SNSにハマっていませんか?
私もハマっている一人だと思いますが、本谷有希子さんの小説『静かに、ねぇ、静かに』を読んで、SNSとは今後も適度な距離をとっていこうと思いました。
SNS上に溢れている中身のない薄っぺらい人たちを皮肉る、毒のある物語が描かれていたからです。
『静かに、ねぇ、静かに』の情報

おすすめ度の理由
『静かに、ねぇ、静かに』のあらすじ
都合のいいところだけを切り取って、自分をよく見せていませんか?
物語の主人公は、来月で40歳になるハネケン。
彼は、専門学校で同級生だったづっちんとヤマコと一緒にマレーシアに行くことになりました。
そんな彼らは、お金がある方が幸せだという「金のサイクル」から抜け出したいと考えていたので、LCCの最安値のフライトに乗ろうとしていましたが、づっちんの荷物が規定の重量を超えていたので、係員に軽くキレられます。
このとき、ハネケンとヤマコは、そんなづっちんの姿を動画で撮りながら、「本来の旅行とは、自分の思い通りにならないことを目の当たりにする連続なので、そのことを身をもって教えてくれたづっちんに感謝だね」なんて言っていましたが、列の後ろに並ぶ人から「五千円くらい払えよ、貧乏人」と言われました。
この言葉に空気が張り詰めますが、ハネケンたちは五千円を払えば追加持ち込みオッケーになることを知らないフリをして会話をし、その場をなんとか凌ぎます。
その後、マレーシアに着くと、ジャングルのような価値観が変わる場所を想像していたハネケンの期待は裏切られ、クアラルンプールは何の不自由もない超近代的な都市でした。
兼業農家としてギリギリで生活していたハネケンは、「金のサイクルから抜け出そう」と言っていたづっちんが、なぜこんな都会に来たいと言い出したのか不信に思いますが、疑う自分、弱い自分、未熟な自分を克服したいと思い、不満を胸の奥に押し込めます。
とはいえ、行きたいところが見つからなかった彼らは、スタンプラリー的な義務感で観光スポットを訪れ、写真や動画を撮り、SNSにアップして時間を過ごしました。
しかし、そんな彼らにピンチが訪れます。
マッサージ店に行きたいと言って、づっちんが適当に捕まえたタクシーが、どんどん怪しげな場所へと移動していったからです。
それでも彼らは大丈夫だろうとたかを括って楽しんでいましたが…。という毒のある物語が楽しめる小説です。
『静かに、ねぇ、静かに』の感想
この小説は、全部で3つの物語から構成されています。
どの物語も身近にいそうな人たちが抱える問題を、毒のある皮肉たっぷりの物語として描いているので、一気に惹き込まれました。
たとえば、あらすじで紹介した『本当の旅』では、お金を稼いでいる人たちのことを「金のサイクルにとらわれている」と見下し、バカにする三人の姿が描かれています。
お金がある人がそのサイクルから抜け出そうというのならわかるのですが、彼ら自身はニートやフリーターなど、お金が欲しくても手にできない立場にいるため、まったく説得力がありません。
また、「旅はトラブルが多くても楽しむものだ」といって自分達の失敗は笑って過ごしますが、フードコートで注文した唐揚げがすぐに出てこないと、「飛行機に乗り遅れるから返金してください」とドスの効いた声で店員のおばちゃんを脅すなど、全然トラブルを楽しめていません。
マレーシアについてからも、観光に興味がないので、写真や動画を撮って後から見返すことが本当の旅だと言い出したり(今を楽しめない悲しい人たちが言いそうなことですが)、貧しい現地の人から土産物を買っても、荷物になるからとすぐに捨てるなど、写真や動画のように良いところだけを切り取って眺めようとし続けます。
そんな自分がどう感じたかよりも、料理が美味しそうなこと、旅が楽しそうなこと、幸せそうなことを大切にする、現実でもSNS上に溢れている人たちの末路に衝撃を受ける物語でした。
ちなみに、今回は紹介しませんでしたが、残り二つの物語も毒のある皮肉がたっぷり効いている物語が楽しめるので、ぜひ読んでみてください。
※三話目の『でぶのハッピーバースデー』は声を出して笑ってしまうほどユーモアあふれる物語です。
まとめ
今回は、本谷有希子さんの小説『静かに、ねぇ、静かに』のあらすじと感想を紹介してきました。
SNS上に溢れている中身のない薄っぺらい人たちを皮肉る、毒のある物語が楽しめる小説です。
気になった方は、ぜひ読んでみてください。
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