伊坂幸太郎『魔王』感想/自分のアタマで考えない人たちの恐ろしさがわかるサスペンス小説

おすすめ小説

他人の意見に流されていませんか?

私は何でも「なぜ?」と考えるクセがあるので、あまり流されていないと思いますが、

伊坂幸太郎さんの小説『魔王』を読んで、自分のアタマで考えない人たちの恐ろしさがよくわかりました。

普段から考えるクセがないと、発言力のある人たちの意見に簡単に流されてしまい、恐ろしい行動をとってしまうことがわかったんですよね。

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『魔王』の情報

タイトル 魔王
著者 伊坂幸太郎
おすすめ度 4.0
ジャンル サスペンス
出版 講談社 (2008/9/12)
ページ数 384ページ (文庫本)
2006年本屋大賞 第10位になった作品です。
漫画にもなっています。
伊坂幸太郎さん全作品のまとめ記事もあわせてお読みください。

おすすめ理由

  • ファシズムの恐ろしさがわかる
  • 本当に恐ろしいのは自分のアタマで考えない人たちだとわかる
  • 登場人物のセリフが心に残る
  • 『呼吸』が中途半端に終わる

『魔王』の簡単な紹介

ヒトラーやムッソリーニを彷彿させる政治家と戦う主人公の物語『魔王』と、

その5年後に憲法改正について議論する多くの人たちと距離をとって生きる主人公の物語『呼吸』の2編が収録されている小説です。

これら2つの物語は、ともに政治色が強いテーマを扱っているので色々考えさせられますが、

サスペンス要素も楽しめるので、続きが気になってページをめくる手が止まらなくなりました。

とはいえ、個人的には『魔王』には心が動かされましたが、一方の『呼吸』は中途半端に終わったように感じました。

『魔王』のあらすじ

ここからは、『魔王』と『呼吸』のあらすじを紹介していきます。

『魔王』:腹話術が使えるようになった主人公の物語

物語の主人公は、突然腹話術が使えるようになった安藤。

とはいえ、彼が使えるようになった腹話術は、人形を使った一般的なものではなく、心の中で念じた言葉を他人の口から発せられるというものでした。

安藤は、電車に乗っていたとき、金髪でガムを噛んでいた男が、足元のおぼつかない老人が目の前に立っていたのに、足を大股に開き、ふんぞり返るようにして席に腰掛けている姿を目撃しました。

このとき、彼は自分があの老人だったらと思い、「偉そうに座ってんじゃねえぞ、てめえは王様かっつうの。ばーか」と心の中で叫ぶと、老人の口からその言葉がそのまま発せられたのです。

それだけでなく、会社で課長に叱られていた平田さんを見て、「偉そうにしてんじゃねえぞ。責任取らねえ上司の何が上司だ」と念じると、平田さんの口からそのまま発せられました。

こうして腹話術という特殊能力が身についていることに気づいた安藤は、今世間を騒がせている犬養という政治家のことを不安に思い…。


『呼吸』:憲法を改正すべきか議論する人たちの物語

安藤が犬養と直接対決してから5年が経った頃。

彼の弟である潤也と結婚した主人公の詩織は、東京から仙台に引っ越し、サトプラというプラスチック製品を作る会社で働いていました。

彼女はテレビや新聞をまったくみていなかったので、世間がどうなっているのか知りませんでしたが、

飲み会の席で同僚から犬養が首相になり、憲法9条を改正するかどうかで国民投票をすることになったと聞きます。

そして詩織の同僚たちは、憲法を改正すべきかどうかで議論し始めました。

改憲に賛成派は、憲法で戦争放棄を謳っているのに、自衛隊という軍隊を持っているのはおかしいので、改憲して正すべきだと言い、

改憲に反対派は、憲法で認めてしまうと、簡単に海外に派兵できるようになるため、今よりも危険な状態に陥りやすくなるので反対だと言いました。

この議論を聞いていた課長は、どっちもどっちだと言いますが…。

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『魔王』の感想

ここからは、『魔王』の感想を紹介していきます。

ファシズムの恐ろしさがわかる

安藤は、未来党という野党の党首である犬養が、ヒトラーやムッソリーニと同じように国民を扇動しようとしていると考えていました。

中身はないけれど強い言葉を使い、アメリカや中国といった特定の対象を憎むように煽っていたからです。

彼が選挙に勝つと、ファシズムになる(北朝鮮のように皆が同じ方向を向いて統一される、全体主義になる)と考えていたので、安藤は不安に思っていたのです。

しかも、全体主義の悪い点は、いざとなったら国民がすべての責任を取らされるところです。

隣の家の人が自分家を荒らしにきたとき、お父さんが「何をするんだ」って乗り込んでいくのではなく、お父さん自身は何もしないで、奥さんと子供たちに「行け、戦ってこい!」というようなものだからです。

とはいえ、今の日本でもファシズムとまではいかないものの、中身がないのに強い言葉を使って、民衆を煽ろうとしている人たちがいます。

Twitterでも怪しげなハッシュタグをつけて、数名が繰り返しデマを発言することで、トレンドまでもっていっている人たちがいます。

そんな人たちに煽られて行動すれば、恐ろしい未来が待っています。

安藤が未来を不安に思う気持ちがよくわかる物語でした。

魔王とは自分のアタマで考えない人たちのことだとわかる

とはいえ、この物語で描かれている魔王とは、犬養のことではありません。

犬養のような強い言葉を使う人間に煽られて、自分のアタマで考えずに行動してしまう人たちのことです。

アメリカが悪いと煽られれば、アメリカ発祥のファーストフード店を次々と放火したり、ハリウッド映画の看板にナイフを突き立てたり、赤白の炭酸飲料の自販機をバットで殴るような人たちのことです。

しかも、作中では、多くの人たちが犬養に煽られていることに無自覚だったので、安藤はシューベルトの歌曲『魔王』を思い出しました。

『魔王』は、闇夜に父が息子を連れて馬で走っていたところ、魔王が追いかけてきたのに、父がまったく気づかないというストーリーが描かれた歌曲です。

魔王に気づいた息子は顔を隠そうとしますが、父は気づかないばかりか、息子の話も聞かなかったので、気づいたときにはすでに遅く…という物語です。

これと同じように、はじめは「これくらい大丈夫だ」と思っていたことが、悲惨な結末を迎えた事例は多々あります。

ヒトラーもムッソリーニも、少しずつ力を手に入れ、民衆が気づいたときには、悲惨な現実が目の前に広がっていました。

だからこそ、中身のない強い言葉に煽られないように、考える力をつけることが大切だと思えたんですよね。

SNSでデマに反応してしまう人たちは、特に注意が必要だとわかる物語です。

登場人物のセリフが心に残る

ここまで紹介してきたように、『魔王』は政治色が強い物語ですが、伊坂幸太郎さんらしいユニークな要素もあるので、気楽に読める小説です。

たとえば、安藤が身につけた特殊能力は、身についたところで、あまり嬉しくない腹話術というのが面白いですよね。

それだけでなく、心に残るセリフも満載です。

たとえば、考えることが大好きな安藤は、子供の頃に観たテレビドラマ『冒険野郎マクガイバー』の主人公のセリフを使って、

「考えろ考えろ、マクガイバー」

と心の中でよく叫んでいました。

「でたらめでもいいから、自分の考えを信じて、対決していけば」「そうすりゃ、世界が変わる」

という考えを持っていたので、他人の言葉を鵜呑みにするのが嫌だったからです。

そんな自分の考えを信じる安藤が魅力的で、物語に一気に惹きつけられました。

ちなみに、今回はあまり紹介できませんでしたが、『魔王』のその後を描いた『呼吸』も同様に楽しめます。

とはいえ、物語としては中途半端に終わるので、『呼吸』のその後が気になる方は、『モダンタイムス』を続けて読むことをおすすめします。

まとめ

今回は、伊坂幸太郎さんの小説『魔王』のあらすじと感想を紹介してきました。

政治色が強いテーマを扱っている物語なので色々考えさせられますが、それだけでなくサスペンス要素も楽しめます。

気になった方は、ぜひ読んでみてください。

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