柚月裕子『ミカエルの鼓動』感想/科学技術の発展だけでは幸せになれないことがわかる物語

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科学技術が発展すれば幸せになれると思いますか?

私は幸せになれる部分もあると思っていますが、柚月裕子さんの小説『ミカエルの鼓動』を読んで、改めて科学技術の発展だけでは、幸せになれないことに気づきました。

どれだけ科学技術が発展しても、それを使う側の人間が成長しなければ、これまでと同様に必ず不幸になる人がいるからです。

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『ミカエルの鼓動』の情報

タイトル ミカエルの鼓動 
著者 柚月裕子
おすすめ度 4.5
ジャンル サスペンス
出版 文藝春秋 (2021/10/7)
ページ数 467ページ (単行本)

おすすめ度の理由

  • 医療用ロボットの可能性に期待がもてる
  • 天才医師に焦りを感じる主人公の気持ちに共感できる
  • 何よりも大切なのは人間性だということがわかる
  • 面白くなるまでに時間がかかる

『ミカエルの鼓動』のあらすじ

北海道中央大学病院に勤める西條泰己やすみは、ロボット支援下手術の第一人者でした。

ミカエルという名の医療用ロボットを操作して難しい心臓手術も難なくこなしていたので、多くの医師や患者から尊敬の眼差しで見られていました。

ミカエルを思い通りに操作できれば、医師がその場にいなくても遠隔で手術ができ、しかも患者への負担が少なく、出血や感染症のリスクも少ないといったメリットがあったからです。

そのため、西條は次期病院長とまで言われていましたが、現在の院長である曽我部が、手術の腕が飛び抜けている真木一義という心臓外科医をドイツから呼び寄せて、外科課長を任せると言い出します。

こうして次期病院長の地位が危うくなった西條でしたが、それだけでなく、ロボット支援下手術の優れた技術を持つ布施寿利ひさとしが、医療ミスをしたという理由で退職し、自殺していたことがわかりました。

さらに、フリーライターである黒沢巧が、「ミカエルについて教えてほしいことがある」とふくみを持った言い方をして接触してきます。

西條はこれら一連の出来事には何か裏があると思いながらも、ミカエルで心臓手術を続けていましたが…。という物語が楽しめる小説です。

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『ミカエルの鼓動』の感想

遠隔操作で手術ができれば、多くのメリットがあると思いませんか?

たとえば、北海道のような広大な土地では、小さな集落まで医療の手が届かないため、適切な治療を受けていれば助かる命が失われています。

そんな医療体制が整っていない土地に、ミカエルのような医療ロボットが導入できれば、医師がその場にいなくても手術ができるようになるため、多くの命を救うことができます。

西條もそんな思いでミカエルを広めようとしていましたが、最先端医療は莫大な利益を生み出すため、周りにいる人たちはさまざまな思惑を持って動いていました。

どれだけ役立つものを生み出したとしても、最終的な価値は使う側の人間によって決まるのだとわかります。

そんな中、天才外科医である真木一義は、ミカエルにこだわらずに、むしろ自分の腕を信頼して患者と向き合っていきました。

北海道中央大学病院にやってきたのも、権力を得るためではなく、何か別の思惑があるように思えます。

そのため、真木の真意が気になってページをめくる手が止まらなくなったんですよね。

さらに、布施が医療ミスをして、自殺したことをきっかけに、ミカエルは本当に人を救うロボットなのか?という疑問が湧いてくるように描かれていたので、一気に惹き込まれました。

人の命を救うロボットと、それを扱う側の人間の思惑を描いた物語を通して、どれだけ科学技術が発展しても、それを使う側の人間が成長しなければ、これまでと同様に必ず不幸になる人がいることに気づかされる物語でした。

まとめ

今回は、柚月裕子さんの小説『ミカエルの鼓動』のあらすじと感想を紹介してきました。

どれだけ科学技術が発展しても、それを使う側の人間が成長しなければ、これまでと同様に必ず不幸になる人がいることに気づかされる物語です。

気になった方はぜひ読んでみてください。

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