物語が終わった後に余韻に浸っていますか?
私は、最近は小説を読み終えると、すぐに新しい小説に手を出していましたが、
行成薫さんの小説『名も無き世界のエンドロール』を読んで、しばらくその余韻に浸っていました。
言葉では表現しづらい感情が揺さぶられる物語だったんですよね。
おすすめ度:
こんな人におすすめ
- ラストに大きな謎が解き明かされる物語が好きな人
- 切ない物語を読みたい人
- 余韻が楽しめる物語が好きな人
- 行成薫さんの小説が好きな人
あらすじ:ドッキリを仕掛ける親友とビビりな主人公の物語
物語の主人公はビビりな城田。
彼は30歳を過ぎていましたが、今でもビビりで、小学校からの親友・マコトに何度も驚かされてきました。
高校三年生の時もそうです。
城田は高校生活の大半を野球に費やしてきましたが、格下の相手に負けて、2回戦で敗退しました。
泣くタイミングもわからないまま野球を辞め、遊び方もわからず、いまさら勉強する気にもなれません。
そこで城田は、とりあえず、これまで見向きもしなかった酒を口にし、タバコを咥えるようになりましたが、
そんな彼のことをマコトは苦々しく思っていたので、ある日、花火入りのタバコとすり替えたのです。
そのタバコに火をつけた城田は、驚きのあまり、ひっくり返ることになりましたが、マコトがこのようなドッキリを仕掛けるようになったのには、ある理由がありました。
そして今。マコトは小学校の時から城田と共に好意を寄せていたヨッチではなく、リサという金持ちのワガママ女にプロポーズをしようとします。
その理由は…。という物語が楽しめる小説です。
感想①:悲惨な環境でも良い出会いがあれば幸せになれる
物語の主人公である城田は、幼い頃に両親を交通事故で亡くしていました。
親友のマコトもそうです。
マコトの父は女を作って家を出ていきました。母は一人でマコトを育てましたが、心が強くありませんでした。
そのうち、母のしゃっくりが止まらなくなったので、マコトは母を驚かせるようになります。
ところが、母の病気はどんどん悪化していき、まともな会話も成立しなくなりました。
そこで、マコトはドッキリをすることで自分の存在をアピールするようになったんですよね。
このドッキリに母が反応することもあったので、マコトにとってドッキリは、相手の感情を理解するための物差しになったのです。
とはいえ、マコトの母は彼を置いて家から去っていきました。
こうして、城田とマコトは笑いのない小学校生活を送っていたのですが、小学五年生のときにヨッチが転校してきたことで変わります。
彼女は金髪でしたが、澄んでいるのに底が見えない目をしていたので、城田はすぐに自分たちと同じだと気づきました。
ヨッチの父は病死、母は水商売を始めて、そこで知り合った男と一緒に暮らすようになったのです。
それだけでなく、その男は働きもせず、暴力を振るうようになりました。
そのため、ヨッチは母方の実家に預けられることになり、転校してきたのですが、
ヨッチの笑顔に触れて、城田もマコトも、よく笑うようになったんですよね。
西加奈子さんの小説『おまじない』では、悩みを抱える人たちが、ちょっとした優しい言葉に触れて前を向いて生きていく姿が描かれていましたが、

この物語では、どのような環境にいても、良い出会いがあれば、人生をポジティブに変えることができるとわかります。
感想②:金や権力を振りかざして暴力を振るう人たちがいる
とはいえ、良い出会いばかりではありません。
ヨッチが転校してきたときの担任教師・楠田は、影でクソ田と呼ばれる女教師で、
秩序を好み、無秩序には病的な拒絶反応を示しました。
たとえば、机は黒板に向かって整然と並んでいなければならず、授業中は一言も私語はできず、遅刻や宿題忘れは、いかなる理由があっても許されません。
ひとつでも失敗すると、放課後に教室に残らされて、反省文を書かされます。
その間、「なんでそうなの?」「どうしてできないの?」と責め続けられ、多くの生徒の心を折ってきました。
もちろん、金髪のヨッチがクソ田に狙われない理由などありません。
自己紹介ですでにヨッチは標的にされましたが、城田とマコトがあることをして、ヨッチを助け、彼らは仲良くなるんですよね。
とはいえ、権力を振りかざして悪質ないじめをする担任のやり方は不快になります。
もちろん、大人になっても同じです。板金塗装屋で働くようになった城田とマコトは、犬を轢いたと言って車の修理を依頼してきたリサという女と出会い、衝撃を受けました。
彼女は、無免許運転で犬を轢き殺したにも関わらず、罪悪感を抱いておらず、修理代も500万円という高額でしたが、「キッつ」と言うものの、簡単に支払うと言います。
そんなリサの姿を見た城田は、価値観や常識が揺さぶられました。
無免許で事故ってる女が偉そうにしているのに、何もできない自分が歯痒かったのです。
鯨井あめさんの小説『晴れ、時々くらげを呼ぶ』では、理不尽に立ち向かうために、クラゲを呼ぶ女子高生の姿が描かれていましたが、

この物語でも、金や権力を振りかざして理不尽に振る舞う人たちに触れて、どうしようもない怒りが湧いてきました。
感想③:ラストは心苦しくなる物語
さて、リサと出会ってから、城田とマコトの人生は大きく変わりました。
マコトは、大金持ちになってリサに「プロポーズ大作戦」をすると言って、板金塗装屋を辞め、東京で一攫千金を夢見ます。
その結果、ワイン輸入代行会社の社長になり、リサと付き合うようになりました。
一方の城田は、マコトが辞めてから半年後に、働いていた板金塗装屋をクビになりました。
大手のカーショップが近くに二軒も出来たので、太刀打ちできなくなったからです。
このとき、社長から紹介されたのが、交渉屋という仕事です。違法な手段を使って、相手にこちらの要求を呑ませる仕事につきました。
こうして、二人はそれぞれ新しい人生を歩んでいたのですが、ラストで、なぜ彼らはヨッチと楽しく過ごす人生とは別の人生を歩むようになったのかが明かされます。
その理由とは…。
ぜひ実際に読んで、その事実に驚いてください。
ちなみに、漫画『All You Need Is Kill』を読み終わったときと同じような、余韻に浸れる物語でした。

まとめ
今回は、行成薫さんの小説『名も無き世界のエンドロール』のあらすじと感想を紹介してきました。
読み終わった後に、余韻に浸れる物語なので、気になった方は、ぜひ読んでみてください。
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