自分のアタマで考えない人たちの恐ろしさがわかるサスペンス小説/伊坂幸太郎『魔王』感想

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他人の意見に流されていませんか?

私は何でも「なぜ?」と考えるクセがあるので、あまり流されていないと思いたいですが、

伊坂幸太郎さんの小説『魔王』を読んで、自分のアタマで考えない人たちの恐ろしさがよくわかりました。

普段から考えるクセがないと、発言力のある人たちの意見に簡単に流されてしまい、恐ろしい行動をとってしまうんですよね。

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ファシズム(独裁者)を恐れる主人公に共感できる

物語の主人公は、心の中で念じた言葉を他人の口から発せられる能力(腹話術)が突然使えるようになった安藤。

彼は、電車に乗っていたとき、足元のおぼつかない老人が目の前に立っていたのに、ガムを噛む金髪男が足を大股に開き、ふんぞり返るようにして席に腰掛けている姿を目撃しました。

このとき、安藤は自分があの老人だったらと思い、「偉そうに座ってんじゃねえぞ、てめえは王様かっつうの。ばーか」と心の中で念じると、老人の口からその言葉がそのまま発せられたのです。

それだけでなく、会社で課長に叱られていた平田さんを見て、「偉そうにしてんじゃねえぞ。責任取らねえ上司の何が上司だ」と念じると、平田さんの口からそのまま発せられました。

こうして腹話術という特殊能力が使えるようになった安藤は、今世間を騒がせている犬養という政治家のことを不安に思い、どうにか止めようと考えます。

なぜなら、安藤は、未来党という野党の党首である犬養が、ヒトラーやムッソリーニと同じように国民を扇動しようとしていると考えていたからです。

犬養は、中身はないけれど民衆を惹きつけるような強い言葉を使い、アメリカや中国といった特定の対象を憎むように煽っていました。

そんな犬養が選挙に勝つと、ファシズムになる(北朝鮮のように皆が同じ方向を向いて統一される、全体主義になる)と考えていたので、不安に思っていたのです。

しかも、全体主義の悪い点は、いざとなったら国民がすべての責任を取らされるところです。

隣の家の人が自分家を荒らしにきたとき、お父さんが「何をするんだ」って乗り込んでいくのではなく、お父さん自身は何もしないで、奥さんと子供たちに「行け、戦ってこい!」というようなものだからです

とはいえ、今の日本でもファシズムとまではいかないものの、中身はないけれど強い言葉を使って、民衆を煽ろうとしている人たちがいます。

Twitterでも怪しげなハッシュタグをつけて、特定の政党を批判したり、実現できる目処もない政策を繰り返しツイートすることで、トレンドまでもっていっている人たちがいます。

そんな人たちに煽られて行動すれば、恐ろしい未来が待っています。

安藤がファシズムを恐れて未来を不安に思う気持ちがよくわかる物語でした。

魔王とは自分のアタマで考えない人たちのことだとわかる

この小説のタイトルにもなっている『魔王』とは、犬養のことではありません。

犬養のような中身はないけれど強い言葉を使う人に煽られて、自分のアタマで考えずに行動してしまう人たちのことです。

アメリカが悪いと煽られれば、アメリカ発祥のファーストフード店を次々と放火したり、ハリウッド映画の看板にナイフを突き立てたり、赤白の炭酸飲料の自販機をバットで殴るような人たちのことです。

しかも、そういった人たちは煽られていることに無自覚で、自分の頭で考えているように錯覚しているんですよね。

そんな人たちの姿を見た安藤は、シューベルトの歌曲『魔王』を思い出しました。

『魔王』は、闇夜に父が息子を連れて馬で走っていたところ、魔王が追いかけてきたのに、父がまったく気づかないというストーリーが描かれた歌曲です。

魔王に気づいた息子は顔を隠そうとしますが、父は気づかないばかりか、「魔王が来た」という息子の話も聞かなかったので、気づいたときにはすでに遅く…という物語です。

これと同じように、他人の意見を聞かずに悲惨な結末を迎えた事例は多々あります。

ヒトラーもムッソリーニも、批判はあったものの少しずつ力を手に入れ、民衆が気づいたときには、悲惨な現実が目の前に広がっていました。

だからこそ、中身のない強い言葉に煽られないように、自分のアタマで考える力をつけることが大切なんですよね。

SNSなどでもデマに騙されないように、両方の意見を注意深く聞こうと思える物語です。

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「考えろ考えろ、マクガイバー」といったセリフが心に残る

ここまで紹介してきたように、『魔王』は政治色が強い物語ですが、伊坂幸太郎さんらしいユニークな要素もあるので、気軽に読むことができます。

たとえば、安藤が身につけた特殊能力は、身についたところで、あまり嬉しくない腹話術というのが面白いですよね。

それだけでなく、心に残るセリフも満載です。

たとえば、考えることが大好きな安藤は、子供の頃に観たテレビドラマ『冒険野郎マクガイバー』の主人公のセリフを使って、

「考えろ考えろ、マクガイバー」

と心の中でよく叫んでいました。

「でたらめでもいいから、自分の考えを信じて、対決していけば」「そうすりゃ、世界が変わる」

という考えを持っていたので、他人の言葉を鵜呑みにせずに、自分のアタマで考えるようにしていました。

そんな自分の考えを信じる安藤が魅力的で、物語に一気に惹き込まれます。

他にも魅力的なセリフに溢れている物語なので、ぜひ実際に読んで心に響くセリフを見つけてください。

まとめ

今回は、伊坂幸太郎さんの小説『魔王』を紹介してきました。

  • ファシズム(独裁者)を恐れる主人公に共感できる
  • 魔王とは自分のアタマで考えない人たちのことだとわかる
  • 「考えろ考えろ、マクガイバー」といったセリフが心に残る

以上、3つの魅力がある物語なので、気になった方は、ぜひ読んでみてください。

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