百田尚樹『風の中のマリア』感想/人間に与えられた特権を使わないのはもったいない!?

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 人間に与えられた特権を使っていますか?

 実は私たち人間には他の生物にはないある特権が与えられています。それにも関わらず、その特権を使わずに他の生物と同じように過ごしている人が多いんですよね。

 百田尚樹さんの小説『風の中のマリア』を読めば、今すぐその特権を使いたくなりますよ。




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 働いて一生を終えるオオスズメバチの物語

 では、あらすじから。

 物語の主人公は、オオスズメバチのマリア。彼女は生まれてから30日という短い期間しか生きることができませんでした。

 それにも関わらず、マリアはその短い命をワーカー(働きバチ)として狩りに費やすんですよね。

 巣で待つ幼い妹たちのために、アシナガバチやイナゴ、コガネムシといった虫を命がけで狩り、肉団子にして巣に持ち帰っていたのです。

 では、なぜマリアは命がけで狩りをしていたのでしょうか。

 それは、妹たち幼虫が出す唾液が彼女のご馳走だったからです。成虫になったマリアは固形物が食べられなくなり、樹液や花蜜を食べていましたが、なかでも最高のご馳走が妹たちが出す唾液だったのです。

 また、マリアは子どもを産もうとしませんでした。女王蜂のフェロモンにより、卵巣の発達が抑制されていたからです。

 つまり、女王蜂が卵巣で、ワーカーはその手足になるように制御されていたんですよね。

 それだけでなく…。

 人間以外の生物は遺伝子に突き動かされて生きている

 マリアは遺伝子に突き動かされて生きていました。

 マリアたちワーカーが恋もせずに妹たちのために働き続けたのは、自分と同じ遺伝子(ゲノム)を少しでも未来に残そうとしていたからです。

 たとえば、(A)+(B)というゲノムを持つ女王蜂と、(C)というゲノムをもつオス蜂がいたとしましょう。

 この女王蜂とオス蜂が子どもを産む場合、(A)+(C)または(B)+(C)の二種類の子どもが生まれます。

 ここで、(A)+(C)のゲノムをもって生まれてきた子ども(働き蜂)にとって、同じ(A)+(C)のゲノムを持つ妹は100%、(B)+(C)のゲノムを持つ妹は50%共通のゲノムを持っています。

 つまり、妹たちが生き残れば、平均75%のゲノムを後世に残すことができますよね。

 一方、働き蜂(A)+(C)が別のオス蜂(D)の子どもを産む場合、生まれてくる子どものゲノムは(A)+(D)または(C)+(D)となるため、自分と同じゲノムは50%しか残せません。

 だからこそ、マリアのような働き蜂は、恋をすることも、子どもを産むこともなく、妹たちのために狩りに出かけていたのです。

 では、私たち人間はいったい何に突き動かされて生きているのでしょうか。

 人間は生きる目的を自分で決めることができる

 もちろん、生きる目的を自分で決めることができますよね。これこそが、人間に与えられた特権なんです。

 古代ギリシアの哲学者であるアリストテレスも、

人間は、目標を追い求める動物である。目標へ到達しようと努力することによってのみ、人生が意味あるものとなる。

 と言っています。

 もちろん、遺伝子に突き動かされることもあるでしょう。異性に欲情したり、物欲や支配欲に突き動かされることもあるかもしれません。

 しかし、私たち人間だけが、この限りある命を何のために使うかを自分で決めることができるのです。

 それにも関わらず、複数の異性とSEXをして自慢するような生き方をするのはもったいないと思いませんか。それでは他の生物と変わりませんよね。

 というわけで、百田尚樹さんの小説『風の中のマリア』は、人間の特権である目標を掲げて生きていきたいと思える物語ですが、

 それだけでなく、オオスズメバチの生体がわかる物語としても、マリアの一生に心動かされる物語としても楽しめるので、気になった方は、ぜひ読んでみてください。

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