あなたが絶対に知るべき唯一のものとは、図書館の場所である。
とは、ドイツ生まれの物理学者、アルベルト・アインシュタインの言葉です。
では、なぜそれほど読書が大切なのでしょうか。
心にとっての読書は、身体にとっての運動と同じである。
と、アイルランドの作家、リチャード・スティールが言うように、心を鍛えるためです。
ドイツの哲学者、ニーチェは、
他人の自我にたえず耳を貸さねばならぬこと、それこそまさに読書ということなのだ。
と言っていますが、読書を通して著者と会話し、自分の考えを日々アップデートしていかなければ、心は鍛えられません。
ところが、私たちは目の前の現実に追われ、本を開き、じっくりと考える暇さえありません。
そこで今回は、私が2022年に読んだ全小説の紹介と、その中から心を鍛えるきっかけを与えてくれるおすすめの10冊をランキング形式で紹介していきます。
忙しい毎日の隙間時間に、心を鍛える読書をはじめてみませんか?
心を鍛えるきっかけを与えてくれるおすすめの10冊
では早速、2022年に読んだ全小説の中から、心を鍛えるきっかけを与えてくれるおすすめの10冊をランキング形式で紹介していきます。
第1位 町田そのこ『星を掬う』
おすすめ度:
元夫のDVに悩む主人公が幼い頃に捨てられた母と再会し、生きる希望を見出していく物語。
元夫のDVに悩む芳野千鶴が、幼い頃に捨てられた母と再会し、生きる希望を見出していく物語です。
千鶴は、元夫の野々原弥一に、ありったけの金を持ち去られ、少しでも歯向かうと殴られる日々を過ごしていましたが、その原因のすべては幼い頃に捨てられた母のせいだと恨んでいました。
そのため、母と再会し、これまでの恨みつらみをぶちまけた千鶴でしたが、母は若年性認知症になっており、しかも母を診察していた医師から「10代のガキじゃないんだから自分の人生は自分で責任を持てよ」と言われます。
このことに腹を立てた千鶴でしたが、母と同居していた他二人の女性の姿を通して、誰かの悪意を引きずって人生をおろそかにしてはいけないことを実感し、新たな一歩を踏み出す姿に感動で涙がこぼれ落ちそうになる物語です。

第2位 古内一絵『きまぐれな夜食カフェ マカン・マラン みたび』
おすすめ度:
悪意をもって接触してくる人に対してさえ、厳しくも温かい言葉をかける主人公に感動する物語。
悪意をもって接触してくる人に対してさえ、厳しくも温かい言葉をかけるドラァグクイーン(女装をした男性)の姿に感動で涙がこぼれ落ちそうになる物語です。
大手パソコンメーカーのカスタマーサービスセンターで、オペレーターのアルバイトをしている26歳の弓月綾は、小・中学校のときに同級生にいじめられて、極端に人を怖れるようになりました。
その一方で、「私はあなたが嫌いです。好かれたいとも思いません。」というタイトルのブログを運営し、オシャレなカフェなど、気に入らないものに対して毒を吐くことで憂さ晴らしをしていました。
そんな綾が、「マカン・マラン」にやってきて、毒を吐いて憂さ晴らしをしようとしますが、店主であり、ドラァグクイーンでもあるシャールは、悪意をもった綾に対してさえ、厳しくも温かい言葉をかけるので、感動で涙がこぼれ落ちそうになる物語です。

第3位 寺地はるな『ガラスの海を渡る舟』
おすすめ度:
自分は特別ではないと焦る主人公が、嫌っていた兄の才能を認め、努力が少しだけ報われる物語。
祖父の後を継いで、「ソノガラス工房」を営んでいた里中羽衣子が、自分は特別ではないと焦りますが、嫌っていた兄の才能を認め、努力が少しだけ報われていく物語です。
羽衣子が兄である道を嫌っていたのは、転んで泥まみれになっても平気で電車に乗るなど、発達障害のような行動ばかりとっていたので、幼い頃から母が道の世話ばかりしていたからです。
また、大人になり、一緒に店を経営するようになってからは、お店にやってくる人たちが、羽衣子がつくったものではなく、道がつくったものばかりを欲しがったからです。
そのため、羽衣子は兄とは差がつきっぱなしだと自分を追い込み、焦りますが、祖父の友人である繁實さんに、そんなことはないと励まされます。
さらに、さまざまな出来事を通して、嫌っていた道のことを少しずつ認めていくことで、羽衣子の努力もほんの少し報われていく姿が描かれていきます。
そんな羽衣子の姿を通して、たとえ才能やセンスがなかったとしても、努力を信じて一歩踏み出そうと励まされる物語です。

第4位 古内一絵『二十一時の渋谷で キネマトグラフィカ』
おすすめ度:
老舗の映画会社で働く主人公が、会社が潰れる前に新たな企画を立ち上げようと奮闘する物語。
老舗の映画会社・銀都活劇で惰性で仕事をこなしていた砂原江見が新たな企画を立ち上げようと奮闘する物語です。
とはいえ、彼女は入社以来、映画の宣伝チームで働いていましたが、部下からチーム長のポジションを乗っ取られ、数年前にDVDの宣伝チームに飛ばされていました。
しかも、銀都活劇が大手IT企業資本の映画配信会社・マーベラスTVの傘下に入ることが決まったため、リストラされる可能性がありました。
そのため、江見は自分が何に惹きつけられてこの会社にいるのか、よく分からなくなっていましたが、90年代にミュージシャンのカジノ・ヒデキらが解説していた映画『サザンクロス』のデジタルリマスターを再販し、そのプロモーションとしてイベント上映をしようと思いつきます。
そして彼女は、まったく仕事をしない上司や、江見からチーム長のポジションを奪った元部下、息子の中学受験のために会社を辞めた先輩などを巻き込んで、企画を実現するために次々と行動していきました。
そんな江見の姿を通して、情熱を注ぎこめる仕事がしたいのなら、誰かに期待するのではなく、自らが新しい風を起こす存在になる必要があることを教えてくれる物語です。

第5位 本谷有希子『静かに、ねぇ、静かに』
おすすめ度:
SNS上に溢れている中身のない薄っぺらい人たちを皮肉る、毒のある物語。
来月で40歳になるハネケンが、専門学校で同級生だったづっちんとヤマコと一緒に貧乏旅行を楽しむ物語です。
とはいえ、ただの貧乏旅行ではなく、お金がある方が幸せだという「金のサイクル」から抜け出そうとしている仲間同士の旅でしたが、なぜか彼らの行き先は何の不自由もない超近代的な都市・クアラルンプールでした。
そんな彼らは、「本来の旅行とは、自分の思い通りにならないことを目の当たりにする連続だ」と言いますが、売店で買ったから揚げがすぐに出てこないだけでキレたり、現地についてからも、観光に興味がないので、写真や動画を撮って後から見返すことが本当の旅だと言い出すなど、こじらせています。
このように、自分がどう感じたかよりも、料理が美味しそうなこと、旅が楽しそうなこと、幸せそうなことを大切にする、現実でもSNS上に溢れている人たちに皮肉をきかせている物語が楽しめる小説です。

第6位 古内一絵『女王さまの夜食カフェ マカン・マラン ふたたび』
おすすめ度:
他人に振り回されていた人たちが、自分らしく生きようと決意する物語。
他人の目を気にしていた人たちが、夜にひっそりと営まれている夜食を提供するお店「マカン・マラン」に訪れ、自分らしく生きようと決意する物語です。
古株の派遣社員の目が気になって言いなりになっていた女性や、発達障害の可能性のある息子を必死になって「普通」にさせようと頑張る主婦など、他人の目を必要以上に気にする人たちの悩みに共感できます。
また、そんな彼らが、「マカン・マラン」の店主であり、ドラァグクイーンでもあるシャールの優しくも厳しい言葉に励まされて、自分らしく生きようと決意する姿に心が動かされました。
全部で4つの物語が描かれていますが、どの物語も心に沁みる感動の小説です。

第7位 柚月裕子『ミカエルの鼓動』
おすすめ度:
ミカエルという医療用ロボットは本当に人の命を救う救世主なのか?と問いかけてくる物語。
ロボット支援下手術の第一人者である西條泰己が、ミカエルという医療用ロボットは本当に人の命を救う救世主なのか?と問いかけられる物語です。
ミカエルを思い通りに操作できれば、医師がその場にいなくても遠隔で手術ができ、しかも患者への負担が少なく、出血や感染症のリスクも少ないといったメリットがあったため、西條は多くの医師や患者から尊敬の眼差しで見られていました。
そのため、西條は次期病院長とまで言われていましたが、現在の院長である曽我部が、手術の腕が飛び抜けている真木一義という心臓外科医をドイツから呼び寄せて、外科課長を任せると言い出します。
さらに、ロボット支援下手術の優れた技術を持つ布施寿利が、医療ミスをしたという理由で退職し、自殺していたことがわかりました。
西條は次第に「ミカエルには何か裏があるのでは?」と疑うようになりますが…。という物語が描かれていたので、真相が気になって一気読みしてしまう小説です。

第8位 伊藤潤『琉球警察』
おすすめ度:
戦後の沖縄で警察官になった主人公が、米軍と愛国心との板挟みに悩まされる物語。
徳之島出身の東貞吉が警察官になり、米軍と愛国心との板挟みに悩まされる物語です。
貞吉が警察官に採用されたのは、優秀だったからではなく、銃が蔓延する沖縄で、戦果アギヤーと呼ばれる小年窃盗団が組織化され、ヤクザまがいの活動をするようになったため、危険で過酷な任務に耐えられそうな人材だったからです。
そんな貞吉は、米兵が撃たれて現金輸送車の金が盗まれた事件を見事解決したことで、公安に推薦されますが、米軍から共産主義者としてマークするように指示された瀬長亀次郎は、共産主義とは関係なく、沖縄のために行動する人物だったので、悩むようになりました。
それでも米軍の命令を遂行するために、瀬長が所属していた人民党の党員である島袋令秀に接近し、情報を引き出し、妨害工作を続けますが、このまま妨害工作を続けるべきか悩むんですよね。
米軍と沖縄の関係性がよくわかるだけでなく、イデオロギーを超えて大切にすべきものがあることを教えてくれる物語です。

第9位 小野寺史宜『とにもかくにもごはん』
おすすめ度:
交通事故で夫が亡くなったことをきっかけに、子ども食堂を運営し始めた女性の物語。
高校生の息子がいる松井波子が、交通事故で夫が亡くなったことをきっかけに、近所の閉店したカフェを借りて、子ども食堂を運営し始める物語です。
「本当に助けが必要な人を呼べているのか?」「その人に上手く情報が届けられているのか?」といった課題はありましたが、波子は自己満足で、何の解決にもならないかもしれないけれど、マイナスにはならないだろうという思いをもって、子ども食堂を運営していました。
とはいえ、ボランティアの人たちを集めるだけでも大変で、ぎりぎりの人数しか集められず、一人でも欠けたら運営できない状況でした。
また、大変な思いをして集めたボランティアの人たちも、大学生であれば就活に役立つから…なんて理由で参加しているので、言われたことしかやりませんでした。
さらに、子ども食堂に参加する人たちも、「名前を書いてださい」と言うと、「普通の食堂も、名前なんて書かせないでしょ」と怒り出したり、アレルギーの確認をすると、「個人情報でしょ」と文句をいうなど、相手をしたくない人たちまでやってきます。
そんな大変な思いをしながらも、子どもたちに温かいご飯を提供し続ける波子の優しさに触れて、変わっていく人たちの姿が描かれていたので、温かい気持ちになれる物語です。

第10位 南杏子『ヴァイタル・サイン』
おすすめ度:
看護師として激務に追われていた主人公が働く意義を見出していく物語。
21歳で看護師になり、10年が経過した堤素野子が、激務に追われ、悩みながらも、働く意義を見出していく物語です。
素野子は、4歳年下の大卒ナースである大原桃香の面倒だけでなく、新しく入った看護助手の面倒まで見る必要がありました。
もちろん、日常業務は想像を絶する激務にも関わらずです。
入浴介助の業務では、身体の自由がきかない患者を1人ずつ順番にお風呂に入れていくのですが、認知症になった患者から、「やめろ!人殺し!」と怒鳴られたり、場合によっては顔を叩かれたりすることもあります。
他にも、昼食の配膳では、認知症を患っている患者たちは順番待ちをすることができないので、「早くしろよ」と文句を言ってきたり、その対応をしている最中に、「トイレに行きたい」と言い出した患者に付き添ったりと、休憩している暇などありません。
さらに、患者の家族たちから、治療の施しようがないのに、血尿が出ただけで、「今すぐ治療しろ!」と言われたり、業務に追われていると「怖い顔になっている」「そっけない」とクレームが入ったり、挙句の果てにはセクハラまがいのことをしてくるなど、ありえない要求をされて心身ともに疲弊していました。
それでも、前を向いて患者のために行動しようとする素野子の姿に励まされる物語です。

2022年に読んだ小説をジャンル毎にご紹介
では引き続き、2022年に読んだ全小説をジャンル毎に紹介していきます。(ランキングで紹介した10冊は除いています)
ミステリー
知念実希人『真夜中のマリオネット』
おすすめ度:
読み終ったあとにイヤな気持ちになるエンタメ系ミステリー。
ラストに驚けるかどうかで、評価が大きくわかれるエンタメ系のイヤミスです。
主人公の女医が、簡単に美少年に手玉にとられる姿に共感できず、またラストも予想通りだったので、後味の悪さだけが残りましたが、驚けると面白いミステリーだと思います。
青柳碧人『むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。』
おすすめ度:
昔話をミステリー仕立てにした昔話ミステリー第2弾。
昔話を独自の解釈で構成しなおし、ミステリー仕立てにした、ありそうでなかった昔話ミステリーの第2弾です。
前作よりも謎解きが複雑になっているため、まわりくどく感じるところもありましたが、昔話ならではの不思議な道具を使ったトリックが面白く、何度も驚かされました。
知念実希人『硝子の塔の殺人』
おすすめ度:
どんでん返しに驚かされる!本格ミステリー。
「謎解き」「トリック」「頭脳派名探偵の活躍」という本格ミステリーの要素を散りばめながら、これまでの本格ミステリーとは一味違う展開が楽しめる小説です。
読み始めると、序盤から惹き込まれ、中盤から終盤にかけては、謎解きのしょぼさにショックを受けますが、それがラストの仕掛けへと繋がっていく構成に驚かされること間違いなしのミステリーです。
大沢在昌『悪魔には悪魔を』
おすすめ度:
双子の弟が麻薬取締官の兄になりすまして潜入捜査をするミステリー。
慎重な性格で頭も良い双子の兄・良とは正反対の、単細胞で喧嘩早い弟・将が、良になりすまして麻薬密売組織に潜入捜査をするミステリーです。
ラストはあっけない終わり方をしますが、裏組織に関わる登場人物の誰もが怪しく思え、先が読めない展開に続きが気になって一気読みしてしまいました。
青柳碧人『むかしむかしあるところに、死体がありました。』
おすすめ度:
昔話をミステリー仕立てにした新ジャンルの物語。
昔話を独自の解釈で構成しなおし、ミステリー仕立てにした、ありそうでなかった新ジャンルの物語です。
登場人物がごちゃごちゃして理解しにくく、ラストの毒のある終わり方に少しイヤな気持ちになりますが、昔話ならではの不思議な道具を使ったトリックが面白いミステリーです。
今村昌弘『魔眼の匣の殺人』
おすすめ度:
超能力とミステリーの組み合わせが新しい小説。
葉村譲と探偵の剣崎比留子が、前作『屍人荘の殺人』で起こった悲劇を予言していた人物に会いに向かった村で、またしても殺人事件に巻き込まれるミステリーです。
この村では、過去に斑目機関という謎の組織が「魔眼の匣」と呼ばれる超能力の研究施設を運営しており、研究対象になっていたサキミ様が数々の予言を当てていました。
そんなサキミ様が、「明日から2日間に、この地で男女が二人ずつ、四人死ぬ」という予言をしたため、「魔眼の匣」に向かった葉村たちと他数名の男女が殺人事件に巻き込まれていきます。
超能力を絶対的なものとすることで、これまでとは一味違うミステリーが楽しめる小説です。

中田永一『ダンデライオン』
おすすめ度:
31歳と11歳の主人公がタイムリープして殺人犯に迫るミステリー。
過去と現在の主人公が入れ替わることで展開していく、過去と現在のつながりが綿密にプロットされたミステリーです。
11歳の蓮司が未来を知ることで「未来は変えられないのか」と嘆く一方で、ラストの「未来は自分がイメージしたとおりになる」というメッセージに感動する小説です。
今村昌弘『屍人荘の殺人』
おすすめ度:
ゾンビものと殺人事件の組み合わせが新しいミステリー小説。
ゾンビによってクローズドサークルになったペンションで、殺人事件の謎を解き明かしていく…という、これまでにない新ジャンルのミステリーです。
ストーリーとしては強引なところも多く、動機など納得できない箇所も多々ありましたが、これまでのミステリーで使われてきたトリックを挙げて謎解きをしてく構成が面白い小説です。
恩田陸『三月は深き紅の淵を』
おすすめ度:
『三月は深き紅の淵を』という稀覯本の謎に迫るミステリー。
「作者を明かさないこと」「コピーを取らないこと」「誰かに貸し出す場合は一人に一晩だけにすること」という約束のもとに作られた世界に200部しかない稀覯本の謎に迫る短編集です。
ラストはあっけない終わり方をするので、少し物足りなさを感じましたが、序盤からラストにかけて稀覯本がどのような小説か気になって、物語にぐいぐい惹き込まれました。
ヒューマンドラマ
青山美智子『月曜日の抹茶カフェ』
おすすめ度:
12人の主人公がバトンタッチをしながら悩みを解決していく心温まる短編集・第2弾。
携帯ショップで働く26歳の美保が、ツイてないことばかり起こったので、初詣に行こうと思い立ち、その帰りにマーブル・カフェに寄ったことで、恋心が芽生える物語から始まる短編集です。
ここから12人の主人公がバトンタッチをしながら、次々と新たな物語が描かれていき、しかも短編同士のつながりも楽しめます。
また、自分のことに取り組んでいたとしても、知らず知らずのうちに誰かの背中を押すなどして、あずかり知らぬ他人を動かしている…がテーマの物語が描かれていたので、直接的な人とのつながりだけでなく、自分に関わるすべての縁を大切にしたくなりました。
ラストは前作『木曜日にはココアを』と同様に感動できる小説です。

本谷有希子『あなたにオススメの』
おすすめ度:
AIと共存する教育にシフトした国で、古い考えをしているママ友を見下す主人公の物語
都内でも有数の高級住宅地に住む凡事推子が、娘と同じ保育園に通う子をもつ、こぴくんママを見下して楽しむ姿を描いた物語です。
なぜなら、こぴくんママは時代遅れも甚だしく、いまだに旧型のスマートフォンを使い、体内にマイクロチップを埋めることを拒否していたからです。
これまでは、「AIに代替できない子を育てよう」という教育方針でしたが、AIの普及に伴い、国が「AIと共存する教育」にシフトしてからは、誰もが対内にチップを埋め込み、24時間ネット接続して過ごすことが当たり前になりました。
そのため、「オンライン依存症」は正常なことで、「オフライン依存症」という正反対の病気が出来上がっているところに恐怖を覚え、また時代の変化に追従することが正義だとする人たちの姿に恐ろしさを感じる物語です。

青木祐子『レンタルフレンド』
おすすめ度:
高いお金を払ってまで友だちをレンタルする人たちの悩みに迫る物語。
女性専用の人材派遣会社で働く星野七美が、レンタルされた女性たちの悩みに寄り添う一方で、お金にはシビアに接する姿を描いた物語です。
友だちがいないと他人から信用されないという理由でレンタルフレンドを求める人たちの姿が描かれていたので、友だちがいないことをおかしいとする世間一般の常識に疑問が湧きました。
原田マハ『リボルバー』
おすすめ度:
ファン・ゴッホが自殺を図ったときに使ったというリボルバーの謎に迫る物語。
パリにあるオークション会社で働く高遠冴のもとに持ち込まれたリボルバーの謎に迫る物語です。
そのリボルバーを持ち込んだ50代の女性・サラは、ファン・ゴッホが自殺を図ったときに使ったもので、ファン・ゴッホ美術館の展覧会にも出品された、権威のお墨付きのものだと言いましたが、美術館の担当者に確認すると、展示されたものとは違うリボルバーだとわかります。
では、なぜサラは嘘をついてまでリボルバーを冴のもとに持ち込んだのか、またサラが持ち込んだリボルバーには一体どんな秘密が隠されているのか、という謎が気になってページをめくる手が止まらなくなりました。
序盤はゴッホとゴーギャンの説明が長々と続くので少し退屈に感じますが、終盤に差し掛かると想像を上回る展開に驚き、ラストは感動で胸がいっぱいになる小説です。

一穂ミチ『スモールワールズ』
おすすめ度:
家族を傷つけても自分らしく生きるしかないと励まされる短編集。
読み終わったときに希望が持てる「心が温まる驚き」や、嫌な気分になる「イヤミス要素のある驚き」など、バラエティに富んだ物語が楽しめる短編集です。
また、たとえ家族同士で傷つけあうことになったとしても、自分らしく生きるしかない…というメッセージに励まされる小説です。

南杏子『希望のステージ』
おすすめ度:
ある出来事がきっかけで都落ちした女医が、患者の命がけのステージをサポートする物語。
32歳で独身の葉村菜々子が、ある事情で勤めていた都心の大学病院を辞めて、兄が経営する実家の病院で働き始め、患者の命懸けのステージをサポートする姿が描かれている物語です。
この小説は、全部で6つの物語から構成されていますが、どの物語も、命がけでステージに立とうとする人たちの姿が描かれていたので、胸が熱くなりました。
また、物語全体としては、菜々子が都心の大学病院を辞めた理由が少しずつ明らかになっていきます。
医師としては言ってはいけない「絶対」という言葉がキーワードとなり、患者を感情的に励ますのは本当に良いことなのか?という疑問が提示されます。
それだけ医師の言葉には重い責任がのしかかっていることがわかりますが、それだけでなく、どれだけ患者のためを思って発した言葉でも、受け取られ方次第で180度意味が変わることに衝撃を受けました。
人生の最後を自分らしく生きたいと思えるだけでなく、自分の言葉には責任を持とうと思える物語です。

早見和真『店長がバカすぎて』
おすすめ度:
バカな店長や社長、お客様たちに振り回される書店員の物語。
辞める気満々なので少し強気な主人公が、バカな店長や社長、お客様たちとやり取りをする姿が面白く、読み終った後は「にやにや」してしまう物語です。
ラストの展開が急すぎて、感情がついていけなくなるなど、気になる点も多々ありましたが、本に対する情熱が伝わってきて、無性に読書がしたくなりました。
古谷田奈月『無限の玄/風下の朱』
おすすめ度:
家族やチームに潜む支配・被支配の関係を描いた物語。
親や先輩の支配から抜け出したいのに、支配されることに惹かれてしまう人たちを描いた物語です。
純文学にありがちな不思議な終わり方をしたり、感情を強要されているようで息苦しくなるところもありますが、他人の支配から抜け出す難しさがよくわかる物語でした。
垣谷美雨『後悔病棟』
おすすめ度:
後悔しても意味がないことを教えてくれる物語。
死ぬ間際になって「あのとき、こうしていれば…」と後悔する人たちが過去に戻り、人生をやり直すチャンスを手に入れる物語です。
とはいえ、彼らが想像していたようなハッピーエンドにはならない展開が面白く、たとえどの道に進んでも、自分次第で結果が決まることに気づかせてくれる物語でした。
村上春樹『風の歌を聴け』
おすすめ度:
大学の夏休みに海辺の街に帰郷した僕が、友達とビールを飲み明かす日々を描いた物語。
大学の夏休みに海辺の街に帰郷した僕が、3年前の大学に入った年に知り合った鼠と呼ばれる男と一緒に、ジェイズ・バーでビールを飲み明かす日々を描いた物語です。
物語としては、とても「ありきたり」なものでしたが、ごっそりと情報が欠落しているので、ヒントをもとに読み解いていくと、まるでパズルのピースを当てはめていくような快感が味わえます。
また、そうして読み解いた物語は、レゾンデートル(存在理由)という大きなテーマを背景に描かれていたので、生死感を問われているような気がして、心に深く突き刺さりました。
オシャレな(キザな?)雰囲気の物語なので、人によって評価はわかれるように思いますが、自分の存在理由について深く考えたくなる小説です。

歴史・時代
伊藤潤『夜叉の都』
おすすめ度:
鎌倉幕府を、北条家を守るために、悪鬼となって行動する北条政子の生涯を描いた物語。
鎌倉幕府を、北条家を守るために、苦悩しながらも、自ら悪鬼となって行動する北条政子の生涯を描いた物語です。
源頼朝の妻である政子は、頼朝が落馬して亡くなってから、鎌倉幕府を、北条家を存続させるために、奔走することになりました。
将軍職は頼朝と政子の息子である源頼家が引き継ぎましたが、頼家は蹴鞠や狩りに熱中し、祝宴も華やかに開き、頼朝の側近だった安達盛長の息子・景盛の妾に想いを寄せて手を出そうとするなど、自由奔放に振る舞っていました。
それにも関わらず、「十三人の合議制」と呼ばれる、北条時政や大江広元ら宿老たち数名が評議し、その結果を頼家に提示して決裁を仰ぐ方式に不満を持つなど、独断的な行動をとるようになったので、政子は、弟の義時と一緒になって、頼家の力を削ごうと行動します。
こうして自らの息子を将軍の座から追いやり、頼家の弟である源実朝を新たな将軍に据えた政子でしたが、またしても将軍となった実朝が独断で行動し始めたので、再び追いやる策を計画する羽目になりました。
誰もが自分の欲望を満たすために別の誰かを追い落とし、力を手に入れれば傲慢になり、他を顧みず、敗北の因を生み出し、その結果、追いやられる…というサイクルが繰り返される姿が描かれていたので、人間の欲の深さに嫌気がさす物語です。

池波正太郎『鬼平犯科帳 1』
おすすめ度:
元悪党の鬼平が人情味溢れる行動をとりながらも悪党どもを成敗していく物語。
火付盗賊改方という江戸市中の犯罪を取り締まる、特別警察のような仕事をしている長谷川平蔵(鬼平)が、人情味溢れる行動をとりながらも悪党どもを成敗していく物語です。
大昔の盗賊たちは、「盗まれて困る者には手を出さない」「人を殺さない」「女をてごめにしない」というモラルを守って仕事をしていましたが、鬼平が活躍する時代になるとモラルをもたない盗賊たちが増えてきました。
盗む相手は誰であってもよく、簡単に人を殺し、女をてごめにするなど、好き放題に振る舞っていました。
そこで、泣く子も黙る鬼平が、火付盗賊改方の長官として、盗賊を次々と成敗していくんですよね。
とはいえ、鬼平はいわゆる真面目人間ではなく、若い頃は盛り場や悪所をうろつきまわり、無類どもと交わって酒を飲み、女と遊んでばかりいました。そればかりか、無類漢を押さえ込んで頭分にまでなっていました。
そんな元悪党の鬼平が、火付盗賊改方の長官になり、人情味あふれる行動をとりながらも、悪党どもを成敗していく姿に心動かされる物語です。

まとめ
今回は、2022年に読んだ全小説の紹介と、その中から心を鍛えるきっかけを与えてくれるおすすめの10冊をランキング形式で紹介してきました。
ドイツの作家、ハインリヒ・マンが、
本の無い家は窓の無い部屋のようなものだ。
と言ったように、「自分の考え」という狭い部屋に閉じこもっていては、心は鍛えられません。
気になる小説が見つかった方は、この機会にぜひ手に取ってみてください。
コメント