青南『犬を盗む』
おすすめ度:
事件の鍵を握る犬を中心に、刑事やミステリー作家たちが、老女が殺害された事件の真相に迫るミステリーです。
殺された老女やコンビニでアルバイトをする先輩と後輩、ミステリー作家など、登場人物の誰もが何かを隠しているので怪しく思え、事件の真相が気になって一気に読みました。
また、ラストは想像を上回る展開に驚き、登場人物それぞれの苦い結末や心温まる結末に、心が揺さぶられました。
夕木春央『方舟』
おすすめ度:
誰かを犠牲にしてでも自分だけは生き残ろうとする人たちの心理と、どんでん返しに驚かされるエンタメミステリに興味がある方におすすめの小説です。
五十嵐律人『幻告』
おすすめ度:
過去にタイムリープした主人公が、父が強制わいせつ罪で訴えられた事件の真相に迫り、父たち家族の未来を切り開こうとする物語です。
盗みを働いたとしても、転売する目的であれば窃盗罪になり、トイレに流す目的であれは器物破損罪になるなど、刑罰の重さが大きく変わるので、被告人の内心を明らかにしようと真剣に裁判に向き合う人たちの姿に心が動かされました。
また、タイムリープを繰り返しながら、父が強制わいせつ罪で訴えられた事件の真相に迫る展開に引き込まれ、ラストに明かされた真実に心が揺さぶられました。
ホリー・ジャクソン『優等生は探偵に向かない』
おすすめ度:
女子高生のピップが、ポッドキャストやSNSを活用して、友人の兄・ジェイミーが失踪した事件の真相に迫る物語です。
なぜジェイミーは突然姿をくらませたのか?失踪する二週間ほど前から情緒不安定になったのはなぜか?など、気になる謎が次々と提示されたので、ページをめくる手が止まらなくなりました。
また、周りから嫉妬され、強く非難されたピップが、落ち込み、動けなくなりますが、ある人物の「自分が正しいとわかっていても、みんなにどう思われるかが気になる?」という言葉で自分を取り戻し、再び動き出す姿に胸が熱くなり、想像を上回る悲しい結末に心が揺さぶられました。
新川帆立『先祖探偵』
おすすめ度:
先祖をめぐるミステリと、無戸籍問題に興味がある方におすすめの小説です。
結城真一郎『#真相をお話しします』
おすすめ度:
日常に潜む小さな「歪み」を仕掛けにした短編ミステリー集です。
不妊に悩んでいた夫婦の夫が、精子提供をして生まれた子どもにこっそり会いに行く物語や、子どもが4人しかいない島で、YouTuberを目指す子どもたちが、殺人事件に巻き込まれる物語など、話題性のあるテーマに引き込まれました。
一方で、ほとんどの短編で結末が予測できるので、「どんでん返し」を期待して読むと、ショックを受けるかもしれません。
浅倉秋成『俺ではない炎上』
おすすめ度:
女性が刺された写真をなりすましアカウントから拡散された主人公が、警察や家族など多くの人に無実を信じてもらえず、真犯人を見つけるために一人逃亡する物語です。
正義のヒーロー気取りで適当なことばかりツイートする人たちに怒りが込み上げてくる一方で、SNSでは誰もが「自分は悪くない」と呟き、他人のせいにして自己承認をしているという指摘に納得しました。
また、終盤の怒涛の展開に引き込まれ、どんでん返しに驚かされました。
新川帆立『競争の番人』
おすすめ度:
公正取引委員会に勤める主人公が、天才審査官と共にブライダル業界の不正に迫る物語です。
ブライダル業界の納入業者へのいじめの実態を知り、傷つけられてきた業者に寄り添おうとするお人好しの主人公と、その業者は本当に精一杯努力しているんですかね?と冷静に物事をみようとする天才審査官が反発し合いながらも、協力して調査に乗り出す姿に引き込まれました。
また、ある主張を聞いていたときは被害者だと思われた人たちが、別の主張を聞くと加害者に変わる展開に、視野を広く持つことが大切だと気づかされました。
他にも、社会であれ、親子関係や恋人関係であれ、優秀な支配者がいて、その支配者のもとで人々に利益があてがわれていては、幸せにはなれない、だから不十分で弱くても、一人ひとりが挑戦と試行錯誤を積み重ねることが大切だというメッセージに共感できました。
たとえ能力が劣っていても、人任せにしないで、挑戦と試行錯誤を積み重ねることが大切だとわかるミステリーに興味がある方におすすめの小説です。
櫛木理宇『氷の致死量』
おすすめ度:
14年前に殺害された教師にそっくりな主人公が、同じ学校に教師として赴任したことで、再び事件が起きる物語です。
主人公と連続殺人犯、刑事それぞれの視点で、14年前と新たに起こった事件の真相に迫る展開に、ページをめくる手が止まらなくなりました。
また、毒親に育てられた主人公が、相手が望む態度を反射的にとってしまい、悩み苦しむ姿に心が痛む一方で、アセクシュアルなどの性的マイノリティも含めて、「他者に迷惑をかけなければ、ありのままに生きていい」ことを心から理解し、解放されていく姿に感動しました。
五十嵐律人『六法推理』
おすすめ度:
リベンジポルノ動画をツイッターで拡散した犯人を捕まえたい、毒親と縁を切りたいなど、無料法律相談所に持ち込まれた悩みを、運営者の古城成行と、最初の相談者である戸賀夏倫が協力して解決していくミステリーです。
法律を駆使して倫理的に事件に向き合う古城に対して、古城の推理の矛盾を指摘し、直感と閃きで論理を再構築して、謎を解き明かす夏倫の凸凹コンビが面白く、ページをめくる手が止まらなくなりました。
また、リベンジポルノや毒親など、最近話題のテーマをミステリーにした物語に引き込まれ、少し毒があり、考えさせられるラストに心が揺さぶられました。
本城雅人『にごりの月に誘われ』
おすすめ度:
余命3ヶ月もないIT企業の会長から、自叙伝の執筆を依頼されたフリーライターが、愛人との関係や警察沙汰になった話など、隠したいはずの過去を次々と聞かされ、何か裏があるのではないか?と疑うミステリーです。
出来上がった仮の自叙伝、フリーライター、IT企業の若手経営者という3つの視点が切り替わりながら物語の核心に迫っていく展開に、続きが気になってページをめくる手が止まらなくなりました。
ラストの二転三転する展開も面白く、タイトルに込められた意味もオシャレで心に残りました。
新川帆立『剣持麗子のワンナイト推理』
おすすめ度:
面倒だけどお金にならない仕事が次々と舞い込んでくるようになった剣持麗子が、朝が来るまでに事件を解決しようと奮闘する物語です。
本名も住所も明かさない男の正体は?二人きりの密室で死体を見つけた男は本当に無実なのか?亡くなった先輩弁護士がすぐに復活して、再び亡くなった理由は?など、不可思議な事件の謎に迫るミステリーに引き込まれました。
また、ラストはすべての事件がつながっていく展開に、ページをめくる手がとまらなくなりました。
塩田武士『朱色の化身』
おすすめ度:
ライターの主人公が、行方がわからなくなったゲームの開発者を探すために、多くの人たちに取材を重ね、彼女の過去を明らかにしていく物語です。
多くの人たちの証言で、珠緒という女性の人物像が浮き彫りになっていく構成が面白く、また彼女の悲惨な過去に心が痛みました。
「ゲーム障害」「家柄の格差」「銀行総合職」「就職差別」「親友の逮捕」など、時代の構造を浮き彫りにする社会問題が盛り込まれたストーリーに引き込まれ、最後まで一気に読みました。
白木健嗣『ヘパイストスの侍女』
おすすめ度:
自動運転車へのサイバー攻撃で起きた事件の全貌を明らかにすべく、殺人事件やサイバー犯罪を取り締まる警視庁の刑事たちと、自動運転車を開発する技術者たちが奮闘するミステリーです。
パワハラ上司や、その被害に遭って辛酸を舐めることになった優秀な研究者の姿に心が揺さぶられるだけでなく、最先端の自動運転技術やAI技術が盛り込まれたストーリーに引き込まれ、ページをめくる手がとまらなくなりました。
また、ラストの展開に驚かされ、どれほど技術が進歩しても、何よりも心が大切だというメッセージに共感できました。
城山真一『看守の信念』
おすすめ度:
敏腕刑務官の火石が加賀刑務所で起こる不可思議な事件の謎に挑むミステリーです。
更生プログラムに参加した模範囚が姿を消してから発見されるまでの30分間に何が起こったのか?運動会の翌日に発生した食中毒は故意の犯行なのか?なぜ密室の備品保管庫で火災事件が起きたのか?など、不可思議な事件の謎が気になって一気読みしました。
また、火石の鋭い推理と優しさに心が動かされるだけでなく、前作『看守の流儀』を読んだ後だからこそ味わえる、衝撃のどんでん返しに驚かされました。
南原詠『特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来』
おすすめ度:
弁理士の大鳳未来が、特許侵害を警告されたVTuberを守るために、驚きの方法で問題をねじ伏せていくミステリです。
次々と起こるトラブルを、未来がどのように解決していくのか気になって、ページをめくる手が止まらなくなりました。
ファンタジー
伊坂幸太郎『マイクロスパイ・アンサンブル』
おすすめ度:
自ら行動を起こすのが苦手な社会人一年生、暴力を振るう父と仲間から逃げ出した少年、嫌なことばかりが続く先輩社員、誰にでも謝ってばかりいる課長など、さまざまな人たちの仕事が知らないところでつながっていく物語です。
誰にでも謝ってばかりいる情けない課長にも、実はすごいところがあって…というように、物事に絶対はなく、立場によって物事の見え方は変わるというメッセージに共感できました。
また、人生で大変なことはあるけれど、大抵のことは、元に戻せる、やり直せるというメッセージに励まされ、ラストですべてがつながっていく展開に驚き、クスッと笑えました。
上橋菜穂子『香君』
おすすめ度:
民衆から神のように崇められている香君に押し寄せる難問に、主人公の少女が立ち向かう物語です。
痩せた土地でもぐんぐん育ち、年に何度も収穫できて、味もいいオアレ稲という最強の穀物をコントロールして、複数の藩王国を支配するようになったウマール帝国が隠している「稲の秘密」が気になって、ページをめくる手が止まらなくなりました。
また、植物や昆虫が匂いをもとに行動しているという事実に驚き、特殊な嗅覚を持つ主人公が、彼らの生きる世界を垣間見る展開に引き込まれました。
さらに、誰もが神様のような存在を求めて楽をしたいと思っているけれど、それでは幸せになれないというメッセージに共感し、何事も自分のアタマで考えようと思えました。
特殊な嗅覚を持つ主人公が難問に立ち向かいながら、最強の稲に隠された秘密に迫る物語に興味がある方におすすめの小説です。
サスペンス
長浦京『プリンシパル』
おすすめ度:
終戦と父の死により、暴力団の組長代行になった女教師が、GHQや政治家たちと対等に渡り合いながら組織を成長させていく物語です。
終戦後は、進駐軍は日本を占領しているだけで食料不足や燃料不足の対策をせず、政治家も自分たちのことしか考えず、警察もアメリカ人の強姦や強盗、暴行を取り締まれずにいたので、暴力団が物を運び、市を開いて商売人を護り、街や夜道を見回って女子供を護っていたという事実に驚かされました。
とはいえ、暴力団も自分たちの利益のことしか考えておらず、人の命を簡単に奪いながら、公共ギャンブルや芸能界などに入り込み、GHQや政治家たちと対立と協力を繰り返しながら成長していく姿に恐ろしさを覚えました。
また、暴力を心の底から嫌っていた主人公が、暴力団という組織にのめり込み、生き残るために人の命を簡単に奪うように変わっていく姿に心が痛みました。
終戦直後の暴力団がどのような組織だったのかがわかるだけでなく、暴力団にのめり込んでいく女教師の物語に興味がある方におすすめの小説です。
佐藤究『爆発物処理班の遭遇したスピン』
おすすめ度:
量子力学を用いた爆弾テロ犯や、架空のクリーチャーをデザインするために動物事件を繰り返す男など、様々なジャンルの闇を取り上げた短編集です。
SF要素の強い表題作だけでなく、裏家業や都市伝説、猟奇殺人、人種差別など、さまざまなジャンルの闇を取り上げた物語に引き込まれました。
一方で、どの短編もグロいシーンが多く、後味も悪いので、読み進めるのに少し時間がかかりました。
ホラー
宇佐美まこと『夢伝い』
おすすめ度:
「21年前に妻を殺した男」を殺害した主人公が、幼少期を過ごした田舎で、亡くなった祖母と再会する物語や、精神病棟に入っている従兄弟のために、毎年、湖の底に住むと言われている湖族が人間に化ける話を繰り返し聞く物語など、日常に潜む怪奇現象を取り上げた短編集です。
多くの物語で、顔をしかめるような理不尽な出来事が起こり、しかも主人公の行動でさらに状況が悪化していく展開に心が痛みました。
また、毒のある終わり方にゾクっとし、ミスリードにまんまと騙されたので、いくつかの短編をもう一度読み返したくなりました。
歴史・時代
藍銅ツバメ『鯉姫婚姻譚』
おすすめ度:
人魚に求婚された主人公が、「白蛇と夫婦になった男」や「馬と一緒になった娘」などの物語を聞かせて、諦めさせようとする物語です。
人と人以外のものが夫婦になる物語が、どのように展開していくのか気になって、ページをめくる手が止まらなくなりました。
また、残酷で痛みがあり、死を取り上げた物語にも関わらず、不思議と嫌な気持ちにはならず、むしろ美しさえ感じる結末に引き込まれました。
小川哲『地図と拳』
おすすめ度:
満州をめぐって日本人とロシア人、支那人たちがそれぞれの思惑で戦いを繰り広げる物語です。
国家とは法であり、為政者であり、国民であり、理想や理念であり、歴史や文化でもある一方で、形あるものは地図だけであり、その地図を自分たちの思惑通りにしようと行動する人たちの熱気に引き込まれました。
また、拳で土地を奪い合う被害を最小限にするために、未来を予測しようとする人たちの姿に心が動かされましたが、戦いが始まると机上で考えた未来は無意味になるという指摘に心が痛みました。
伊東潤『天下を買った女』
おすすめ度:
将軍や大名たちが起こした戦乱を、銭の力で収めようと奮闘する日野富子の生涯を取り上げた物語です。
将軍家も大名家も家督争いが相次ぎ、その結果として「応仁の乱」という壊滅的に京を破壊する戦乱が11年も続いた事実に驚き、上に立つ者の欲望のせいで、多くの人たちが苦しむ姿に心が痛みました。
また、若き日の北条早雲と協力して、兵の力ではなく銭の力で応仁の乱を収めようと奮闘する日野富子の姿に心が揺さぶられました。
今村翔吾『幸村を討て』
おすすめ度:
真田信繁が大阪城に入り、幸村と名を改めた理由と、討てたはずの家康を逃した謎に迫る物語です。
織田有楽斎や南条忠元、後藤又兵衛、伊達政宗など、7人の男たちが「幸村を討て」と叫ぶまでの、それぞれの物語に心が揺さぶられました。
また、真田兄弟の絆に心が動かされ、明かされた真相に驚かされました。
蝉谷めぐ実『おんなの女房』
おすすめ度:
人気歌舞伎役者の女房として嫁いできた志乃が、女形に人生を捧げる燕弥に振り回されながらも、武家の娘として奮闘する物語です。
はじめは、「武家の娘としてこうあるべきだ」という考えに捉われていた志乃が、燕弥たち歌舞伎役者やその妻たちに接し、少しずつ柔軟な発想をしていく姿に引き込まれました。
人の決めた枠にはまることばかり考えるのはやめて、己の頭で考え、己の手足で行動したくなりました。
西條奈加『六つの村を超えて髭をなびかせる者』
おすすめ度:
松前藩から民族差別を受けるアイヌの人たちを解放するために、人生をかけて行動する最上徳内の半生を取り上げた歴史小説です。
算額の才能があるだけでも羨ましいのに、その才能を捨ててまで、人生をかけて「アイヌの真実を世に広めたい!」と奮闘する最上徳内の半生に、感動と嫉妬する物語でした。
歴史小説としても面白く、賄賂のイメージが強い田沼意次がとった意外な政策にも驚かされました。
朝井まかて『ボタニカ』
おすすめ度:
何よりも大好きな植物学の研究に、人生のすべてを捧げた牧野富太郎の生涯を取り上げた物語です。
とはいえ、裕福だった実家の全財産を使い切って倒産させたり、妻が倒れてお金を求めてきても、お金を送らないどころか、さらに本を買って借金を重ねるなど、金銭感覚がないだけでなく、身近な人たちを思いやる力もない振る舞いに、怒りが込み上げてきました。
一方で、植物学に捧げる情熱は凄まじく、「学問は何かに役立てるためではなく、学問は学問をすることそのものに意義がある」という信念で行動し続ける富太郎と、彼を助ける人たちの姿に、心が動かされました。
ヒューマンドラマ
柚月裕子『教誨』
おすすめ度:
二人の少女を殺し、死刑を執行された女性が言い遺した、「約束は守ったよ、褒めて」という言葉に込められた真意に迫る物語に興味がある方におすすめの小説です。
青山美智子『月の立つ林で』
おすすめ度:
さまざまな悩みに直面している人たちが、自分と誰かの幸せを願って行動することで、人生が大きく変わっていく物語に興味がある方におすすめの小説です。
知念実希人『機械仕掛けの太陽』
おすすめ度:
新型コロナウィルスの誕生から、オミクロン株が発生するまでの医師や看護師たちの命がけの行動に感動する物語に興味がある方におすすめの小説です。
畑野智美『若葉荘の暮らし』
おすすめ度:
40歳以上の独身女性だけが住めるシェアハウス「若葉荘」に住むことを決めた望月ミチルの葛藤を描いた物語です。
コロナ感染症が原因で、飲食関係で働く人たちの生活が大変だと頭ではわかっていたつもりでしたが、将来が見えない生活に不安を膨らませていくミチルの姿を通して、その大変さが実感を伴って伝わってきました。
また、昔は多くの女性が専業主婦でしたが、今では専業主婦の人もいれば、正社員、派遣や契約社員、アルバイトの人、結婚する人、しない人、子どもがいる人、いない人、離婚した人など多種多様で、こうした選択肢の多さが原因で、何かのきっかけで破綻するギリギリの生活をしている貧困女性が増えているという指摘に驚かされ、納得しました。
一方で、生きていくことに悩みや不安を抱えている女性たちが、シェアハウスで共に暮らし、適度な距離を取りながら助け合う姿が魅力的で、人とのつながりが大切だと改めて理解できました。
40歳を超えた独身女性たちの悩みや不安を描いた物語に興味がある方におすすめの小説です。
早見和真『新!店長がバカすぎて』
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書店員の主人公が、3年ぶりに戻ってきた店長に対して怒りを覚えながらも、仕事やプライベートと向き合っていく物語です。
前作『店長がバカすぎて』で活躍した店長が、さらにパワーアップしてバカな言動を繰り返す姿が面白く、何度もクスッと笑ってしまいました。
また、派遣社員から正社員になった主人公が、「正社員になりさえすればやっていける」と思っていたことが幻想だとわかり、仕事であれ、結婚であれ、何を選択しても、その後も人生は続いていくので、その瞬間、瞬間を楽しむことが大切だと気づく展開に、ハッとさせられました。
他にも、すべての短編に登場する小説『ステイフーリッシュ・ビッグパイン』を書いた謎の作家の正体に迫るといった「ミステリー要素」にも引き込まれて、最後まで一気に読みました。
前作からパワーアップした店長と書店員のクスッと笑えるやりとりを描いた物語に興味がある方におすすめの小説です。
青山美智子『いつもの木曜日』
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『木曜日にはココアを』に登場した12人のキャラクターたちのスピンオフ作品です。
読み進めていくうちに、『木曜日にはココアを』で描かれていた12人のキャラクターたちの心温まる物語を思い出し、もう一度読み返したくなりました。
また、短編ごとに異なる特定の色をベースにしたカラフルなデザインが美しく、キーアイテムの写真や絵にも引き込まれて、絵本のような楽しみ方ができました。
もちろん、心温まる物語にも癒され、「まだ起きていないことを楽しみだなぁと想像する力が未来を創る」「身を固くして戦闘体制に入るのではなく、心を柔らかくしてどんと構える強さが欲しい」「誰にも合わせなくていい。自分のルールでいけばいい」といったセリフが心に突き刺さり、肩の力が抜けて、穏やかな気持ちになれました。
絵本のような美しいデザインと心温まるショートストーリーに興味がある方におすすめの小説です。
辻村深月『嘘つきジェンガ』
おすすめ度:
幸せが欲しくて嘘に縋りついてしまう3人の主人公が、詐欺に巻き込まれ、驚きの結末へとたどり着く物語に興味がある方におすすめの小説です。
凪良ゆう『汝、星のごとく』
おすすめ度:
毒親に育てられた高校生二人が出会い、恋をして、すれ違い、成長していく物語です。
子どもを犠牲にしてでも自分の幸せを手に入れようとする親や、他人の不幸をエンタメのように楽しむ島の人たちに怒りが込み上げ、そうしたつらい環境で悩み苦しむ高校生二人の姿に心が痛みました。
一方で、「自分の人生を生きることを、他の誰かに許されたいの?」「誰もあなたの人生の責任をとってくれない」といった言葉が心に突き刺さり、周りの目を気にせず、自分のために生きようと思えました。
今村夏子『とんこつQ&A』
おすすめ度:
すべての問題はある人物のせいだと言って盛り上がる人たちや、興味本位で他人の問題に首を突っ込む人たちなど、日常に紛れ込んだ闇を取り上げた短編集です。
すべての短篇で共通して、他人を自分の都合のいいようにコントロールしようとする人たちの姿に恐ろしさを覚えるだけでなく、毒のあるそれぞれのラストに心が揺さぶられました。
特に、人前に出ると声が出せなくなる主人公が、Q&Aを作ってその通りに振る舞う姿と、それを利用して自分たちが望む返事を得ようとする人たちの姿を通して、現代のコミュニケーションが一方通行になっていることに気づかされました。
青山美智子『マイ・プレゼント』
おすすめ度:
美しい水彩画と、疲れた心が癒されるショートショートに興味がある方におすすめの一冊です。
瀬尾まいこ『掬えば手には』
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平凡な大学生の主人公が、相手の心が読める特別な能力を使って、まわりの人たちのお困りごとを解決しようと奮闘する物語です。
オムライス屋の店主で、毒ばかり吐いているのに、美味しいオムライスが作れる軟弱ヤンキーの大竹さんや、決して心を開かないアルバイトの常盤さんなど、個性的な登場人物たちが魅力的で、物語に一気に引き込まれました。
また、そんな個性的な二人との関係を少しでも良くしようと、空回りしても、お節介だと思われても、的外れでおかしいやつだと思われても、できる限りの行動を取り続ける主人公の優しさに心が動かされました。
さらに、ラストは3人の関係が少しだけ良くなっていく展開にジーンとくるだけでなく、普通であれ、平凡であれ、真剣な行動の積み重ねが特別を生み出すことが伝わってくる展開に励まされました。
平凡な主人公の特別な生き方を描いた物語に興味がある方におすすめの小説です。
熊谷達也『明日へのペダル』
おすすめ度:
コレステロール値が高くなった主人公が、部下にロードバイクを勧められて、のめり込んでいく物語です。
仕事も先が見え、定年後も読書とたまに旅行ができればいいと惰性で生きていた主人公が、ロードバイクの魅力にハマり、目標をもっていきいきと毎日を過ごす姿に引き込まれました。
また、コロナ禍によって社会は大きく変わろうとしているのに、時代の変化についていこうとしない人たちに怒りが湧く一方で、新たな一歩を踏み出す人たちの姿に心が動かされました。
寺地はるな『カレーの時間』
おすすめ度:
男は、女はこうあるべきだとすぐに決めつける祖父と、失敗を恐れて人と距離をとって生きてきた孫が一緒に暮らす物語です。
頑固で他人に対して偉そうな態度をとる祖父と、人に興味がない主人公が、互いに影響されながら、少しずつ変わっていく姿に引き込まれました。
また、男として自分はこうあるべきだと思い込んで生きてきた祖父が、娘たちにもひた隠しにしていた秘密に心が動かされ、ラストは感動で涙がこぼれ落ちそうになりました。