匂いにどれだけ興味を持ってますか?
私は去年に匂いセンシングの開発をしていたので、そこそこ興味を持っていましたが、
千早茜さんの小説『透明な夜の香り』を読んで、匂いに秘められた可能性に改めて驚かされました。
匂いは私たちの記憶に色濃く影響を与えていることがわかる物語なんですよね。
おすすめ度:
こんな人におすすめ
- 匂いをテーマにした物語に興味がある人
- 他とは一味違う恋愛小説を読みたい人
- 感動できる物語が好きな人
- 千早茜さんの小説が好きな人
あらすじ:香りのスペシャリストと働くことになった主人公の物語
物語の主人公は、ある出来事がきっかけでアパートの自室で引きこもりになった若宮一香。
彼女は駅前の本屋さんで働いていましたが、辞めてからしばらく経ち、残高がどんどん減っていったので、新たな仕事を探していました。
そんなとき、久しぶりに買い物にきたスーパーの掲示板で求人広告を見つけます。
そこには、「家事手伝い、兼、事務、接客。経験不問。応相談。」と書かれており、詳しい内容はわかりませんでした。
それでも一香は書かれていた番号に電話をしたところ、面接に行くことになり、調香師である小川朔(さく)の家政婦として働くことになります。
朔は、一香と出会った瞬間に、彼女がカバンにクリムゾンスカイという薔薇を入れていたことを言い当てたり、
また一香が身体をしばらく動かしていないことを見抜くなど、匂いを嗅ぎ分ける天才的な能力を持っていました。
それだけでなく、嘘を見抜くことができたんですよね。
そんな朔と、彼に仕事を運んでくる興信所の新城と行動を共にするようになった一香でしたが、実は彼女にもある秘密があり…。
という物語が楽しめる小説です。
感想①:匂いをテーマにした物語
あらすじでも紹介しましたが、朔は新城が見つけてきた顧客の要望に応えて、香りを調合する仕事をしていました。
ただし、香水や化粧品、肌につけるものを作ったり売ったりするときは役所に届出をしなければいけないので、あくまでも香りを作っていると言います。
たとえば、藤崎という20代後半の美しい未亡人は、2年前に亡くした夫の体臭を再現して欲しいと要望してきました。
他にも、息子が脊髄に炎症が起こる病気になり、下半身が動かなくなった刑事からは、生きる力が取り戻せる匂いが欲しいと要望され、
他人を傷つけるのが大好きな美しい女性からは、好きな人ができたので相手を傷つけずに済むように血の匂いを要望されます。
砥上裕將さんの小説『線は、僕を描く』では、水墨画が頭の中でイメージとして浮かび上がってくる物語が楽しめましたが、

この物語では、文章を通して実際に匂いが伝わってくるように感じました。
感想②:匂いに秘められた可能性に驚かされる
では、なぜ依頼者たちは朔に大金を払ってまで「香り」を求めたのでしょうか。それは、匂いには思い出が閉じ込められているからです。
たとえば、一香は、朔と接するようになってから兄との記憶を思い出しました。
一香の兄は幼い頃から優秀でしたが、癇癪持ちで、予定と違うことが起こると暴れたりするような子供でした。
そんな兄に両親はご機嫌を取るようになり、兄はこっそり一香を蹴るなど調子に乗っていきましたが、
ある出来事がきっかけで引きこもるようになります。
さらに、もっと大きな出来事が起こり…、というような兄だったので、一香は兄との嫌な記憶を封じ込めていました。
ところが、朔がある匂いを調合したことで、これらの記憶が蘇ってくるんですよね。
伊坂幸太郎さんの小説『砂漠』では、ストーリーを読み進めていくことで学生時代の懐かしい記憶が蘇ってきましたが、
この物語を読んで、匂いには一瞬で記憶を蘇らせる力があることがわかりました。
感想③:少し変わったラブストーリーが楽しめる
さて、この物語では少し変わったラブストーリーが楽しめます。
一香は先ほども紹介したように、兄のことで感情を塞いで生きていましたが、朔も家族のことで心を閉ざして生きていました。
なぜなら、朔は匂いで嘘を見抜くことが出来たからです。
誰もが嘘をつきますが、それを指摘すると疎まれるようになります。
もちろん、黙っていても相手を信じられなくなるので、人間不信に陥っていたのです。
そのため、朔は一香にあれこれ指示をすることで、距離をとっていました。
身体や髪や衣服を洗うもの、肌に塗るものすべてを自分が調香したものを使えと言い、
さらに、マニキュアや染髪も原則的には禁止。服は肌の露出を控えること。月経日は休んで欲しいなどの規則で縛ったのです。
ところが、一香と接していくうちに、朔は自分が一香に執着しているのか、愛着を持っているのかわからなくなるんですよね。
そこで朔は…。
有川浩さんの小説『植物図鑑』では少女漫画のようなベタ甘な恋愛が描かれていましたが、

この物語では、一味違う恋愛模様が楽しめます。ぜひ実際に読んで、彼が出した結論に涙してください。
まとめ
今回は、千早茜さんの小説『透明な夜の香り』のあらすじと感想を紹介してきました。
匂いに秘められた可能性に驚かされる物語なので、気になった方は、ぜひ読んでみてください。
コメント