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仕事にも恋愛にも結婚にも興味がない29歳の女性・柳生美雨が、売れないお笑い芸人・矢沢亨と出会ったことで、人生が劇的に変わっていく物語です。
美雨は、「机の周りをぐるぐる回ってホッチキスで冊子を作るようなのどかな仕事がしたい」と思っていました。
そのため、受付嬢の仕事にも情熱を持っていませんでしたが、1年後には30歳になるので、契約を更新してもらえず、これからどうしようかと悩んでいました。
とはいえ、結婚にも恋愛にもまったく興味がありませんでしたが、結婚のルートまで否定してしまうと、自分で自分を追い詰めてしまうようで怖くてできませんでした。
『アリとキリギリス』でいうところの、アリにもキリギリスにもなれないように思えて、人生が行き詰まっていました。
しかし、売れないお笑い芸人・矢沢亨と出会ったことで、新たな生き方を見つけます。
今を全力で楽しんで生きるお笑い芸人たちを応援することで、美雨も人生を楽しもうと考えたのです。
働きアリのそばにいれば、「もっと向上心をもて!」と言われますが、キリギリスのそばにいれば、そうした批判にさらされることなく、今を楽しんで生きられるからです。
最近、推し活が流行っているのは、アリにもキリギリスにもなれない人たちの新たな居場所だからかもしれません。
とはいえ、キリギリスとして生きるお笑い芸人たちの日常は、楽しさだけではありませんでした。
どこかの社長との食事会の席でエピソードトークを磨いたり、売れなくなっても先輩というだけでバイト代からなけなしのお金を渡したり、仲間が売れていく姿を見て、悔しさと妬ましさ、そして誇らしさに苛まれたりと、悶えるような日々を過ごしています。
また、そうして必死になってお笑いをやっていても、限界を感じて辞めていく人が後をたちません。
それでもお笑いをやっているのは、鬱屈した思いや、人間のどうしようもない哀しさや愚かさを笑い飛ばすためです。
自分よりも役に立たない働きアリを見つけて、意地悪なツッコミをしたり、そうすることで自分を正当化したりするのを踏みとどまるためです。
どれだけ他人と違う仕事観や恋愛観をもっていたとしても、ありのままでいいと主張するために、お笑いに打ち込んでいる彼らの姿を通して、他人と比べるのはやめて、自分らしく生きていこうと思えました。
人生に行き詰まった女性と、今を精一杯生きるお笑い芸人たちが織りなす物語に興味がある方におすすめの小説です。
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