早く大人になりたいって思ったこと、ありませんか?
私はあまり勉強が好きではなかったので、早く大人になって働きたいと思っていましたが、
畠中恵さんの小説『ぬしさまへ』の主人公は、そんな単純な動機ではなく、誰かの役に立ちたいと考えて大人になりたいと願っていました。
そんな若だんなの思いに心打たれる物語なんですよね。
おすすめ度:
こんな人におすすめ
- 前作『しゃばけ』が楽しめた人
- 一味違う時代ミステリーを読んでみたい人
- 魅力的な妖怪が登場する物語が好きな人
- 畠中恵さんの小説が好きな人
あらすじ:前作『しゃばけ』に続いて病弱な若だんなが活躍する物語
物語の主人公は、前作『しゃばけ』で見事な推理を披露した長崎屋の若だんな・一太郎。

彼は前作でも病弱っぷりを発揮していましたが、本作でも負けじと、この冬三度目の大熱を出していました。
そんな一太郎の退屈しのぎのために、兄やである仁吉が自分宛の恋文を一太郎に渡します。
ところが、渡された恋文は字が汚すぎて読めませんでした。「くめ」という名前を「しね」と読み間違えるほどの汚さです。
しかし、しばらくすると、そんなおくめが火事騒ぎで殺されます。
しかも、岡っ引きである日限の親分は、仁吉が犯人だと疑うんですよね。
そこで、仕方なく若だんなが事件の謎を解くことに。
妖怪を通じて集めた情報によると、おくめは、いばり散らすけれど優しくて、競争心は強いが、慈悲深い女性だった…
と、まるで二重人格のような女性だとわかります。
本当におくめは二重人格だったのか!?という物語が楽しめます。
泣けて笑える短編集
『ぬしさまへ』は先ほど紹介した物語も含めて、全6篇で構成された短編集です。
どれも泣けたり笑えたりする物語ですが、特におすすめなのが『栄吉の菓子』『空のビードロ』『虹を見し事』の3篇です。
それぞれ簡単に紹介していきます。
『栄吉の菓子』
一太郎の幼馴染である栄吉は、菓子屋の跡取り息子でしたが、彼の菓子を食べたご隠居が死んでしまいました。
「栄吉さんの作った菓子があんまり不味かったものだから、ご老人、吃驚仰天して心の臓が止まってしまったのかね」
と仁吉が言うほど、栄吉が作る菓子は美味しくありませんでした。
とはいえ、死ぬほどの不味さではありません。
そこで、幼馴染の名誉を守るために若だんなが一肌脱ぎます。
その結果、わかったことは…。
ご隠居が死んだ理由に泣き笑いしたくなる物語です。
『空のビードロ』
若だんなの兄である松之助は、ある理由のために、若だんなとは別の店・東屋で働いていました。
その東屋で犬や猫が次々と殺される事件が起こります。
東屋のおかみさんは松之助が犯人だと決めつけますが、一人娘のおりんが彼を庇いました。
なぜ、おりんさんが私のことをかばうのか?と疑問を持ち、さらに彼女に好意まで持った松之助でしたが、事実が明らかになると…。
若だんなの兄を想う気持ちに涙が溢れ出てくる物語です。
『虹を見し事』
若だんなの側にいた妖怪たちが突然、姿を消しました。
若だんなは、誰かの夢の中にいるのでは?と推理しますが、それにしても命を狙われているようなゾワっとした感覚が拭えません。
一体、何がどうなっているのか!?
◆
…と、どれも泣いたり笑えたりする物語が楽しめます。
若だんなの決意に感動!?
そんな病弱な若だんなが、ある出来事がきっかけで、大人になりたいと心から願うようになります。
私は…私は本当に、もっと大人になりたい。凄いばかりのことは出来ずとも、せめて誰かの心の声を聞き逃さないように。
甘えられる環境にいるのに、しんどい環境に自ら飛び込もうとする若だんなの男らしさに心打たれるんですよね。
自分も頑張ろうと思える物語です。
まとめ
今回は、誰かの役に立つために早く大人になりたいと願う若だんなに心打たれる畠中恵さんの小説『ぬしさまへ』を紹介してきました。
今回も若だんなの病弱っぷりと推理力に魅了される一方で、可愛くて面白い妖怪が多数登場する心癒される物語です。
読めば「頑張ろう!?」と前向きになれる物語でもあるので、気になった方は、ぜひ読んでみてください。
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